鏡の間で岩盤の中に吸い込まれたリンクは、数秒経つと別の場所に立っていることに気づいた。
目を上げると、一面の空は紫ともオレンジともつかない美しい色に染まっている。遠くまで続く視界には地平線も水平線も見えない。ただただ同じ空が続いているだけだ。そしてその空のところどころには黒い雲が漂っている。
自分たちが立っている場所は石造りの床だった。足元には、転送される前に立っていたのと同じような円形の足場がある。だが、よく周りを見回すと、その石造りの床は背後で切れて崖になっていた。崖の下は底も見えないほどの深さなのか、濃い影だけが広がっている。
前方に目を上げると、巨大な建物が三つ聳え立っていた。ハイラルで見たようなものと違い、四角く細長い箱をそのまま立てたような形状だ。
建物のほうに向かって歩いていくと、周囲の極めて特殊な地形が次第にわかってきた。前方には長い坂道があり、それが中央の建物に向かって続いている。だがその建物の前には奇妙な滝のようなものがあり前進を阻んでいるようだった。その滝は水ではなく、真っ黒な煙のような見たこともない気体を上から下に流したものだった。
階段の手前には円形の野外広場があるのが見えた。その広場には何人かの人影が見える。そこから右手に道が伸び、北へ折れてからやや小さな建物の入り口に繋がっている。左手の建物に向かっても同様の道が伸びているが、それは途中で崩れており、渡れないほどの広い間隙が出来ていた。
これらの構造物や道の下には何もない。支える地面どころか柱のようなものさえも見当たらないのだ。もしやこれらの床や建物は宙に浮いているのではないか?リンクがそう思って遠くを見渡すと、巨大な島のようなものがいくつも空中に浮いている。それに気づいた瞬間リンクは思わず足元を見た。するとミドナが姿を現した。
「その通りだ。これは浮島だ。いくら暗さに慣れた私たちと言えども地表では暮らしにくいからな」
彼女はリンクの心を読んだように続けた。
「だが安心しろ。この世界はハイラルと違って空の上でも急激な気流は生じないんだ。気温の変化が緩やかだからな。天空のときみたいな強風は吹かないよ」
頷いて前方を見る。広場に向かって歩いていくとミドナがまた口を開いた。
「リンク、お前に頼みがあるんだ。しばらくの間私をお前の影の一部ということにしておいて欲しい」
「影の一部?」
「ああ。私は一度民を見捨ててここを逃げ出したんだ」
彼女は俯いた。
「それなのに私を慕ってくれた民は今もザントの圧政の下で苦しみながら助けを待ってる。それで助けに来たのがこんな怪物のような姿だったら彼らもがっかりするだろ?」
リンクが黙って聞いていると、ミドナは言った。
「ザントの奴を倒せば、この呪いは消える。私は元の姿に戻れる。だからそれまでの間、そうしておきたいんだ。いいだろ?」
「ああ、わかったよ」
リンクが答えると彼女は安心したように微笑んだ。だが顔を上げて広場のほうを見ると、リンクは様子がおかしいことに気づいた。二、三人の人影が見えるが、皆が皆炭のような黒い身体をし、ぼうぼうの長い髪の毛に平らな面をつけている。影の使者だろうか?
リンクが剣の柄に手をかけようとすると、ミドナが慌てて叫んだ。
「リンク、待て!手を出すな!」
ミドナのほうを見ると、彼女はリンクの肩に手をかけながら人影のほうを指さした。
「あいつらはまだ人の心を無くしていないはずだ。洗脳と変身が完成していない。だいいち私たちを襲ってこないだろ?」
リンクは用心深く人影に近づいてみた。被った面や髪型、身体の色は影の使者にそっくりだが、見慣れたあの黒鬼どもとは違って体形はまちまちだ。一人はずんぐりと小柄で、もう一人は背が高いがやや肥満気味。残りの一人はやたらと細長い。そして三人ともが所在無げに突っ立っているだけで、リンクには関心もない様子だった。
「私は絶対にザントを許さない。絶対に」
ミドナは呟いた。リンクは剣の柄から手を離すと、広場をよく調べてみた。直径二十メートルほどの円形の文様の中に、小さな円形が二つ刻まれている。
「この広場はもともとソルが置いてあったんだ」
ミドナが言った。
「ソル?なんだいそれは?」
「エネルギー源さ」
リンクが聞くと彼女は答えた。
「影の世界でも多少の光は必要なんだ。ソルはこの世界ができたころから発光体として存在していた。それをこの浮島全体のエネルギー供給のために使っていたんだ」
「ザントが持ち去ったんだろうか?」
リンクは尋ねた。
「おそらくそうだろうな。リンク、奴を探しながらで構わない。ソルを取り返すのも手伝ってくれないか?」
「もちろんさ」
リンクは答えた。三つある建物のうち、左手の建物を捜索するには道を途中で断ち切っている間隙を渡る手段が必要だ。正面の建物への侵入を試みるのは、あの黒い滝のようなものの正体がわからないうちは控えておいたほうがよいだろう。リンクたちは右手の建物から先に捜索することにした。
通路は広場から右手に伸び、そこからまた北に曲がって建物の扉に突き当たっていた。建物の前にも、影の使者に変身する途中で放置されたような住人が呆然と突っ立っていた。リンクはその脇を通り過ぎると、扉の前に立った。すると、扉の表面に描いてある円の中に複雑な線の組み合わせをあしらった不思議な文様が青色い光を発した。かと思うとどこにも触れずとも扉が自動的に開いた。ハイラルよりも大幅に科学が進んでいるらしい。
建物の内部は天井が高く、細長い部屋だった。幅は十五メートルほどだったが奥行きは五十メートルほどもありそうだ。段差が三つほどあって進むほど床が低くなっている。三つの段差の中央、左、そしてまた中央に斜面がしつらえてあったが、そこにはそれぞれにデクババが鎮座していた。影の領域で見かけた特殊なタイプだ。おまけに黒蝙蝠までそこいらを飛び回っていた。目を凝らすと、部屋の突き当たりには高い段差があった。段差の上には短い廊下の先に扉があるが、よじ登るのは難しそうだ。
リンクが前進すると、早速黒蝙蝠が一羽目をつけてきた。剣を抜くと、相手が攻撃態勢に入った瞬間に叩き落した。さらに、斜面に生えているデクババを何度も剣で打ち据えて大人しくさせると、改めて周囲を見回した。
建物の内部を構成する黒っぽい石ブロックはどれも表面を滑らかに仕上げられたうえ不思議な文様が刻まれている。やはりハイラルの建築物よりもはるかに洗練された印象があった。だが、左右の壁には二か所づつ、黒い煙のような不気味な気体が流れ落ちてくる滝がしつらえられていた。
