ストレスフリーの異世界に転生したはずなのにストレスフルで死にそうです助けて!! 作:kayako
突如俺たち3人の眼前に現れた、真っ赤な髪、真っ赤な花魁衣装、金色の瞳の女性。
自ら女神と名乗った彼女は、傍らで腰を抜かしていたルーナに告げた。
「いけませんネぇ、ルーナ。
大事なお客サマに、また肝心の説明を忘れたのですカ?」
「せ、セツメイ……?
何のことです、エヌマ様ぁ?」
うさ耳が片方ぺたりと折れたまま、ぽかんと女神を見上げるルーナ。
そうか。この、妙に言葉がカタコトな女神?はエヌマというのか。
ルーナの言葉に、女神は大きく肩を落とした。
「モォウ……
やっぱりまた、カンペキのペキペキに抜けちゃったのですねぇ。
天体操作の件と、あとは……
アールグレイティーのことを」
「あっ!!!」
一体何を思い出したのか、顔面蒼白になるルーナ。
俺たちは全く意味が分からず、女神に問う。
「どういうことだ?
天体操作? アールグレイ?」
首を傾げる俺たちにも、女神はにこやかに微笑んだままだ。
「銀さん。そして玉露さんもペンペンさんも、これまで相当ご苦労だったデショウね」
「はんぺんデス女神様!」
女神の大きな胸に見とれながらも突っ込むはんぺん。若干口調移ってるぞ。
その横で、ルーナは何も口を挟めないのか、今までになく小さくなっている。
一体どういうことだ。前回の流れから、俺たちは神々との大戦争をおっぱじめるはずじゃなかったのか?
「ルーナ。顔をアゲなさい」
「は、はいぃ!!」
ぴーんとうさ耳をおったてて飛び上がるルーナ。
女神はため息をついた。
「ゴメンナサイね、皆さん。
この子は一生懸命なんだけど、どうにも忘れっぽい上、おっちょこちょいで。
大事なことを皆さんに教えていなかったようデス。
そりゃ、反乱寸前になっても当たり前デショウ……」
わけが分からないながらも、俺は尋ねる。
「教えてくれ、エヌマ。いや、エヌマ様。
俺たちはこの世界がストレスフリーだと聞いたが、現実はストレスフルMAXな日々だ。
簡単に言えば――
はんぺんはスケベがなければ死に、玉露は血飛沫がなければ死に。
そして俺は、ストレスがない現状でストレスフルになって死にそうなんだ!」
「ソレは前回までのお話で聞かせていただきマシタ」
意外に素直に答えてくれる女神。
「貴方がたの気持ち、よく分かりマス。
天界の神々も、その点は重々承知でコノ世界を創造しました。
確かに貴方がたの今いる世界は、えっちも暴力も、ストレスも何もない……
一部の転生者にとってそんな世界は、現世よりもよほどストレスに繋がる。
それは我々も知ってイマス」
「ならば何故――」
女神は少しの間、虚空を見上げた。
常に太陽が燦燦と輝き、闇という言葉とは無縁の空を。
「多くの転生者が、そのようなノンストレス世界を求めてしまったから。
いいえ、それは転生者のせいではアリマセン。
現世がアマリにもつらく、厳しく、歪んでしまったカラ――
転生者は現世を思い出したくナクテ、少しでもつらさを思い出させるようなことは一切を拒んだ」
なるほど……
確かに現世は非常につらかった。
俺たちだって、虐げられまくった末に命を落としたようなものだ。
だからなのか、ストレスや争いや残虐行為、性的なもの含む暴力行為――
それらを異常に嫌がる奴らは、とても多かった。
俺だってもう二度と、あの会社を思い出させるようなものは見たくもない。
会社の壁や机を連想させるものは見たくないし、電話の音を思い出すと吐き気がするし、何よりあのエナドリのライチ味は二度と味わいたくない。エナドリやライチ自体に罪はないにせよ、嫌なことを連鎖的に次々と思い出してしまう。
恐らく――
そんな俺たち以上に、現世では辛酸を舐めまくっている奴らが溢れている。
現世が歪めば、転生先たる異世界も歪む。そういうことか。
「シカシ……
夜の冷たさを知らなければ、昼の暖かさに感謝することもない。
先ほどの銀さんの言葉は、ワタシの心に響きました。
心からの叫びでしたカラ」
そうだったのか。
それほどまでに、俺の叫びは強烈だったのか。神をも動かすほどに。
「デスカラ――」
女神は懐から、まるで魔法少女のようにステッキを取り出した。
先端が光り輝く幾つもの桜色の宝玉で飾られ、豪華な装飾が施され、明らかに超神級マジックアイテムっぽい。
彼女が優雅にステッキをひと振りすると、俺たちの前にはどういうわけか――
白いオシャレな丸テーブルがひとつ。そしてその上に、金の縁取りの入った高そうなティーカップが3つ、用意された。
カップには既になみなみと紅茶が注がれており、良い香りが漂ってくる。
「サテ、御三方とも、どうぞ。これまでのお詫びデス」
「これは……」
玉露がくんくんと鼻を鳴らしつつ、こわごわながら口をつけた。
しばらく様子を観察してみたが、特に異常はないようだ。
「ふむ、アールグレイですね。
でも、ちょっと果物の匂いが強いような……これは?」
「これはデスネ、ストロベリーテイストをつけたアールグレイです。
これを飲めば今の貴方がたの状況も、多少緩やかになるはずですヨ」
えぇ……
紅茶を飲んだだけで、神々に追い詰められた俺たちの状況が好転するってのか。
半信半疑ながらも、女神の紅茶を恐る恐る嗜む俺たち。
途端にはんぺんが上機嫌になった。
「うん、うまい! さすが女神様の紅茶!!
