プリンセプスの夜明け   作:虎ノ門ブチアナ

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消えない絆

「いらっしゃい、四翠さん」

 

 物腰柔らかな笑顔の女性、菜々《なな》が四翠を出迎える。

 中華風の装飾が目を引く屋敷にて、四翠はある人と会う約束をしたのだ。

 

「こんにちは、ねねねぇならこっちにいるから、お茶入れておきますね」

 

 会話しながらもパソコンを操作するのは菜々の妹、美々(みみ)。彼女は四翠の来客を歓迎し、台所へと向かう。

 

 

 四翠が訪れたのは、グランベルムにおいて風水師の一族として激闘を繰り広げた(りん)寧々(ねね)の家であった。

 グランベルムに合わせて来日した林姉妹であったが、マギアコナトスによる歴史改ざんの後も日本に住んでいることになっていた。

 

(九音の言う通りなら…これらもやはり新月さんが望んだことなのかしら)

 

 四翠が考え込んでいる内に、寧々がやって来る。

 

「どうしたの、急に話がしたいなんて?」

「寧々さん……最近記憶があやふやになること、ありませんか?」

 

 唐突な四翠の問いに寧々は眉をひそめながら(あご)に手を添えた。

 

「? 急な話ね」

「そうだとは思うんですけど…少し思い出してほしいんです。半年前に行ったピクニック、誰と行ったのか思い出せますか?」

「そんなの、希望に、菜々美々、四翠…くらいかしらね」

 

 どうやら寧々は四翠以上に記憶の改ざんが進んでいるらしい。その場に参加していたはずの新月と満月の名前が出て来ないのだ。

 

「それが一体どうしたの?」

「…落ち着いて聞いて欲しいのだけれど───」

 

 四翠から今までの情報を聞いた寧々は、口を大きく開けて(ほう)ける。

 何がなんだかさっぱり分からない話にただ良くできた作り話だと思った。

 

「いや、本当に理解が追いつかないわ…」

「やはり話だけでは思い出せませんでしたか……」

 

 肩を落とす四翠に、寧々は1つ提案をおこなう。

 先ほどの話が真実であるなら、その確証となる証拠があるはずだと考えたのだ。

 

「さっきの話によると、こちらとは違う世界? から電話が来たんでしょ? そしたら、こっちからかけることはできないかしら」

「多分できそうです。さっきの連絡先を登録しておきましたから」

 

 寧々の記憶を取り戻すきっかけになりそうな手がかりを見つけた四翠は、早速九音の連絡先にかけてみる。

 

 本当に繋がるか保証は無く、四翠は心臓の鼓動を早める。

 

 3回ほどのコール音の後、九音の声が聞こえて来た。

 

「お姉ちゃん?」

「九音! 良かった、こっちからかけられた!」

 

 うん、と嬉しそうな九音の声が聞こえる。

 安心して胸を撫で下ろす四翠だったが、寧々の記憶を取り戻すために連絡を新月に代わってもらう。

 

「聞こえますか、寧々」

「あなたがこの状況を伝えた功労者、新月ね」

 

 寧々を巻き込んでしまったことに負い目を感じている新月は少し言葉を詰まらせながらはい、と応じた。

 

「事情は四翠から聞いたはずですが、まだ飲み込めていないと思います」

「ええ、まだドッキリを疑っているくらいよ」

「ですが、現在起きている不可思議な事象は真実です。これらの混乱を食い止めなければいずれ多くの人々を危険に追いやります」

「だから私に声をかけた、と言ったところね」

 

 脳が理解を拒みつつも、寧々はしっかりと状況を飲み込む。

 

「それで私が魔術師の末裔だとして、何ができるの?」

「私の力と、みなさんの力を使ってこちらの世界に来てもらいます。そうすれば新たな戦力として敵に立ち向かえるはずです」

 

