ストレスフリーの異世界に転生したはずなのにストレスフルで死にそうです助けて!!   作:kayako

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第2話 はんぺんも紅く染まるこんな世の中

 

 

「わぁ、お姫様の救出だって! 

 賞金は10万G、理想的な依頼だね!!」

「しかもこの洞窟、難攻不落の要塞らしいですよ! 

 最強のボクらにはうってつけでは?」

 

 まともそうな依頼で何よりだ。

 

「それじゃとりあえず、装備を整えよう。

 武器屋はどこだ?」

 

 俺はルーナに尋ねてみたが、彼女は困ったように首を傾げた。

 

「あ……すみません。

 武器屋というのは、ないんですよ」

「えっ?」

「ど、どういうことです?」

 

 この時点で不審な匂いに気づいた玉露は、若干青くなっていた。

 

「武器屋に行って武器を揃えるのは、全てのRPGの基本ですよね?」

「てか、剣も持たないでどうやって魔物と戦うの?」

「あー、いやー、そのー……」

 

 決まり悪げな愛想笑いを浮かべる駄天使。嫌な予感がする。

 

「この世界、武器というものがないんですよ」

「「「は?」」」

「というか、他者を殺傷する凶器は、存在自体が許されないんです。

 剣、銃、弓、槍、爆弾、その他もろもろ。

 これらは全て、流血大惨事のストレスに繋がるものですからね」

「え……?」

 

 玉露の顔色が、青を通り越して真っ白になる。

 その一方で、もっともな疑問を呈するはんぺん。

 

「じゃあ、どうやって敵をやっつければいいのさ? 

 武器がなきゃモンスターをやっつけられないしお姫様も助けられないよ?」

「それならご心配なく! 

 ちゃんとその為の最強術を、貴方がたは既にお持ちのはずです♪」

「ふぅん。術ねぇ」

「百聞は一見に如かず。現場に到着次第お教えしますので、早速出発しましょー!!」

「剣もない……刀もない……銃もない……

 それじゃ、それじゃ……」

 

 なるほど。武器が使えないかわりに術で何とかするというわけか。

 完全に白くなったまんまの玉露を引きずるようにしながら、俺たちはルーナに導かれ、依頼にあった要塞へと向かった。

 

 

 ***

 

 

 約一名を除き、意気揚々と要塞入口へと到着した俺たち一行。

 はんぺんが元気いっぱいに太腕を振り回す。女の子が一緒のパーティというだけで興奮しきりのようだ。例えそれがウサ耳の駄天使であろうと。

 

「ねぇねぇルーナちゃん、具体的に術ってなーに? 

 僕個人的には風術がいーなぁ、ハプニングを誘って女の子のパ〇チラは勿論、風の刃で服を少しずつ……いや、水術でずぶ濡れにしてスケスケも捨てがたいよね……

 夢が広がるなぁ♪ グフ、グフフフフフ」

「ボク的には炎か電撃で丸焼きにしたいですけどね。はんぺんさんを」

 

 頬を紅潮させるはんぺんに、テンション最低のまま呟く玉露。

 しかしそんな俺たちの前に、要塞の中からゴブリンの群れが現れた!! 

 しかも2,3匹という数ではない。軽く100匹ぐらいはいるだろうか。

 

「な、なな何コレ!? 敵の数の設定雑すぎない?」

「最初のダンジョンで遭遇する数じゃありませんよぉ!!」

「くっ……雑魚ゴブリンとはいえ、こんな数をどうやって?」

 

 仰天して立ちすくんでしまった俺たちに、ルーナは意気揚々と胸を張った。ない胸を。

 

「だいじょーぶ! 

 ここでこそ、皆さんの最強スキル、『空術』の出番です!」

「く、空術?」

「とりあえず銀さん! 意識を集中させて、術を使ってみてください!!」

 

 敵はどんどん迫ってくる。ルーナの言う通り、やるしかない。

 俺はじっと目を瞑り、意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 ふと気づいた時、俺たちの周りを埋め尽くしていたのは──

 思いきりぶちのめされ気絶した、大量のゴブリンの群れ。

 全て一様に目を回し、完全に戦闘不能となっている。意識がある奴もわずかながらいたが、「うー、ヤラレター」などと呟くのみ。

 抜け殻のようになってしまったゴブリンどもの中央に、俺たち3人組はただ茫然と立ち尽くしていた。

 

「な、何をしたんだ、俺は?」

 

 この状況に、さすがに面食らってしまう俺。他の2人も何が起こったのかさっぱり分からず、きょろきょろするばかりだ。

 ルーナが満面の笑顔で説明する。

 

「うわー、初めてなのに凄いです銀さん! 

 これぞ、理想的な空術の使い方なんですよ」

「空術? 今のが?」

「はい。

 正確には『空白術』と言います」

「空白術?」

「今、銀さんが意識を集中した直後、6行の空白が生まれましたよね。

 その間にゴブリンたちが全滅したんです!!」

「……へ?」

 

 全く意味が分からない。

 俺が意識を集中しただけで、敵が吹っ飛んだ。そう解釈するしかないのか。

 すごいすごいとはしゃぐルーナ。その横で、玉露が静かに一匹のゴブリンの前に屈みこみながら、何やらぶつぶつ呟いていた。

 

「血……出てない。

 傷……ついてない。

 血も……傷も……どこにも、ない……

 これが、無双バトル? これが答えなの? ボクの求めていた……」

 

 アカン。早くも玉露のA〇フィールドが溶けかかっている。

 そんな後輩を完全に無視しながら、はんぺんが喜び勇んでバンザイしていた。

 

「やった、やったー!! 

 なんだかよく分からないけど、とりあえず最初のダンジョンクリアってことでいいよね! 