「酷いもんだ。この部屋は昔官僚たちが大勢机を並べて事務を行っていたんだ。ザントの奴、おそらく兵隊を増やすことばかり考えて片端から連れて行ったんだろう」
ミドナは言った。
「ミドナ、だとしたら.....」
リンクは考えた。
「君が国を取り戻した後も当分は立て直すために大変な状態が続くんだろうね」
「まさしくその通りだ」
ミドナは溜め息をついた。
「だがそれでもあいつの圧政の下よりはマシさ」
リンクは剣を持ったまま用心深く前進した。二つ目の斜面でもデクババを刈り取り、その花弁を叩き潰すと、三つ目の斜面に向かった。だがその時目を上げると奇妙なものに気づいた。
高さ二メートルほどの物体だ。ザントの兜と面甲にそっくりの形をしていた。そいつは部屋の奥の床近くに浮遊していた。
「気を付けろ。ザントの監視装置だ!」
ミドナが警告した。リンクは反射的に背中から盾を下ろして構えた。ザントの兜の口のあたりが開き、赤く輝く魔法弾がリンクに向けて発射された。リンクが盾をしっかりと支えて足を踏ん張ると、進んできた魔法弾が当たって激しい衝撃を感じたが、なんとか持ちこたえた。目を上げると、ザントの兜は既に消えていた。
「何だったんだろう今のは?」
リンクは驚きで眉をひそめながら呟いた。
「消えたからって油断するなよ。移動術で姿を消してから別の場所に現れるに違いない」
ミドナが答えた。リンクは前進し三つ目の斜面のデクババを片付けると、また蝙蝠が飛び掛かってくるのを剣で叩き切った。その途端、奥のフロアにまたザントの兜が現れた。口に赤い光球が浮かび上がる。発射された魔法弾を横っ飛びで避けると、またザントの兜は姿を消した。
盾を用心深く掲げながらフロアの奥に進む。突き当りの段差の壁の中央には窪んだ場所がある。また、段差の脇の左右の壁にクローショットが引っ掛かりそうな金網のついた照明装置がついており、同じ物が段差の上の壁にも作り付けてあった。段差をよじ登るのは無理でも、照明器具を伝ってクローショットで移動することは可能のようだ。
そのとき気配がした。振り返るとザントの兜がすぐ後ろにいる。袈裟斬りに斬りつけ、すかさず縦斬り、横斬りから突きを放った。浮遊していた敵が床に落下し、それから脆くもバラバラに崩壊した。どうやら軽金属のような素材で出来ており、機動性のために強度を犠牲にしているようだ。
リンクが剣を納めると、突き当りの段差の窪みから光が発せられ始めた。見ていると、ほどなくそこに大きな木の箱が姿を現した。近づいて蓋を開けてみると、中に小さな金属の鍵が入っていた。
「上の扉の鍵だろうな」
ミドナが言った。段差の下からは見えないが、おそらくその上にある扉が施錠されているのだろう。リンクは鍵を仕舞ってクローショットを片手につけると、突き当たりの段差の上についている照明器具を狙い撃って飛び移り、段差の上に降り立った。
「以前はこの建物もこんなふうに施錠はしていなかったはずだ」
ミドナが言う。
「何かを隠してるのかな?」
突き当りの扉にはやはり鎖がかけられ錠前で閉じられている。リンクが鍵を錠に差し込みながら尋ねると彼女は答えた。
「その可能性はあるな」
果たして鍵を捻ると錠が開き、鎖が床に落ちた。すると、扉は自動的に上がった。その先の部屋は同じくらいの面積の部屋だった。目の前の床を少し行くと、大きな段差で床が低くなっている。リンクは段差を飛び降りた。その先は十メートルほどの奥行の床の先に、柵で区切られた広場があった。その広場には黒い煙のような気体が充満し、いかにも不穏な雰囲気だった。目を上げると、その広場の向こう側の柵の先には再び十メートルほどの奥行の床があり、その先に最初の部屋と同じような高い段差があった。
目の前の柵は丁度真ん中が三メートルほど開いている。その時、黒い煙のようなものの中から赤い魔法弾が発射されリンクに向かって飛んできた。盾を上げてそれを弾き返すと、リンクは敵の姿を目で探した。黒煙の中にぼんやりとザントの兜の姿が見える。リンクは剣を握り直すと、敵に向かって突進した。
「待てリンク!」
ミドナが叫ぶ。その時にはリンクは柵の向こうの煙の中に足を踏み入れていた。その途端、身体に強烈な違和感が走った。初めて影の領域に入ったときと同じだ。体中の組織に小さな稲妻が走ったような感覚がしたかと思うと、リンクの身体が急激に変化した。立っていられなくなり、四つん這いになる。顔と言わず体と言わずゴワゴワとした毛が一気に生えてきたのがわかった。
ミドナは素早く手をかざし、リンクの装備と服を魔法で取り去って収納した。頭を振って起き上がったリンクの目に、再び赤い光球が向かってくるのが見えた。反射的に横に飛んで躱すと、ザントの兜のシルエットを探したが、それはもう消えていた。しかも煙で視界が悪い。
「リンク、気を付けろ」
ミドナがリンクの背中に素早く乗った。リンクは首を曲げて彼女の顔を見上げた。
「この黒い霧の中では光の者の姿ではいられない。これがハイラルを影の領域に変えていた元凶なんだ」
リンクは頷くと、辺りを見回した。視界は悪いが、獣でいるしかないなら獣の感覚を使うまでだ。五感を総動員して索敵する。やがて霧の中におぼろげな敵の姿が出現したのが見えてきた。
獣の脚力で突進すると、跳躍して強烈な顎の一撃を加えた。
「リンク!結界を使え!」
ザントの兜がよろめいた瞬間ミドナが叫んだ。リンクが頷くと、ミドナから黒い結界が広がり、敵を赤い稲妻が覆った。その瞬間リンクは跳躍した。結界に捕えられた敵に痛撃を加えると、これが致命傷となったようだ。ザントの兜はふらふらと飛んだあと床に転がり、そして小爆発を起こして砕け散った。
リンクは床に降り立つと息を鎮めた。狼姿で戦うのは久しぶりだが、ミドナとの連携は健在だ。ミドナが背に乗っても今では不快感は全くない。辺りを見回すと、部屋の奥の段差の真ん中あたりから光が発せられている。黒い霧の縁にある柵のほうに行ってみると、柵は手前側と違って左右に隙間があった。そこを抜けて段差のほうに行くと、その中央には先ほどの部屋と同じような窪みがあった。リンクはそこに木の箱が姿を現しつつあるのを見つけた。
「リンク、人間に戻すぞ」
ミドナが声をかけてきた。たちまちリンクの身体が元に戻され、服と装備がきっちりと装着された。
「おい、お前はやっぱり狼でいたほうが調子がいいんじゃないか?」
彼女がふざけて言うのに対しリンクは答えた。