 力? 寧々がそう問うと、新月は自らの行使する魔力と、その制限、それをクリアするための他者の協力について説明する。

 魔力の行使に抵抗感のあった新月の魔術は、使うために他人の働きかけが必要となる制限を設けた。それゆえに新月たちのいる世界に四翠や寧々が駆けつけるためには彼女らにある行動をしてもらうこととなる。

 

「その行動ですが……かつてのグランベルムと同様にマギアコナトスを呼び寄せる詠唱をおこなってほしいのです。あのつらい戦いから離れた2人には心苦しいお願いになるのですが……」

 

 苦しそうに言葉を詰まらせる新月に、寧々は頭の中に流れ込んできた言葉を口にした。

 

「大丈夫よ新月、私たちは望んで戦った。そこに後悔は無いし、あなたたちの戦いを手伝えるなら願っても無いわ。それに、巻き込まれたなんて1ミリも思ってないから」

 

 そこまで言って、寧々は自身の発言に動揺する。

 

「な…今何を言ったの…?」

「寧々…恐らくあなたの消されてしまった記憶よりも深いところにある言葉が紡がれたのでしょう。本当にありがとうございます」

「…じゃあ、やっぱりこれまでの話は全部本当ってワケね」

 

 記憶がおぼろげながらも、今までの話に実感を持ち始めた寧々はため息をつきながらも新月らへの協力を決意する。

 

「美々菜々、私…少し野暮用(やぼよう)ができたわ」

「うん、ねねねぇのその感じ…ちょっと懐かしい」

「きっと私達にも関係あること、なのよね?」

「ええ、魔術師としての誇りを思い出したから」

 

 姉妹らは、今まで忘却していた母との思い出を想起し、微笑んだ。

 

──────────────────

 

 四翠と寧々の協力を(あお)げた新月は、次の協力者のことを考えていた。

 

「あちらの世界にいる残りのグランベルム参加者といえば…」

「ロサですわね」

 

 アンナの言葉に新月がうなづく。

 

 ロサと呼ばれたその少女は、かつてグランベルムに参加していたアンナの弟子である。アンナに対する執着心を(たぎ)らせながらもホワイトリリーの出現した最初の夜に敗退し、魔力を失ってからはフーゴ家を破門、アンナ死亡により歴史が改ざんされ今ではアンナの妹であるクレアをはじめとしたフーゴ家の面々と共に穏やかに過ごしている。

 

「ロサは今、フーゴ家でクレアと共に平和に暮らしています」

「ヒステリックなあの()が? (わたくし)はこんな所でかつての仇敵どもと協力を余儀無くされていると言うのに…」

 

 ため息をつくアンナに水晶も言葉を重ねる。

 

「あんたのお人形に一撃で仕留められたロサちゃまが戦力になると思うにゅ? 誘うのメンドいし、ほっといたら?」

「いいえ、ロサは呼びますわ」

 

 アンナからの進言だった。

 思わずは? と口漏らしてしまう水晶に加え、新月も少し意外そうな表情を見せていた。

 

「これが魔力という私達の根源に決着をつける戦いなのだとしたら、あの娘にも関わる義務があると思ったまでですわ」

「確かにそうですが…あぁなるほど、ロサに会いたいんですね」

「違いますわよ」

 

 不機嫌そうに腕を組むアンナを見て、新月はロサをこちらに呼べるよう思案する。

 

──────────────────

 

 一方、マギアコナトス無き湖上を飛び続けるブラックリリーは、何かに気付いて停止した。

 

「…やっと見つけたよ」

 

 エクリプスが呟くと、魔力によって湖に渦を発生させ、水中から機械の残骸を引き上げていく。

 

「これこそが…“原初のアルマノクス”の破片……わたしに馴染む最高の器」

 

 すると機械の残骸がブラックリリーに張り付いていき、(いびつ)な姿の巨体を形成する。

 自らの身に(よう)する強すぎる魔力を最大効率で発揮可能な、いわば出力器を手に入れたエクリプスは恍惚(こうこつ)の笑みを浮かべる。

 

