なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 急激な気圧の変化で偏頭痛がきてます。
 助けてください。




第13箱「最後までお付き合いします」

 

 

「──お待たせしました。変動金利等を諸々利用し、利息は788万3250円ですね。全て現金でお支払い頂きました、以上となります。カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします」

 

 それでは、と言い残して、カイザーローンの銀行員──キヴォトスではよく見かけるロボット頭──は現金輸送車に乗り込み、そそくさとアビドス高校から去っていった。

 

 いやはや、それにしても……一月(ひとつき)あたりの利息分だけで約800万とは、なかなか心に来るものがあるね。

 

 僕が前にいた世界であれば、高校生1人あたりの平均月収は5万円程度だったわけだが、対策委員会の面々はなんと驚愕の、1人あたり157万6650円だ。

 

 もし仮に、所謂(いわゆる)「年収の壁」があったらヤバかったかもね。とっくに高校自体が潰れていた可能性すらある。5人いてこれなのだから、去年までは更に火の車だったのだろう。

 

「はぁ、今月もなんとか乗り切ったねー。おじさんはもう限界だよー。肩や腰、それに膝などが痛みを訴えてるなー」

 

「今度そのコリは揉みほぐしてあげる、ホシノ先輩。もう懲り懲りだーってなっちゃうくらい」

 

安心院(あんしんいん)さん、ホシノ先輩がああ言ってるけど、どうせアンタのことだし、湿布の一つや二つ……持ってきてたりしない?」

 

 ん? おいおいセリカちゃん、僕は22世紀からやってきたネコ型ロボットじゃあねえんだぜ。そうホイホイと便利なグッズが出てくるものかよ。

 

「まあ念のため持ってきてはいるがね」

 

「やっぱりあるんじゃん! 勿体ぶらないでさっさとホシノ先輩に渡してあげて! こういう時に感謝の形を示しておかないと!」

 

()()だって? そんなまどろっこしい事をしている時間は僕にはねーんだよ。だから()()()()()()()()

 

「うへぇっ!? (つべ)たっ!!」

 

 ついでにノノミちゃんの両肩にも貼っておいたが……彼女の方は柔らかい笑みを浮かべるだけで、特に大きいリアクションは見せてくれなかった。ちょっとくらい驚いてくれてもいいのに。

 

 ──こんなイタズラにスキルを使うとは、以前の僕が今の僕を見たらなんて言うんだろうね。大層驚いてくれそうだが……生憎僕は一人しかいない。考えるだけ無駄な事だ。

 

「ところでアヤネちゃん……借金の完済まで、あとどれくらいなんでしょう? 今のところ、惰性で支払っている感じがしますけど……」

 

「えーっと、少し待ってくださいね……309年返済なので──」

 

「あー、待って、聞きたくないわ。ただでさえ気が滅入っちゃいそうなのに、()()を聞いたら本格的に参っちゃいそう」

 

 どうせ死ぬまで返済できないんだから、とセリカちゃんは締め括った。なんとなくだが、場の雰囲気が曇っていくのを感じる。これも、以前の僕なら気にも留めなかった事だろうが。

 

安心院(あんしんいん)さん、そういえばひとつ気になったんだけど」

 

「おや、どうしたんだいシロコちゃん。君が何かを気にするなんてことしたら、僕は明日、キヴォトスに銃弾の雨あられが降るかもしれないと疑い始めてしまうぜ」

 

「それは割と日常茶飯事だと思うけどな〜」

 

 そうだった。本当に治安が終わってるね。

 

「まあ安心院(あんしんいん)さんのジョークは放っておくとして、私が気になったことは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってこと」

 

「言われてみれば、確かにそうですね。わざわざ現金輸送車を手配するくらいなら、インターネット返済にした方が手っ取り早いと思いますけど……」

 

「とはいえ、急にインターネット返済に切り替えられても、私達としては困りますけどね……。返済書類の形式とかも変わっちゃいますし、どうしても電子での管理にせざるを得ませんし……そこは一長一短ですね」

