書き溜めすると文字数がインフレするから困る。
それと今日誕生日なので二十歳になりました。
いぇーい。
今日はナジミはお休みで、便利屋の子達とラーメンを食べに行っている。それが私の認識であり、また対策委員会の生徒達も、おおむね同じ認識であったはずだ。
しかし蓋を開けてみれば、突然の救援要請だ。しかも私にではなく、アヤネに対しての通信。
最初に私を頼ってくれなかったことは、少し……まあまあ……そこそこ……結構……わりかし……かなり……物凄く……滅茶苦茶……これ以上ないくらいに悔しかったけれど、しかしこの行動はナジミが私以外を頼っているということを明白に示している。
【先生】として。【大人】として。大切な【生徒】が頼れる人が増えたというのは、これ以上ないくらいに嬉しかった。
……それはそれとして、救援の要請を受けた私達──この場合は用事で外していたホシノを除く対策委員会四人──は、即座にラーメン柴関の前に向かった。
しかし妙なことに、どれだけ近づいても爆発音や破砕音などが聞こえない。あのナジミが救援を呼ぶくらいだから、相当にとんでもない事態なのだと腹を括っていたのに。
──しかし、結局のところ。今回もまた、私がナジミのことを……ナジミの行動理論を、読み違えていたに過ぎなかった。とは言っても、これを予想しろ、というのは中々に厳しいものがある。
私達が到着した頃には──戦闘は終了していた。
流石に私も唖然とした。というか、対策委員会の生徒達も。これを見て何も感じないのは、きっと感情がない人間だけなんじゃないかな。
それはそれとして、何故だか──いや、便利屋のみんなの性格を考えれば妥当なのだけれど、どうやら便利屋のみんなも手伝ってくれたらしい。そのおかげか、周囲に被害はほとんど出ていないように見える。
……チナツと、もう一人の風紀委員の子が
うーん……とりあえず、カヨコに話しかけてみようか。一番物事を冷静に捉えていそうだし、ことの顛末を細かく教えてくれるはずだ。
「おーい、カヨコ。私達は
「……先生。こっちより先に
「"……
私がそう言うと、カヨコとチナツは目を見合わせ、どちらが話すかの相談を始めてしまった。私としてはどっちが話してくれてもいいのだけど、しかしここは生徒の自主性を尊重することにしよう。
「……私が話すと、風紀委員会に偏った話しかできないかもしれません。鬼方カヨコさん、先生にはあなたからお話していただきたいのですが」
「私? まあいいけど……風紀委員も色々大変なんだね。見た感じだと、別にやりたくてやってるわけじゃないみたいだし」
「
ふむ……
「まあいいや、それじゃあどうしてこうなったのかを話すけど──かくかくしかじかで」
「"なるほど。つまり便利屋のみんなは
「よく伝わったね……」
カヨコはなんだか驚いているように見えたけど……これくらいなら私にでも分かる。むしろ分かりやすかった。だからそこまで驚くことはないと思うけどな。
「だからつまり、
「"……どうしても
「先生……放っておくわけにもいかないでしょ。後ろのアビドスの子達も、このままじゃフリーズしっぱなしだよ」
後ろを振り向くと、全員
そんな風に、私もどうしようか迷っていたのだけれど、しかし
「いやー、突然呼び出して悪かったね、先生。しかし勝手に戦闘行為に及ばれたとはいえ、他自治区の生徒を独断で制圧したともなると、いち生徒である僕には判断しかねるところだったのさ」
「"……いや、まあ……うん、確かにここはアビドス自治区だし、全部終わる前にアヤネに連絡をしてくれたのはありがたかったよ。だけど
先ほどから
目測──
「いやはやしかしそれにしても、行政官とやらは随分とシャーレをナメているみたいだねえ。200人程度で制圧できると思われているとは──僕がいる限りは、だれが何人いようが制圧なんざさせねーってのによ。」
ナジミは築き上げられた生徒達の山の上に腰掛けながら、逆光の中で笑ってそう言った。