「さぁ、魔法使いの末裔たちよ……もう一度、戦いを始めようか」

 

 

──────────────────

 

 フーゴ邸───その絢爛(けんらん)な住まいの門前に四翠と寧々は立っていた。

 新月から作戦に使うと言われたスピーカーを担ぐ四翠を見て寧々は不安げな表情を浮かべる。

 

「それで新月、私たちフーゴ家と全く面識が無いんだけど…どうロサと話をするの?」

 

 寧々が話す電話の先にて、新月は先ほどの作戦の実行を決断する。

 

「あなた達が行っても不審がられることは分かっています。なので、フーゴ家の面々にとって馴染みのある人物が話すしかありません」

「話すってまさか、そのための───!?」

「はい、携帯とスピーカーを繋いでください。アンナの声を届けます」

 

 新月の告げる突拍子の無い作戦に肩を落とす寧々だったが、やむを得ないと準備を進める。

 

 門外で謎の挙動を見せる2人にフーゴ家の使用人、サーシャが気付く。

 

「それじゃあ始めてちょうだい」

 

 寧々の合図を受け、新月と通話を交代したアンナが大きく息を吸う。

 と同時にサーシャが家から出て来る。

 

「どちら様でしょうか? クレア様のご学友でいらっしゃいますか―――」

「クレアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

 アンナの口から発せられるけたたましい轟音が周囲を振動させる。

 

「お母様アアアアアアアアアア!!!!!!!」

「サーシャアアアアアアアアア!!!!!!」

「あとロサもオオオ!!!!」

 

 その声とも思えないほどの声に、フーゴ家はもちろん、その場にいた寧々と四翠も面食らってしまった。

 

「い…一体なんなんです!?」

 

 耳を抑えながらアンナの母が2階の窓から顔を出す。

 

「こちらの方々が急に爆音を!」

 

 ふらつきながら状況を伝えるサーシャに、アンナの母は困惑を隠せないでいた。

 

「ロサ!! 聞こえているのでしょう!? さっさと貴方の願いを思い出しやがれエエエエエエエエ!!!」

「さっきからどうしたの!?」

 

 ロサが自分の手でクレアの耳を塞ぎつつ門の前へと駆け寄る。

 

「サーシャ、門を開けて。この人たちは何か話したいことがあるみたいなんだ」

 

 かつてのロサからは想像もつかない穏やかな口調でサーシャを諭すと、彼女の操作で門が開かれる。

 

「話は聞く。だからその爆音はやめてほしい」

「ええ、通話先の“アンナ”にも聞こえているから、もう大丈夫なはずよ」

 

 寧々がその名前を出すと、ロサとクレアの表情が強張った。

 

「あれ? アンナってどっかで聞いたことが……」

「お姉さまよ、私思い出したわ! アンナって、ホラ! お母様も、サーシャも! なんで忘れてたのかしら!」

 

 どうやらクレアは実姉のことを思い出したようだが、他の3人はどうやらまだ記憶が混乱していた。

 

「クレア、私が…わかりますか?」

「お姉さまでしょう? 分かるに決まってるじゃない」

 

 涙を浮かべ呼吸を乱すクレアに、アンナは優しく言葉をかける。

 

「私は、クレアの、お母様の、サーシャの幸せを奪った。その報いを受けなくてはならないの」

「そんな…私はお姉さまと、新月がいれば、それでいいの!」

「そうはならなかったんですの。私はエルネスタを憎み、エルネスタは私に勝たなければならなかった。相容れることなど初めから無かったのよ」

 

 姉からの言葉に、かつてのように不安を(つの)らせるクレアだったが、アンナは構わずに続ける。

 

「あの娘を傷付けたい、苦しめたい、そんな思いだけが私の存在理由で、それ以外何もいらないと思っていましたわ。こんな壊れた娘はフーゴ家には相応しくないと、貴方もそう思うでしょう?」

