FREEDOM WARSー英雄の翼   作:Luegner

9 / 10
獅子の心

 

顔を出し始めた朝日から逃げるように彼女は食堂の扉を開いた。

やや早めの時間であったことと、前日の入団式で怖気付いて開拓地へと逃げ帰ったものがいるためか、ひとは少ない。

まぁそれを狙って彼女はわざわざ早めに来たのだが。

 

彼女が聞くところによると食事は本来は当番制だが、最初の半月ほどは免除されるらしい。

まぁ恐らくは逃げだす連中のことを考えた結果だろうと結論づけて、そのまま食事の乗ったトレイを持って、人のいないテーブルの端を陣取る。

彼女がふと食堂を見渡すと、特徴的な色の髪が視界に入らなかったことに気付い、ふとどうしたのかと考えそうになってそれをすぐやめた。

 

ー所詮は他人、関係ないね。

 

昨日の夜に初めて会った同じベッドを共有することになった奴の顔が一瞬よぎったが、すぐに忘れることにして食事に手をつけた。

いな、つけようとしたがそれを背後から背中を叩かれたことで遮られた。

 

「よォ、アニ。

お前の方が早くついたな」

 

かけられた声と行動で誰なのかは、不本意ながら気付かされた。

振り返って奴の顔を見る。

 

恐らく『見る』というよりもこれを見た人のほとんどが『睨む』と表現したであろう鋭い眼光は、しかしその相手には通じなかった。

 

「いや、どーいうわけか道に迷ってな。

どーすっかなって思ってたらアニがこの小屋に入るの見つけてさ」

 

彼女の睨みに臆せず、そもそも敵意などを微塵も感じない様子で彼女の隣の席に座りながら、口を開く。

 

「……どうでもいいよそんなこと」

 

彼女ーアニ・レオンハートはどういうわけかベッドを共有することになった同室のレイ・ダルクに目をつけられた。

もちろん悪い意味ではないが、ある意味他人を拒絶しているアニにとっては、その表現は的を射ていたのであろう。

 

事の発端…とすら呼べない出会いは昨夜の事であった。

 

〜〜〜

 

ー確か同じベッドにはもう一人あてがう事になってるって聞いたはずなんだけど。

 

アニは今朝方にこちらについた直後の説明で、同室のメンツと同じベッドの人間の名前はあったはずだと思い返す。

だがその説明の後で他の連中がその人間を探すのに夢中になっている時も出てはこなかった。

同じベッドの人間どころか同室の人間すらも誰も出てこない。

アニにとっては自身と同じで他人に興味がない奴が集まったのだろうかと少し気を楽にしていた。

が、さすがに消灯前のこの時間に同じベッドの人間どころか、六人部屋のはずがそのうちの二人しかいないのはどうだろうか。

確か入団式の前に荷物を置きに来た時も同じベッドの奴だけ見なかったな。

初日から連帯責任を取らされるのは御免なのだが…

 

そしてそうもう一つ問題があるとすれば、唯一部屋にいた同室の人間がアニの座るベッドの対面のベッドに座っている。

黒髪でやや黄色(おうしょく)の入った肌の女なのだが、どうもやや不満げというか落ち着かないところがあるのか、眉を潜めている。

単に集団生活への不安でとかというわけではなさそうなのは、なんとなく雰囲気でわかるが…

 

ー探すにも顔を名前を覚えていないし、責任取らされそうになったらどうするか…

 

いっそ黒髪の女が探しに行かないかなと思っていると、しばらく開かなかった扉の先から何やら声が聞こえてくる。

 

『クリスタ、扉を開けてくれ』

 

『う、うん。

分かった…』

 

『あークリスタ?

