また便利屋。あと不安要素。
それから解釈違い注意報。この回だけだし分かっててわざとやってるので許して。
あれから──柴関前での戦闘から数日後。僕は
ちなみに、ちゃんとシャーレとして依頼を受けてここに来ている。先生とは午後からアビドスで合流する予定だ。
加えて言うと、どうやら
どうせ、どこかに寄付でもしたんだろう。
「アルちゃん、この『日めくり悪逆非道カレンダー』はどうする?捨てちゃっていい?」
「ダメよ!ここまで苦楽を共にした大切なカレンダーだもの!」
「アル様、それじゃああの『月めくり極悪非道カレンダー』は……」
「当然ダメ! ここまで辛苦を共にした重要なカレンダーだもの!!」
……一向に引っ越しの準備が整う様子は見えねーが、しかし文句を言うほどのことでもないので黙っている。
「つーかカヨコちゃん、もしかしてもしかしなくても、アルちゃんって愛着湧いた物を捨てられないタイプ?」
「ご名答──うちの社長、物の取捨選択ができない……というよりは、見た方が早いかな」
カヨコちゃんは小説を読みながらそう答える──随分と読み進めているように見えるが──僕は促されるがままに、アルちゃんの方を見た。
「……そんなに見ないでも分かってるわよ、
「それに?」
「……その、まだ使えるものを捨てるのって、少し抵抗がない? 分かるでしょう?」
……これ、僕はどう反応したらいいのだろうか。うん、言っていることは大いに理解できる。どころかむしろ、共感できると言ってもいい。
だけどなあ……いや、まあ、そういうこともある……のか? この子は仮にも、というより、結構マジで
そういう意味も込めて、僕はムツキちゃんとハルカちゃんの方を見る。が、しかし、ムツキちゃんはいつも通り楽しそうにくふふと笑うだけだし、ハルカちゃんは周囲を見回したあと、何が何だか分からないといった様子で、にへらと曖昧な笑みを浮かべるだけだった。
「どう?
「ちょっ、かわいいって何よ!? せめてかっこいいと言いなさい!!」
「かわいいかっこいいとか以前に、
この前助けてもらった報酬として、便利屋当てに結構な額の金(当然クリーンなものだが)を振り込んだと思ったんだが……まさか把握していないのではないか。
そうも思っての質問だったわけだが、しかし。
「いや……
「……………………ふーん」
ふーんじゃない。
じゃああれか。僕が思いつきで「猫をあげる」と言ったから、律儀にも便利屋は、このイカしたオフィスを引き払い、ペットを飼える事務所に引っ越すというわけか。
「あー、ちなみにどうしてそこまで、君達は猫を飼うことに肯定的なのかな。別にいいんだぜ、無理して僕の提案に乗っからなくても──」
「今更やめるとか言わないでよ。」
「──いや、うん。無理してるわけじゃないなら別にいいさ。しかし、なんというか……そこまで猫が好きなのかい? それこそ、惜しげもなく引っ越しを決断できるくらいには」
カヨコちゃんがやたら強めの否定をしてきたので、再び確認の意味を込めて、他の便利屋の顔を見る。ムツキちゃんと目が合った。
「そりゃーそうでしょ! だって私達、みーんな猫ちゃん好きだよ? アルちゃんが猫中好きくらいで、他全員が猫大好きだし! ハルカちゃんなんて、もう猫草とか猫じゃらしに水あげてるもん」
「へえ、猫じゃらしって栽培できるのか……」
どう反応していいものか分からなかったので、ひとまずそう曖昧に返しておいたが、そんなことは当然知っている。知っているが、しかし、猫じゃらしを栽培するというのも、なんだか変な話に思えるな。
ハルカちゃんの方を見ると、やはりにへっと笑っていた。確か彼女の趣味は「雑草を育てること」だったか。趣味が役に立つと嬉しいよな。
「ハルカちゃんの趣味が猫のためになりそうなのは、素直に喜ばしいが……しかしこの場合、以外というよりは、むしろ意外だね。アルちゃんは猫好きそうな印象だったけどな」
「いやいや、もちろん私だって猫は好きよ? みんなが好きすぎるというだけで、別に苦手だとかそういうことはないわよ」
「ふむ、なるほど、それならよかった。僕には見えるようだぜ、将来大物になったアルちゃんが、膝の上に猫を乗せ、その額を撫でながら、いかにも『
「なっ……何よそれ、あまりにもアウトローすぎるわ! カヨコ聞いたかしら!? 猫ちゃん一匹飼うだけで、私達の生活に彩りが──って、さっきから読んでる小説……悪戯シリーズ?」