「そんなこと無い! お姉さまはどんなことがあってもクレアのお姉さま! だから私のことを呼んでくれたのでしょう!?」

 

 アンナが押し黙る。それに乗じて今度はクレアが言葉を重ねていく。

 

「フーゴ家にふさわしくないなんて言わないで! 私は、アンナお姉さまが大好きなの! ずっと一緒にいたいって思ってる! 新月とも一緒にいたいけど…お姉さまも一緒にいてくれなきゃダメ、一緒にまた、昔みたいにって…だから……」

 

 クレアの目から涙があふれる。かつて共に遊んだアンナ、新月。その2人がいつしか別の方向を向き、距離が遠くなってしまった。その時で止まってしまった3人の時間を、幸せを取り戻すたいという強い想いが先走り、クレアの心を締め付ける。

 

「ねぇ…幸せって……そんなに遠いものなの?」

 

 彼女が秘めていた心の内からの思いの丈に、その場の人々も言葉を失う。

 アンナの記憶が戻って来ないロサらであっても、アンナという人物はクレアの大切な人であることは重々理解できた。

 

「誰かと一緒にいたいって願いは、誰かを傷付けなければ手に入らないほど難しいことなの? ねぇ?」

「…クレア」

「お姉さまも新月も…もう戻って来ないって…わかるよ、私だってフーゴ家の人間だから。それでも、今お姉さまとお話ができて良かった。ちょうど伝えたかった言葉があったの」

 

 クレアは涙を拭いて、姉へと伝えられなかった最期の想いを口にする。

 

「ごめんなさい…私が、新月を選んでしまったから…お姉さまを苦しめてしまった。仲良しだった新月と一緒にいたいって自分の気持ちだけで私はひた走って、お姉さまの気持ちを無視していたの…それに気付いたのも、お姉さまがいなくなってから…遅すぎるけれど、謝りたかったの。自分が幸せになるために誰かを傷付けてしまったことを!」

 

 

 妹からの謝罪を受けて、電話の先にいるアンナは、ただ静かに肩を震わせていた。

 

「やはり似た者姉妹ですわね、私達。相手のことを知らず、自分の気持ちだけで突き進んでしまった…それが如何(いか)に愚かな行いであったか、間に合わないところで理解するなんてね」

 

 アンナが拳を握ると、強い決意を込めてクレアへと言葉を返す。

 

「でも、まだ本当の手遅れじゃ無くってよ」

「それは本当なの?」

「ええ。でも、何とかするにはロサの力も借りたいのですわ。グランベルムに参加した魔術師の末裔が一堂に会することで…チャンスが生まれると…新月もそう言っていますわ」

「───新月が!? 新月もそこにいるの!?」

「ええ、プリンセプスとなって人々の記憶から消えてしまってもみんなの幸せを守った、私達とそっくりなお自己中が」

 

 新月の存在を知ったクレアが安堵の笑みを浮かべる。

 

「新月にもよろしくね、お姉さま。それと…仲良くしてね? 協力するのでしょう?」

「ふふ、クレアには敵いませんわね。分かりましたわ、エルネスタと仲良く…ふ、貴方のお願いだもの、善処しますわ」

 

 アンナが約束すると、クレアが強く頷く。

 スピーカーが繋がれたままだったために今までの言葉を聞いていたサーシャ、アンナの母は、動揺を示しながらも電話の主が自分たちにとっても大切な存在であることを思い出していた。

 

「貴方は…一体誰なの?」

 

 母からの問いに、アンナは少し寂しさを覚えながらも、そう言われるだけのことをしてきたことを思い、気持ちを抑える。

 

「アンナ・フーゴ。世界に溢れていた魔力を抑止せしめる魔術師の末裔、フーゴ家の長女ですわ」

「魔…力……?」

「はい。魔力に魅入られ、フーゴ家にて預かっていたエルネスタと言う少女を妬み、お母様───貴方に暴力を振るってまで力を欲してしまった、出来損ないの、ジャンク…ですわ」