「君が背中に乗れるから楽なんだろ?だけど君が元の姿に戻ったらそれもできなくなるね」
リンクは装備ベルトや籠手のストラップを確認した。全てが完璧だ。壁の窪みに木の箱が現れると、リンクはその蓋を開けた。やはり小さな金属の鍵だ。鍵を仕舞うと、リンクは段差を登るためにクローショットを右手につけた。顔を上げると段差の上の右手の壁に金網付きの照明器具がある。クローショットでその器具を狙い撃ち、飛び付くと床に降り立った。短い廊下に入り扉の前まで来ると、やはり扉は鎖と錠前で閉じられている。リンクは錠前に鍵を差し込んで捻った。錠が開いて鎖が落ちる。すると扉が自動的に開き、リンクは先に進んだ。
先にあった部屋は五十メートル四方はありそうな広い部屋だった。だが、リンクが用心深く扉を抜けた途端、扉が閉じると同時にその上から太い格子が下ろされた。何かがありそうだ。
少し進むと、床に段差があり低くなっている。その先が大広間のようになっている。天井も高い。大規模な会議を行う場所だったのかも知れない。広間の奥の突き当りの壁には、人間の片手を模したような大きな彫像が置いてある。
段差を降りて広間の真ん中あたりに進むと、途端に周囲に何かが次々と落下してきた。聞き慣れた魔法結界の柱が床に突き刺さる音だ。広場の入り口と、彫像の安置してあるスペースの前にたちまち結界が生じた。リンクは盾を構え剣を抜き、新たな敵に備えた。その目の前に突然人影が現れた。
ザントだ。
だが、奇妙なことにその姿はやや青みがかった半透明だった。まるで幻影のようだ。
「やつは幻影だが術は同じように使えるぞ!用心しろ!」
ミドナが叫んだ。だがリンクが剣を構え直している間にザントは両手を上に掲げその間に大きな赤い光球を生じさせた。何が来るのか?盾を掲げると、ザントは気合を発して光球を中空に放った。するとそれは破裂したように飛び散り、そこに黒い渦巻が現れた。見慣れたポータルを小さくしたようなものだ。そしてその渦巻から黒蝙蝠たちの大群が羽ばたきながら出てきた。
蝙蝠たちがリンクに向かって突進して来る。反射的に盾を上げると、バシンバシンと立て続けの蝙蝠たちの突進で左手に激しい振動を感じた。剣を振るおうにもその暇がない。リンクはジリジリと後退し始めた。だが反撃しなければ始まらない。リンクは咄嗟に横っ飛びすると、前転して敵の群れの背後に回り、跳躍しながら剣を払った。たちまち五、六匹の敵が身体を切り裂かれて墜落した。だがまだ残りが沢山いる。リンクは着地しざま回転斬りでさらに何匹かの敵を叩き落した。
だが一匹が飛び付いてくるとその鉤爪でリンクの首筋を狙ってきた。咄嗟に前転し回避すると、走って距離を取る。蝙蝠たちに苦戦させられているリンクを嘲笑うかのように、遠くの視界の隅にザントの幻影が現れては消える。
リンクは背後の羽音で敵との距離を見極めると、もう一度回転斬りを放った。さらに二、三匹の蝙蝠が吹き飛ぶ。リンクは盾を構え直すと、用心深く自分の身を防御しながら残った敵を一匹づつ片付けていった。
だが、こんな調子ではザントを倒すどころではない。最後の一匹を叩き切ると、リンクはザントの姿を目で追った。部屋の片隅だ。
リンクはダッシュした。だが近づいた途端、まるでこちらを愚弄するように敵は姿を消してしまう。そのたびにリンクは立ち止まって辺りを見回した。今度は部屋の反対側だ。走って近づくと、また相手の姿は掻き消すように無くなってしまう。
振り回されていることに気づいたリンクは足を止めた。ザントにも隙はあるはずだ。左右に目を配ると、ザントの幻影が再び遠くの部屋の隅に見えた。慎重に近づいていくとそれはすぐに消えた。やはり反撃するとしたらチャンスは敵がこちらを攻撃しようとしている時しかない。
五感を研ぎ澄ませて油断なく周囲に警戒する。部屋の一角にザントが現れた。だがその動作から、今までの出現と違うことがわかった。両手を高く掲げている。光球を出そうとしているのだ。
リンクはここを先途と相手に向かって突進し、部屋を横切った。ザントが掛け声を上げて光球を放り上げようとした瞬間、リンクはジャンプ斬りを放って斬りつけた。幻影といえども聖剣の刃が効いた。手応えがして、ザントが苦痛の呻き声を上げた。続いて横斬り、縦斬り、そして突きを放つ。だがさらなる追撃をしようとした瞬間ザントの幻影が消えた。
まだ決定打には程遠い。リンクが振り向くと、案の定ザントが部屋の反対側に現れている。リンクは慎重に近づいていったが、敵はすぐに姿を消した。一体どこへ?その時、すぐ背後に気配がした。振り向くと、ザントの幻影が現れていた。反射的に剣を振り上げて斬りつけたが、相手はまた姿を消し、空振りしたリンクはたたらを踏んだ。
その時、遠い部屋の隅にまたザントが現れたのをリンクは見つけた。今度は両手を上げて光球を発しようとしている。ダッシュして駆け寄ったが、間に合わない。ザントは気合とともに光球を放り上げ、中空にポータルを生じさせた。
そこからは影の領域で以前に見た蛸の化け物たちが飛び出してきた。溢れるような勢いと数だ。正面からやりあったら時間がかかる。リンクは咄嗟に向きを変えると剣を納め、蛸の魔物どもの群れから逃げるように走り出した。肩越しに振り返ると、ザントはまた別の場所に姿を現している。本体に一撃を与えさえすれば、とリンクは走りながら考えたが、この状態ではやはりザントを追うのは難しい。
リンクは化け物の群れとの距離を確かめると、走りながら弓を手にとり矢をつがえた。やにわに振り返り、敵の群れに向かって放つ。矢に貫かれた蛸の魔物が死んで脱落した。後じさりしながらつるべ撃ちに次々と矢を放つ。数匹が吹き飛んだが、もはや距離がない。リンクは弓を放り出すと、剣を抜いた。回転斬りを放つと、飛び付こうとしてきていた化け物どもが何匹か真っ二つになった。だが、まだ残りが飛び付いてくる。さらに横斬りで一匹を切り裂いたが、二匹ほどがリンクの片方の太腿に飛び付いて牙を立ててきた。激痛が走る。もう一度回転斬りを放つと、さらに三匹ほどが深手を負って床に落ちると同時に、取り付いてきた連中も剥がれおちた。リンクは小刻みに突きを放つと、残りの連中に止めを刺した。
だが小物の群れに時間をかけ過ぎてしまった。おまけに負傷箇所から血が流れ始めている。周囲を見回すと、ザントが部屋の向こう側に現れては消えている。リンクは手拭いで太腿をできつく縛ると、再び剣を取った。ザントが出現した箇所を念頭に、次に現れる箇所を予測した。同じ場所に二度続けて現れることはないはずだ。
