プリンセプスの夜明け   作:虎ノ門ブチアナ

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進化する心

 アークナイトブローテ。

 ドロセラノクターン。

 雪月梅花。

 牡丹灯篭(ぼたんどうろう)

 クレストアンス。

 

 かつて刃を交えた4人の騎体が一堂に会し、オリジナルのアルマノクスを吸収した最凶のアルマノクスを追う。

 

「はは、戦力を増やして私を止めに来た、といったところかな?」

「お黙りあそばせッ!!」

 

 アークナイトブローテから放たれるビームが敵をかすめる。

 どうやら攻撃が湾曲するような魔力障壁が発生しているらしい。

 

「そんなチャチな攻撃は効かないよ。この騎体は、かつて魔力の封印と共に消失───いいや、廃棄されていた本物のアルマノクスを再利用している…それらに伝わる魔力の純度、増幅量は君たちのオモチャを遥かに凌駕(りょうが)するんだよ」

 

 エクリプスの()るその巨大な騎体は、全身から光を放つと、一瞬で他のアルマノクスを爆破させる。

 

「これこそが原初アルマノクス───名づけるならば『グランベルム』。その威光だよ!」

 

 魔術師の末裔たちが挑んだ戦い、グランベルム。その忌々しき名を冠した騎体は、誰も近づけないほどのビームを全身から放ちながら上空へと手を伸ばした。

 

「さあ、魔力なき世界の扉はここに…失われしマギアコナトスの足跡よ、(しるべ)を示せ!」

 

 マギアコナトスによって閉ざされたはずの、魔力が封じられしこの空間と、世界との境界線。

 それが今、交わろうとしている。

 

「あの原初アルマノクスが手を伸ばす先…あれは、扉?」

 

 雪月梅花を操縦する九音が、“グランベルム”の奏でる異音から人の世界へ侵攻する起点を発見する。

 なおも継続される迎撃を防御しながらその先へ進む。

 

「九音!」

 

 姉である四翠───牡丹灯篭も同行し、扉へと飛翔する。

 

「チッ…この(わずら)わしい攻撃! なんとかなりませんの!?」

「水晶! お前最強の魔術師候補だったんだろ!? なんか方法ねぇのかよ!?」

 

 アンナとロサに頼られ、力無き彼女を嘲笑(あざわら)う水晶だったが、実際のところ彼女自身も状況がかんばしくなかった。

 

「あなた方、私にお願いしたいなら…もっと態度ってモノがあるんじゃなぁい?」

「そう言っている余裕が無いことは見ていれば分かりますわ! 遊んでいないでさっさと真の姿になりなさい!!」

「ぶ~…原初、本物なんてほざく鉄屑風情(てつくずふぜい)に本気なんて見せたくなかったのだけどね」

 

 ビームをかいくぐったドロセラノクターンは、その装甲を可変させ、水晶の持つ本来の力を開放した本来の騎体を開帳する。

 

「『セラドアノクターン』!!」

 

 水晶の叫びに呼応し現れたセラドアノクターンが、“グランベルム”のビームを全て反射する。

 自らが放った力が帰ってきた上、直撃を食らったエクリプスは少し驚く。

 

「あれがプリンセプスに課される試練……一筋縄ではいかないね……ちょっとだけだけど」

 

 そう呟くと、“グランベルム”の左腕を構成していたアルマノクスの残骸が、セラドアノクターンを包み、装着される。

 

「君の力だって、わたしから間借りしているモノに過ぎない。魔力の操作精度で言えばわたしに勝てる訳が無いんだよ…お人形さん」

「なッ!?」

 

 原初アルマノクスという鎧によってセラドアノクターン身動きが取れなくなり、再び雨のようなビーム攻撃が面々を襲う。

 扉に辿り着かんとしていた雪月梅花、牡丹灯篭は、2騎の持つ重力属性を反転させる特殊な攻撃を受け、高度を落としてしまう。

 

「飛んで火にいる夜の虫ども、さっさと落ちちゃいなよ!」

 

 墜落する2騎に“グランベルム”の右腕による殴打が迫る。

 

「!」

 

 回避不可能の状況におちいった九音、四翠は魔力障壁を張るが、それが付け焼き刃にすらならないというのは、魔術師としての直感が知らせていた。

 この一撃が当たれば確実に戦闘不能になる、そう理解した瞬間だった。

 

 