 お姫様ー! 今助けに行きまーす!!」

 

 

 

 大歓喜しながら要塞の奥へ飛び込んでいったはんぺん――

 すると。

 

 

 

「あぁ、勇者様! お待ちしておりました~!!」

 

 ファ×コン時代のゲームによく出現しそうな王冠にドレスを着けたお姫様が、涙を流しながら俺たちに駆け寄ってくる。ファッションはともかくなかなか可愛い。

 はんぺんはもうテンション最高潮。

 

「お姫様ぁ~! 僕です、僕が勇者どぇ~す!」

「おい。ゴブリンの群れ突破したの俺だぞ」

 

 そんな俺の突っ込みなどものともせず、ぴょ~んとダイブしながらお姫様に飛びついていくはんぺん。

 

「さぁさぁ王女様~、君は僕のハーレム第一号だよ! 

 勇者たる僕に早速熱いチッスを、ベーゼを、パ〇ズリを、そして晴れて僕は童貞卒ぎょ」

 

 はんぺんが叫びながらお姫様に触れようとした、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 気がつくと俺たちは、どういうわけか街に戻っており。

 どういうわけか宿屋の受付にいた。

 そして宿屋の主人が、にこやかに言ってのける。

 

「ゆうべは おたのしみでしたね♪」

 

 ただただ茫然と、宿屋の主人を見つめているはんぺん。

「いや、ゆうべもおたのしみも何も……

 僕らさっきまで、ダンジョンにいたんじゃないの? 

 お姫様を助けて、もうちょっとでチッスできるはずだったんだけど? 

 ねぇ、お姫様?」

 

 すぐ隣にいるお姫様に、青くなって尋ねるはんぺん。

 しかしお姫様はそっと顔を赤らめ、恥ずかしげに身をよじる。

 

「いやですわ、はんぺん様……

 ゆうべあれほど求めていらっしゃったのに……まだ足りないと……? 

 わたくし、さすがに身体が持ちませんわ」

 

 やたらと色っぽい声になって身体をくねらせるお姫様。

 一体何が起こったのか。はんぺんは目をぱちくりさせながら彼女を見つめていたが──

 

「ありがとう、はんぺん様。

 わたくし、忘れませんわ。ゆうべのあ・な・た♪」

 

 はんぺんの小さな鼻を悪戯っぽくちょいとつつくと、お姫様はさっさと宿屋を出ていってしまった。

 無言で立ちすくむはんぺん。の横で、ルーナが苦笑しながら頭をかいていた。

 

「あちゃー、自動発動しちゃったみたいですねぇ。空術」

「へ?」

 

 意味が分からない。空白行の間に何かが起こったのは確かだが、自動発動? 

 そんなことが起こりうるのか。

 

「はんぺんさん。

 さっき貴方がお姫様にしようとしてたことって、原則、この世界じゃ出来ないんです」

「……ふぉえ?」

 

 なんて声してんだお前。

 そんな俺たちに、ルーナはない胸を張りながら堂々と説明する。

 

「いいですか、皆さん。

 この世界はストレスフリーの、健全な世界。

 ストレスの要因となりうるバトルに突入したり、健全とはいえない行動を取ろうとすると──

 その時間は全て、空術の自動発動によってスキップされます」

 

 ようやく事態を呑み込めてきたのか。

 はんぺんはゾンビの唸り声かというほどの低い声で、ルーナに尋ねる。

 

「つまり……

 えっちスケベをしようとすると、その時間がスキップされちゃうってこと? 

 僕が何もしてないのに、えっちしたことになっちゃうってこと?」

「ご理解が早く助かります♪」

「僕、卒業してないんだけど」

「何をですか」

「チッスもしてないよ?」

「だから駄目なんです」

「パイタッチもしてないよ?」

「それも駄目です」

「パ×ツも見てないよ?」

「だから駄目」

「手すら繋いでなかったのに」

「それはスミマセンでした」

 

 この問答に。

 はんぺんの顔色が、一気に白から真っ赤に変わった。

 

「じょじょじょじょ冗談じゃないよっ!! 

 異世界といえばハーレム! パン×ラ! 女×盛り! めくるめく酒池肉林でしょー!? 

 それなくして何が異世界だよっ、馬鹿にしてんの!? 

 そもそも、何もやってないのに何でやり尽くしたことになってんの!!?」

 

 ヤカンの如く沸騰するはんぺんに、やれやれと頭をかくルーナ。

 

「はぁ~しょうがないですねぇ。

 これでも結構、ギリギリの線で頑張ったんですよ? 

 本来、はんぺんさんみたいな欲求を抱くこと自体がありえないんですから」

「ありえない? 人間の三大欲求の一つがありえないって?」

「とにかく! 

 この世界を創造した神様は、そのような不健全なことを決して許さないお方です。

 だから、宿屋でのこのやりとりだけでもやっとなんですよ。ヘタしたらこれすら、神様のお怒りに触れてしまうかも知れません」

「何、その神様って? そんなド理不尽な神様、最強のこの僕がやっつけてやるよぉ!!」

「無理です」

「何で!?」

 

 執拗に食い下がるはんぺんに、ふんと鼻を鳴らしながら腰に両手をあてて、ルーナは言い放った。

 

「いいですか、皆さん。この『ウナロ』において、神様は絶対です。

 ストレスに繋がる行動、出血を伴う残酷なバトル、えっちな行為。

 これらを無理にでもやろうとすれば──

 その瞬間にこの世界は、神様の手で消滅させられてしまいますよ!」

 

「「「な……

 なんだってぇええぇええーーーーーーッッ!!!???」」」

 

 異世界で遭遇した、あまりの現実に。

 俺たちはこんなお決まりの絶叫を上げることしか、出来なかった。

 

 

 

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