リンクは一計を案じ、広間の中央に描いてある直径十メートルほどの円形の上に陣取った。それで相手がどこかに現れたら急速に近づくという心算だ。身体を回しながら左右に目を配る。見ていると、ザントが部屋の隅に現れては、何もせずにすぐ消えていく。
だが、何度かそれが繰り返されたあと、現れたザントが高く両手を掲げた。チャンスだ。リンクは今いる場所から最短距離をとって一気に突進した。ザントの手から光球が発生し膨らんでいく。だがリンクは一瞬早く、前転すると痛烈な突きを喰らわせた。立ち上がりざま、左右袈裟斬りを食らわせ、仕上げに回転斬りを見舞う。
呻き声を上げながらも、ザントはすぐに姿を消した。だが効いている。リンクは部屋の中央近くに陣取り、慌てずに円を描くように移動しながら敵の次の出現を待った。もはやフェイントでの出現には惑わされないと心を決めていた。
ザントが現れては消える。現れた瞬間突進しそうになるのを堪え相手の挙動を見極めた。そして次に現れた瞬間リンクには分かった。光球を出す気だ。
全力でダッシュする。ザントの高く掲げられた両手の上に光球が浮かび上がった。距離はあと少しだ。ザントか気合いを発した瞬間にリンクも跳躍していた。光球が破裂するとともに、ジャンプ斬りを叩きつけ、着地するや否や回転斬りを放った。さらに突きを見舞う。
決め手となった。ザントは力を失ったようによろめくと、ガックリとうなだれた。だが、次の瞬間最後の力を振り絞るようにもう一度気合いを発すると、大量の黒い霧を生じさせて姿を消した。
もう現れないのだろうか?リンクは素早く後退りして霧から距離を置きながらも用心深く周囲に目をやった。
「当面奴は現れないだろう。幻影魔術といえども退魔の剣を何度も食らっていたら身がもたないからな」
ミドナが傍らに来た。
「リンク、怪我はどうだ?」
「大したことは無さそうだよ」
リンクは太腿を縛った布をほどいてみた。もう血は止まりかけているようだ。一旦ズボンを脱ぐとミドナが薬を塗って包帯を巻いてくれた。弓を拾い、服装を整え終わると、ミドナが部屋の奥を指差した。
「見てくれ、あれがソルなんだ」
彼女が指す方を見ると、魔法結界の柱はいつの間にか消え去っていた。壁際の窪みにある大きな手の彫像は高さ二メートル程で、全体に赤い色の不思議な紋様が彫りつけてある。掌には、淡い光を発するガラスで出来たような球が握られていた。その球体は全体に金属で美しい装飾が施されている。
「あのボールみたいなやつかい?」
リンクが尋ねた。
「そうだ。ソルの正体は実をいうと私たちも知らないんだが‥‥光源でありエネルギー源として欠かせないものなんだ」
ミドナはリンクの顔を見た。
「それと同時にいささか面倒な物体でもあってな。ワープを始めとする一切の魔法処理を受け付けない。運ぶには物理的に動かすしかないんだ。リンク、こいつを建物の外まで運んでくれないか?」
「お安いご用さ」
リンクは答え腕捲りした。だがミドナがすぐリンクを制止した。
「待て、そうは言ってもザントのことだ。そう簡単にはいかないだろう。絶対に何か仕掛けてあるはずだ。用心してくれ」
そう聞いたリンクはソルを握る手の彫像を観察した。見た目からしていかにも嫌な雰囲気だ。
「あの手の彫像が動いて追いかけてくるとか?」
リンクは尋ねた。
「あり得る。私もあんなものは今まで見たことがないが、ザントが作ったとしたら絶対にロクなものじゃないな」
ミドナが言った。リンクは彫像に近づかないでソルを引き寄せることにした。右手にクローショットを嵌めて、彫像に届く距離に歩み寄ると、ソルを狙い撃った。一発目では、彫像の指が動いてソルがその掌から転げ落ちた。もう一発撃つと、鉤爪が装飾に引っ掛かり、たちまちソルがリンクの手元に引き寄せられた。
リンクはクローショットをミドナに託すとソルを持ち上げた。ずっしりと重いが、カボチャ運びに慣れたリンクにとっては大したことはない。
「リンク、まずそれをこの広間の中央の穴に嵌め込んでみてくれ。本来なら段差のところに階段が‥‥」
ミドナが説明するのに従ってリンクがソルを運び始めると、手の彫像のほうから異様な音がし始めた。小さな風の音のような、笛が鳴っているような形容し難い音だ。
振り向くと、手の彫像の指がピクリと動き、そして次に彫像そのものがゆっくりと宙に浮かび上がった。
「くそ、思ったとおりだ。リンク、急いでくれ!」
リンクは広間の中央に駆け寄った。立ち込めていた霧が、ソルが近づくとたちまち引いていった。リンクは広間の真ん中にあった円形の窪みにソルを置いた。リンクの目の前にたちまち青白く光る不思議な文様が刻まれた階段が床からせり上がってきた。
「リンク、階段を登れ!」
ミドナが言う。だがソルをどうする?一瞬迷ったが、すぐに気づいた。段差の上に登ってからクローショットで取ればいいのだ。リンクは階段を駆け登った。途中、蛸の化け物が四匹ほど降りきたのを、反射的に剣を抜いて横斬りで斬り捨てると、段差の上に立って剣を納めた。
リンクが下の床を振り返ると、ミドナの魔法でクローショットがその右手に嵌められた。全く同じことを考えていたのだ。手の彫像はソルの真上にまで浮遊してきている。リンクは光るソルに狙いを定めてクローショットを撃った。飛び出した鉤爪がソルの装飾に引っ掛かり、球はたちまちリンクに引き寄せられた。次の瞬間、手の彫像が大きく指を開くと、さっきまでソルがあった場所を狙って中空から床に落下し轟音を立てた。間一髪だ。
ソルが取り去られたことで、登ってきた階段が床と同じ高さに引っ込んでいった。ミドナがクローショットを収納すると、リンクはソルを持ち上げて南側の扉に駆け寄った。前に立つと扉は自動的に開いた。
次の部屋に入り、ソルを抱えたまま走って段差を飛び降りる。肩越しに背後を振り返ると、驚いたことに手の彫像は扉を通り抜けてこちらに向かってきていた。だが眼前は柵を抜けたらあの黒い霧の溜まった広場だ。どうやって運ぶ?リンクが狼姿になることを覚悟して前に進みかけたときミドナがまた叫んだ。
「リンク、待て!」
「ミドナ、あいつが追いかけてきてるんだ。何か策があるのかい?」
リンクが尋ねると、彼女は頭に手をやって顔をしかめ、目を閉じていた。
「思い出しているんだ。確かこの部屋の間取りは....」
