随分と深く堕ちていた感覚が、唐突に訪れた違和感で急に覚める。
そもそも咎人には起きられないほどの深い眠りに落ちることは、なかなかなことがない限りありえないが、それほどまでにアタシは疲れていたのだろう。
頭の片隅に浮かぶ友人に、護送機無しでのWill'o転移の経験を語ったらどのような顔をするだろう。
そんなことを思いながらうつ伏せになっていた体を起こす。
「オハヨウ、レイ」
期待していた通りの人物がベッドの脇に立っていた。
「よォアリエス、待ってたぜ」
体の向きを変えてベッドに胡座をかく。
アリエスも床に足をつけままベッドに座る。
「良かったヨ。
また会えテ」
「んだそのセリフ。
まるで会えないかも知れねェみたいな言い方」
会うのは大抵アタシの牢屋だったが、最初に会ったのは放置市街区のはずだ。
こいつにーいや、こいつらには距離の概念ってものはないと思ってたが。
「もちろん、何としてでもレイには会うつもりだったヨ。
でもね、ここは前の場所とは根本から違うみたいなんだヨ。
んーと、要するに別世界ってところかナ」
「…からかってんのか?」
「まさカ」
両手を挙げ肩をすくめるアリエスに嘘をついた気配はない。
ならば混乱する前に適応するのを優先すべきか。
ーまぁあれだ。
サイモンがいるあのよくわからん場所も別世界にカウントしてしまえば今の状況もおかしくない。
「よし落ち着いた。
手っ取り早く今の状況と、どうすりゃ元の世界に戻れるか教えてくれ」
単に大陸の違う場所かと思っていたために、大量のWill'oを爆発させればなんとかなるだろうとか考えていたが、別世界と断言されちゃそういうのに詳しいアリエスに聞くのが一番だろ。
「フフ、りょーかい。
君のその冷静なところも好きだヨ。
現状としては、ここでの戦い方と常識を身につけないと周り全てが敵になるから、気をつけテ。
それに元の世界でも頭が飛び抜けていた君の身体能力だけど、ここだと更にそれが浮き出ると思うヨ。
この世界では人は普通に産まれているからネ。
君たちと違って遺伝子操作はされてないカラ」
「そりゃまた幸せな世界だこと」
力こそ弱くとも、人はある程度一つに固まっているらしいと、寝る前のキースの話から察していた。
あくまでの敵は巨人なのだとか。
アタシより力のないこの世界の人が道具を使うだけで僅かながらも反撃できているということは、アタシがそれをこなせば敵ではないと思う。
まァ慢心は身を滅ぼす、慎重に越したことはない。
「そんな捻くれたこと言わない言わナイ。
この世界はこの世界で幸せの基準が違うんだから、もちろん自由もネ」
「………ハッ言っとけ。
で、その後はどーすりゃいい」
「そっから先はレイがさっきまでやろうとしてたのと同じ方法で大丈夫。
レイっていう別世界の人が来たことでここも不安定になっているから、Will'oの爆発があれば来た時と同じように転移できると思うよ。
だからそれにはここで三年間兵士になるための訓練を積まなきゃいけないヨ」
「は……?
三年間つったか?」
三年ってそんなに簡単に生き残れる年月じゃ…
とそこまで考えて、その考えが元の世界基準だったと思い返し否定する。
しかしそうなると三年間待たせた場合のことを考えてしまう。
ナタリアとエルフリーデには殴り飛ばされるなこりゃ、シルヴィアもディオーネをけしかけて来かねん。
それになにより帰ればマティアスの奢りでガソリンで飯を食える。
三年は長いぞこれ。
そんでもって下手すりゃみんな死ぬ。
「そこらへんは大丈夫。
サイモンが世界の調整をしてくれたヨ。
君はここでは老化するのが遅くなるし、その上あっちでの時間経過も短くなるらしいネ。
ただ体感時間は変わらないから魂の寿命は短くなるかもしれないとかなんとかっテ。
それとサイモンからもう一つ。
君のそのWill'oドライブだっケ?