 

 思えばこうして対策委員会がそれらしいことをやっているのを見るのは初めてかもな。ふざけた会議やちゃらけた会話のせいで忘れがちだが、この子達はアビドス最後の砦なんだった。

 

「それじゃ、そろそろ教室に戻ろうぜ。日差しと風も強くなってきたし、いい加減に砂が鬱陶しくて仕方ないんだ」

 

「"私もそれに賛成だよ……それにしても、若いってのはいいなあ……みんな、よく毎日この暑さに耐えられるね……"」

 

「おや、先生もいたんだね。影が薄くて気付かなかったぜ」

 

 僕がそう言うと先生はハゲ散らかしたマスコットみたいになりながらしくしくと泣き始めてしまった。いくらなんでも漫画的表現が過ぎるぜ、先生。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 教室に戻ったあと、アヤネちゃんは皆に向かって二つほど報告があると話した。一つ目は便利屋の連中について──まあこっちは、詳しく説明せずともいいだろう。僕がこの前散々説明したからね。

 

 便利屋について語っているアヤネちゃんは、それはもう面白かったぜ。なんつーか、恨みつらみが篭っていたような感じだった。大方、今日の朝あたりに偶然連中の誰かと出会(でくわ)したんだろ。

 

 それで、問題だったのは二つ目の方。覚えてるかな、ヘルメット団の連中を追撃した時に出てきた兵器の破片を解析したところ、()()()()()()()()()()()()()()()()ということが分かったらしい。

 

 取引が中止、即ち生産が終了しているということだけれど、キヴォトスではその(たぐい)の兵器を手に入れられる場所は一つしかないらしい。

 

 その名はブラックマーケット。様々な理由で学校を辞めた真の意味でのアウトローが集う、キヴォトス屈指の危険地帯である。

 

「ということで、やって来たぜブラックマーケット。それじゃあ各々好きなように買い物を──」

 

「ダメだよ単独行動はー。安心院(あんしんいん)さんは連邦生徒会の制服を着てるんだから、迂闊に動くと連邦生徒会を目の敵にしてる子達にやられちゃうかもよー?」

 

「そもそもなんで連邦生徒会の制服で来てるのよ!」

 

 えー。折角キヴォトスについて調査するチャンスなんだけどな。もしかしたら、僕が元の世界に戻る手がかりすらもあるかもしれねーってのに。

 

「それにしても……意外と賑わってますね☆」

 

「うん、本当に。連邦生徒会の手が及ばないエリアが、こんなに広がってるなんて……」

 

「私達は普段アビドスにばっかりいるからよく知らないけど、アビドスの学区外にはへんちくりんな物がたくさんあるんだよー」

 

「おや、ホシノちゃん、まるでここに来たことがあるかのような口ぶりだが、もしかしてブラックマーケットに縁でもあるのかな?」

 

「いいや? 知識として有してるだけだよ。ブラックマーケット以外にも、ちょーデカい水族館とかね。今度行ってみたいなー。魚……お刺身……」

 

 どうやらホシノちゃんは、アビドス以外の地区についてもそこそこ詳しいようだった。デカい水族館がある事については知ってるが、そういうところってあんまり魚を食わせたりはしないと思うんだが。

 

『皆さん、油断しないでくださいね。そこは違法な武器や兵器が取引される場所でもあるので、何が起こっても不思議ではありません』

 

 アヤネちゃんは万が一のことを考えてアビドス高校で待機している。もしこの間に高校が襲撃されたらたまった物ではないが、まあその場合は僕がどうにかすればいいだけだ。

 

 と、そんな風に考えていたところで、突然銃声が響き渡り──音がした方向から、いかにも「普通(ノーマル)」といった感じの女の子が走って来た。

 

「う、うわああ! まずっ、まずいですー!! つ、ついてこないでくださいー!!」

 

「待てこの! 逃さねえぞ!!」

 