すると、黒い霧の中で蛸の化け物の群れがうごめくのが見えた。彼らはリンクを見咎めたのか、柵の開いたところからこちらに向かってきていた。
「リンク!まずソルを霧の中に投げ入れろ!」
ミドナが言った。リンクは球を前方に放った。ソルの周囲だけたちまち霧が引いていく。
ほとんどリンクの真上にまで迫ってきていた手の彫像は、今度は霧の広場のほうに浮遊していく。だが一息ついている時間はない。リンクは剣を抜き、盾を構えると蛸の化け物の群れを迎え撃った。
飛び掛かってくる敵がドシンドシンと盾にぶつかる。リンクは盾を掲げたまま摺り足で左に移動し、敵の攻撃範囲を狭めるため広場の端からこちら側に開いている壁の影に身を寄せた。そしてやおら回転斬りを放つと、五匹ほどの敵が吹き飛んだ。数の減った敵がそれでも向かってくるのを、再び回転斬りを繰り出して斬り飛ばし、残りを突きで片付けた。
だが、既に手の彫像はソルの真上に達していた。リンクが剣を納めそちらを見やると、ミドナがその右手にクローショットを嵌めた。一瞬遅く、彫像が指を広げてソルの上に覆いかぶさるように落下した。ドシンと音が響く。彫像はソルを握り締めて空中に浮遊し始めた。
だがリンクは諦めなかった。クローショットで彫像に狙いをつけると、その指の間から覗く球目掛けて撃った。
飛んでいった鉤爪が球の装飾に引っ掛かり、ソルは彫像の指の間からするりと抜けてリンクのもとに引き寄せられた。
「リンク、少し右に動け。そこから広場の中央を狙ってソルを投げてくれ」
ミドナが指示した。
「策があるんだね?」
リンクが尋ねた。
「ああ。やっと思い出した。リンク、投げたら少し左にずれてくれ。そこに立っていれば脱出がしやすいんだ」
彫像は今度はリンクのほうに向かって浮遊してくる。リンクは呼吸を整えると、立っている場所から四十五度程度の角度をつけて広場の中央目掛けてソルを放った。
床に落下したソルが勢いで転がっていく。リンク目掛けて浮遊してきた彫像がまた向きを変える。リンクは左に横移動しながらソルを注視した。それはゆっくり転がっていたが、やがて停止した。何も起きない。その一メートルほど前方には広場の中央にある丸い窪みが見えた。
失敗か?そう思った瞬間、床につけられていたわずかな傾斜に乗ってソルが再び転がり始め、窪みの中に嵌った。
その途端に、リンクの立っていた床が高く持ち上げられた。その場所も隠し階段だったのだ。現れた階段は、リンクのいた場所から西に降りたあと、広場の西側の端で南に折れて広場の中に入っていた。
「リンク、前に出ろ!そこからソルを狙うんだ!」
ミドナが叫ぶ。手の彫像はまたしてもソルの真上にまで浮遊している。ミドナの魔法でクローショットが右手に嵌められた。リンクは数歩前に出た。ミドナの言わんとしていることが分かった。ソルを取り去れば隠し階段は消えるが、リンクが立っているのは壁の上にあった常設の通路なのだ。
彫像がソルを狙って落下し始めた瞬間、リンクもクローショットを撃った。一瞬の差でリンクが勝った。鉤爪がソルの装飾に引っ掛かり、球が引き寄せられていく。同時に隠し階段は床に引き込まれていった。
あとは脱出だ。リンクは南に向かって通路を走った。だが目の前に段差があり、ソルを抱えたままでは登れそうにない。リンクは咄嗟にソルを段差の上に投げ上げると、段差に手をかけてよじ登り、再び球を抱えて走り始めた。さらに低い段差を駆け上がる。右手前方に出口扉が見えた。もうすぐだ。
その瞬間、頭上から蛸の化け物たちがボトボトと落ちてきた。リンクは思わずソルを取り落とした。だが素早く剣を抜くと回転斬りで敵の群れを片付け、剣を納めて再び球を拾いあげると、通路の終端から下に飛び降り、扉の前に立った。
扉は自動的に開いた。もうすぐだ。しかし、出た先の部屋の、段差の中にしつらえられている斜面を見たときリンクは舌打ちした。片付けたはずのデクババがまた生えてきている。だが迷っている暇はない。
リンクは走って扉の前の段差から飛び降りると、覚悟を決めて走った。目の前の段差の真ん中にある斜面に駆け寄ると、デクババの真横をすり抜けた。食人植物がパックリと口を開け、リンクの背後すぐの空間に噛み付いた。デクババを避けても黒蝙蝠が上空を飛んでいる。だがリンクは一切構わずに走り続けた。
肩越しに背後を見ると既に手の彫像は扉をすり抜けている。前に向き直ると、二段目の段差の右手にある斜面にもやはりデクババが生えていたが、同じように駆け抜けた。数センチの差でデクババの牙が背中をかすめる。三段目の段差の中央にある斜面も、デクババの牙をどうにか逃れて駆け抜けると、その先の通路に蛸の化け物どもが多数群がっているのに気づいた。
リンクは一旦足を止めると、右手に急カーブを切り、それから左に回り込んで回避した。フェイントをかけられた魔物どもが跳躍してリンクが一瞬前までいた場所に飛び掛かった。
蛸の化け物どもを背後にやっと扉に辿り着く。扉は自動的に開いた。ソルを抱えて建物から出ると、リンクは安堵の溜め息をついた。すると、入り口の横に立っていた影の使者の出来かけのような男が、突然泣き声のような声をたてると床に座り込んだ。
見ると、顔に被っていた面もボウボウに伸びた髪の毛も消え去っていた。白く滑らかな肌の顔が露わになっていた。だがその目はうつろで、口もポカンと開いたままだ。ミドナはその男に近づくと脈や呼吸を確かめた。
「こいつはまだ生きてる。ソルの力で呪いが解けたんだ」
「助かるかな?」
リンクは尋ねた。
「肉体的には問題ないみたいだな。だがまだ動くことはできないだろう」
ミドナは答えると、男をそっと横たえてやった。リンクは道を進み、円形の野外広場にやってきた。二つある丸い窪みのうち手前側にソルを置くと、その周囲に青白く光る文様が浮かび上がった。
「ソルは二個置かないと意味がないのかい?」
リンクが聞いた。
「本来はな。だが多少なりともこれで機能が回復するかも知れない」
リンクたちが野外広場の周囲を調べてみると、西側に伸びる通路を断ち切っている間隙の手前の路面に刻まれた二メートル四方ほどの四角い文様が光り始めたのに気づいた。
「非常用リフトだ。これで渡れるぞ」
「これでって...ただの文様じゃないか?」
ミドナが言うのに対しリンクは半信半疑だった。
「私たちの科学力を見くびらないでくれ。とにかく文様に乗ってみろ」
