アタシはWill'oドライブをとりあえずイムシツー医務室というらしいーにおいてからクロードに言われていた食堂に向かった。
少し遅めだったらしいが食堂の中心に人だかりができていたためか、怪しまれずに忍び込めた。
配膳を受け取り適当な席に腰掛ける。
見たところキース達しかまだ見ていなかったが、基本的には黄色肌で暗めの色の髪色が大半だ。
しかしちらほらと金髪も見えるため、この髪のせいで注目を浴びることはないだろう。
そう安心して配膳に目を向けると自然と体が固まった。
木製の凹凸のあるボールに赤や白のブロック状の何かと緑色の気味の悪い物体が浮かぶ乳白色のスープと、小麦色の短いパンーのはずだ、PTの配給にもこれの小さい版を見た気がする。
ー多くねぇか?
代わりに味が薄けりゃ良いんだが…
スプーンでスープを赤色のブロックとともに掬い口に運ぶ。
「っ!」
ー周りがあの人だかりに気を取られていて良かった。
思わず体を震わせてしまうとは。
ガソリンの飯よりかは多少薄いが、PTで配給される飯よりかはかなり濃いぞこれ…
だが残すわけにもいかないーここではないのだろうがPTでは食事を残すと刑罰を食らう、あまり変な癖を残したくないのだ。
意を決してとりあえずスープを掻き込んだ。
決して不味いわけでもあのキャラメル味のアイスのように濃いわけでもないので、苦戦こそしないが量があったためか腹部に異常を感じる。
ーしょうがない。
パンは宿舎で食べるかなんかするか。
そう思い配膳されていた盆を、それを受け取った場所に返してからアタシは食堂から外に出る。
宿舎に戻るためでもあるが、少し風に当たりたかったアタシはそのまま宿舎に向かうのではなく、灯りのないところへと足を運んだ。
そこには不審な女がいた。
不審というかなんというか、灯りのない暗がりを何故かパンと、おそらく水の入っているであろう水瓶を持って辺りをキョロキョロと見回していた。
持ち物からして食料泥棒も食料の少ないこの世界ならあり得ると思ったが、服装はありきたりなもので暗がりでも輝く金髪をフードを被るなりして隠さない辺り、ここの訓練兵の一人だろう。
ーこんなところにぱんを持って来てんのはアタシも一緒か…
「何してんだ」
後ろから声をかけるとそいつは勢いよく振り返る。
輝く金髪をさらさらと振って振り返る少女はどこか気弱で儚くとても脆い。
マティアスとモザイク街を練り歩いた時に見た事があるこの目は、なにか大切なものに裏切られた後の全てを信じる事ができなくなったものの目だ。
その時の少年は確か親に売られたとかそんな話だったはずだ。
「あ、あなたこそ何をしているんですか?」
「風にあたりに来た」
「パンを持ってですか?」
「俺にはここの飯が口にあわねぇんだ。
いるか?」
そうしたら無理して食べなくて済むーそう思って言った割と本気の一言だったが、冗談と思われたのかその少女にはクスリと笑われた。
随分と気品のある笑い方をした少女はその目から警戒の意識を消して、アタシの目をまっすぐに見た。
「クリスタ・レンズです。
よろしくお願いします」
「レイ・……ダルク。
よろしく」
普通に名乗ろうとしてから、この世界ではミドルネームというファミリーネームとファーストネームの間の名が存在しない事を思い出し、口を噤んだ。
アタシはそのまま警戒心をさらに解くためにと思い、握手ーカイ辺りに習った互いに武器を持っていない事を示す相札の方法だーをしておこうと手を差し出すが、クリスタは何を思ったのか、パンと水瓶を片手に持ち替えてからその手を弾いた。
「…は?」
「…え?」
お互いに認識の齟齬があり固まる。
その沈黙で自らの行動の過ちに気付いたのかクリスタはあたふたと手を振って謝罪する。
「え、あ、そのちがくて。
さっき男の子がお互いの手を叩いてたからそういうのかと思って…
あ、握手だよねうん、ごめんなさい」
ーハイタッチかなんかと勘違いしたのか?
前にマティアスがナタリアにハイタッチを要求して刑期を追加されたことがあったなと、関係のないことを思い出しながら、気にするなと手を振る。
瞬間、クリスタの背後の闇の中で何かが蠢いた。
「チッ」
空気を切り裂いて迫り来る何かの気配を感じクリスタの手を引いて避ける。
獣のように口を大きく開いて襲い掛かってきたそれは、狙いを外し松明の元に晒される。
「な…誰れだありャ」
おぞましい何某かと思っていたそれは、人だった長い髪を後ろにまとめ力尽きているのか、陸にあげられた魚のようにぐったりとしてる。
そいつの首がギギギと音をたててこちらを向く。
心なしか飢えた獣の紅い目をしたそれに対して、警戒を高める。
「お、覚えてないの?