返事の割に固まってねェか?』

 

『ちょ、ちょっとまってね。

少し緊張しちゃって…』

 

『…パァン』

 

『くそ芋女め、呑気に寝やがって。

明日からこき使ってやるからなてめー』

 

『うっわ涎垂れてきてねェかこれ?』

 

『うわ、マジかよ…

クリスタ早く開けてくれ』

 

『う、うん開けるね』

 

と、短い茶番が終わると扉は軋む音を立てながら開かれた。

開かれた先にいたのは金髪の少女と茶色い髪の女に肩を貸す背丈の対比した2人。

 

「えっと…サシャさんのベッドは…?」

 

金髪の少女がアニの座るベッドと黒髪の女が座るベッドを交互に見る。

アニたちの部屋は扉を開けると左右に一つずつ二人がけの二段ベッドがあり、アニのいるほうの部屋に入って右側のそれは1段めを抜いて部屋の女子専用の小さいタンスとそれを挟むようにして3個ずつ机が置いてある。

部屋の突き当たりは窓があり天井には洗濯物を部屋でも干せるようにするためか引っ掛けがある。

 

「上の奴だったはずだぞ、そうだろあんた」

 

茶髪の女を担いでいた背の高いほうの女が黒髪の女に尋ねる。

 

「そうだった…はず」

 

「だとよ、レイあそこまで投げれっか?」

 

女は小さいほうのそいつに聞くと、そいつは頷いて返す。

そのやり取りを聞いていた金髪の女が途端にあわてだす。

 

「えっ!

な、投げちゃったらかわいそうだよ。

上から引っ張ってもらおうよ」

 

そんな制止も虚しく、振り返って止める彼女の目の前を茶髪の女が飛ぶ。

思いの外綺麗な弾道を描いた彼女は着地とともに変な声が漏れていたが、すぐにそれも寝息に変わった。

 

「別にここまで運んでやったんだから文句はねーだろ、とっとと寝ようぜあたしらも」

 

呆然とするクリスタをよそに背の高い女は部屋に入って左のベッドの1段目に入り込む。

金髪の女も銀髪の奴と一言二言交わすと渋々同じベッドには入っていった。

 

ーと、なると。

あいつが同じベッドの奴か。

 

流し目に銀髪のそいつを見る。

背丈は低く銀髪は短い。

遠目に見れば男とも見違えそうな奴はアニの座るベッドに登ってきた。

 

「ここのベッドでいいんだよな確か……」

 

やや不安げなささやきは誰の耳にも届かない。

その刹那の不安の表情を吹き飛ばすような、野生的な笑みを浮かべるそいつは片手を出してきた。

 

「レイ・ダルクだ。

よろしく」

 

「アニ・レオンハート。

…何を考えてるかわからないけど、とっとと着替えたらどうだい?

その服あんたのなんだろ」

 

アニは差し出された手をつかまずそのままベッドの端に置かれた服を指す。

入団式の前にはなかったはずのそれはそいつのものなのだろう。

 

レイは差し出した手を下ろしながらその服を掴み広げる。

一般的な寝間着で無地の柔らかい生地のそれを何やら物珍しそうにしばし見つめた彼女は、訓練服を脱ぎ始めた。

 

それを見届けてからやっと連帯責任からは逃れられると安堵したアニは壁側に寝転がる。

何の気なしに隣できがえるレイを見やる。

白い肌にショート銀髪とそれと同じ銀色の目。

先ほど女1人を投げ飛ばしたものだから筋肉質なのかと思っていたが、線は細く筋肉質というよりから無駄のない体つきといったほうが適切なのだろう。

戦うための体つきなのかと、そう錯覚してしまう。

 

無駄という無駄を切り捨て、ただ特攻にあうということでショートに切りそろえられた髪と、低い身長を細胞レベルで弄り作られた体を見たアニの反応は、ある意味的を得ていた。

 

「そーいや黒髪のあんたは名前なんていうんだ?」

 

着替えながらふと思い立ったように対面のベッドで横たわる彼女に声をかける。

不機嫌そうではあったが、それとこれとは別らしく普通のトーンで返す。

 

「……ミカサ・アッカーマン」

 

「ミカサ…ミカサ…おし、よろしく」

 

何度か口の中でそのなを転がしてそう返す。

会話が終わったと判断したミカサはそのまま黙り込んだ。

レイもレイで今度は部屋の一人一人の名前を口の中で転がしながら、脱いだ服を置いてあったハンガーにかけ、それを部屋の壁にあったフックに引っ掛ける。

隣にかかっているアニのそれを見てその行為が正解だと判断したのだろう。

 

それと同時に部屋の扉がノックされる。

 

『消灯の時間だ、全員いるか』

 