 

 壊れた子(ジャンク)と自らを卑下(ひげ)するアンナに、彼女の母に加えロサも汗を垂らした。

 

「貴方は、私の…娘。それなら、ロサは一体───」

「私の弟子としてフーゴ家に住んでいたもう1人の魔術師の末裔ですわ。消えてしまった私の記憶を埋めるためにクレアの姉としての記憶が与えられ、自らの願いも、執着も、情熱も忘却してしまった、牙の抜かれた狂犬…」

 

 鼓動を抑えるように胸に両手を当てるアンナの母が、目を泳がせながらロサの方へと視線を移す。

 

「ロサ…そう、ロサね。思い出したわ、アンナ」

 

 アンナの母が目を閉じてふらつく。サーシャが肩に手を添えて介抱されると、再び携帯へと目を移す。

 

「グランベルムは、終わったのですね」

「はい。私が敗北し、エルネスタが勝利しました」

「そう…やっぱりエルネスタは強いわね」

「……当然ですわ。皆が好く彼女こそが、ザ・ウィッチとしても、フーゴの者としても相応しいのですから」

「確かにザ・ウィッチならエルネスタは相応しいわ…でも……真にフーゴを任せられるのは、アンナ。貴方しかいません」

「…!」

 

 母からの言葉にアンナは目を見開く。

 アンナ自身の“家族に認められたかった”という願いがまるで見透かされるような発言に彼女は驚く他無かった。

 

「魔力が忘却された今の世界ならば、より価値があるのはアンナ……そして、そんな下らない理屈など無しにして、私は、サーシャは、クレアは、貴方を誰よりも愛しているのよ」

「…お母様」

「貴方の目を見て、手を握って話せる内に、もっと貴方に分かるように伝えるべきだったわ。本当に」

「ふ…いいえ、私がもっと素直になれば良かった話なのです。エルネスタに嫉妬している、お母様やクレアを彼女に取られてしまうのが怖かったと。もっと甘えれば、良かった……」

 

 アンナの目から涙がこぼれ落ちる。

 今までの妄執がより自分を苦しめ、単純な答えに気付かず、愛してほしかったはずの家族を遠ざけてしまった自分の愚かさが、とても醜く見えた。

 

「何もかも捨てて良いと…覚悟していた筈なのに…どうして私は……こんなにも、みんなに会いたいの……!」

 

 泣き崩れるアンナの姿に、それを見守っていた新月、そして外側の世界にいるロサは口をつぐんだ。

 

「エルネスタ…貴方の力が本物なら……」

「はい」

「…私にチャンスを与えてほしいですわ」

「外の世界でみんなとまた暮らせるように、ですか?」

 

 アンナが静かにうなづく。

 

「最初からそのつもりです」

 

 新月は言い放つと、その場にいる全員の顔を見る。

 

「ここにいる全員が魔力無き世界で幸せに生きられるようにする、それが今の私の願いです」

 

 そう告げると、新月は湖の向こう、肥大化していく魔力の塊を見据え、叫ぶ。

 

「みんなで一緒に、トンカツマンを食べましょう。海を見ましょう。山に登りましょう。星を見ましょう。湖のほとりで本を読みましょう!」

 

 叫び続けて息を切らした新月は、大きく息を吸って空気を蓄える。

 

「だから、どうか一緒に戦ってください」

 

 新月の願いを聞いた九音は、四翠へと声をかける。

 

「お姉ちゃん、私…またお姉ちゃんに会いたい」

「私もよ、九音」

「だから戦う。あの魔力にお姉ちゃんの世界を侵させはしない」

 

「新月ちゃん♪ 全員ってことはもしかして私も幸せに生きられるように~、とか考えてるにゅん?」

 

 新月を試すように問いただす水晶に、新月は即答する。

 