おや、どうやらさっきからカヨコちゃんが読んでいた小説、有名なシリーズだったらしい。アルちゃんはカヨコちゃんに近づいていき、ひどく懐かしげにその表紙を眺めていた。
「うわー懐かしい!『イタズラビリンス』よね、それ! カヨコ、一体どこで見つけてきたの? ここ最近見かけないから、てっきり失くしちゃったのかと思ってたわ!」
「押入れの奥のほうに埃被って眠ってたよ。見つけちゃったし、折角だから読んでみようと思って読み始めてみたんだけど……意外と面白いね、これ」
「アルちゃん、それ読んでから一時期ものすごく影響受けてたよね~。それで、かっこよさにあこがれて自分でつけた二つ名が──」
「『
ははあ、なるほど。つまりアルちゃんはちょうど多感な時期に、いかにも中二病みたいな設定の小説を読んでしまったせいで、中二病になってしまったのか。
僕はその話題で、アルちゃんのことを突っつこうとしたが、しかし本人は満足しているようなのでやめておいた。余計なからかいを入れるもんでもないしな。
ん? つまりカヨコちゃんの《
アルちゃんが付けた異名なら、カヨコちゃんは「小っ恥ずかしいからやめて」だなんて言わねーだろうし。
と、僕がそんなことを考えている間に、便利屋のみんなはアルちゃんの良い所で古今東西ゲームを始めてしまった。アルちゃんはしきりに「やめなさい!」と叫んでいたが、しかしムツキちゃんと、案外乗り気だったカヨコちゃんに押し切られ、ゲームは始まった。
一手目はハルカちゃんからのスタートだったが、ハルカちゃんの回答が「全部!!」だったため、即座に終了しちまった。これそういうゲームじゃねーって教えてあげたほうがいいのだろうか。
いやー、しかしさすがに危うく笑い転げちまうところだったぜ。ハルカちゃんがアルちゃんのことを慕っているとはいえ、まさかそこまで元気いっぱいに言い切っちまうのは想定してなかったな。
きっとそれだけアルちゃんが、優しく善良な子であるということなのだろう。事務所に「一日一惡」と書かれた掛け軸を飾っている割には、随分と甘ちゃんらしい。
だけどその甘さは、嫌いじゃないぜ。
──しかし。一つだけ言いたいことがあるので、それだけは言わせてもらうとしよう。シャーレとしての業務に関わる話だし、さすがに文句をつけられる謂れはねーだろ。
「君達さあ、引越しの準備中だってこと忘れてないだろうね?」
「……あっ!」
……もう僕は何も言わねーよ。
……あえて先に言っておくが、今の僕は
流石にこの後晒す醜態を、3兆年生きた僕本来の姿だとは思わないでくれよ。
あんなに恥ずかしい思いをしたのは、これが最初で最後だぜ。
その後。僕もスキルを使ったりして、なんとか午前のうちに引っ越しの準備を終わらせ、荷物をトラックに積むことができた。
「ふう、これでいいかな? いやしかし、それにしたって、積荷が随分とギリギリになっちまったぜ。本当に捨てなきゃいけないものは無かったのかい?」
「だから何度も言っているでしょう? 使えるものは使えるまで使うのよ!! そうでなければ作った人にも失礼だし、そんなのアウトローっぽくないもの!!」
これまたアウトローとはかけ離れた発言だ──僕はもうこの子のことをアウトローとして扱うのをやめようと思う。
ここ数時間で分かったことといえば、アルちゃんは夢を追い求めているだけの生徒だということ。そして、便利屋は全員が全員
今だって僕の目の前で、アルちゃんはもみくちゃに……いや、もみくちゃにしているのはムツキちゃんだけだが、しかしカヨコちゃんも楽しそうだし、ハルカちゃんも幾分か柔らかい表情をしていた。
きっとこういうのを、青春と呼ぶのだろう──僕にはどうにも、縁のないものだ。
有していたであろう青春の記憶は──記録は、失われてしまったわけだし。だからと言って、どうということもないし、どうとも思わないけれど。
「……
……天気予報では、今日は春の陽気と言っていたはずなんだが……やけに肌寒いな。そんなことを考えながら、自分の二の腕をさすった。
どうにも内側の方から、もっと具体的に言えば、身体の芯の方から冷えてくる。体温を上げるスキルを使うが、しかし一向に暖かくはならなかった。
不思議なもので、そうなってくると、なんだか自分の体調が悪いのではないかと疑えてくる──もっとも、人外たる僕に、体調不良なんてものはないのだけれど。