リンクは戸惑いながらもその光る文様の上に乗ってみた。すると、それがゆっくりと上方に浮遊した。半透明に光る四角い文様が板のように硬い足場を生み出している。リンクが下を見下ろすと、文様越しに下方の路面と、さらにそれが断ち切られてできた崖が見えた。
驚いているうちに、その足場は西に移動を始め、道路の間隙を渡った。リンクはそこから向こう岸に飛び降りると、道なりに北に折れて突き当りの建物の扉に向かった。扉の脇には、東側の建物と同じように影の使者への変身の途中で放り出されたような人間が一人佇んでいる。
もう一つのソルを探せばこの男も元に戻れるかも知れない。リンクは扉の前に立った。扉が開き、建物の中に入ると、そこは東側の建物の最初の部屋と同じような広さの部屋だった。
だが構造は多少異なっていた。扉の前の床を少し進むと段差があり床が低くなっている。その床の上空には蝙蝠が二、三羽飛び回っている。低い床は奥行き十五メートルほどで、その先に幅と高さ五メートルほどの狭い舞台があった。
足場の先はやはり奥行き十五メートルほどの床がある。だがそこには黒い霧が充満していた。そして突き当りには高い足場と、その先に扉があった。扉の左右の壁にはクローショットの鉤爪を掛けられる金網つきの照明器具があったが、もしも黒い霧が満ちた床に落ちて狼に変身させられたら先に進むのは困難になるのは明らかだった。
目を上げると、目の前の低い床の上空に一つ、先ほど間隙を越えるために乗ったのと同じような半透明に光る足場が手前と奥を往復しながら浮遊している。同じ足場が、霧の充満した箇所の上空にも四か所、浮遊しながら左右に数メートルづつ互い違いに移動を繰り返している。
天井を見ると、そこにも金網つき照明器具が複数、手前から奥に配列されていた。リンクはミドナにクローショットを出してもらうと、手に嵌めて手近の天井についた照明器具を狙い撃った。鉤爪が金網に引っ掛かりリンクは引き上げられた。眼下を見ながら、半透明の足場がやってきたタイミングで飛び降りた。
足場が奥に移動していく。舞台に近づいてきたところで、リンクはジャンプして飛び移った。舞台の左右には白いガラス質の球が一つづ設置されているが、光を発してはいない。リンクは眼下の黒い霧に目を落としたあと、もう一度目を上げた瞬間に、前方の空中に高さ二メートルのザントの兜が浮いているのに気づいた。
ザントの兜から魔法弾が発射された。リンクは咄嗟に盾を背中から下ろして構えた。ガツンと衝撃が来る。足を踏ん張って、どうにか舞台から転げ落ちるのを防いだ。だが、敵の方をみやるとその姿はもう消えている。
リンクは盾を背負い目の前の空間に浮遊している四つの足場を見ながら考えた。ザントの兜に狙われながらこんな足場を渡るのは難行だ。だがやるしかない。
舞台から跳躍して、最初の足場の上に飛び移った。だがザントの兜がフロアの奥に現れて魔法弾を放ってきた。咄嗟に身を低くした。足場の移動があり、敵の狙いがわずかに外れたらしい。魔法弾の灼熱がリンクの頭の少し横を通り過ぎていった。
今立っている足場と次の足場は互い違いに動いている。二つ目の足場が近づいたところで飛び移った瞬間、すぐ目の前の空中にザントの兜が唐突に現れた。剣が届く。リンクは咄嗟に剣を抜いて斬りつけた。手応えがあった。だが、不安定な足場では思うように剣を振り回せない。二の太刀を振るう前にザントの兜が消えた。
剣を握ったまま、足場の移動周期を見極め、三つ目の足場に飛んだ。あと少しだ。だがザントの兜が奥の段差の上に現れた。リンクは剣を納めると咄嗟に四つ目の足場に向けて跳躍した。距離が少し足りない。だが両手を思い切り伸ばして飛び付くと、どうにか足場の縁に取り付くことに成功した。
ザントの兜が発射した魔法弾が頭上を通り過ぎる。上手く飛び移れなかったのがかえって幸いした。リンクは両手で足場の上に這い上がると、向こう岸の段差の上に飛び移った。
息を鎮めながら周囲を見回すと再びザントの兜が現れた。今度は今立っている段差の上の右手の隅だ。弾かれたようにダッシュすると、リンクは剣を抜いてジャンプ斬りを放った。渾身の刃を敵に叩き込み、着地と同時に回転斬りを放つ。ザントの兜はバラバラに崩壊して床に転がった。
すると、段差の上の反対側の隅の床から光が発せられ始めた。近づいていくと、木の箱が姿を現している。完全に姿を現すまで待ち、蓋を開けてみると小さな金属の鍵が入っていた。北側の突き当りの扉に向かって歩くと、扉には鎖がかけられ施錠されていることがわかった。
「鍵ばっかりかけやがって。間違いないな」
ミドナが呟いた。
「ザントの奴、この奥にもソルを隠している。あるいは当の本人が隠れてるか、どっちかだな」
「ミドナ、ザントって意外と小心者なのかな?」
リンクは鍵を錠に差し込みながら当て推量を言ってみた。リンクたちが突入してくることを知っているはずなのに、軍勢を率いて迎え撃つのではなくひたすら閉じこもっている様子だったからだ。
「奴は本来王族じゃあない。官僚の一人だったのが多少の能力があって出世しただけだ。一族をまとめる覚悟も度量もない」
「民の幸せを考えるなんてこともなさそうだね」
鍵を捻ると、錠前が外れて鎖が落ちた。リンクが扉の前に立つとそれは自動的に開いた。
「あるわけないだろ、そんなもの」
ミドナは吐き捨てるように言った。
「奴が欲しいのは自分の権力だけだ。そのためには国をどれほど目茶苦茶にしても気にしない男だ」
目を上げると、その部屋も東側の建物の二番目の部屋と同様、扉の前の床から段差を経て低いフロアとなり、その先に黒い霧の溜まった広場があった。さらにその先に霧のないスペースがわずかにあり、奥に高い段差と扉がある。また、左右の壁と天井には、一つ前の部屋と同様等間隔を置いて金網つき照明器具が設置されていた。
ここでは黒い霧を通らなければ先に進む手がかりは得られそうにない。リンクはミドナに言うと狼に変えてもらった。ミドナが背中に乗ると、段差を飛び降り進んでいく。黒い霧の充満した広場まで真っすぐ走っていった。だがその刹那、霧の中から異様に背の高い人影が二つ、ぬうっと現れた。影の使者だ。
だがリンクは瞬時に思い出した。敵の数がもし三匹なら、二匹を先に倒してしまったら最後の一匹に蘇らせられてしまう。咄嗟に身を低くして二匹の間をすり抜けると、霧に飛び込んだ。その途端に魔法結界の柱が天井から落ちてきた。霧の広場に閉じ込められたようだ。
背後に置いてきた二匹の鬼どもがこちらに向き直った気配がした。だがリンクはかまわず感覚を集中した。残り一匹はどこに?