「"それで、ええと……どうしてこんなことを?"」
「……そんなこと私に聞かれてもな。アコちゃんからの命令だったし、うちの──ゲヘナの規則違反者を捕まえるためなんだ、戦闘行為は公務の一部なんだよ」
「イオリの言う通りで……便利屋68はかなりの手練れなので、中途半端な兵力で戦っても制圧される恐れがありました。なので一個中隊ほどの兵力を投入したのですが……」
「いやー、悪いねチナツちゃん。まあ僕がいたところを狙ったのが運の尽きだと思いなさい」
ひとまず、イオリとチナツにも話を聞いてみたけど……これ以上は話してくれなさそうだ。恐らくこの二人は、
そうでなければ不自然な点が多すぎる。ついさっきカヨコにも聞いた話の中にもあったけど、
確かにキヴォトスでは銃の引き金がやたらと軽いけれど、しかしそれにしても、風紀委員会の生徒達が無闇矢鱈に引き金を引くとは考え辛い。
しかもここは
と、そこまで考えたところで、イオリとチナツの前にホログラムで作られたシルエットが現れた。服装から推察するに、二人が言っていた
「なっ、アコちゃん!? 出てくるならもう少し早く出てきてくれてもよかったでしょ!!」
「ここからは、私が説明致しましょう。その前に……拘束している風紀委員二名を解放していただけませんでしょうか。こちらに無礼があったことは重々承知の上ですが──」
「話を聞けよ!!」
……なんとなく、イオリがどういう扱いを受けがちなのかが分かった気がするな。
「……アビドスは、どうしたいのかしら。私達はあくまで自分の身を守るために風紀委員を拘束しただけであって、拘束を解除するメリットは無いのだけど」
「そうですね……しかし、我々対策委員会としては、どうしてゲヘナのように強大な学校が、このような暴挙に出たのかは知っておきたいですし──」
アビドスのみんなに対してのアルの問いに、通信先のアヤネがそう答えた。そしてその答えを聞いた瞬間、アルは
「──なっ!? そ、そんなことしたらまた戦闘に……!」
「安心しなさい、
ノノミが驚愕の声を上げるも、しかしアルは目を瞑って笑みを浮かべながら、
「はい、ありがとうございます──それでは、現状については私、ゲヘナ学園風紀委員会行政官の
アコはそう言うと、先ほどチナツとイオリが語ったことを、もう少し正確な情報を交えて説明してくれた。何分くらいかかったかは分からないが、しかしそこまで長時間ではなかった、と思う。
「──というわけで、我々風紀委員会はそちらにいる便利屋68の身柄をなんとしてでも確保したいのです。アビドスの皆様、どうか我々にご協力いただけませんか?」
つまりアコが言うには便利屋68は悪逆の限りを尽くす大悪党で、なんとしてでも確保しなければならないくらいらしい。
ただ、私にはとてもそうは見えないな。
なんて、私がそんなことを考えていると、ナジミがアコの言い分に突っかかった。まあ彼女は唯一直接攻撃されたらしいし、多少は怒りの感情もあるのかもしれない。
「おいおい、ちょっと待ちなさいアコちゃん。まあ便利屋を引き渡せっつー言い分には一定の理解を示すがよ、しかしそれにしたって
「……? しかし、あなたは我々の公務執行を妨害したわけですし……ほら、一度は便利屋を匿ったでしょう? 本来ならば捕縛してもいいところを見逃してあげているのです。それなのに謝罪を強要されるとは……心外ですね、シャーレの
「200人いても僕一人に到底及ばなかった癖に『捕縛してもよかった』とは、これまた随分と大きく出たねえ。出来もしないことを出来るかのように語るのはやめた方がいい。それと僕のことは親しみをこめて
「ですから
アコはそう言うと「お願いします」とどこかに連絡し……それから対策委員会や便利屋のみんなにではなく、再びナジミに話しかけ始めた。
……流石に不自然な気がする。私はそう考えて周りを見渡すが、周りのみんなも同じように感じているのか、どこか訝しげな表情を浮かべている。
「たった今