それって結構この世界に流出すると大変なんだよネ。
だから……ステルス効果をつけちゃいましタ!」
「よくわかんねーけど、別に寿命は短くなろうが構わんが…
サイモンってあいつ何もんだよ、Will'oドライブにまで細工しやがって、戻った時にどう言い訳しろと?」
あまりの常識の度外視に頭が痛くなる。
死んじまった奴を生き返らせたこともあるし、ある程度のことなら驚かないと思っていたが、時間まで操るとは。
Will'oドライブに記憶にないレバーがついてるし…
なんなんだよマジで、最後の敵があいつとかってオチだけは絶対に嫌だからな。
そんなことを思って吐いた言葉を聞いて、アリエスは手をアタシの太ももの上に置き顔を近づける。
「それは…秘密」
襲ってくる衝動のままにアリエスのひたいを指で弾く。
弾かれた場所を抑えてうずくまって体をくねらすアリエスを無視して呟く。
「サイモン一人でも天獄に勝てんじゃねェの?」
その呟きにアリエスは動きを止めて顔を上げる。
うずくまっていたために上目遣いのアリエスは、どことなくいつものふざけた雰囲気を消し去ってこたえた。
「一人じゃ出来ないこともあるヨ。
だからサイモンは君の力を欲しているんダ。
もちろん、僕もネ。
安心して、レイは絶対に僕が連れて帰るヨ」
そう一方的に言い放ち、そのままアタシの額に口付けをする。
目を瞑ると、人一人の体温が失われ、体を覆っていた違和感が空気に溶けるようになくなった。
ーーー
出ていた日が沈み掛けるのをずっとベッドに座って眺めていた。
Will'oドライブを外す気にはならないので、うつ伏せにしかねれないのであれば、座って待っていた方がずっと良い。
それに下手に動いてキースに迷惑をかけるわけにはいかない。
ナタリアにも『礼儀や節度はともかく恩義と約束には忠実な奴だな』とまで言われているからな、彼女の評価を裏切る気にもなれない。
そもそもわざわざあんな人殺しなどの命のやり取りが日常茶飯事なあの世界に戻ろうとしているのも、ひとえにあっちで世話になったウーヴェやカイやニーナ達にまだ恩を返せてないし、特にユリアンには世話になった。
他にもマティアスとの約束もあるし、サイモンにも死にかけた時は世話になった。
実際、アリエスが生き返らせてくれた時点で、ディオーネぐらいは倒せたがそんなことしてたら天罰に巻き込まれてたしな。
多少胡散臭い奴なのはしょうがないとしよう。
リスィや他の仲間も待たせてる。
ーまぁなにより、カルロスにぶっさされた借りを返してねェからな。
アーベル倒した後に少し貰えた長めの休み以上に、ろくに体を動かさずに待っていると、部屋の扉が叩かれた。
俗に言う"ノック"とかいうやつだ。
PTじゃそんな礼儀作法を知ってんのはナタリアみたいな連中ぐらいだし、そんぐらいの連中はアタシら咎人の部屋に入るのにノックなどしない。
『起きているか?』
扉越しに聞こえるのは、眼鏡の男の声だった。
名前は確かクロードとかなんとかだった気がする。
「あぁ起きてる」
『起きたか…入るぞ』
扉越しにそう聞こえると、部屋の扉が開かれる。
想像していたようにその声の主はクロードとかいう眼鏡の男だった。
「とうだ調子は?」
「寝るまでの疲労はほとんど消えた。
あと言うなれば体を動かさなすぎて凝りそうなぐらいだ」
肩と首をそれぞれ少し回す。
感じていた凝りは本物のようでゴキゴキと小気味の良い音がなる。
「意識が落ちるほどの疲労から回復してそれか…
目が覚めたのは?」
「陽が真上から少し傾いた時くらいだったはずだ。
その窓から少し陽が射した頃合いだったからな」
今は西陽の射し込む窓を指して言う。
「となると起きてから5時間程度か。
寝ていたのがほぼ丸一日とはいえ、体が凝るほどとは…
いや、あの身体能力ならでこそ…か。
本題に入ろう。
キースの方にエルヴィン・スミスとドット・ピクシスから通達が来た。
内容は簡素に認める、とのことだ。
しかしその条件として後日それぞれが数人引き連れてやってくる時に、先日私たちに示したように示せとのことだ。
できるな?」
「あァ任せろ。
キース…か。
さっき…いやあのキョウカンシツではキースキョウカンって呼んでなかったか?」
「そのことか。
あの場はあくまで部外者を加えた公式の場だ、この訓練場での全責任を担う彼のことを呼び捨てするわけにもいくまい」
「なるほど」