すぐ目の前の右手だ。相手が手を振り上げ攻撃態勢を取る。リンクは素早く走って相手の脚の間を通り抜けた。敵の攻撃が空振りする。ミドナに合図すると彼女から黒い結界が広がり、敵の身体を赤い稲妻が包む。次の瞬間力を解放した。必殺の一撃を喰らった鬼はたちまち崩れ落ちた。
背後から残りの二匹が迫ってくる。リンクは慌てず再びミドナに合図した。結界が広がってくると同時に相手に向き直って距離を詰める。一匹目、二匹目。敵が間合いに入った。敵が攻撃できるということはこちらも同条件だ。リンクは、相手が手を振り上げ、振り下ろすギリギリまで待って力を解放した。ミドナの魔法の力を借り、狼リンクは宙を飛んで二匹の鬼どもに致命傷を与え、床に降り立った。
影の使者たちが全滅しその身体が崩れていくと、リンクたちを閉じ込めていた魔法結界の柱も消滅した。だが霧はまだ晴れない。部屋の奥のほうに目を転ずると、突き当たりの段差にはどこにも鍵の箱を隠せるような窪みはない。
段差の上に登る手がかりを探そうと左右を見回した瞬間、段差の下にザントの兜が現れた。リンクは前方にダッシュして霧から出ると跳躍し、一撃を与え着地するとミドナに合図を送った。結界が広がり、よろめいた敵を包む。力を解放すると狼の必殺攻撃を喰らってザントの兜がバラバラに壊れた。
「リンク、後ろだ!」
ミドナが叫んだ。振り返るとザントの兜が背後の霧の中に浮遊していた。しかも三体だ。すかさず全力で突進し跳躍すると、その真ん中に降り立ってミドナに合図した。三体の敵がリンクに向き直って包囲し、それぞれの口に魔法弾が浮かび上がった。だがこちらからも結界が広がり、三体の敵を包む。
リンクは力を解放した。一瞬の間動きを麻痺させられた敵に向かって弾丸のように飛び掛かる。一体に打撃を与えると直線的に方向を変え、二体目、三体目と痛烈な打撃を食らわせた。
三体の監視装置が大きな損傷を被って全壊し床に転がった。リンクは荒い息で肩を上下させた。果たして敵はこれで全部だろうか?その時、ミドナが言った。
「リンク、霧から出ろ。どうやら鍵が見つかったぞ」
言われたとおり霧から前方の段差の下に進むと、ミドナが人間の姿に戻し、服と装備を装着してくれた。
「見ろ、あそこだ」
ミドナが指さした先は、西側の壁の高所にある窪みだった。窪みが二つある。
「向こう側の窪みだ。クローショットを使えば渡れる」
リンクの両手にクローショットが嵌められた。リンクは思案したうえ、まず今立っているスペースのすぐ西側の壁についていた照明器具を狙ってクローショットを撃って飛び付くと、次に天井から下がっている照明器具にもう一つのクローショットで飛び移った。
天井の照明器具を次々に飛び移って部屋の南側に移ると、西側の壁の南側の窪みの壁に奇妙な文様が描かれているが、よく見ると鍵を抽象化した図案に見える。その文様の下に木の箱があった。
リンクはその窪みの壁にしつらえてあった照明器具を狙ってクローショットを撃って飛び移ると、床に降りて箱の蓋を開けた。やはり小さな金属の鍵が入っていた。
「次がこの建物の最後の部屋だ。ソルかザントか、楽しみだな」
ミドナが言う。
「僕はソルが置いてあるって気がするよ」
リンクはクローショットで再び天井の照明器具を狙いながら言った。
「実は私も同意見なんだ。もし私がザントで、敵から隠れるならここではなく中央棟に隠れる。はるかに防備が固いからな」
リンクはクローショットを撃つと、次々と天井の照明器具を飛び移り、最後に部屋の北側の突き当りの壁の照明器具に飛び付いて、段差の上の床に降り立った。
扉に近づくと、やはり施錠されている。鍵を錠前に差し込んで捻ると、錠が開いて鎖が落ちた。扉が自動的に開く。
扉の向こう側の部屋は、例に漏れず東側の建物と同様の構造だった。扉の前の床を少し進むと段差があって床が低くなり、その先は広大な広間だ。奥の突き当りには、やはり手の彫像があって、その指には光球が握られていた。
だが、リンクが扉を抜けると、それはすぐ閉まるとともに、その上から太い格子が下ろされた。盾を構え、剣を抜くと用心深く前進する。広場の中央辺りに行くと、思ったとおり魔法結界の柱が次々と天井から降りてきた。たちまち形成された結界が手の彫像のある窪みの前と、南側の段差の前を塞ぐ。
だがリンクはもはや慌てなかった。ザントの幻影が襲ってきても、その行動パターンは学習済みだ。用心深く身構えながらも周囲を見渡す。
だが、一瞬後リンクは気づいた。背後だ。振り向くと、やはり青白いザントの幻が部屋の向こう側に現れている。一撃を加えようと突進を開始したが、やや距離が遠い。十分間合いを詰める前にザントが光球を大きく膨らませ、気合を発した。
光球から渦巻が発生し、そこから種子のようなものが周囲の壁にまき散らされた。かと思うとその種子からデクババが次々と発芽して首をもたげた。
ザントが消え去ると、リンクは敵の次の出現場所を探しながら剣を振るった。周囲を取り囲むように五本ほどの食人植物が生えている。回転斬りを放つと、一本が大きく後ろによろめいた。だがまだ死んでいない。次の一本が横から飛び付いてくるのを横斬りで牽制した。
これはデクババではない。ヘビババだ。リンクは気づいた。茎から切り離さないと致命傷を与えられず、しかも蛇のように独立して襲ってくる厄介な奴だ。リンクはたった今打撃を与えた二本の間に立つともう一度回転斬りを放った。一、二秒ほどの間敵がよろめいたのを逃さず、一方の茎を切断して袈裟斬りに斬り捨てたあと、振り向いてもう一本も茎を断ち切って痛烈な突きを喰らわせた。
だがまだ何本も残っている。背後に向き直り、三本ほど群生している黒ヘビババに向かって剣を振るった。真ん中の一本に横斬りで一時的な打撃を与え、突きで茎を切断する。すると左右の二本がこちらに鎌首をもたげる。同時に襲い掛かってきた瞬間に回転斬りを放って弾き飛ばす。茎を切断された一本が蛇のように体をうねらせ向かってくる。連続突きを放って致命傷を与える。回転斬りの打撃から立ち直った二本が再び鎌首をもたげた。
視界の向こうには、ヘビババと格闘しているリンクを嘲るようにザントの幻影が姿を現しては消えていくのが見えた。今に見てろ。リンクは右手のヘビババの茎を切断すると素早く袈裟斬りで息の根を止めた。左手の一本の攻撃を横っ飛びに躱すと、前転して後ろにまわり跳躍し剣を払った。大きな打撃で痺れたようになったところを、茎を切断し、串刺しにした。
だが、その途端にまだ残っていたヘビババが消えた。ザントの悪戯だったのか。リンクは腹立ちを抑えながら周囲を見回した。摺り足で広場の中央に移動し、呼吸を整え、油断なく目を配る。
ザントが現れた。だが何もせず消え去った。次にその反対側の隅に出現したザントの所作を見た瞬間、リンクは相手に向けて突進した。敵は両手を掲げ、その間に赤い光球が現れて膨れ上がる。全力疾走で殺到すると、跳躍してジャンプ斬りを叩きつけた。さらに縦斬り、横斬り、次いで袈裟斬りを食らわせた。苦し気に呻きながらもザントは姿を消した。
次はどこだ?リンクは身体を回し辺りを確認した。部屋の別の隅にザントが現れ、また消える。次に遠くの壁際にザントが現れた。攻撃か、フェイントか。リンクは勘を頼りに突進した。だが消えた。外れたのだ。
立ち止まると、リンクは落ち着いて五感を研ぎ澄ませた。敵は必ず現れる。その刹那、リンクは気配を感じて背後を振り返った。すぐ近くだ。両手を掲げ光球を生じさせ始めたザントに突進して突きを放ち、縦斬り、横斬り、さらに袈裟斬りを食らわせた。
