なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 ここまでが序章で、実質1話です。




第2箱「平等なだけの人外だよ」

 

 

「へえ、ここがシャーレのオフィスか。やたらこざっぱりとしているけれど、もしかして、始動してからあまり日が経っていないのかな?」

 

「"ご明察。偉そうにキヴォトスを案内しておいてなんだけど、私もここに来たのは最近なんだよね"」

 

 たはは、と笑いながら先生はそう(のたま)う。いやいやいやいや……それって僕の側からしてみれば、あんまり笑い話でもねーんだが。

 

 僕が元いた世界に戻るためには、この箱庭世界の情報を集める必要がある。のだが……この調子だと、十分な情報を集めるのには時間がかかりそうだ。ま、気長にやってくしかねーのかな。

 

 もっとも、3兆4021億9382万2311年を生きてきた僕にとって、その程度の時間は時間たり得ねえが。

 

「"それじゃ、改めて──安心院(あんしんいん)さん、ようこそ! ここが君が所属することになった、独立連邦捜査部S.C.H.A.L.Eだよ!"」

 

 先生は大仰に両手を広げ、満面の笑みで僕のことを歓迎した。他人と関わるのがそんなに楽しいなんて、つくづく変わったやつだぜ。普段の僕なら願い下げなんだがね。

 

 ──結局、僕はシャーレに所属することになっちまった。どうにも学籍がないと様々な行政サービスが使えないかもしれないらしくてね。それはちと面倒くさいから、まあ渋々の所属だ。

 

 ……ま、本当のところを言っちまうと、この世界で「生徒」というアドバンテージを失うことが惜しかった。どうにもこの世界は、テクスト・コンテクスト的な要素が重要視されるらしいからね。

 

 文脈が重視される世界で、〈先生と生徒〉という関係性を失うのはリスクでしかない。ま、〈大人と子供〉という括りの可能性もあるが……僕が〈子供〉の枠に収まるかは定かではない。

 

 そんなわけで、所属するなら先生との距離感が近いここ、シャーレしかなかったというわけさ。〈先生の庇護下〉で、〈超法規的な組織〉……これほど情報収集に適した環境もないだろう。

 

 そういえば、先生とアロナちゃんに関しては信用することにした。初対面の人間(人外だけど)にやたらと親切にするもんだから、何か裏があると思ってたんだが……あれは底抜けに善人なだけだ。

 

 シャーレが情報収集に適しているというのは、先生から聞いた話、そしてハッキングのスキル電侵官(ゼロデイ)を用いて連邦生徒会から盗んだ情報からそう判断したわけだが……。

 

「最近始動したとは到底思えねー量の書類が積み上がってるように見えるんだが」

 

「"え? ああうん。今日は少ない方だね"」

 

「『今日は』って……まさかこれ、1日で処理するつもりかい?」

 

「"0時を回っても寝る前に全部処理できれば、1日で処理したことになるだろうね"」

 

 おいおい、こんな量のお悩みや相談事、決済関連の書類を一人で? めだかちゃんみてえな超人ならまだしも、見た限りは普通(ノーマル)の先生が一人でやるのは酷ってものだろう。

 

「今は昼の12時なんだが……まさかこれから、先生は休みなしで書類仕事に勤しむつもりなのかな」

 

「"そうなるね。本当ならシャーレ所属になった安心院(あんしんいん)さんにも手伝ってもらいたいけど……初日にやることでもないしね。私は仕事しておくから、安心院(あんしんいん)さんは──"」

 

 

気に食わねえな

 

 

「"──居住区でも見てきたらどうかな。これから住むことになる場所だし……あっそうだ、あとは一階のエンジェル24っていうコンビニとか見てくるといいよ。ソラって子に挨拶しておいてね"」

 

「言われなくともそのつもりさ。僕は挨拶回りが得意でね、特に相手の後ろを取ることに関しては一日の長がある」

 

「"それ、挨拶じゃなくて暗殺が得意なんじゃないの?"」

 

「僕が得意とするのは暗殺じゃなくて惨殺だから、安心するといいさ(安心院(あんしんいん)さんだけに)」

 

「"余計物騒になっただけなんだけど……って、あれ? 安心院(あんしんいん)さーん? どこー?"」

 

 僕は先生との会話もそこそこに腑罪証明(アリバイブロック)でシャーレのオフィスを抜け出し、ソラちゃんとやらに挨拶しに行くことにした。

 

 ……そのあとは、先生にお灸を据えるとするか。あんまりこういうのは僕の柄じゃないが、快適に生活を送るためだからしょうがねーよな。

 