「……なにヘマやってんのよ、おバカな姉妹ちゃんども……」

 

 セラドアノクターンが、その攻撃をかばっていた。

 

「水晶! どうして!?」

「原初アルマノクス同士をぶつければ、この邪魔な鎧も砕けるかなーって…それだけよ」

 

 そう話す水晶だったが、目論見は外れ、攻撃の瞬間に原初アルマノクスの残骸が分離しており、セラドアノクターンのみが損傷を受けていた。

 

「水晶、まさか私たちをかばって…」

「やめてよ、私がアンタたちに何をしたか分かってんでしょ。私は魔女、人をたぶらかし人を騙す……今更アンタらを守るだなんて、有り得ないわよ」

 

 いつもの性悪さを見せながらも、セラドアノクターンの機能は低下する。浮遊しているだけの魔力も維持できず、落下していく。

 

「水晶!」

「気を確かに持ちなさい、梅花の魔術師! ここは(わたくし)とロサで防御いたしますから、貴方達は水晶をお守りなさい!」

 

 アンナからの指示を受けた九音は、動揺を隠せないままセラドアノクターンを湖畔へと運ぶ。

 

「まさかあのアンナが水晶を守る、なんてね!」

「軽口を叩いているお暇は無くてよ、下級魔術師!」

 

 クレストアンス、アークナイトブローテがなんとかビームを(しの)ぎ、湖畔に着地した3騎を防衛するが、時間稼ぎにしかならないことは明白であった。

 

「くっそー! エルネスタ早く来いよー!」

「ロサ貴方、人に頼ってばっかりで恥ずかしくありませんの!?」

「うるせー!」

 

──────────────────

 

「…どうやら状況は良くないみたいですね」

 

 湖から少し離れた場所で、ヴィオラカッツェFF(ファムファタール)はなおも回復を試みていた。

 寧々のアルマノクス、激光冠龍(ジーグァンロン)に備え付けられた武装、『仙女羽衣』による魔術式迷彩で敵から姿を消してはいるが、一向に損傷が直らない。

 

「エクリプスと名乗る敵が付与した“毒”は私の騎体を(むしば)み、修復不能な状態です……寧々、やはり私はいいのでみんなに加勢してください」

「何言ってんの、敵の狙いは多分あなたよ? 満月の姿を取って混乱を呼ぼうだなんて、新月をかく乱する意図しか感じられないじゃない。恐らくここで私があっちに行ったら、今度はひとりになった新月が危険だわ」

 

 そう告げると、寧々は妹たちと通信を繋げ、現状を探る。

 

「菜々、美々、そっちの様子は?」

「それが、雪月梅花と牡丹灯篭が敵の攻撃で墜落、姿を変えたドロセラノクターンが大きな損傷…今はクレストアンスとアークナイトブローテが3騎を守ってる」

 

 姉の説明を受け記憶を取り戻しはじめた2人の妹はかつての戦術にのっとった通信による情報伝達を任されていた。が、彼女らが語るのはあまりにも絶望的な戦場の実状であった。

 

「寧々、このままではみんなが危ない……私は構いませんから援護に向かってください」

「だからそうやって自分を勘定に入れないで話を進めないでちょうだい!」

 

 言い争う新月と寧々に、美々がある提案をする。

 

「だったら、お姉ちゃんが新月さんを守りながら戦うってのはどう?」

「…?」

「ねねねぇは前に心の弱さを克服してアルマノクスを進化させたと言ってた…わよね。だから、あんな感じでこう、アルマノクスを防御&戦闘特化な感じに進化させられないかな~って」

 

 あまりもの突拍子も無い意見に口を大きく開ける寧々だったが、新月は意外と納得している様子だった。

 

「そんな簡単に心の表象であるアルマノクスの形を変えられるワケ無いでしょ!」

「いえ、それができるかも知れません」

「え…本当?」

 

 汗を垂らす寧々だったが、プリンセプスとなった新月の考えであるゆえ、否定もしづらかった。

 

「私の力と寧々、そして“2人”の願いがあればジーグァンロンの進化が可能なはずです」

「2人って…もしかして美々と菜々?」

 

 はい、と新月が返す。

 

「多くの人の願いが重なることで、私の───プリンセプスの力はより高まります。みんなの幸せを守れる力とは、1人よがりなモノでは無いはずですから」

「…分かったわ。美々、菜々。あなた達の力も貸して!」

「もちろん!」

 

 新月がジーグァンロンに力を込めていく。と同時に林姉妹がそれぞれの思いを騎体に向ける。

 

(ねねねぇがみんなを守れる力を…!)

