早速、広場に戦える人達を集めてもらって、耐久作戦について説明した。
「……って訳だから、次に奴等が襲ってきた時はボクも手伝うよ」
「おお!」「あの聖女様が居るならなんとかなりそうだな!」「正直、ゼーリエ様が来るまで持たないと思ってたからマジでありがてぇ」「やってやろうぜ!」
うんうん、士気が上がって良い感じだね。みんなやけに暑苦しいけど……。
「それで一つ注意点があるんだ。ボクの治療魔法は、致命傷を治す時の魔力消費がかなり多いんだ。だからみんなには、なるべく生存優先で、防御寄りの戦い方をして欲しいんだ。致命傷でさえ無ければ、何度でもボクが治せるから。もちろん、避けようのない致命傷も治すけれどね」
そう言うと、納得がいったのか全員が頷いてくれた。
そして、一週間が経った頃、街の人達が予想していた通り、魔族が襲ってきた。ボク達は、魔族が現れたという報せを受けてから直ぐに、街の外に出て奴等と向かい合うように布陣した。
二つの人影と、その周りに100を優に越える魔物が佇んでいる。おそらく黒髪の男の容姿をした魔族が『絶影』のシャテン、幼い少女っぽい姿の魔族が『軍勢』のべスティだろう。
そして姿が見えないもう一人の魔族は、魔力探知によって二人の魔族の傍にいることが分かる。そいつが『不可視』のジヒターだね。
そうして向かい合ってから直ぐに、魔物の軍勢がボク達に向かって襲いかかってきた。
「おらぁ!」「うおぉぉ!」「はぁっ!」「死ねやぁ!」
魔物と人が入り乱れ乱戦となった戦場で、ボクは最後衛から負傷した人の傷を移す事に集中していた。人より丈夫なボクの身体に、許容量ギリギリまで傷を移してから藁人形を身代わりにする事で、藁人形の消費を最低限にする。
「ふはははは!斬られた事すら知らぬまま死ぬが良い!」
「ぐぁぁっ!」「ぐはっ!どこから……」「ジヒターだ!散れ!がはっ!」
「ひゃはははは!邪魔だ!俺の魔法は影だぜ!止めれるもんなら止めてみやがれ!」
「俺の影が!う、動けん!」「ぎゃぁぁ!」「シャテンか、魔法使い!頼む!」「む、無理だ!魔物が俺達を狙ってる!援護出来ない!」
くそ、やっぱり魔族は別格だ。ジヒターとシャテンによって致命傷を負った人の負傷を、次々と藁人形に移していく。
予想よりもペースが早い!奴等がボクの想定より強いというのもあるけど、何より、
「聖女様!今回の襲撃はおかしいです!いつもなら乱戦の中を襲ってくるなんて事はありませんでした!奴等にとっては、あくまで殺した数を競う遊びですから!三体をそれぞれで対処すればよかった!しかし今回の奴等、確実に我々を全滅させに来ています!」
ボクの護衛を任されていた戦士の人がそう言った。
そう、その通り。奴等は今、連携して人を襲っている。何故いつもは遊んでいたのに、今回は全滅させようとしている?何か理由がある?
もしかして、
「不思議そうねぇ。何故私達がいつもと違うのか。実は今この近くに同族を殺しまくってるやばい魔法使いが来てるのよ。偶然でも遭遇したら堪らないから、遊びは辞めることにしたの。……さっさとこの街の人間を皆殺しにして、私達はこの地を離れるわ」
理由について考えていたボク達に、べスティは嘲笑しながらそう言った。
なるほどね、この街に向かってるという事は知らないのか。それにしても、ご丁寧に逃げる前にわざわざ襲ってくるとか、胸糞悪い性格してるね。
「む?これはどういうことだ?」
「あぁん?コイツら全然死なねぇぞ!」
「……これは……魔法かしら?」
どうやら彼等は、ボクの魔法に気付いたみたいだ。
ここからどうするか……。
……よし、決めた。
ボクは、護衛をしてくれている人に話しかける。
「ボクが時間を稼ぐので、みんなは街に退避して欲しい」
「なっ、聖女様にそんな無茶っ「お願い。別にボクも諦めるつもりはないよ」っですが!」
言葉を遮って説得するボクに対して、彼は尚も食い下がろうとする。それはそうだよね。でも、
「今回のあいつらは本気だ。このままだと大勢の人が殺される。ボクの魔法も無限には使えない。でもボクなら魔力で身体強化が出来るから頑丈だし、最悪ボク自身を治療することも出来る」
流石にボクの、なるべく魔法を知られたくないという理由で街の人を見殺しにする訳にはいかない。そうなるくらいなら知られた方がマシだ。
「大丈夫、実はボク強いから」
そう言って真っ直ぐ目を見つめると、やがて彼は諦めたようにため息を吐いた。
「はあ、分かりました。そこまで言うならお任せします。本当に無茶しないで下さいよ」
「ははは、大丈夫だって!三対一だろうが百対一だろうがボコボコにしてみせるよ!」
そう返すと、若干の苦笑いを浮かべて頷いた。
「全員!撤退だ!!」
彼が戦場全体にそう号令をかけると、街の戦士達が次々と退がっていった。戦っていた魔物と三人の魔族は、何故かその様子を静観していた。
そうして戦場に一人残ったボクは、魔族達の視線を受けながら話しかける。
「わざわざ待っていてくれるなんて思わなかったよ。退がる背を狙うかと思ってたんだけど」
「そうした所でどうせ回復するのでしょう?あれは多分、貴女の魔法ね?」
代表してべスティがそう答えた。
「そうだよ。ボクの魔法は人を癒す魔法。ボクを倒さない限り彼等を傷つけても無意味だよ」
嘘を付いて、万が一にもボクを無視して街を狙われないようにする。
「ふふ、魔力が持てば、でしょう。随分と魔力が少なくなってるわ。その魔法、魔力の消費もさぞ多いのでしょうね。それに、面白い話が聞こえたの。貴女、三対一でも私達に勝てるのですって?そんな他人を傷付けない魔法と残り少ない魔力で、何をどうするつもりなのかしら」
べスティは、完全に舐めたような口調でそんなことを言った。うーん、確かにその分析は正しい。全てが事実なら、だけど。
「それはねぇ……こうするんだよ」
そう言って、500年以上してきた魔力制限を解除する。
「な、なんという魔力だ……!」
「魔力を制限してたってのかぁ!?んな馬鹿なこと!」
途端に溢れ出した魔力の奔流に、べスティの左右に立っていたジヒターとシャテンはかなり驚いている。しかし、べスティは冷静にボクの魔力を見ていた。
「ふーん、なるほどね。確かに驚いたわ。確かに私達一人ずつなら、絶対勝てないでしょうね。でも、私達三人で連携すればどうかしら。魔法を使わせて魔力を削っていけば、まともな攻撃が出来ない貴女に勝ち目はないわ」
「……そうかもね」
……正解。正直さっきは見栄を張った。こいつらは一人一人が大魔族と言えるレベルだ。ボクが全力を出したとしても、三対一だと分が悪い。
だから、ここからは賭けだ。
「それじゃあ、始めようか!」
ボクは、ニヤリと笑って戦いを始めた。