 覚悟しておけ。度肝抜いてやるぜ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 ──ナジミは本当に不思議な子だ。

 

 出会って数時間しか経っていないけれど、そんな風に感じたのは間違いではないと思う。

 

 なんというか、そうだな……()()()()()()()()()()()()()()。これ以上ないほどに、大人びている。ともすれば、私以上に。

 

 話していて感じたことは他にもいくつかある。キヴォトスの情勢に疎すぎるとか、意外と子供っぽいところもあるとか……。

 

 ──恐ろしく、強いところとか。

 

 あくまで私の感覚頼りの憶測でしかないけど、多分このキヴォトスの中でもトップクラスに強い。だからこそ、あそこまで自信満々でいられるのではないか。恐らく、銃器すらも必要ないのだろう。

 

 いやまあ、本当にキヴォトスの常識を全く知らないだけの可能性もあるんだけど……利発そうな子だし、そんなことは万が一にもないだろう。ないはずだ。

 

 ……ま、とりあえず今は、ナジミについて考えるのはここまででいいか。親交を深めるのは、別に明日からでもできるしね。今は現実を見る時間だ。

 

 さーて、書類仕事しよ……。

 

 普段ならユウカとかハスミとかが手伝いに来てくれるんだけど……今日はみんな用事があるらしくて、私一人で仕事をするしかないらしい。久々のワンオペというわけだ。

 

 いやそれにしても……書類山積みすぎない? 私の身長175cmなんだけど……なんで座高と同じくらいにまで紙が積み上がっているのだろうか。

 

「"はあ……泣き言を言ってる場合じゃない。できるだけ早めに終わらせて、睡眠時間を……?"」

 

 席につき、仕事を始めようとして覚えたのは、ほんの少しの違和感。書類の山の高さが、先ほどまでとはわずかに違う気がする。それに、書類も種類ごとに分かれている。

 

 向かって左の山は……私の承認が必要な書類。お手伝いしに来てくれる生徒だけではどうにもできない、不良の鎮圧関連とか、そういう類いの書類。規格はA4サイズで統一されており、少しのズレもなく積み上がっている。

 

 向かって右の山は、承認が必要ない書類。大抵の場合はお悩み相談とか、世間話の手紙とか……あとは決済書類とか、治安にはあまり関わらないもの。A4サイズの紙が多いが、個人的な手紙もあるため、形式は定まっていない。

 

 これらの書類の選別だけでもかなり時間がかかる上に、期限もバラバラなので統一させておく必要がある。万が一のミスがあってはいけないので、目を皿にする勢いで確認するのだが……一通り見た限り、それも揃っている。

 

 加えて承認が必要な書類の方は、特に重要そうなものには付箋が貼られていた。私が座っているところから見えやすいように、書類の右上あたりに。

 

 いつの間に? 一体誰がここまで? と思ったのだが今日シャーレの部室に入った人は、私とナジミしかいないことをアロナが確認してくれた。

 

 つまり、この書類を片付けたのは……ナジミしかいない。消去法でそうなる。それしかあり得ない……が、()()()()()()()()()()()

 

 だってナジミは、ほんの5分程度しかこの部屋にいなかったのだ。瞬きをした隙にどこかへ行ってしまったから、書類に触れるなんてことはできなかったはずだ。

 

「"……アイスコーヒーが、飲みたいな"」

 

 ふと思い立って、目を瞑りながらそう呟いてみる。この声が聞こえているのは、常識的に考えれば──つまり、盗聴をされていないのであれば、私とアロナにしか聞こえないはずだ。

 

 だが……だが。もしナジミが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のであれば……恐らくは。

 

「"でも、急いで仕事をしなきゃいけないし……誰か、手の空いている人がちょうど良くシャーレに──"」

 

「おいおい、随分わざとらしいじゃないか、先生」

 

 ──目を開けると、ナジミは私の机に腰掛けていた。その手に、淹れたてのアイスコーヒーを持ちながら。

 

「へえ? 先生は随分と仕事が早いらしい。これなら多少休憩しても問題ないだろうね。それじゃあ先生、コーヒーブレイクと行こうじゃないか」

 

「"……一体どこから──いつから、ここに?"」

 

「いやだなあ先生。とっくに分かっているんだろう?」

 

 

どこからでも、いつからでもさ

 

 

 ナジミは大手を広げ、大袈裟な仕草で、大仰な態度で、大胆不敵に、そう言ってのけた。

 

「それで、先生。僕の言いたいこと、当然分かってくれたんだろうね? まあ分かってるからこそ、しょうもねー演技をしてたんだろうが」

 