(お願い、どうかねねねぇが無事に帰れますように…)

(もう私達みたいに…ママみたいに…悲しい思いをする人が出ないように!)

 

 3人の願いが魔力に伝わり、新月を通してジーグァンロンが光輝く。

 

「もうすぐです! 寧々、新たなる名を呼んでください!」

 

「───轮醒冠龍(ルーンシングァンロン)ッ!!」

 

 その名を叫ぶと、ジーグァンロンは姿を大きく変え、ヴィオラカッツェFFを包むようなバイク型のアルマノクスになってしまった。

 

「え? なんか…中からは分からないけど、滅茶苦茶カタチ変わったわよね?」

「ねねねぇ、急いで! あのでっかいアルマノクス強すぎるよ!!」

 

 戸惑いながらも寧々はその車輪を空転させながら方向転換させ、湖へと走行を始めた。

 

──────────────────

 

 “グランベルム”の猛攻に追い詰められるクレストアンスに、アークナイトブローテが援護を続ける。

 

「ロサ! そんな実力では私を見返そうなんて500年早いですわよ!」

「くっ…!」

 

 ロサは余裕を無くしている。自立稼働可能ないわゆる使い魔である『風ノ仔(かぜのこ)』を用いても減らず口が出ないほど苦しい戦況であった。

 そのことを理解しつつも、アンナは彼女を()きつけて凌いでもらうしか無かった。

 

(折角新たな力を得たというのに、これではまるで勝ち目がありませんわ…!)

「水晶! まだ直りませんの!?」

「それが、これ新月が食らったのと同じ毒にゅん…」

 

 新月と同様に修復が難しくなってしまったセラドアノクターンに、打つ手は無かった。

 

 と、ロサが弾ききれなかったビームがセラドアノクターンの方向へと飛ぶ。

 

「まずいッ! 攻撃がそっちに!」

 

 一撃でも食らえば致命傷になり得る現状の水晶は、眼前に迫る光を見て、自らの過去を思い浮かべた。

 多くの魔術師候補の心を折り、それと共に自分の心も朽ちていく。

 誰かを愛し、騙し、愛し、騙す。そんな狂気の繰り返しが水晶を文字通りの魔女にしてしまった。

 そうなってでも渇望した願いは打ち倒され、今生きている意味など無かった。

 

(まさしく(うつろ)ね、私の…1000年)

 

 

 が、光は消え失せた。

 牡丹灯篭がその攻撃を重力操作により防いでいた。

 

「は……四翠…どうして」

「あなたと過ごした時間、悪くなかったから」

 

 水晶が目を見開く。自分は彼女にとてもひどいことをした。それなのに、どうして自分を守るのか、分からなかった。

 

「あなたはグランベルムで、とても悪いことをした。だから九音の力を借りてあなたを(めっ)しようとしたわ…でも、反省したら許してしまおうとも、考えてたわ」

「…甘すぎよ」

 

 かもね、と笑う四翠に、水晶はただ申し訳無さそうな顔を見せる。

 

「九音も、お姉ちゃんはもう大丈夫だから、一緒に水晶を守って」

「…まだ彼女は許せないけど、お姉ちゃんのお願いなら、しょうがない」

 

 なんとか復帰した雪月梅花もセラドアノクターンの盾となる。

 しかし状況は何も解決していない。未だ“グランベルム”に反撃することができず、防戦一方となっていた。

 

 そこにルーンシングァンロンが到着する。

 湖上を走行するその騎体に一同が驚くが、意にも介さず寧々は“グランベルム”を見据える。

 

「あれが例の敵ね! 美々、菜々! 迎撃準備!」

 

 寧々が指示すると、騎体の左右に取り付けられていた火砲が分離、飛翔して攻撃を開始する。

 それら2対の火砲は美々と菜々が外部より操作しており、寧々が動かさずとも自立して行動できるのだ。

 

林家激光(ハイファミリアフィーバー)!!」

 

 その叫びと共に攻撃が“グランベルム”に加えられる。ビームの範囲外からの射撃に“グランベルム”の防御が遅れ、損傷する。

 

「一撃入った!?」

 

 ロサが驚くが、まだビームは止まらず、クレストアンスの右腕を撃ち抜かれてしまう。

 