やっぱり巨乳の女の子が入れてくれるお茶ってサイコーだよね!!」
巨乳なら何でもいいのかお前。
「でも確かに、言われてみればちょっとイチゴ味が強い気がするなぁ……
アールグレイ独特の香りもあいまって、普通の紅茶より濃厚だね」
「確かにな。
女神の紅茶と言われれば納得な気もするが……
しかし何故、アールグレイにストロベリー? これで何が変わるっていうんだ?」
俺たちは三人揃って考え込む。
ルーナは紅茶すら入れてもらえず、そばでしょげかえっているだけだ。
この紅茶に、一体何の秘密が――
「ん? ストロベリー……つまりイチゴ……
……紅茶……アールグレイ……」
その瞬間。
俺たち三人の頭上に、一斉にピコーンと電球が輝いた。
「「「あ……
あああぁああぁああぁああぁああ!!!」」」
そんな俺たちを見つめながら、にっこり微笑む女神様。
どこかの駄天使と違って、本物だ。本物の女神様だった!!
「アールグレイ……アール……
ストロベリー……イチゴ……15……なるほどですね!」
「僕としたことが、どうしてすぐ気づかなかったんだ!?」
「つまりそういうことか……!」
エヌマは。いや、真の女神様はゆっくりとステッキを手に浮遊しながら、俺たちに語りかけてくる。
「そう、貴方がたのご想像ドーリ。
この紅茶を飲んでいれば、ある程度の暴力行為やストレス行動が可能になりマス。
もちろん、ある程度までならえっちな行為も!」
「え!? ええええぇえええっちも!? あんなことやこんなことも!!?」
一気に色めき立つはんぺん。
そりゃそうだ。オ×ニーすら許されなかった世界で一気にあんなこともこんなことも可能にとか言われたら、そうもなるだろう。
そんなはんぺんに、ルーナが冷静に突っ込んだ。
「あぁ、ちょっと。
あくまで、ある程度ですからね?
えっちそのものが駄目なのは変わらないですから」
「え、えぇ~!!?
で、でも、パ〇チラとかチッスとかハグとかハーレムはOKになる!? なるって言って!?」
その点に関しては若干曖昧な笑顔ではぐらかす女神様。
「トモカク~、そのあたりは自己判断でお願いシマス♪
えっちそのものはさすがに無理ですし、そこまで至らずとも、あまりにカゲキな行為は控エテいただけると……」
「え、えぇ~!? R15でも駄目なのぉ!?」
「そのまま言っちゃ駄目ですよはんぺんさん!
しかし……自己判断にお任せというのも難しいですね。
自己判断で臓物をぶちまけ過ぎたら、結局神様たちから罰を喰らうわけですよね?」
あからさまに不満顔なはんぺんに、ふーむと考え込む玉露。
そんな彼らに、女神はステッキで遥か空の向こうを指し示した。
「この紅茶を飲むだけでも、だいぶこの世界は自由になりマス。
しかしそれでもなお、限界はある。
でも、この世界でも、堂々とえっちがしたい! 堂々と血飛沫を飛ばしたい!