しかし……本当に寒い。いや、寒いという表現は、この場合的確ではないかもしれない。寒いというよりはむしろ、
──
この僕が? だとしたら、笑えてくるね。
「
おっ──と。どうやら色々と考えているうちに、アルちゃんが接近してきていたらしい。距離にして、およそ50cmってとこか。近えよ。
……やけに、視点が低いな。
「ちょっと
「ああ、なるほど……いや、そこまで心配しなくとも大丈夫さ。ほんの少し、肌寒かっただけで──」
僕はそう言って、何でもないように立ち上がろうとするが、しかし。
「ダメよ。嘘を吐かないで。」
そう言ったアルちゃんに手を掴まれてしまったので、僕は渋々立ち上がるのをやめた。何がそんなに気になるんだか。
…………。
「……実は、アルちゃんに一つ、聞いておきたいことがあるんだが……引越しの手伝いをしたお礼として、その質問に答えてくれないかい? そんなに時間は取らないからさ」
「それくらいお安い御用よ。というか、それくらいタダでお受けするわ」
「そうかい。それじゃあ聞くが──」
「……いや、変なことを聞いたね。さ、アルちゃん。そろそろ引っ越し先へ」
「私は」
……わざわざ遮らなくても、別にいいんだぜ。
「私は──私から見た
「そうかい、それじゃあ」
「だけど!! だけど、同時にこうも思った──
「……この前の柴関での件は?」
「あれもノーカウントよ。というか
アルちゃんはそう言うが……しかし中々困ったもんだぜ、これは。何せ僕はキヴォトスに来たばかりだから、友達なんて本当に数えるほどしかいねーんだからさ。
だが、答えないと話は進まないか……気乗りはしないが、ここは正直に答えてしまおう。
「ないね。僕は誰かを、頼ったことはない。全部自分一人で出来てしまうし、自分ができることをわざわざ他人に預ける趣味もない。だから──」
「だったら」
……だったら?
「だったらどうして、
「……さあね? 案外気まぐれで──」
「そんなわけないでしょう。それに『上手くやれているかな?』なんて、
「…………かも、しれないね」
僕がアルちゃんの質問にそう返したのは、果たして何故だったのだろうか。どうしてそう返してしまったのだろうか。
「別に気にすることないと思うけど……人間誰しも、頼り頼られの関係性でしょう?
アルちゃんは後ろ──便利屋の皆の方を少し見ながら、僕に向かってそう言った。きっとアルちゃんは、自分も便利屋の皆に助けられてばっかりだと言いたいのだろう。
「いまいち分かっていないようだから教えてあげるけどね、これでも私達、
「ああ、うん。僕っておもしれー奴らが大好きでさ──」
「でもね! 一つだけ文句を言わせてもらうわ!! あなた全然私達に恩返しさせてくれないじゃない!! そこが気に入らないのよ!!」
「──気に入らない、かあ。それは痛いな、僕としては受け入れ難い損失だ……それで僕は、君達に気に入られるために、何をすればいい?」
「頼りなさい。私達を、便利屋68を、便利屋としてではなく、よき友人として。友達を助けるくらいのことは、せめてやらせてちょうだい。アウトローとしても、人間としても、大切な友達とは──」
アルちゃんは僕よりも一足先に立ち上がってから、僕に向かって手を伸ばした。その手が意味するところを、理解できない僕じゃない。
「……対等でいたいだなんて、そんなことを口にしたのは、先生に次いで君が二人目だぜ、アルちゃん」
「あら、そう。それじゃあ私は、
僕はアルちゃんの差し伸べた手を取りながらそんな軽口を叩く。なんとなく空を見上げると、先ほどよりかは青く見えた。
アルちゃんの後ろでは、便利屋の皆がニヤニヤと笑っていて──ハルカちゃんだけはアルちゃんに尊敬の念を送っていたが──なんだか僕まで、笑えてきてしまった。
制服の袖をまくりながら、アルちゃんに手を引かれ、立ち上がり、視線を交わす。一瞬真剣な表情で僕の顔を見てきたが、しかし直後にいい笑顔を浮かべて、こう言ったのだった。
「うん、さっきよりも全然いい表情だわ!」
……そうかよ。そりゃあよかったぜ──これで僕も、ようやく少し安心できる。
18歳の女子が知らん世界に一人で放り出されたら怖いよねっつー話です。本来の
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