「ロサ気を抜かないッ!!」

 

 しかし武器ごと利き手を奪われたクレストアンスでは防御にも限りがあった。

 立て続けに直撃を受け、退けられてしまう。

 

 その間もルーンシングァンロンの火砲(ハイファミリア)による攻撃が続くが、“グランベルム”に居場所を補足されてしまう。

 

「見つけたよ、新月ちゃん」

 

 “グランベルム”が動き出し、胸部に埋め込まれたブラックリリーが血水の剣を振るう。

 最大魔技(オーバードスペル)、メルド・リュミエール。際限無い魔力によって放たれた超強力な一閃がヴィオラカッツェFFを乗せたルーンシングァンロンへ迫る。

 その威力は、目測だけでもホワイトリリーの同じ技とは比較にならないほどの強力さを実感させた。

 

「―――!」

「エエエエエエエルネエエエエスタアアアアアアアアア!!!!」

 

 アンナが叫びながら、騎体を盾にして2騎を守る。

 

「…アンナ!」

「お怪我はありませんの? ちびっ子魔術師とエルネスタ?」

「もう小さく無いわよ! それよりも!」

 

 メルド・リュミエールを全身に浴びたアークナイトブローテは装甲の限界を迎え、光に飲み込まれていく。

 なんとか防ぎきったアークナイトブローテだったが、その全身が焼け、今にも爆発寸前といった状態だった。

 

「あ、アンナ!」

「ご心配なさらずとも私はこんなちんけな技に屈したりはしませんわよ」

 

 そうは言いつつも、アークナイトブローテの魔力が減衰していることは新月にはすぐ分かった。

 さらに追い打ちをかけんと再びビームの雨が降り注ぐ。

 

「アンナ!!」

「人の名前ばかり呼んでっ、馬鹿の一つ覚えですのッ!?」

 

 アンナが突っ込むと、魔糸を全力で手繰(たぐ)り、アークナイトブローテから青い炎を発する。

 その炎はビームを燃やしながら、損壊している他の騎体にも飛び火する。

 

(やす)い毒など熱で飛ばしてしまえますわ!」

 

 炎を受けたヴィオラカッツェFF、セラドアノクターンが回復していく。

 

「! これは…」

「アークナイトブローテ、その属性は温度変化、そして───修復。私の炎は他を笑顔にする、癒しの温もりに…」

 

 随分と(ほだ)されてしまった、とアンナは笑う。

 

(あのとても寒かった冬の日、エルネスタと共に思い浮かべた魔術師の理想は、とても美しかった。体の凍えを忘れるほどの情熱と笑顔……いつまで経っても、忘れられませんでしたわ)

 

「───エルネスタ」

「……」

「勝ちなさい」

 

 青い炎の中でルーンシングァンロンから分離し、立ち上がったヴィオラカッツェFFはゆっくりとうなづくと、炎に身を包み湖の底へと沈むアークナイトブローテを見送る。

 

 アンナの残り火で騎体を修復完了したロサ、水晶も波紋の残る湖面を見つめる。

 

師匠(アンナ)…」

「ちくしょう、最後にいいトコ見せやがって」

 

 アンナの力を受けたアルマノクスから魔力が満ちあふれる。その様子をエクリプスは不思議がる。

 

「どうしたの? 矮小な魔術師のなり損ないのハズなのに、各人の魔力量がどんどん上がっている?」

「あなたには分かりませんか、この心に宿る熱さを…アンナが“勝ちなさい”と言ってくれた、その気高き精神を」

 

 青い炎が消えると、その場には6騎のアルマノクスが万全の状態で立っていた。

 

「魔力がどんどん湧いてくる…!」

 

 九音がその力の強さに(おのの)きつつ、あふれんばかりの力を解き放つ。

 

「九音、四翠と音を重ねてください。どうやらそれぞれ魔力が均一化されて、アルマノクスの合一と、強化ができるようです」

「つまり…調律を?」

 

 新月の言葉を聞いた四翠が柔らかな音を奏でる。それに追従するように九音が音を合わせる。

 

「妙な真似を…」

 

 “グランベルム”がまたしてもビームを放つ。

 それに反応して水晶が前に出る。

 

「2人の邪魔はさせないわよッ」

 

 セラドアノクターンが増幅した魔力によって原初アルマノクスの残骸を吸収すると、無数の妖精を呼び出して迎撃する。

 