教官の声だ、入団式の一件もあったためかやや強張った声でクリスタが返答を返すと少し扉が開かれ、教官の強面が部屋を見渡すと扉を閉ざした。

足音が遠ざかるのが聞こえた。

仮にも女子寮ということもあるのか、あまり深い詮索をしない。

それとも初日からそのような行為を行うものはいないと踏んだのか、なんにせよ連帯責任の心配はするだけ損したとアニはすこし拍子抜けを食らわされた感覚に陥ったが、ないならないでいいものだと決めつけ、考えることをやめた。

 

下からレイに声がかかる。

 

「もう明かり消しても大丈夫、レイ?」

 

クリスタの声にレイもあぁと返し、明かりが消える。

月と星の光に照らされた部屋はほんのりと明るくややたつと目が慣れる。

すこし目が慣れたアニがすこし身を開くと、月光を反射させる銀髪はベッドの淵の上にあった。

ベッドの淵に腰掛けているのだろう。

ホームシックだかなんだかは知らないが、訓練の初日から寝不足でもなんとかなると思っているのだろうかと、すこし怪訝しそうになるもそれもやめる。

 

ー私には関係ないね。

 

〜〜〜

 

さてと、どうしたもんか。

見知った顔のアニを見つけて隣に座ったわいいが、正直なところサシャを待ちたいところである。

かといってアニが世間話に興じるとは思えなんだが…

 

物は挑戦とアタシは今日の訓練内容を記憶の片隅から見つけ出し話題にあげる。

 

「適正訓練ってどんなことやんだっけ?」

 

お前なら大丈夫だろうと、昨日クロードから教えられなかったため聞いてはみたが、すごい物を見るような目でアニに見られる。

 

「昨日の今日で忘れるとは随分めでたい頭してるねあんた」

 

「あァ…はは。

悪かったな」

 

言い返せないと口をつぐむと、アニがポツリポツリと話し出す。

 

「ワイヤーからぶら下がれるかの適正だろ。

重心を保てればなんら問題はないはずだよ」

 

思わず呆然。

てっきりものすごく無愛想なだけのやつかと思っていたが…

もしかして案外世話焼きだったりするのか?

 

「…重心を保つ、ね。

アニはできそうか?」

 

「あんたには関係ないだろ」

 

いつの間にかに食事を済ませていたアニは一瞬手を合わせると、すぐにアタシが見ていることを思い出したのかバッと手を解き立つと、トレイを持っていった。

 

「素っ気ねェ…」

 

悪気があるというよりかは関わりを持ちたくないのだろうか。

まぁアタシのいたところみたくポンポン人が死ぬ世界で人同士の関係なんて作らないほうが辛くないとはきくが。

 

「おはようレイ」

 

後ろから声をかけられる。

振り返るとそこにはクリスタとユミルとやや疲弊したサシャが立っていた。

クリスタはアニが座っていた席に座りユミルはその前に、サシャは私の前に座る。

 

「よォ、水汲み当番だっけ?

お疲れさん」

 

サシャが朝食を食べることに期待しているなら、あらかじめ一緒に来ればよかったのかもしれないが、ユミルが水汲みを代わりにさせるというので先に来ていたわけだ。

 

「…ちっ」

 

「露骨な舌打ちどーもユミル」

 

「け、喧嘩はダメだよ二人とも」

 

喧嘩はとクリスタは言うがさしてユミルから敵対心やら害意を感じないのは、純粋に寝起きで調子が悪いだけに見える。

それとクリスタの隣を取られたこともあるんだろうけど。

 

「サシャ」

 

「は、はい!」

 

びくんと体を揺らして直立する。

二人からアタシも運んだことは聞かされたらしく、何をされるのかと怖気付いた目で見てきた。

 

「これ食ってくれ。

俺あんま食太くないんだわ」

 

そう言ってスープと申し訳程度のサラダを差し出し、唯一手元に残したパンを齧る。

一同が呆然とする中パンを咀嚼していると最初にサシャが動き始めた。

 

「じょ、冗談、ですよね?」

 

「嫌か?」

 

逆にそう聞き返すとサシャをブンブンと首を振りスープとサラダを受け取ると凄い勢いで食べ始めた。

 

「お前、正気か?」

 

「食べないと体もたないよ」

 

片や奇異の目、片や心配の目をされつつも、わざわざ冗談だと抜かしてサシャにあげた飯を食う気は出ない。

そもそもパンだってこの半分くらいで十分に持つ。

 

「ほっとけよ」

 

