※本日12時にも更新してるので注意。
短いです。
勇者ヒンメルの死から二九年後。
北側諸国アペティート地方。
「あとこれ、シュタルクにあげるよ」
今日はシュタルクの誕生日だった。私は、アイゼンからもらったレシピをもとにハンバーグを振る舞った。ハンバーグを食べている彼に、ある一冊のノートを渡す。
本当は、少しだけ残った服を溶かす薬を渡そうかと思ったんだけど、それより良いものがあることを思い出したのだ。それに何より、フェルンが怒る。
「何だ?その本」
「また変なものじゃないですよね?」
フェルンから疑っているようにジト目を向けられる。信頼がない……。
「それはね、剣聖ラフィニアの手記だよ」
「……剣聖」
「…ラフィニアって言ったら、神話の時代に活躍した英雄じゃねぇか!?本物!?」
受け取ったシュタルクは、恐る恐ると言った様子で、その古めかしいノートを持っている。
「本物だよ」
「何故そのようなものをフリーレン様が?」
「それはね、ヒンメルに貰ったんだよ」
「ヒンメル様に?」
「うん」
──約八十年前──
勇者ヒンメル一行の旅の途中
「ヒンメル、それ、たまに読んでるけど何?」
焚き火の前で、一冊の本を読んでいたヒンメル。気になった私は、直接聞いてみた。
「これかい?これはね、剣聖ラフィニアの手記だよ」
「剣聖か、神話の時代に活躍した英雄、だったか」
「その手記は確か、うちの院長から貰ったものでしたね」
アイゼンとハイターも話に混ざってきた。剣聖については、私も聞いたことがある。確か、神話の時代、賢者エーヴィヒと並んで挙げられる代表的な英雄だ。魔力操作によって身体能力を強化する方法の基礎を作り出したとされる、偉大な戦士。
「そうだな。今考えると、何故孤児院の院長が持っていたのか、謎だな」
「ヒンメルは特に、院長に可愛がられてましたからね」
「それはお前もだろ」
「そういえば院長も、フリーレンと同じくエルフでしたね」
「ああ、確かに」
そう言って、ヒンメルとハイターは私の方を見た。
「そうなんだ、珍しいね。それで、どんなことが書いてあるの?」
「基本的には、魔力による身体強化の基礎とその応用だね。例えば」
そう言ってヒンメルは目を閉じる。しばらくして目を開けると、どうやら眼に魔力を集中しているようだ。そして、おもむろに遠くの木を指差した。
「あそこの木の上から三つ目の枝の、先端から五つ目の葉の上に虫がいる」
「おお〜」パチパチパチパチ
ハイターがわざとらしく拍手をしている。
「そして!」
次に、その仰々しい掛け声と同時に魔力が頭に集まると、髪の毛がうにょうにょとひとりでに動き出し、いつもの髪型から前髪を全て持ち上げて後ろに流した髪型になった。
「こんなことも出来る!!」
「もうそろそろ寝ようか」
思ったよりくだらなかったので、テントに向かって歩いていく。そんな私の背に、さらにヒンメルが続けた。
「でもねフリーレン、僕がこの本を読んでいる一番の理由は、彼女の心構えが好きだからだよ」
「心構え?」
「そう。書かれている彼女の剣術も、身体強化を応用した技能も全て、人を助けることに特化したものだ。きっと、誰かのことを助ける為に全力になれる、真っ直ぐな人だったんだろうね」
「……そうなんだ」
それだけ言って、私はテントに入っていった。
「ヒンメル、その髪型で言っても格好付きませんよ」
「絶望的に似合ってないな」
「はぁ!?この僕がどんな髪型でも似合わないわけないだろ!きっと見慣れてないだけだ!」
────────
「ってな感じのことがあってね。魔王を討伐し終わった後にヒンメルに貰ったんだよ」
「なーにぃそれぇー、聞いた限りじゃ全然役に立たなそうなんだけどぉー」
「英雄と呼ばれる方々は、どこか変わってらっしゃるのでしょうか?」
私の話を聞いてそんなことを言う二人。髪型の話をしたのは間違えたかな?まあでも、
『きっと、誰かのことを助ける為に全力になれる、真っ直ぐな人だったんだろうね』
「いつか、シュタルクの助けになると思うよ」
彼もまた、他人のために戦えるような、良い戦士だからね。会った時の紅鏡竜と戦った時みたいに。
次次回には多分おばあちゃんが出ます。