ヒトの肉棒とは限りないモノです」
「欲望な、欲望」
慌てて訂正する俺。
いくらイチゴ味のアールグレイを飲んだとはいえ、まだ何が起こるか分からない。
女神の示した空の彼方には、見慣れた真緑の山々があったが――
「ん……?
あ、あれ? 向こうの空が暗くなっている?」
「ホントだ! この世界には夜なんて来ないと思ってたのに!」
「いや、夜ならあった。だがやたらと時間は短かったし、それに……!!」
「見て下さい!
あの空、月が見えますよ! 真っ赤に輝く美しい月が!!」
目を爛々と輝かせる玉露。
そう――暗くなりかけた空には、この世界では俺たちがついぞ目にすることのなかった月が、大きく輝いていた。
「イチゴ味のアールグレイを飲んだだけの状態ではマンゾクできない――
そんな貴方がたの為に、もう一つ方法がアリマス!
それがこの……天体操作!!」
そう言いながら、勢いよくステッキを振る女神。
すると同じ形のステッキが3本、俺たちの眼前に現れた。
「このステッキ、貴方がたに差し上げマス」
「え、えぇ!?
いいのか。俺たちが、こんな超神級っぽいアイテムを……?」
「モチロン♪
元々、貴方がたにお渡しするべきものだったのですカラ」
そう言いながら、少々ジト目でちらりとルーナを見据える女神。
可哀想に、俺たちの背後に隠れながらルーナは一段と小さくなっていた。
「ステッキの柄の部分を見てクダサイ。
3つのボタンがあるデショウ?」
受け取ったステッキの手元を見ると、確かに女神の言う通り、3つのボタンが連なっていた。
満月の如き白いボタン、三日月型のボタン、そして真っ黒の丸ボタン。
「この3つのボタンを好きに操作することで、世界は一気に変わりマス。
例えば、この満月の白いボタン。これを押すだけで――
はんぺんさん。オソラク、この世界は貴方のおもうがままになりマス!!」
「えぇっ!?」
ぴょんと飛び跳ねて顔を紅潮させるはんぺん。
「と、ということは――
ハーレム! 水着! 温泉! 混浴! パン〇ラどころかモロまで!!
めくるめく酒池肉林の世界になるってこと!!?」
「えぇ、モチのロンデス♪
何もしない状態では勿論、イチゴ味のアールグレイを飲んでも出来ないような――
あんなこともこんなことも!!」
「出来るようになっちゃうのー!!?」
はんぺん、もはや興奮が止まらない。
女神は頭上の満月をステッキで指し示し、説明してくれた。
カタコトではあったものの、アホウサギの最初の面倒そうな説明に比べたら随分マシに聞こえる。
「あの満月は、世界が変化したことを示すもの。
ステッキの白いボタンを押すことで、この世界は太陽が沈み満月が現れ、一気に変貌するのデス」
「つまり、性的なあれやこれやが可能な世界にか」
そう呟きながらふと周囲を見回すと――
あぁ。もう既に、可愛い女の子や巨乳美女たちが群れを成し、俺たちを囲んでいた!
しかも全員、半裸同然のコスチュームを身に纏って!!
「ちょ、ちょっと待て! これはどういうことだ!?」
「どういうって、世界が変わったのデス。こうなるのは必然デショウ?」
「必然でも何でもありませんよぉ! こ、こ、心の準備が、うわぁああぁ!!?」
「わーい! 僕はずっと待ってたよ美女軍団たちよー!!」
あまりに突然の女子の群れに、逆にうろたえてしまう俺。
平然と笑う女神。恐怖で縮み上がっている玉露。
ただ一人はんぺんだけは、一瞬たりとも迷わず美女軍団の海へとダイブしていった。
「はぁ、はぁ、はぁ……
強引に空術を使って脱出したが……」
「今度こそ死ぬかと思いました……」
酒池肉林の海で溺れかかった俺と玉露は、それでも何とか生き延びた。
はんぺんだけはとっても満足げな表情だが。
「うへ、うへ、うへへへへへぇ~~
この世界で、いや人生でこんなに満足できたの、初めてだぁ~~♪ もっとしたいけど、さすがの僕でももたないよぉ~♪♪」
「人生も含めて、お前は色々終わってるがな」
「超絶キモイですはんぺんさん」
しかし、ステッキを操作しただけであれほどまでに世界が変わってしまうとは。
女神は相変わらず、俺たちの眼前でニコニコ笑っている。
「このよーに、天体操作は世界そのものを変えマス。