サシャ・ブラウスさんだよ、あの入団式の時に教官にご飯抜きで死ぬ寸前まで走らされた人!」
「あ、あぁ…あいつか」
思い当たったふりをしてごまかす。
何をしでかしたのかきになるところだが、要するにこいつはアタシとクリスタの持っているパンが食べたいわけだ。
「グアァ!」
再度口を開いて飛びついてくるサシャに怒鳴りつける。
「待て!」
眼前まで迫った彼女の体は急に地面に伏した。
人から限りなく獣に近づいていたとしても人であることに変わりはないためか、知性がかすかにあったので、指示を出せばそれに従った。
アタシの背にくっついているクリスタは状況を飲み込めずに混乱していたが、とりあえずその手から水瓶を渡してもらった。
「先に水飲め。
一気に飯詰め込むと息つまるぞ」
そう言って水瓶を差し出すとサシャの目が紅い光を納めた。
「…神様!」
「それはクリスタに言え。
あとほらパンもやる。
奪わねェからゆっくり食ってろ」
ー丁度いい、腹が減ってんならアタシの飯を変わりに消費して貰えば楽になるな…
風に辺りに来て正解だったなと、そう思っていると、クリスタがいきなり前へ出た。
「あ、あの!
私のもあげる!」
そう言って差し出したパンを見たサシャはどこか涙目だったような気がした。
そりャ、ほぼほぼ初対面のやつに飯を恵んで貰えれば泣きたくもなる…のか?
ーてか、そもそもそれが目的かクリスタは…
わざわざこんなところまでサシャを探しに来てたわけかと、一人でに納得していると、声をかけられた。
「何やってるんだお前ら」
長身で茶色の短髪、頰にはそばかすがあるやつが、暗がりから出てきた。
言い方からしてアタシらの行動にいちゃもんを付けたいようだが…
なるとなくそいつの視線がアタシにではなくクリスタに向いているような気がして黙っていると、そいつはそのまま喋り続けた。
「いいこと、をしたいのか?
そいつにパンをやった見返りはあったか?」
「……」
黙って睨みあうーというほど険悪な雰囲気とは言い難いがー二人。
するとドスッと小気味の良い音が聞こえた。
サシャがついに堕ちたようでクリスタの膝の上に頭を落としていた。
なんだかんだしっかりと二つのパンと水瓶の水を食べきり飲みきったのは、サシャの食への欲望の強さが計り知れた。
それを見たそばかすの奴はこちらまで歩み寄り、サシャを起こしあげる。
「あなたも、いいことをするの?」
どこか棘のこもったクリスタの言葉を、なんでもないと言わんばかりにそいつは言葉を返した。
「恩を売るためだ。
こいつの馬鹿さ加減は使える」
ーそうか恩を売る、ね。
アタシも立ち上がり、サシャの反対側の肩を担ぐ。
そばかすの奴はアタシを変な奴を見る目で見てきた。
「俺も少しこいつには恩を売っておきたいなと思ってな。
クリスタも行くぞ」
ーこいつならアタシの分の飯も食ってくれんじゃねェか?
と、そんな打算でサシャの肩を担いでいるわけだが、文句はないだろう。
アタシにとっちゃここの飯は味は濃いわ量は多いわで何かと辛いんだ。
「勝手にしろ」
そばかすの奴はそっぽを向いてぶっきらぼうに返し歩き始めた。
「俺はレイ・ダルクだ。
お前は?」
「……ユミル」
「そうか、一応よろしくな」
案の定、返事はない。
アタシはクリスタと短く取り留めのない話をしながら、女子寮へと向かった。
ーーー
「おい、この先は女子寮だぞ」
「あァ?
そんぐらい知ってる」
「女子寮は男子禁制だ」
「それが?」
「馬鹿かお前は、男のお前はくんなってんだよ。
こっちまで連帯責任食らったらどうすんだ」
「言っとくぞ、俺は女だ」
「え?」
「はぁ?
てめぇそのなりでよく言えんな」
「ユミルはともかくお前もかクリスタ」
「あ、あはは…」
「んな男みてぇな女がいてたまるか。
胸真っ平らじゃねえか」
「てめェも同じだろォが」
「身長がある分、わかんねぇだけだ、チビ壁女」
「おいそばかす、もういっぺん言ってみろ」
「あ、あぁ!
そ、そろそろ消灯時間だよ!」
「「…チッ」」
「な、仲良いね二人…」
「「どこがだどこが」」
「パァン…もぉ食べられませんよぉうへへ」
今回は食堂での晩御飯とクリスタ達のところへの介入です。
そしてエレンとジャンの喧嘩は総スルー笑
フリウォの世界はなかなかにシビアですからね、そんな世界を生きているレイからすると、進撃の世界ですら生ぬるく感じてしまうはずです。
あ、それとこの物語はそこまで長く続く予定ではないです。
初期の頃に申したようにトロスト区奪還あたりまでかなと思っています。
なので王様がどうとかそういうところへの介入をする余地はありません。
そもそも原作が完結していないわけですから正確な解釈がなされない部分を突っつくと大きな矛盾が生まれるのが常です。
別に新たな解釈や世界観でというわけですとそれはそれで新たなオリジナルが生まれるわけですし、そのような作品も素晴らしいとおもっていますが、とりあえずこの物語ではそのまでは触れません。
この物語で起きた原作との差異がその後の書かれぬ展開にどう影響を及ぼすのかも楽しんでいただけたらと思います。
ただでさえ糞ゲーと評判のあるフリウォとのクロスオーバーでどこまでいけるのかは不安ですが、楽しんでいただけたらと思います。
ではではこの辺で。