「はい。あなたも、人間として、一緒に生きましょう……トンカツマン、おいしいですから」

「……そ。じゃあそん時は…どんなモンか頂こうかしら」

 

 舌なめずりをする水晶に新月が微笑(ほほえ)むと、闘志をもって立ち上がるアンナに目を移す。

 

「アンナも、戦ってくれますか?」

「勿論ですわ。魔力を潰して、何も取り柄の無くなったエルネスタを心の底から見てみたいですもの…それにロサだって」

 

 通話を続けるアンナがロサへと言葉を投げかける。

 呆気に取られたロサは へ? と間の抜けた声を上げるが、その様子にアンナは大きなため息をつく。

 

「貴方は私を見返したいから努力した。私を屈服させたいからグランベルムで勝ち残った。その願いは、その情熱は貴方のどこに行ってしまったのです? 昔の貴方ならばそんなところで平々凡々と暮らしているなんて、虫唾が走って発狂していた所でしょう?」

「…そうなの」

「さっさと思い出しなさい! このド下級魔術師がッ!!」

「───」

 

 アンナの侮蔑(ぶべつ)がロサの心に深く刺さる。

 魔術師なんて話、全く信用ならないはずなのに、なぜか心から怒りが湧いてくる。

 これは、今までの自分の記憶を超越した、魔力などという些末な力によって操作されることの決して無い、魂からの情動だった。

 

「なん…だと…!?」

 

 大人しかったロサの声色には、少女とは思えない怒気が混じる。

 世界を超えて感じるその凄まじい感情に、アンナと水晶は口角が上がった。

 

「このカンジ…懐かしいにゅ」

「フン、それでこそ私の弟子───」

「誰か弟子だこのクソ女ッ! テメェらだけ満足したようなコト言いやがって!! 待ってろ敗北者ども! 今すぐそっち行って魔力より先にテメーらをブッ殺す!!」

 

 憤慨するロサが自分の胸に手を当てると、魔石がもう手元に無いことを確認し新月に問いかける。

 

「おいエルネスタ、魔石は無いがどうやってそっちに行くんだ?」

「マギアコナトスを呼び寄せる詠唱をお願いします。そうすれば昼夜関係無くこちらへ来られるはずです」

「チッ…面倒だがやってやるよ!」

 

 ロサが険しい面持ちでいきり立つ。が、その前にと彼女はあることを思い出す。

 これまで妹として自分を慕ってくれたクレアへの感謝を伝えなければいけない、その思いが彼女の怒りを一旦忘れさせる。

 

「クレア、私ちょっくら戦ってくる。そんでアンタの姉ちゃんとっ捕まえて来るから」

「うん…」

「妹でいてくれてありがとう。それだけで私は救われてた気がする」

「これからもロサお姉ちゃんはお姉ちゃんだよ」

 

 仮初めであったとしても、2人の姉妹は抱き合うと、すぐに離れる。

 と、クレアが携帯へと語りかける。

 

「新月、お姉ちゃん達を…お願い」

「クレア……分かりました。またクレアがアンナと一緒にいられるように───」

「新月も一緒!!」

「…その願い、聞き受けました。おばさまも、サーシャさんも、どうか待っていてください」

 

 3人がうなづくと、戦いに参加する意思を固めた四翠、寧々、ロサが湖の方向を向くと、記憶の中から呼び起こされた言葉を口にする。

 

「封印されしあまねく全ての魔力───マギアコナトス」

「この地上にプリンセプスの魔術師を。人の叡智(えいち)の結晶を。全ての失われた魔力を」

「その力で我らをその封印の中へ招き入れよ!」

 

──────────────────

 

 湖の中心に立つ、巨大なアルマノクス。

 エクリプスが力を注いだその騎体に、魔力によるビーム攻撃が放たれる。

 巨大なアルマノクスが振り向いた先には、複数のアルマノクスが飛び交っていた。

 

「…揃ったか、魔術師のなり損ないども───!」

 

 

つづく

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