本日2話目です。
ちょいギスアビドス。
話題が話題だからしょうがない。
あれからアルちゃん達とは別れ、今の僕はアビドス高校へと向かっていた。情けないことに、僕は3兆歳以上年下の人間に勇気付けられる形になったわけだが、もうこの際いいかな。
そもそも最初の僕は、あくまで
マイペースな連中を見て──便利屋68のおかげでそれに気付けた。僕は自分でも気付かないうちに、自分のペースを忘れていたらしい。急いては事を仕損じるとも言うし、少しずつ僕らしさを取り戻していくとしよう。
「というわけで、対策委員会室の前まで来たわけなんだが……」
いや、活気が無さすぎるだろ。ちょっと前までは、みんな集まったら銀行強盗だのスクールアイドルだので騒ぎあってたっつーのに、なんだこの変わりようは。
まだ教室に入ってねーっつーのに、辛気臭さがこれでもかってくらい溢れ出てやがる。砂漠なのに湿気てどうすんだ。カビちまうぜ。
透視するスキル「
先生も困っている──が、ハゲ散らかしたマスコットにはなっていないので、シリアス風のギャグ展開とかじゃなく、マジでシリアスな空気感らしい。
と、いうことは……
僕はそこまで分析し、教室の扉に手をかけ、中に入ろうとしたところで──一度手を離し、再び考え始めた。
「さて、この場合の僕は、
扉の向こうに声が聞こえないように、口の中だけでその言葉を反響させる。いわゆる独り言というやつだが、しかしこれが中々馬鹿にならない。
人間というのは頭で考えるよりも、声に出した方が物事を理解できるもんなんだよ。お前は人外だろって野暮なツッコミはしないでおくれ。
「それにしたって……サプライズのしがいがないなあ。この状況で僕が普通に教室に入ったとして、そこからどう動いたって、シリアスな空気感は吹き飛ばせねーだろうよ」
もちろん、空気感を変えるスキルを使えばその限りではないが……僕はそこまで空気の読めない人外じゃない。
ドッキリを仕掛けるにしても、後ろに回り込むだけじゃあパンチに欠けるし、何より芸がないよな。そして僕らしくもない。
だからまあ、この場合は。
「『
辛気臭え空気感を、僕のあり得ない登場方法によって
ついでに大声も出すか。折角だしな。
というわけで、そうと決まれば善は急げ──
もっとも僕にとっちゃ、善も悪も、くだらねー指針でしかねーがよ。
「というわけで
「うわあぁぁぁぁ!!!! 何してんのよ
はい、大成功。
わっはっは、どうしたんだいセリカちゃん……
「いや、いやいやいや!!
「た、確かにそうだね……ただ、その、私としては、セリカちゃんの悲鳴にびっくりしたけど……」
「えっ、嘘でしょアヤネちゃん!? ノノミ先輩、もしかして私の声の方が大きかった……?」
「……はい! 閃光弾みたいでしたよ☆」
「うるさい上に輝いてるってこと!?」
よしよし、思った通りの展開だ。セリカちゃんを起点として、アヤネちゃんとノノミちゃんに誘爆した。こうなればもうこっちの物だぜ。
先生の方を見ると、表情で「"ありがとう本当に助かったよ! このタイミングで完璧な登場をしてくれてありがとう
一つの表情に意図を込めすぎだと思うが、しかしまあ、意図なんて多重に編み込まれるものか。
「えっと……
「そりゃあもう色々とね。シロコちゃんのあずかり知らぬところでさえ、僕は常に成長し続けるんだぜ。僕が一定だとは思わないことだ」
「ん……確かにそうだけど、それ以上成長するの? もう十分強いのに」
「まだまだ学ぶことだらけさ、学びたいことだらけさ──というわけで、君達が得た情報を教えておくれ。この学校の廃校を阻止するためにも、情報が不可欠だ」
ここまでで十分場はほぐした。さっきまでよりも、辛気臭い空気感は薄くなっている。そして後輩達が元気になったんだから、
「……そういうことなら、おじさんがまとめて教えてあげるよ。いや、ごめんね〜?