「原初アルマノクスを…我が物とするか! 人形!」

「驚いた? 私も驚いたにゅん」

 

 動揺するエクリプスを嘲笑する水晶は、続いて吸収した装甲を用いてセラドアノクターンの姿を変容させる。

 

「この姿とはおさらばね…新しい名前も考えなくちゃ」

 

 ビームを退けた水晶の新たなる騎体は、藤色の体躯にわずかな(だいだい)色を乗せた神秘的なフォルムを見せつけると、水晶により命名される。

 

「これよりこの騎体は『アウロラノクターン』…魔に照らされし暁光(ぎょうこう)…アンタも(まぶし)さに()かれなさい」

 

小癪(こしゃく)だね、水晶ちゃん! あなたが原初アルマノクスの力を扱おうと、こちらは素材とした数が違うのっ!」

「数で勝った気になってんなら、あんた三流よォッ!?」

 

 “グランベルム”がまたしても毒を与えんと直接攻撃に乗り出すが、視認する騎体が全て幻となって消える。

 

「? どこに行った?」

「魔とは(たばか)り惑わすもの…そう思うでしょう、アンタも」

 

 背後からのアウロラノクターンによる斬撃。予想だにしなかったダメージに“グランベルム”は焦りながら背後に残骸を集中、敵を貫く。

 が、それも幻。

 

「お膳立てはしたわよん?」

「ありがとう水晶!」

「後は任せて」

 

 背後に気を取られていた“グランベルム”は、眼下の雪月梅花が牡丹灯篭と“合体”していることにようやく気付き、ビームの雨で牽制(けんせい)する。

 が、万全な状態のクレストアンスが自身のブーメランを盾代わりにして弾く。

 

「アンナの魔力…めちゃくちゃイヤだけど、強い!」

「ならば火力を上げるのみ!」

 

 ビームの威力がさらに上昇し、クレストアンスでは歯が立たなくなってくる。

 が、そうしている内に雪月梅花の進化は完了していた。

 

「陰陽扇飛梅・(にしき)!」

 

 雪月梅花の持つ扇形の武装、それを閉じることで発生するビームが“グランベルム”をかすめる。

 重力の属性を持つその攻撃は、すれ違ったビームの大群を斥力(せきりょく)で弾いてしまう。

 かすめただけでも重力によるのしかかりが発生し、“グランベルム”の肩を落とす。

 

 ―――雪月梅花(累花合律(るいかごうりつ))。それこそが彼女らの到達点。

 姉妹の力を重ねる…すなわち“重力”。合わさった思いが敵をうがつ。

 

 

 牡丹灯篭の力が加えられた背部の砲塔が伸び、2発の強力な魔術を付与された砲弾が発射される。

 

波状大華音(はじょうだいかのん)!!」

 

 “グランベルム”を撃ち抜くその二撃は、防御に使われた“グランベルム”の右腕に輪唱のような幾度と無く響き渡る無数の音波攻撃を残し、その振動により破壊してしまう。

 

「まさか両腕が持っていかれるとは…やるね君達」

「ここまでやっても…まだ余裕がある?」

 

 汗をぬぐった九音がつぶやくと、それに答えるようにエクリプスは鼻で笑う。

 

「そう、まだまだ原初アルマノクスの残骸はある。少しばかり失われても……なんとかなっちゃうの」

 

 そう言ってエクリプスが笑ってみせると、“グランベルム”の体を寄せあって、小型化しつつも新たな姿を構成する。

 

「こっちの方が動きやすくていいね。さてと、それじゃあ本気で邪魔者を片付けていきますか」

 

 その申告と共に、瞬間移動をおこなった“グランベルム”が再出現したのは、ヴィオラカッツェFFの目の前であった。

 

「まずは君からだよ、新月エルネスタ深海ィ!!」

 

 防御が間に合わないまま、恐ろしい速度でメルド・リュミエール級の魔力攻撃を放とうとするが、自身の真下から表出した“氷”によって(はば)まれた。

 

「氷…? 一体どこから!?」

「ようやく目覚めましたか…遅いですよ───アンナ・フーゴ」

 

 新月の呼び声と共に湖の中から浮上したのは、装甲に不自然な断裂の入ったアークナイトブローテであった。

 

「さぁ、ここからが正真正銘の…本気ですわよッッ!!!」

 

 

つづく

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