そのまで話すと、クロードは腕に抱えていた物をベッドの脇のテーブルに下ろす。
見たところ服のようだ。
「これが訓練兵用の服装だ。
これを着ていればこの訓練場で怪しまれることはないだろう。
スボンはともかく羽織っている上着はこの服の下に着る分には構わない」
手に取り広げる。
服の繊維はPTでの服より粗く拙い。
軍属を示す紋章があり、昔の西洋の剣を交差させたものだった。
それをパーカーの上から羽織る。
黄土色の服から白黒の猫耳付きのフードが出ているのは違和感を覚えさせるが、猫耳は目立たないしそもそもこの世界に猫耳付きのフードなどなさそうなので杞憂となるだろう。
ズボンもスカートを脱いでから履こうとしたがクロードに止められたので、スカートを履いたまま履き、腰まで上げてからスカートを脱ぐ。
サイズはしっかりとあっているようだ。
「ふむ、サイズはあっているようだな。
今日はこのまま食事を食堂でとってもらう。
午前に入団式がちょうどあったためこのまま君にはその訓練兵の一人としてここに所属してもらうことになった」
「何から何まで世話になる」
三年か…
時間の流れはなんとかなるとしてもその三年でここでの戦い方を身につけるしかねェか。
アタシが決意を固めていると、クロードは少し頭を抱えて聞いてきた。
「……敬語ってわかるか?」
首を振ったアタシを見たクロードから他の訓練兵がいる前では敬語という喋り方をするか極力話すなと警告を受け、明日以降の動きを聞いた。
ーーー
「さて、話しておきたいのはこれくらいだ。
あとは…それだ」
そういってクロードが指差したのはWill'oドライブ。
ここでは立体機動装置というWill'oドライブの下位互換のようなものがあり、それによって三次元移動を可能にして巨人に抵抗しているらしく、Will'oドライブは事情を知らない人に見られると厄介らしい。
試しにアリエスがいなくなってからステルス効果とやらを試してみたが本当に見えなくなりやがった。
ーだがまぁ目の前で消すわけにもいかねーしな…
やるしかないか…
唾を飲み込み覚悟を決める。
決められた手順を踏みWill'oドライブに手をかけた。
Will'oドライブを外す。
それはボランティアが終了し、PTに帰還した時に独房でアクセサリの管理のもと外されるのが普通だ。
それ以外で正規の手順を踏まずに外すと…
話に聞くレベルては怪我こそしないが痛みだけではディオーネの光線を腰の一点に受けるのと同等に痛むらしく、気絶した者や挙句に失禁した者までいるらしい。
「…んっ!」
痛みを軽減できるようにと設計されているだけあって聞いた話よりかはだいぶマシだが、それでも襲ってくる痛みに固く閉ざしていた口から音が漏れた。
ー痛てェ。
こりゃ確かに元々のやつじゃディオーネのアレに例えられるだけはあるわな。
「外したやつをアタシのど…部屋に置くってのじゃダメか?」
ここでは女子寮の一室に入ることになったらしい。
牢屋とも言える場所はあるのだが、一訓練兵が牢屋に住み着きながら訓練をしているのは他の訓練兵に疑惑を抱かれるために断られた。
今座っているベッドと同じような柔らかさのベッドで寝るということも、消灯から起床までが九時間もあることに嫌になるが、その点は夜中に抜け出して体を動かすしかないようだ。
ともかく、アタシの意見で概ね良いらしくクロードは頷いて返した。
書いてて思ったのですが以外と短い。
ここまで期間をあけたくせに短いとは申し訳ない限りです。
書きたいシーンはやたらあるのにそのくせ更新が進まないというこの矛盾。
やりたいことに対してやる努力が足りないんでしょうね。
今回というよりかは全体的に言って、フリウォの世界観で見ると大抵の世界は恵まれていますね。
近似で言えばゴッドイーターあたりですかね私が知っているのだと。
天獄は巨人よりも恐ろしく感じてしまいます。
それでも同じほどに絶望するのは被害を受ける側の技術がそれに見合って高いところでしょう。
進撃の世界に天獄がやってきたら即刻全滅になるでしょうね。
アリエスが愛おしくてたまらない。
アリエス、ナタリア、ニーナが私の中でのトップ陣です。
もちろんそれにアクセサリも入れるのですが。
……ベアトリーチェ?
妹さんの方が好きかなぁ?
毎度置いていく彼女はどうも、ゲームだし仕方ないとは思うのですが何もわざわざ言わなくても。
感想待ってます