100パーセント息抜きで書かれた小説です。
第1箱「
──僕のミスだった。
君が気負うことなど、何もないんだぜ。
そうだろう、先生。
そんな顔をするなよ。
ほら、前を向いて、現実を見て。
未来を向いて、現実から切り離して。
だから、安心して行ってらっしゃい。
だから、安心して言ってらっしゃい。
──ああ、畜生。やっぱり僕じゃあ精々15秒が限界か。やれやれ、らしくもなく頑張ったっつーのに、めだかちゃん達が逃げる時間すら十分に稼げないとはね。我ながら、情けないことだ。
こいつが世界に対して与えたダメージは、今後何があっても絶対に治らない。
例えそれが、僕の持っているスキルを総動員したとしても、だ。こいつは
覆すことは、できない。
箱庭学園第98・99代生徒会執行部会長職を務めた
混沌より這い寄る
たった今引き裂かれてしまった僕の上半身と下半身も、今後繋がることはないだろう。泣き別れ、というやつだね。身が引き裂かれる思いだ。
少しは衰えてくれてるかもな、なんて思ったのが間違いだったぜ。全くもって大間違いだった。
……いや、「大間違い」なんてのは言い訳、または言い逃れ、あるいは言い間違いでしかない。
「良い間違い」の、言い間違いでしかない。
一度諦めたとはいえ、もともと僕は死ぬ気だったんだ。世界は残酷で、未来は創作で、現実は虚飾で、生きることは退廃的だと思い込んで。
そんな僕のしょうもねえ命を、どれだけ捨てようとしても捨てられない都合のいい僕の命を、過去から学び、未来を作り、そして今を見据える彼ら彼女らのために使えたのは──使い捨てたのは、
球磨川くん辺りなら、『それは君の思い違いだよ』だなんて言ったりするのかな、なんちゃって。
今はもう、会えないけれど……彼のやりそうなことなんて、大体は想像がつく。僕が用意しておいたサプライズにもびっくりしてくれるだろう。
めだかちゃんも善吉くんも球磨川くんも……みんな、みんなみんな、僕が死んでしまうことを気に病まないといいけど──まあ、無理な相談だろうね。僕としてはむしろ、ちょっとくらいは引きずってもらいたいものだ。
──と、ここまで。文字数にして600文字、原稿用紙で例えるのであれば一枚分と半分少々が埋まるくらいの文字数をもって、つらつらと僕──
とどのつまりは、たった一言、およそ8文字で僕の内心など明かすことができるのだった。
──まだ死にたくない。
お恥ずかしいことだが、僕だって生きている。いや、今となっては死んでいるのだけど。それはともかくとして、生きていた以上は生きていたいのだ。
めだかちゃん達が懸命になって拾ってくれた僕の命を、こんなにもあっさりと失いたくなかった。人外どころか人間にも理解できないような英雄の理屈で、どこにでもある、普遍的な輪ゴム鉄砲なんかで真っ二つにされたくなんてなかった。
つってもまあ、めだかちゃん達があの怪物をぶっ倒してくれれば復活できるんだけどね。あんまり期待度は高くねえが、まあ気楽に、気兼ねなくお休みするとしよう。たまの休暇を謳歌しようじゃないか。
そんなわけで、僕はいつも通りに、心の中の教室に戻ろうとしたわけだ。球磨川くんの本心を暴き、善吉くんがめだかちゃんに抱いていた恋心を自覚させたあの教室へ。そして僕は、いつも通りに、教卓の上に腰掛けようとして。
そこが、
そこに閉塞感は全くと言っていいほどなく、見渡す限りの青い空、そしてどこまでも続く水平線。積み重なった数々の机が景観をやや台無しにしている感があるが……それもまた一興、ということなのだろうか。
しかし、しかしだ。僕が驚いたのは、別に教室の見た目が一変していたからとかではない。極論、僕の考え一つで、あるいは指先一つで教室の見た目なんて変えられる。
先ほどから好きな時に好きな場所にいることができるスキル「
僕が真に驚いたのは。
「"初めまして。名前を教えてもらってもいいかな?"」
そこに青い髪とセーラー服が特徴的な幼女と、ワイシャツとネクタイを着用した、若い大人の男がいたからだった。
「……初めまして。だけどそうだな、人に名前を聞くときは、自分側から先に名乗るのがマナーってものだろう?」
「"それもそうだね。私の名前は 観測不能 。シャーレの先生です。それでこっちの青髪の子は……"」
「この『シッテムの箱』のメインOSであるアロナです……ってそういえば、私の声……聞こえてるんでしょうか?」
「自己紹介どうもありがとう。先生にアロナちゃんと呼ばせてもらうよ。あとアロナちゃん、君の声はバッチリ聞こえてたから心配はいらないさ。それじゃあ僕も自己紹介をさせてもらおうかな」
僕の休暇は、ひとまずこんなふうに始まった。
「ん? 馴染む、馴染み、
あるいは罠に嵌められたか。目の前にいる先生とアロナちゃんが友好的な存在とは限らないわけだし、油断するには少し早いかな。
「さて、先生。ここは一体どこで、今はどういう状況なのか、是非とも僕に教えてはくれないかな? 生憎世間のことには疎くてね。ほら、僕って箱入り娘だったから」
「"うん、構わないよ。箱入り娘だったようには見えないけど……
「"そうだな、それじゃあ……目で見てもらったほうが早いかな? アロナ、また後でね。私はキヴォトスがどんなところかナジミに見せてくるよ"」
いや、それにしても……話が早くて助かるぜ。僕としては説得のスキル「
それと先生。僕のことは
「へえ、なるほどねえ。ここがキヴォトス……なかなか綺麗な所じゃねーか。気に入ったよ。無駄に空が青いところも気に入ったぜ」
「"でしょう? 『無駄』は余計だけど、私も概ね同意するよ。気に入ってもらえて何よりだ"」
先生から教えられた情報、そして僕が目で見た情報を擦り合わせて考えると、僕はキヴォトスに転移しちまったということでいいのかな?