 私と視線を合わせながら、薄く微笑みながら、ナジミは私にそう問うた。それに対する私の答えは、大根な演技を始めた時からすでに決まっている。

 

「"私が君を頼らなかったのが気に食わない……かな?"」

 

「90点ってとこだね、落第だ。僕一人に限った話じゃなく、『先生が生徒に頼るのはできるだけ避けるべき』って考えが気に食わねえっつってんだよ、先生」

 

「"なるほど……手厳しいね。ちなみに、どうやったのかだけは聞いてもいいかな。一応これでも組織の長だからね、能力の把握はしておかないといけないんだ"」

 

 当然それもある。だが、実際のところ……私の興味本位の質問でもある。だからこの質問に答える義務は、ナジミにはない。

 

 しかし、恐らくナジミは隠し立てをするような子ではない。聞けば聞くだけ教えてくれるし、聞かなければ絶対に教えてくれないだろう。そういう子だと思う。

 

 だから私は、生徒が持つ神秘が関連しているのだろう、と予測を立てていた。しかしナジミの返答は、私の乏しい想像力など簡単に凌駕してしまったのだ。

 

「そうだな……先生、少年漫画は好きかな? それでなくとも、何かしらの特殊能力は」

 

「"……まあ、人並みに好きだね。登場人物の特殊能力に憧れ、羨ましがったものだよ"」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あまりに現実離れしたその言葉に、私が呆けてしまったのは、きっと私の落ち度じゃない。私は悪くない、はずだ。

 

「さっき出入りした時に使ったのは、好きな時に好きな場所にいることが出来るスキル腑罪証明(アリバイブロック)。このアイスコーヒーは飲み物を生成するスキル結束の自由(フリードリンク)で作ったものだし、書類の整理に関しては事務仕事が得意になるスキル工事務現場(オフィスワーク)でパパッと終わらせた。ま、後ろ二つに関しては僕も初めて使ったがね」

 

 今、彼女はさらっと言ってのけたが……一つでもキャラが立つ能力を、三つ有しているということか? いや、それにしたって随分妙な能力だけど……まるでこのためだけにあるみたいだ。

 

「"三つも特殊能力……いや、スキルを持ってるなんてすごいね。後ろ二つは確かに限定的だけど、腑罪証明(アリバイブロック)に関しては応用も効きそうで──"」

 

()()()? おいおい先生、こんなものは僕にとって数じゃない。取るに足らない、1京のスキルのうちの三つでしかねえんだぜ」

 

 ──絶句した。1京? 馬鹿げている。少年漫画の終盤もビックリのインフレだ。きっと何かの冗談だと思い込もうとして……やはりやめた。

 

 生徒を疑うわけには行かないし、それに……私にはどうにも、その言葉が嘘だとは思えなかった。

 

「僕は1京2858兆0519億6763万3867個のスキルを持っている。数少ない僕の取り柄なんだが、生憎今は三つほど貸し出していてね。回収できずじまいだったから、その分弱体化しているってわけさ。すまないね」

 

 冷や汗が出る。言葉が出ない。しかしナジミは、こちらの様子など全く意に介さずに二の句を継いだ。

 

「それじゃあまあ、本当の自己紹介といこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は安心院(あじむ)なじみ

 

シャ所属(しょぞく)  

生徒(せいと)であり  

 

 

平等(びょうどう)なだけの

人外(じんがい)だよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけだ。これからよろしくね、先生」

 

「"……よろしく、安心院(あんしんいん)さん"」

 

 握手を求めてきたナジミに、その一言を返しながら、どうにか手を差し出すので精一杯だった。

 

 ──だけど。

 

「ん? どうしたっていうんだい先生。有能で美少女な助手ができたんだ、もっと喜べよ」

 

「"はは……うん、それもそうだね。よーっし、折角安心院(あんしんいん)さんが気を利かせてくれたんだし、さっさと仕事終わらせて早く寝るよ!"」

 

「自分でそれ言ってて悲しくならねーの?」

 

「"ならない! 大人だからね!"」

 

「……変な大人だね。ま、変なら変なりに、せいぜい頑張るといいさ」

 

 間に合わせで、一時的なものだけど。ナジミの帰ってくる場所をつくれたのなら……私は、すごく嬉しいな。

 

 






 なんか安心院さんが頼ってもらえなかったことにヤキモチ妬いたみたいになってますが、こうやって多少子供らしいところも見せた方が先生の信頼を勝ち取れると思って行動してるだけです。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

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