手を振ってパンを齧る。

それを見た二人は納得したのかそれぞれを飯を食べ始めた。

 

「やめろよミカサ!」

 

不意に聞こえた怒鳴り声に思わず目を向ける。

 

視線の先、声の方向にはこげ茶の髪と深緑の目の男。

そばには金髪のショートヘアーの少年と黒髪のショートヘアーの…

 

「あれミカサか。

髪切ったのかあいつ」

 

「そうみたい…だね。

綺麗な黒髪だったのに」

 

クリスタが同じ方向を見て頷く。

 

どうも見る限りだとミカサがその男に世話を焼いたようだが…

 

「あいつら馴染みみてぇだぞ。

あの(・・)シガンシナからの連中だ」

 

ユミルがそう吐き捨てて興味が失せたように飯に視線を戻した。

 

あの(・・)シガンシナねぇ…

どっかで隙を見てキース…キョウカンに聞きに行くか。

 

下手に非常識なことを言えない。

早い所状況を理解してる奴教えてもらうしかない。

 

「…大変だよね、シガンシナじゃ地獄だったらしいし。

三人とも喧嘩しないでほしいな」

 

隣のクリスタが、どこか羨むような視線をあの三人組にむける。

仲良し三人組、クリスタには羨ましい物なのだろうか。

 

ー地獄か。

巨人が壁を壊したとは聞いたがその時の被害ってところか。

こんな世界でも地獄ってのはあるもんか、あいつもガキらしく素直にしてりゃいいのに。

なんともまァ、背伸びした感じが否めねェな。

 

遠目に見るミカサの表情は昨日のそれよりかなり柔らかいーいい方を選ばなけりゃ人らしい、とでもいうのか。

 

「どこまで手を出していいんだか…」

 

「なんか言ったレイ?」

 

呟きが聞こえてしまったのかクリスタがこちらを覗き込むが首を振る。

 

アリエスのいうような別世界から来たアタシがこの世界の住人にどこまで手を出していいのやら、キースへの恩返しはここで有能なーいざ巨人と対峙するときに死なないで戦える兵士を作り上げるのに協力すること。

人間関係を強くさせるべきか否か…

 

強けりゃ連繋が取れるし一緒にいりゃ心強いだろうけども、死んじまえば一気に枷になるぞ。

 

すでに食べ終わったアタシは何の気なしにクリスタ達が食べ終わるのを待ちながらそんなことを考えていた。

 

ーーー

 

適正訓練の結果はまぁお察しだ。

荊を使いこなす咎人にとっちゃできない方がおかしいレベルだ。

クリスタはギリギリ、ユミルとサシャは割と身体能力は高いらしく普通にクリア、アニも悠々クリアして、ミカサに至ってはフラつきすら感じられなかった。

 

問題は、だ。

ミカサと共にいたこげ茶の髪の男ーエレン・イェーガーというらしいがーがワイヤーで吊るされるのから一拍置いて派手に宙返りになったのだ。

隣のクリスタやミカサに金髪の少年ーアルミン……なんとかって名前らしいーを含む少数以外は思わず失笑を漏らしている。

昨日の晩飯時にーアタシが飯を食べてた時に起きてたアレだー巨人を駆逐するとか言っていたようで、それが一転このザマなのだからまァ、なんとも言えない状況だ。

 

「…おいユミル、爆笑すんのは堪えろよキョウカン…教官が睨んでるぞ」

 

失笑を漏らす大多数にもれなく含まれるユミルは下を向いて拳を握りしめている。

おまけにプルプル震えてやがる。

アタシの忠告を受けてもユミルの震えは収まる気配はなかったが、幸運にも咎められることはなかった。

 





お久しぶりです。
失踪疑惑に定評がありそうなlie龍です。
生きてますよーしぶといですよー。
コードギアスの方を出すまで少し遠慮しようかなとか考えたのですが、よくよく考えると同じ作者なだけで読者様には関係無いなと思い立ち投稿しました。
コードギアスも読んでるよって方。
もう少しお待ちくださいませ。
元ラウンズが案外しぶとくて手こずっております、あの方の覚醒や騎士の誇り云々を書くつもりなので長くかかる分無駄にボリュームはあると思います笑

感想やリクエストがあるとかなりやる気が上がります!
一言でもいいので声をかけてくださいますと嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。