いつまで経っても話が進まない……。
「そういうわけで、腹ペコだったみたいで可哀想だから拾ってきたんだよね」
「あんたバカなんじゃないの……?」
ひでえ言い草だね、セリカちゃん。お腹を空かせた生徒が四人もいたんだ、ラーメン特盛をそれぞれにご馳走してやるくらいは誰だってするだろう?
「それに僕は柴関ラーメンの売り上げに貢献したとも取れるんだぜ? お礼を言われることこそあれど、貶される
「それに関しては感謝してる、どうもありがとう。私が言ってるのはそうじゃなくて、どうして四人分奢ってるの? しかも店に入るなりお会計も済ませちゃって」
「そうでもしねーと奢らせてくれなそうな子が一人いるんでね」
僕は約2.5人前のラーメンを食べるカヨコちゃんの方を見ながらそう言った。僕の視線に気が付いたカヨコちゃんは、しっかりと麺を飲み込んでから話し始める。
「……なに、急にこっち見て。私の顔に何かついてる?」
「いいや、特に何も? まあ強いて挙げるのであれば、かわいらしい顔がついているけれど」
「お世辞はいいよ。自分の顔が怖いって言われるのには慣れてるし……そもそも、そのせいで《
恥ずかしい、ねえ。僕はそこまで変だとは思わねーが。近くに
「いやそれにしても、みんな凄まじい食いっぷりだぜ。セリカちゃんも鼻が高いんじゃないかな」
「いやまあ、確かに嬉しいかと聞かれれば嬉しいんだけど……それ以前に心配が勝つわよ。私達でさえお昼ご飯くらいは食べられるのに、この子達は全財産が600円だから満足にお昼も食べられないって……」
「すっ、すみません……やっぱり私みたいな虫ケラにも劣る存在が、こんなに美味しいラーメンを食べていいわけないですよね……き、消えた方がいいですか?」
「いやいや、別に消えなくていいって! その代わりと言っちゃなんだけど、麺の在庫処分を手伝って欲しいな。今日はあんまりお客さん来なかったし、少し余った麺も食べてもらえると嬉しいんだけど……って、大将が言ってたの」
おいおいマジかよ柴大将、いくらなんでも懐が広すぎるんじゃあないのかい。ほら見ろよ、カヨコちゃんとか若干申し訳なさそうな表情してるぜ。
それにしても、ハルカちゃんはやたらと自己評価が低いねえ。何かしらの理由があるのだろうが──そこを無闇矢鱈とほじくり返すほど、僕は無神経じゃない。
少なくとも、今の僕は。
「それにしても、まさかこんな
「本当にね……じゃない、当然よこれも計算のうちだもの! 仕事先で美味しい食べ物を食べることは、アウトロー精神の健全な発育に役立つんだから!」
「アルちゃーん、それどこ
「
随分と物騒な感じに聞こえるが、飯テロってことだろうか。ただそれだけにしては、やけにカヨコちゃんの表情が引き攣ってるし、ムツキちゃんは何故か楽しそうだし、多分本当の意味でのテロリストなんだろうね。
トリニティの方はあらかた調べ終わったけど、ゲヘナの方はめんどくさくてそこまで調べてねーからな。また今度本腰入れて偵察に行くとしよう。
「ところで、えーっと……ごめんなさい、親切なシャーレの人。名前何だったかしら?」
「おっと、そういやまだ自己紹介してなかったね。僕は
「分かったわ、
「へえ、何かな。僕としては君達のことはそんなに嫌いじゃないし、もう一つか二つくらい聞いてやるのも
何より、めだかちゃんならこれくらいやるだろうし。
「私達は今から、依頼を受けてとある場所を襲撃するのよ。ここから近いところにあるアビ──」
「アル。早く食べないとせっかくのラーメンが伸びちゃう。こんなに美味しいものなんだから、一番美味しいうちに食べないと。
「──あらそう? それじゃあお願いするわね、カヨコ」
「うん、まあ任せてよ」
あーあ、セリカちゃんが聞いてるところで言ってくれたら面白かったのに。多分アルちゃんは普段から色々とやらかしがちなんだろうね。
ムツキちゃんが焚き付け、ハルカちゃんが勘違いし、アルちゃんが乗せられ、カヨコちゃんが呆れる……まあ多分こんな感じの流れがお約束なんだろう。やけにフォローが手慣れてるし。
「で、
