段々と怪しくなってくる。
そういうものです。
「いやー、しかし感慨深いものがあるねえ。僕たちはかなり仲良くなったとはいえ──初めての遠出が、まさか
僕たち……つまりシャーレと対策委員会は、ヒナちゃんが先生に伝えてくれた「砂漠でカイザーが何か企んでいる」という情報をもとに、わざわざこんな砂漠まで歩いてきたってわけだ。
しかも暴風のせいで砂まみれ。鬱陶しいことこの上ないから、もういっそのことアビドス砂漠ごとそのカイザーの企みも消し飛ばしてしまおうか。
「"みんなはぐれないようにねー! 砂漠で遭難したら終わりだから! 私みたいに三日間飲み食いせずに歩き回ることになるよー!!"」
「先生、あれは先生が
「"……そうだね、そうだったね……"」
僕の後ろで先生とシロコちゃんがそんなことを言いながら、暴風に目をひそめているが……どうする? 砂を避けるスキルを使うか──。
「──いや、その必要はないか。アヤネちゃん、君は今回高校から通信で遠征に参加しているわけだが、それならレーダーで見えているね?」
『……はい。一体何をしようとしてたのかは聞きませんが……恐らく
「一体
ホシノちゃんに普段との違いは見受けられない──というわけでもなく、やはり言動の節々に
もっとも、焦りが見えるのも当たり前だとは思うぜ。そりゃあそうさ、誰にも相談せずに
むしろ、普段通りのままでいられる方が困る。仮にそうだったとしたら、そんな人間に僕ができることは一つだってない。
そういう奴──つまりは、嬉々として自分にとっての地獄に飛び込んで行く奴──をどうにかできるのは、まあ先生とかでギリだろ。
ホシノちゃんは、
そこまで分かっていながら、どうしてそんなことを──いや、それは簡単か。
いいね、自己犠牲って。素晴らしいよ。
他人は救えるもんな。やるなら
ちなみにだが、先生への情報の共有はとっくに済ませている。しかし流石に先生でも、こういったことに即座に対応するのは不可能らしい。
一晩考えると言っていたが、一晩で答えは出るのかねえ。優しい先生のことだ、どうせ出る答えは「ホシノちゃんを引き止める」だと思うがよ。
「──というわけなんだけど、
「ん……いや、すまないねホシノちゃん。考え事をしていたせいで話をまったく聞いていなかった。なんの話だったかな?」
「だから、アビドス砂祭りをもう一度開催できるかな〜って。
「……それ、僕がどういう性格か分かって聞いてる? そういうのは先生に聞いた方が──」
「もう聞いたよ〜。『"また人を呼べるように頑張らなきゃね"』だってさ。それで、
……ホシノちゃん、
こちとらは忖度とか遠慮とか、そういうのとは一番遠くにいる人外だぜ? 一体何が目的だろう、やはり僕が調べた
まったくさ、全員の注目が集まってるところで、こんなことを僕に言わせねーで欲しいんだが。僕が嫌われたらどうすんだっつーの。
「ま、正直なところ無理だろ。砂祭りとやらに関しちゃ、僕もついこの間興味本位から調べてみたが……ここ数十年は開催されてない上に、今の方が砂漠化は悪化してる。それに集客力もねーから、まあ普通にやってたら無理だろうね」
「……だよね〜。いやー、やっぱり無理か〜!
「いや、この世に
当然そんなことをすれば例の頭痛──スキルを使った時、ごく稀に発症するあれ──が襲いかかってくるだろうが。未だに条件は分かっていない。ランダムなのか、規則性があるのかすらも不明のままだ。
「……そうなんだ。でもそこまで
「ま、
「そうさせてもらうよお〜」
……やっぱり明らかにおかしいね。
確かにホシノちゃんは普段からうへうへふにゃふにゃとしていたが、しかしそれにしたって「カイザーが砂漠で何かしている」というのに、ここまでうへーっとしているというのはおかしい。
いつもの君なら、こういう時は
現にシロコちゃんはともかくとして、ノノミちゃんまでホシノちゃんのことを訝しげな目で見ている。取り繕いすぎて、継ぎ接ぎすぎて、却ってチグハグだ。
……ホシノちゃん、どうせ君は、僕の言葉を聞いて。
とにかく、気に食わない。
「……っと。みんなー、そんなことを話している間にまたまたオートマタとドローンのお出ましだよ! ほんっと、この辺はなんでかこういう兵器が多いねえ──」
……はあ、ひとまず考え事はこいつらを片付けてからにしようか。とにもかくにも、落ち着いた状況じゃないと、銃声がうるさくてたまったもんじゃねーし。
というわけで、長ったらしくてまだるっこしいシーンは全カットだ。機械を壊すだけで、劇的な戦闘なんかは一切なかったからね。どうしても機械を壊すところが見たいなら、動画サイトで調べて見りゃあいい。
「──そんなこんなで、ここまでやって来たわけだが……誰か、
「……ううん。そもそもホシノ先輩以外、砂漠地帯に行ったことはないし、それに」
「うん。私だってこんなの見たことない──ただ、
……どうしてアビドスの連中が知らないことを、ヒナちゃんが知っていたのかは分からねーが、どうやらゲヘナの情報部とやらは相当優秀らしい。