「
もっとも、転移なのか転生なのかは分からねーが……僕にはこの世界で生まれた記憶がないから、まあ普通に考えれば転移の確率の方が高い。
一体全体どういう理屈でこの箱庭──ジャンルで表すならば「学園×青春×物語」──に捩じ込まれたのかは分からない。多分理屈とか無いんだろうが。
「"おーい、ナジミ? 聞いてる?"」
それにしても、青春ねえ……この青臭い箱庭では多分、全ての存在は一定の方針に基づいて動くんだろう。まずもってその法則を見定めなければならない。
つーか今まで気にしないようにしてきたけど、
いやーあれはびっくりしたね。頭上に違和感があったから、自分を見るスキル「
もしかしてここはドラゴンボールの世界なのかな? 孫悟空やクリリンよろしく、僕もあの世に行っちまったってわけかもね。
そんなわけねーよな。第一、この世界は
「"あれ、聞こえてない? ナジミー?"」
◯を≠が貫いているヘイロー……なるほどなかなか僕の特徴を捉えているじゃないか。この感じだと僕達……生徒、だっけ?
生徒の内面を参照して形が決まるのかな。そうだとすれば、球磨川くんが生徒としてここに来てたらどうなるんだろうね。やっぱマイナスネジがモチーフになるのかな?
それは置いておいて、キヴォトスから脱出する方法を考えねーとな。確かに空は綺麗だが、ここに留まる理由にしてはやや弱いし、めだかちゃん達のことも心配だし。
さて、どうすっかな。
「"
「ん、なんだい先生? まるで僕に向かって何度も話しかけていたのに無視され続けて嫌われてしまったのではないかと薄々思い始めていたみたいな表情じゃないか」
「"まったくもってその通りなんだけど……"」
「『
球磨川くんをイメージしながらそう言ってみる……が、やはり僕ではあの気持ち悪さは出せないね。まあただでさえ美少女なんだし、あんな風にはなれないか。やれやれ、彼の気色悪さには敵わないぜ、わっはっは。
「それで、先生。しきりに僕の名前を呼んでいたようだけど、一体どういう話かな。つまらない話をするようだったら 言論弾圧 しちまうかもしれないぜ」
「"そんなに恐ろしいことを!?"」
「あとは 道徳条例 とか コンプライアンス違反 とか…… ハーメルン利用規約違反 とか」
「"私のことがそんなに嫌い!? まだ会ってから1時間とちょっとなんだけど!?"」
「1時間? ははっ、面白い冗談だね先生。僕の体内時計ではもう3億年は経過しているのだけど」
「"すっごい遠回しに退屈していることをアピールされてる!"」
「 暴言 」
「"ここに来てシンプルな罵倒!? ちょっとナジミには教育的指導を──じゃないや。ごめん
おや? さっきまでハゲ散らかしたマスコットみたいな見た目だったのに……真面目な話になった瞬間、中々いい見た目の男性になったね。そういうスキルかな?
「"ふーん……親しみを込めているようだし、まあ話くらいは聞いてやってもいいぜ。僕ってば優しいからね"」
「うん、その優しさに甘えることにするよ。
「"どこって……どこでもないけど"」
先生は僕の返答を聞くと、大きくため息をついて頭に手をやった。なんだその態度。
──ここで馬鹿正直に「箱庭学園だよ」なんて答えるのも、まあ選択肢の一つとしてはありだったが……結果として、そう答えないのは英断だったぜ。
先生は少し迷ってから、僕を見据えて居佇まいを正してから、意を決したようにその言葉を吐いた。
「"──私から君に、一つ提案がある"」
その眼差しは僕の眼を捉えて離さない。視線が混ざって離れない。この場から離れることができない。
ならば僕は、逃げも隠れもしない。
「……何かな、先生。言ってみなよ」
僕は、この時の僕の選択を──
序章 いざ行かん 青く春めく 方舟へ
あくまで息抜きなので不定期投稿です。
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