「あのさあアコちゃん、僕の意見だけ取り上げて勝手に兵力を動かしちまうのは、少し早とちりが過ぎるんじゃないのかな。そもそも僕は『いきなり撃ったことを謝罪しろ』と言っているだけだしね」
「あら? これは失礼しました、一番前に立ち話すものですから、てっきりあなたの話していることがアビドスの総意かと思っていたのですが……つまり
「…………」
なんというか……
それなのに、
「そうですね……それではアビドス生徒会の方を呼んでいただけますか? シャーレ所属の
「……アビドスに生徒会はありません。その代わりに、我々アビドス廃校対策委員会が学校の代表です。特定の代表者は存在していないので、ここは私──奥空アヤネが代表者を務めさせていただきます」
通信で映し出されたアヤネは、アコを睨みつけるような目付きをしていた。恐らくだけど、ゲヘナが無許可で侵入してきたことが気に入らないのだと思う。
「奥空アヤネさん……確かアビドス高校のインフラ維持は、あなたが一手に担っているのでしたっけ? 本来であれば、ぜひ仲良くしておきたいところですが……しかしあなたの方は、そう思ってくれてはいないようですね」
「当然です! まさかゲヘナほどの強大な学校が、ここまで強硬的な手段に出るとは思っていませんでしたし……それに、
「アヤネの言う通り。
「そうですよ〜! そもそも第一、自治区に侵入してきたことに対する謝罪もありませんし!」
「あんた上から目線でムカつくのよ!! どう考えてもまずはそっちが謝るのが先でしょ!?」
アヤネの言葉に、シロコとノノミ、そしてセリカが追従した。どうやらナジミは、アビドスのみんなと既に馴染めたらしい。喜ばしいけれど、しかし今はそれどころではない。
注目すべきは、
──ふと、カヨコの方を見ると、既に動き出していた。聡いあの子は、既にアコの目的に気が付いたのだろう。しかし生徒に任せっぱなしというのも情けない話だから、
「……おやおや、困りましたねえ。このままでは建設的な議論は出来なさそうですし……はあぁ、ほんっとうに癪に触りますが、一応、本当にしょうがなく謝ってあげますよ
「……『
「"
……これまでの付き合いから察するにナジミは、あからさまな態度を取り続けたアコのいる場所に、「
そして恐らく、
理由は分からないが……
もっとも、そんなことをする理由は、私には思いつかないけれど。
「……なんだい先生。僕はこれからアコちゃんと交流してこようと思ってたんだが、どうしてそれを止められなくてはいけないのかな」
「"落ち着きなよ、
私が口を開こうとした瞬間、カヨコがナジミに近づき、肩を叩きながらそう言った。ナジミはカヨコの方を向くが、しかし再び私の方を向いてきたので、しっかりと答えておく。
「"さっきから気になってたんだよ、どうしてアコは、
「先生、もう君は分かってると思うけど、僕は
「
「……あー、そうだったねそうだった。そういえば
カヨコの説得で、なんとかナジミは冷静さを取り戻した──いや、すぐに矛を収めたあたりさっきまでのだって、実際は怒っているフリだったんだろうけど……しかし、
「カヨコさん……何のことを言っているのか、私にはさっぱりですね。そもそも私の目的が
「出来るでしょ、あんたなら。風紀委員の兵力をほとんど使ったのも、私達便利屋を追いかけてきたって
「"ちょっ、ちょっと待ってよカヨコ! なんだかその言い方だと、まるでアコの目的は
私はカヨコに確認を取ろうと、そう問いかけた。恐らくそれは違うのではないか、という意味で……が、しかし。カヨコは首を縦に振った。
「その通りだよ。アコの目的は先生のコントロール──
「うん、自分よりも生徒のことを優先する癖があるねえ。そのせいで僕が気を張ってないと、割と無理のあることをしたりするよ。残業しまくってそのまま次の朝になってるとかザラだぜ」
「……先生、もしかして自分──というかシャーレが、各学園にとってどれだけ脅威的な存在か……
「"……脅威?