「少し拉致って身代金を貰うだけだからさあ!!」

 

 どうやら普通っぽい子はチンピラに追いかけられているらしい。というか、あの制服は見たことある気がするな。えーっと、確か……。

 

「アヤネちゃん、あの子の制服ってトリニティのやつだっけ?」

 

『はい、確かにそうです……あの制服はキヴォトスいちのマンモス校の一つ、トリニティ総合学園のものです!!』

 

 ふーん、つまりチンピラ達は、この子を人質にしてトリニティから身代金として大金を頂こうとしてるってわけか。いやはや、なんとも逞しい子達だね。これがブラックマーケットクオリティってことだ。

 

 ただまあ、僕達の前で()()は良くないね。

 

「わわわっ、そこどいてくださいー!」

 

「おっと、大丈夫かい? 何やら揉め事っぽいが」

 

 いかにも普通らしい子はその勢いを殺しきれず、僕の胸にドスンとぶつかった。いやーすまないね、痛かっただろう?

 

「あっ、すいませんぶつかってしまって……って、この制服……まさか連邦生徒会の方ですか!? すっすいません!! 私がここにいることは、その、どうか学校には──」

 

「ああいや、気にしなくていいよ。ブラックマーケットには連邦生徒会の目は届かないからね、当然君がここにいたかどうかなんて、分かるはずもない。そもそもぼくたちは、連邦生徒会に全てを報告する義務なんてものはねーし」

 

「うう……ありがとうございます……」

 

 なるほどねえ、こうしてみると分かるが、いかにもトリニティって感じの子だ。お嬢様学校の子らしく、気弱そう……いやまあ、一人でここに来ている以上、見た目通りの性格ではなさそうだけれど。

 

「なんだお前ら──って、連邦生徒会じゃねえかよ! わざわざこんなところまでご苦労さん! ドサ周りですかあ?」

 

「アタシらもついてるなあ! まさかトリニティだけじゃなく連邦生徒会まで揺すれるネタが向こうから来るなんて……って、あれ?」

 

 チンピラ達はそう言って僕達に襲い掛かろうとしたが、ホシノちゃんとセリカちゃんにあっという間に鎮圧されてしまった。こうなること、予想していたんだろうね。

 

「悪人はちゃちゃっと懲らしめないとね〜」

 

「だからその制服はやめてって言ったのに……」

 

 そうかな、僕はこの服、意外と気に入ってるんだが。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「その、ありがとうございました。こっそり学園を抜け出して来たので、何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも……」

 

「あのさあヒフミちゃん、僕は一応それを知らない(てい)でやらせてもらってるんだが」

 

「あっ、えっと……あはは、そうでしたね」

 

 苦言を呈した僕に向かって、いかにも普通といった感じの彼女──阿慈谷(あじたに)ヒフミはそう答えた。やはりというかなんというか、ブラックマーケットに一人で来るだけのことはある。結構図太い子だったらしい。

 

「ところで……私は皆さんの探し物を手伝えばいいんですよね?」

 

「本当はそんなことしなくても平気なんだけどねー。ま、安心院(あんしんいん)さんに見つかっちゃったのが運の尽きかな?」

 

「おいおいホシノちゃん、随分と酷い言い草じゃあないか。僕はあくまでヒフミちゃんの善意に付け込み──もとい、その罪悪感を利用させてもらっただけだっていうのに」

 

「どっちも大して変わらないでしょ」

 

「あ、あはは……まあ、ここで会ったのも何かの縁でしょうし、最後までお付き合いします。しばらくの間、よろしくお願いしますね」

 

 ヒフミちゃんはそう言って、ぺこりと頭を下げた。いや、それにしても……本当にいい子だね、この子。思わず主人公に仕立て上げたくなっちまうぜ。

 

 ──ま、それはいずれ。今はとにかく、ブラックマーケットを散策するとしようか。

 

 






 自称「普通(ノーマル)」のヒフミ、登場です。
 きっと極めて普通なんだろうな。

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