「僕が遅刻したのは僕の責任だから、別に謝らなくたっていいさ。それじゃあ、説明解説は頼んだぜ、ホシノちゃん」
「あいさ〜」
そんな風に、いつも通りにふにゃふにゃとした感じで、机に突っ伏したままのホシノちゃんは話し始めた。
事態の発覚はつい先ほど。僕よりも先に学校に来たアヤネちゃんとセリカちゃんが、柴関の大将から聞いた話らしい。
曰く、
アビドス自治区の土地を管理しているのは、当然ながらアビドス高校である。それなのに、出した覚えのない立ち退きの命令が来ていたとなると、流石に訝しすぎる。
そう思って二人は、地籍図という
結果から先に言うと、土地のほとんど全てがカイザーコンストラクション──
そしてついでに、
どうしてそんなことになっていたのか。答えは前生徒会が土地を売り払ったから。借金を苦にして、必要のない──言い方が露悪的すぎるかもしれない──学校の運営に必要のない土地を、売り払ったらしい。
もちろん、だからといって、前生徒会が悪いというわけではない。砂漠と化した土地を売ることに、さしたる抵抗があろうはずもないし、
まあつまるところ、
アビドスに金を貸したのはカイザー。
アビドスから土地を買ったのもカイザー。
どう考えたって、
そうして、アビドス自治区は徐々にカイザーコーポレーションに蝕まれていき──
「──最後に残ったのはこの土地、つまりはアビドスの校舎とその周辺だけってわけだね。いや〜、本当に参っちゃうよね〜。あはは、本当に……」
「……まあそう気を落とすなよ、ホシノちゃん。君が今なにを考えてるのかまでは分からねーが、しかし一つだけ確かなのは、君が責任を感じるようなことはまったくないということさ」
「……それ、慰め? そうやって慰めるくらいだったら──おじさんの腰でもマッサージしてよ〜。最近もう腰が痛くて痛くて、湿布台が馬鹿にならなくてさ〜」
ホシノちゃんはそう言って腰を叩く──
しかしそうなると困ったもんだぜ。下手に本音を引き摺り出そうものなら、
丸く収まっちまったら、多分、何も変わらねーから。
変われないから。
「"……少し、いいかな?"」
全員が口を塞いだタイミングで、先生はそう話しかけた。誰に向けてでもなく──といった風を装っているが、実際はホシノちゃんに向けているのだと思う。
「"みんな、自分たちがもう少し早く気付けていれば、もっと多くのところに目を配れていればって思ってるみたいだけど、それは違う。違うんだよ、みんな。そうじゃない──だって、みんなは悪くないんだから。だから、
「先生……」
「"悪いのは
「……それも、そうだね。あはは、おじさんとしたことが、ちょっぴり真面目ぶりすぎたかな〜?」
「ホシノ先輩、真面目だったことあったっけ……?」
「えー!? 酷いなーセリカちゃんは!! 私ってば、こんなに腰が曲がるまで働いてるのに……」
先生のおかげでなんとか持ち返し、どうにか会議もまともに終わりそうだ──と、僕がそう思ったのがいけなかったのかは分からないが、それと同時にアヤネちゃんが大きな声を出した。
「たっ、大変です!! 天気予報に砂嵐警報が出てます!! あと5分で来るって……」
「えっ!? そ、それなら早く窓を閉めにいかないと、折角掃除したのが台無しになっちゃいます!! ほらホシノ先輩、立ってください!!」
「ええっ、ちょ、ちょっと急すぎるよ〜!? いや、待ってよノノミちゃーん!! おじさん猫じゃないんだから、脇の下に手を入れて運ぼうとしないでほしいな!?」
ホシノちゃんはノノミちゃんに、猫みたいに持ち上げられながら教室の外へ行ってしまった。まあ彼女達ならうまくやるだろう。
それにしても……
そんなことを考えながら、僕も対策委員会室を後にし、窓を閉めに行く──そこにシロコちゃんも追随してきたので、どうせ何か話でもあるのだろう。
ホシノちゃんもいないし、都合がいい。
「……さて、シロコちゃん。お話は窓を閉めながらにしよう。砂なんざ僕のスキルで消し炭に出来るが、しかしそれだとこういう時間は作れないしね」
「ん……
「ほう? そんな紙ペラ一枚で、どうやって空気感をあそこまで重くできるのかは分からねーが、そう言うのなら拝見させて──」
……おいおい。
この世界で
「
「……僕の一存では、決めかねるな。これは先生と共有するから、僕が預かっても問題ないかな?」
「……うん。ありがとう、
僕はそう言って、シロコちゃんからその紙きれを──退部届を受け取った。ホシノちゃんの筆跡で、しっかりと、間違いなく署名がされてやがる。
……どうしてそうなるかな。僕が言えた義理じゃねーってのは重々承知の上で、さっきまでの自分のことは棚に上げて、好き勝手言わせてもらうが。
奇跡でもなんでも、起こしてやるっつーのにさ。
いやはや、ままならないね。
そんなことを考えながら、僕は校舎の窓を閉める。
直後訪れた砂嵐はまるで、アビドスの行く末を──対策委員会の荒んだ内心を、容赦なく表しているかのように感じられた。
ちょいギスというか、不穏。
もっと透き通った青春って感じにしたいね。
感想・評価・ここすき等よろしくね。