再び呻き声を上げてザントが姿を消した。次で決めてやる。リンクは武器を構え直して左右に目を走らせた。すると、反対側の壁際にザントが現れた。両手を高く上げる。チャンスと見て突進したが、距離がある。敵の両手の間の光球が大きくなると破裂し、そこから小さな魔法弾が放射状に発射された。咄嗟に前転すると、頭上を魔法弾が通り過ぎていった。さらに殺到しようとしたが、既にザントは消えていた。
部屋の中心の辺りに戻りつつ、身体を回しながら索敵する。部屋のひと隅に現れたザントがすぐ消える。そしてもう一度。さらにもう一度。今度はザントが広場の奥あたりに現れた。
リンクは直感に駆られ突進した。果たして、今度は敵は両手を上げた。その手の中に光球が現れて膨らむ。間に合うか?リンクは走って突進した。飛び込み前転すると一気に間合いを縮め、横斬りを叩きつけた。ザントの幻影が術を中断した。さらに追い討ちで縦斬り、袈裟斬りから突きを放った。
強い手応えがあった。ザントの幻影は苦しげにうなだれたあと、叫びながら黒い霧を撒き散らして姿を消した。
魔法結界の柱が消滅した。剣を納め、荒い息を鎮めながらリンクは部屋の置くに置かれた手の彫像に近づいた。
「二つ目のソルだ」
ミドナが言った。
「よし、運ぼう」
リンクが言うと、ミドナがその右手にクローショットを嵌めた。彫像の指の間に光るソルに狙いをつけて撃つ。球が引き寄せられると、リンクはクローショットをミドナに託し、ソルを抱え挙げて走り始めた。
予想通り、彫像が異音を立てながら動き始める。リンクは広場の中央に向けて急いだ。霧が引いていく中、広場の中央にしつられられた円形の窪みが見えた。
だがその瞬間、左右から蛸の化け物どもが挟み撃ちに迫ってきた。リンクは咄嗟にソルを床に転がしながら前転し、敵群の攻撃をかわした。ソルが床の窪みに嵌まり、たちまち隠し階段がせり上がってくる。
背後には蛸の化け物の群れだけではなく、影の使者が一匹現れ、追いすがってきた。目の前の隠し階段は左右に分かれている。咄嗟に左手を選んで駆け上がった。
段差の上から振り返ると、彫像が空中に浮き上がりソルを求めて飛行し始めているのが見えた。ミドナがすかさすリンクの右手にクローショットを装着した。ソルを狙って撃つと、飛び出した鉤爪が引っ掛かって球が引き寄せられた。
クローショットを手放してミドナに託し、ソルを抱え上げるとリンクは踵を返して出口に走った。扉の前に立つと、自動で開いたところですぐにすり抜ける。目の前の床を走り抜け、段差を飛び降りた。
「リンク、広間の右手の奥に行け。そこからソルを広間の中心に投げるんだ」
ミドナが言った。
「了解!」
リンクは答えた。霧の立ち込めた広場に突進していく。霧が引いていくとともに、黒蝙蝠がその中から飛び出してきた。ひた走ってその真ん中を突っ切ると、ミドナに指示された場所にたどり着き、広間中央に向き直った。
「少し後ろだ。もう少し‥‥よし、そこだ!」
ミドナがリンクの立ち位置を微調整した。リンクはソルを放り投げた。ソルは真っ直ぐ転がっていくと、中央の窪みに嵌まった。
たちまち広間を囲むように隠し階段がせり上がってきた。リンクのいた場所はその最も高い終端近くだった。南側を向くと、リンクのいるところはすぐに高いテラスに接している。
リンクはテラスに登ると振り返った。彫像がソルの上空に近づいてきている。ミドナがリンクの右手にクローショットを嵌めた。眼下の広間の中央に置かれたソルを狙ってクローショットを撃った。
鉤爪がソルの装飾に引っ掛かり、ソルが引き寄せられてきた。リンクはソルを抱え上げてテラスの上を出口に向かって走った。テラスの端から下の床に飛び降り、突き当たりの扉の前に立った。
扉が自動的に開き、リンクはその向こう側に進んだ。彫像と差をつけることが出来ただろうか?だがゆっくりしている暇はない。扉の前の床の縁まで急ぐと、そこから霧の立ち込めた低い床の上を浮遊する最初の足場の動きを見定めた。
だが、すぐに背後で物音がした。肩越しに振り向くと、彫像が既に扉を通り抜けていた。リンクは舌打ちすると、助走をつけて最初の足場に飛び移った。
彫像がこちらに向かってくる。次の足場は目の前だが、今の足場と互い違いに動いている上に、ソルを抱え上げた状態では動きにくい。彫像が頭上に近づいてくるなか、リンクは二つ目の足場との距離が縮んだのを見て飛び移った。
三つ目と四つ目の足場を見たとき、リンクは気づいた。ほんの一瞬だが、これらの足場が一直線に並ぶタイミングがあるのだ。
彫像はもう頭上に来ている。リンクは焦りを抑え、今いる足場と前方の足場が一直線に並ぶ瞬間を見越して、やや早いタイミングで飛んだ。
作戦が当たった。リンクは三つ目の足場に降り立つと、その勢いで四つ目の足場に飛び乗り、さらにその先の舞台に飛び移った。
彫像が追いすがって来る。今の場所からソルを抱えてどうやって進む?リンクが辺りを見回すと、舞台の左右にしつらえられたガラス球が突然輝き始めた。かと思うと、舞台中央にあった四角い紋様が青白く光り、それがリンクを乗せたまま浮かび上がって足場となった。
足場は自動運転のようだ。出口に向かって浮遊し、低くなった床の上空を進んでいく。リンクはソルを抱え上げたまま、やきもきしながら足場が向こう岸の段差の上に到達するのを待った。
後ろを見ると彫像がほぼ同じ速度で追尾してきている。さらに、前方上空には黒蝙蝠たちが飛び回っていた。耐えるしかない。蝙蝠どもが頭上を飛行している場所に差し掛かり、リンクは冷や汗をかきながら待った。ソルを抱えた状態では襲われても反撃できない。
足場はようやく対岸の上にたどり着いた。床に飛び降りると、リンクは扉の前に立った。扉は自動的に開き、リンクたちは外に出た。
「やっとソルを二つとも取り戻したな」
ミドナが言った。リンクも大きな安堵の溜め息をついた。
ソルの光に照らされたせいか、扉の前にいた影の使者になりかけていた男がみるみるうちに元の姿に戻る。だが、やはり呆然として立ち尽くしているだけだった。ミドナはその呼吸と脈拍を確かめると、壁に背をもたれさせて床に座らせた。
リンクたちは道を南に下り、道なりに左に折れた。道を断ち切る間隙の手前の路面に刻まれた四角い紋様の上に立つと、すぐにそれが浮き上がって足場になった。足場が東に浮遊していく。やがて、対岸の上にたどり着くとリンクは足場から飛び降りて円形野外広場に向かった。
既に据えたソルの隣にある窪みに、新しいソルを置いた。ソルの周囲の床に刻まれた紋様が青白く光り始めた。すると、二つのソルの間にもやや大きな円形の輝く紋様が現れた。
「なんだろうこれは?」
リンクは尋ねた。
「わからん。私もこんな紋様は見たことはない」
ミドナが近づいてきた。リンクもその紋様のある箇所に歩み寄った。
ふと、リンクは何かいつもと違う感覚を背中に感じた。何気なく剣の柄に手をやると、それを握ったとたん力が流れ込んできたのを感じた。背中につけた剣を抜くと、その刀身が光輝き、光の粒のようなものが発散されていた。リンクは驚いて自らの剣を眺めた。一体何が起きたのだろう?
「ミドナ、剣に何かが起きたみたいだ」
リンクは言った。
「光を発している...?」
ミドナはリンクに近づくと不思議そうに剣の刀身を眺めていたが、やがて何かに気づいたように息を呑んだ。
「そうか!そうだったのか....」
ミドナが目を見開いて呟いた。
「しかし、信じられない‥‥こんなこと」
ミドナは首を振ると呆然としながらリンクの剣を見た。
「どうしたんだ、ミドナ?」
リンクは尋ねた。ミドナはようやく落ち着くと、深呼吸をしてリンクに向き直った。
「リンク、この王宮を建てた私の先祖たちは見越していたみたいだ。お前がここに来るのを」