カヨコちゃんは顔をこちらに寄せ、僕の耳に向かってひそひそと話しかけた。こそばゆくて仕方がねえぜ。
「それで、えっと……多分、店員さんと、隣の席の人達……アビドス高校の生徒なんだよね」
知ってる。知ってるが……言わない方が面白そうだ。
「へえ、そうなんだ。僕はよくこのラーメン屋に来るが、まさかセリカちゃんがアビドスの生徒だとは。ちなみにどうしてそう思うんだい?」
「隣の席の人達は、制服がアビドスの物。それならコスプレでもない限り、アビドスの生徒で確定。それに店員さんの方は、アビドスの生徒とやけに親しげだし」
「裏付けとしては弱くないかな」
「表情で大体分かるよ」
ふーん、思っていたよりも賢いね。舐めてかかると痛い目見そうだ──ま、僕は油断なんてしねーがよ。
「だから、その……シャーレの人間である
「うん、まあいいよ。シャーレは全ての生徒の味方だからね、それくらいのことならお安い御用さ」
「そう、それなら……ありがとう、助かる」
カヨコちゃんはその言葉を最後に、僕の耳元から離れていき、実はまだ食べ終わっていなかったラーメンを啜り始めた。お優しいことだね。
食べ物を美味しく保つスキル「
「この恩は忘れないわ! いつか必ず返すから、何か困った時は私達便利屋68を呼んでちょうだい!」
「一応これでも僕は君たちを取り締まる側なんだがね」
実際のところ、連邦生徒会が彼女達を追っかけてるのかどうかは知らねーが、シャーレが便利屋を捕縛できるのは純然たる事実だ。だからつまり、嘘は言ってないわけだが。
「それはそれよ。別にシャーレとして依頼するんじゃなくって、
「そういうもんかね。ま、分かったよ。暇な時には呼ぶからさ、トランプ二組使って神経衰弱でもしようぜ」
「もう少しちゃんとした依頼が欲しいんだけど……」
「それじゃあ暗号バトルでもしようか。とびっきり難易度高いやつ」
「何それすっごい楽しそうじゃん!
おや、まさかムツキちゃんが食いついてくるとは。試しに一問ねえ、どうすっかな……よし、決めた。
僕は紙とペンを取り出すとささっとペンを走らせ、暗号……というか簡単なクイズをムツキちゃんに手渡した。
「ほらよ、僕から君達へのアドバイス兼暗号だ。この暗号文は
難易度:★★☆☆☆
日用品を買い足すのであれば、土用の頃にまとめて買うべきである。生きるにあたって最も緊要なことであるから、忘れてはいけない。尤も、公用があるのならばその限りではない。それから、無駄な浪費は避けるべきである。また、いかに真面目であっても信用が薄いようでは、碌に仕事も得られなくなるため留意せよ。
紙を受け取ったムツキちゃんは、しばらくの間うんうんと唸りながら頭を捻り、たっぷり3分ほど使ってから、答えを口にした。
「分かった! 答えは 私 でしょ?」
「大正解だぜ、ムツキちゃん。と、まあこんな感じで、たまにでいいから僕と暗号バトルしようぜ」
「だからそう言うのじゃなくて! 私はもっとハードボイルドな依頼を受けたいって言ってるのよ!!」
おおっと、流石にからかい過ぎたかな。ぷんすこと怒っているアルちゃんもおもしれーが、そろそろ潮時かな。
「ま、冗談はさておき……本当に困った時は何かしらお願いするかもしれないから、そん時はよろしく頼むぜ、キヴォトス一のアウトロー」
「任されたわ!!」
ちょろいね。
そうして便利屋68の連中と別れ、僕と先生、そして対策委員会の面子はアビドス高校へと戻った。最後までハルカちゃんには警戒されっぱなしだったが……まあ致し方ないね。彼女が尊敬する社長で遊んだわけだし。
それから。アビドス高校に到着して間もなく、大量の傭兵が押し寄せてきた。まあ間違いなく便利屋の仕業だろうけど、流石に数が多すぎる。
きっと金欠の理由はこれなんだろうな。大方アルちゃんが後先考えずに片っ端から傭兵を雇ったんだろう。
で、対策委員会のみんなが頑張って傭兵を蹴散らしていたら、便利屋のみんなもアビドス高校に乗り込んできた。どうやら直接アビドスを叩くらしい。
──さて、そろそろネタバラシと行こうか。アルちゃんはどんな顔をしてくれるのかな、楽しみだ。
暗号の答えと解
感想・評価・ここすき等よろしくね。