もう一度やってみまショウか。それじゃ……
玉露さん。その黒い丸ボタンを押してみてくだサイ」
「えっ、ボクが?」
「その黒丸ボタンで、今度は玉露さんの思いどおりの世界になるはずデスから」
え。ちょっと待て。
はんぺんの思い通りの世界もヤバかったが、玉露の理想の世界ってそれ以上に――
しかし俺が止める暇もなく。
玉露は躊躇することなく、黒丸ボタンを押してしまった。
「それじゃ、お言葉に甘えて……
ポチッとな」
「わ、わぁあ! 玉露、やめ――」
そして俺とはんぺんはいつのまにやら、どこぞの戦場のど真ん中にいた。
さっきまでこうこうと輝いていた月はどこにもなく、空は暗黒の闇。
俺たちの周囲に広がるのは、見渡す限りの死屍累々。血だまりの海。破壊された砲台や鎧、折れた矢の数々。焼け焦げた木から黒煙が噴き出し、闇の空をさらに汚している。
そこらに転がっている血まみれの何かが人間なのか魔物なのか、それすら分からない惨憺たるありさま。
思わず震え上がってしまった俺とはんぺん。
「ぎ、銀ちゃん、何コレ……?」
「た、たた、多分、玉露の理想の世界……なんだろう、な……」
そんな俺の言葉を実証するかのように。
血だまりに埋め尽くされた地平線の向こうから、地響きと共に聞こえてきたものは――
玉露の奇声だった。
「イィィイイイイイィイイイイィヤッハァアアァアアァアアー!!
首をもげ! 四肢を吹き飛ばせ!! 血と泥となみだに塗れた先にしか、真の美しさは存在しねぇ!!
鎧は壊すもの、服は破るもの、肌は引き裂くものぞ!!
これを待っていた、これこそオレの理想の異世界転生だぁああぁああぁ!!」
大地を埋め尽くすかの如きゾンビの軍団を率い、何故かドラゴンに乗ってそれを先導する玉露。
両手には身長を超えるほどの長さの大剣が。肩には何故かバズーカが乗っかっている。
これまで武器が一切なかった世界でいきなり大剣二刀流&バズーカ。そりゃ楽しいだろうなぁ。
頭からつま先まで血を浴び、何故か口の周りにまで血が付着している――
明らかに人間のそれではない色の血が。一体玉露は何を……
いや、これ以上は考えるな。考えてはいけない、俺。
そんな風に俺たちがもたついている間に――
玉露はその大きな眼をギロリと俺たちに向けた。
もはや先輩への畏敬など欠片もない。ただただ獲物を求める猛獣の眼差し。
「ひ、ひぁああぁあ!? 玉露君がこっちに向かってくるよぉ!!?」
「ま、まずい! 今の玉露は完全に血に飢えている、逃げろ!!」
玉露に背を向け、脱兎のごとく駆け出す俺たち。
彼の雄叫びが追ってくる。
「てめぇら、待ちやがれぇ!!
腸管を引きずり出し心臓を握りつぶし臓物をぶちまけろぉお!!!」
「「ひぎゃああああぁああぁあ~~!!??」」
ドラゴンの炎が、バズーカの砲撃が、大剣の刃が――
次々に俺たちに襲いかかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……
強引に空術を使って(ry」
「今度こそ死ぬかと思ったよ……」
何とか逃げのびて元の場所に戻ってきた俺たち。
玉露が必死でぺこぺこ謝っている。
「す、すみませんセンパイ……ついつい嬉しくて、調子乗りました」
「限度があるだろ!」
「すみませぇんん!!」
それでも玉露は、とても満足そうな表情だ。
はんぺんもそうだった。中身がどうであれ、ともかく奴らが満足できる世界が出来るというのなら、それもいいだろう。
――俺さえ巻き込まなければ、の話だが。
「ステッキの白ボタンと黒ボタンについては分かった。
ところで、この三日月のような真ん中のボタンは何だ?」
俺が尋ねると、女神は何故かちょっと顔を赤らめた。
「あ、いや、多分、その……これは貴方がたのような男性には、あまりご縁のないボタンなので……
いえ勿論、お好きな男子がいらっしゃるのは否定はしませんが、貴方がたは違うと思いマスデス。
あくまでワタシが、いや、女子が楽しむ為のものといいますか」
あ、うん。何となく察した。
女神様のご趣味まで、何となく分かってしまった。
要はこの三日月ボタンを押せば、俺たちの貞操が危うくなりかねんということだな。