カヨコの言葉に、私はそう返してみるけれど、しかしどうやらその言葉については、アコもおおむね同意できるようで。
「カヨコさんの言う通りです。
「そこまで僕と先生のことを買ってくれてるのはいいんだがね、しかし僕には、どうして僕のことを挑発したのか──それだけが分からねーな」
ナジミがそう問いかけると、アコは忌々しげな表情を一瞬浮かべた後、どうやらナジミを挑発しても意味はなさそうだと判断したのか、作戦を白状し始めた。
「……あなたを挑発した結果、私のいる所へとワープしてきてくれれば、
「『シャーレ所属の生徒から攻撃を受けそうになったから、それを許す代わりに先生の身柄をこちらによこせ』と、つまりはそういうことかな?」
「ええ、相違ありません。もっとも、カヨコさんと先生のせいで失敗に終わりましたが……まあいいでしょう。
アコはそこで一度、頬に手を当て、やたらと長い溜め息をついてから、再び話を続けた。
「きっかけはティーパーティー……ご存知ですよね。我らがゲヘナ学園と長年敵対──失礼、互いに睨み合っている関係である、トリニティ総合学園の生徒会です」
「……なるほどねえ、そういうことか」
「おや、何か心当たりがおありのようで……ふふ。どうやらそこが、シャーレに関する報告書を手にしている、と。そんな話が、うちの情報部から上がってきまして。ティーパーティーが知っている情報を、こちらが有していないというのも気に食わないので、色々と調べたんですよ」
アコは再びそこで話を区切り、そこにいる全員を見渡した。どういう意味があったのかは分からないけど、話す時のコツがあるのだろうか。
「結果、シャーレは我々にとって──キヴォトスにとって、特大の
「……先生と
「それを鵜呑みにするわけにもいかないんですよ、我々は。仮定の話ですが、シャーレの目的が
「しかもそこに突然僕が現れ、莫大な権力に加えて膨大な戦力まで手にした、と。ゆえにアコちゃん、君は僕達のことを管理下に置こうとしたってことか」
「ええ──もう包み隠さず言ってしまいますが、来たるエデン条約の締結に向けて、乱数は徹底的に排除したいのです。法律ではなく代表者の人徳のみが枷となっている組織とか、信用しろという方がどだい無理な話なので」
……なるほどなあ、世間的にはシャーレはこう見られているのか。私は政治には疎いところがあるけど、しかし新しい視点だ。
【子供】が政治をする関係上、学校の運営に関わる生徒達は、どうしたって物事は疑ってかからなければならない。
そんな風に毎日肩肘張って生きていたら、いつか限界が来てしまう。そうならないためにも、私達シャーレだけでも、【生徒】達が安心して信用できる組織にしていかなきゃな。
そうして、私が一人勝手に決意を新たにしたところで。
「……さて、お喋りはこれくらいにしておきましょう。私も長々と話していたせいで疲れましたし、それに──これ以上時間を稼ぐ必要もなくなったので。」
アコは確かに、そう言い放った。
「……時間稼ぎ? アコ、あんた今、時間稼ぎって──」
「ええ、ええ。私が今まで語ったことは全て本当です──が、しかし。
「……アコちゃん、さっき言ったけどさ。僕にとっては200人だろうが2000人だろうが誤差なんだって。それなのに──」
「
「あそこまで巻き込むって、あんたどんだけシャーレを抑えておきたいの……」
カヨコの表情を見るに、今の私達は相当まずい状況にいるらしい。
と、そこへ外野から見ていたアルが近づいてきた。何やら怪しげな笑みを浮かべ、やはりアウトロー仕草が堂に入っている。
「
……多分、格好つけたかったんだろうな。アルはこういう時、場の雰囲気に流されて格好いいことを言いがちだから。
「アコ行政官、だったかしら。私達の歩みをそう簡単に止められると思わないことね! どんな敵であろうと打ち倒して見せるわ!!」
──聞き馴染みの無い声が響いた。辺りは耳が痛くなるくらいに静かだったから、少し低めのその声はやけに響きが良かった。
声の主は、アルの目の前に、彼女を見上げる形で立っている。黒を基調とした制服に、彼女の白い髪と、紫がかった巨大な翼が、やけに映えて見えた。
極め付けは、紫色の瞳。まるで全てを見透かしているかのような、不思議な輝きを秘めた彼女の瞳が向く先は──アルの目。
続いてアルの方を見てみると、冷や汗が吹き出ていた。未だかつてないほどに顔色が悪くなっている。しかし笑みは崩れておらず、アウトローとしての矜持はなんとか守られていた。
直後、その生徒の存在を一瞬遅れて認識したカヨコとハルカが、同時に銃を取り出しながら動き出し、ムツキはアルと風紀委員らしき子の間に入りながら、手榴弾のピンを抜こうとした。
しかしその行動が終了するよりも先に、風紀委員の子は動き出していた。向かった先は──カヨコ。便利屋で最も戦術に精通しているであろうカヨコを、初めに狙うことにしたらしい。
風紀委員の子が、やけに大きい銃身をカヨコに向ける。目的を察知したアルが動き出すが、しかしこれも、やはり一歩遅れる。
そのまま風紀委員の子は、銃の引き金を──
──引こうとしたところで、突如銃口に掌が当てられたので、銃を撃とうとするのをやめた。
掌を当てたのは──ホシノ。いつもとは違って、眠たげな様子はすっかり鳴りを潜めていた。
「それで、えっと……おじさんいまいち状況が分からないんだけど、どうなっちゃってるのさこれ〜?」
ホシノはそんな風におどけながら、私達の方を向いて笑ってみせた。
やたら強い風紀委員の子、だーれだ。
一人しかいねえよ。
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