と、そんなことを考えているうちに、アヤネちゃんが通信先で深刻そうな声を出しやがった。
『……落ち着いて聞いてほしいのですが……
「……もしかして私たち、もうあちらに捕捉されてるんですか?」
「ちょっ……どうするのよ!? とりあえず、前の方にいる奴らを──」
「"いや、みんな落ち着いて。どうやら今のところ、向こうに争うつもりはないらしいから──それに、どうやら向こうも話があるらしい"」
先生の視線の先では……やけにデカいロボットが施設から出てきていた。いかにも高級そうなスーツに身を纏い、威圧感を演出している。
まあ、要するに。あいつが
「"……ここは、私と
「なっ、ちょっ……先生!?」
ホシノちゃんが驚きに目を剥き、何やら大きな声を出してるが、しかし先生なら
……まあとはいえ、流石に数十の銃身の前にノータイムでその身を曝け出すとは思っちゃいなかったが。
「まったくさ、前に『盲信するのはやめろ』と言わなかったかい? 撃たれたらどうするんだよ」
「"いいや、撃たれないよ。だって、気に食わないからってすぐに銃を撃ったら【大人】っぽくないし、大人気ないでしょ?"」
「……根拠があるなら、もう僕は何も言わねーよ」
念のため先生を銃弾から守れるようにスキルを使いながら、互いに歩み寄り──後ろには対策委員会達も付いてきている──そして僕たちは、他の連中とは明らかに違うロボットと対峙した。
「"初めまして、私はシャーレの 観測不能 です。どうぞよろしく。そちらは?"」
「……なぜ、こんな所に貴様がいる? いや、今はそんなことはどうでもいい……名乗られたからには名乗り返さねばな。私はカイザーPMCの理事を務めている者だ」
へえ、やけに律儀じゃねーの。先生は僕に度々「まず名乗ろう、誰が相手でも。そして名乗ってもらおう、誰が相手でも」と言っていたけど、まさかこんな場面でも実践しちまうとは。
肝が座っているのか、それとも怖いもの知らずなのか──これどっちも大体似たような意味だな。ともかく、強気に出ているのは確かだ。
「さて……それで? かの名高きシャーレの先生ともあろうものが、こんな
「
「
カイザー理事はアビドスの連中……おそらく首が向いている方向的に、セリカちゃんあたりに話しかけた。ここから何を言うかによっては、ちょっとまずいかもな。
相手から攻撃されていない以上、僕も下手に動けない、つまり
「なっ……なんですって!? あんた何様よ! うちの自治区を散々騙して、むしり取れるだけむしり取っておいて、自分たちがふほ──」
「セリカちゃん、いったん落ち着きましょう? そんな風に怒ってしまうと、建設的なお話合いができなくなってしまいますよ~?」
「──っ、ノノミ先輩、でも……!」
セリカちゃんが「不法侵入」と言いかけたが、そこでノノミちゃんが話を遮ってくれたおかげで、
もっとも、気休め程度でしかねーがよ。
「さて、所有地についての話だったか。それについてはどこへでも問い合わせたまえ、すべて合法の取引によって得た土地だ──まあ、それでも文句を言いたいなら言うといい。個人的にはおすすめはしないが」
「そういやさ、君たちカイザーはここで一体何を企んでいるんだい? まさかとは思うが、こんな砂の海で探し物でもしているわけじゃないだろうね?」
「
「……へえ、僕のことも知っているのかい? 随分と耳聡いらしい、というか光栄だぜ、あのカイザーグループの理事に名を知られているだなんて」
「ふん、警戒しているだけだ。君とは
カイザー理事は、どこかに電話を掛けるそぶりを見せながら、そんなことを口にした。
なるほど、なんとなく先生たちに着いてきたが、しかしあながち間違いでもなかったらしい。なんにせよ、荒事にならないのであれば──?
……待てよ。カイザー理事は、今何と言った?
それに、
おいおい、ちょっと待てよ。それじゃあ、まるで──
──
「……そういえば言い忘れていたのだが、ビジネスというのは
「"……まさか"」
理事がそう言った直後、通信先のアヤネちゃんが、ほとんど泣き声のような声で報告してきた。内容は──アビドスの借金について。
『……た、たった今、連絡が入って、アビドスの信用ランクが、最低ランクに下がって……来月からの利子額が、9130万円になったって連絡が……!』
「えっ、嘘っ!? 9000万!? ちょっと、アヤネちゃん、今はそんな冗談を言ってる場合じゃ……」
『…………冗談、なんかじゃ……』
「……嘘、でしょ? そうだよね……?」
セリカちゃんがいつもの調子で、あえて高いテンションでそう言うが、アヤネちゃんの声が帰ってくることはなかった。
セリカちゃんに限らず、その場にいる全員──当然僕も含む──が言葉を失うが、そこにカイザー理事が追い討ちをかける。
「おや、これは大変なことになってしまったな? 変動金利が3000%とは……文字通り桁違いではないか。しかしこのままでは、返済能力があるのかどうか分からんし、来週までに3億円の保証金を納めて、返済能力を証明してもらおうか」
「3億……!?」
「そんな!? 今だって利子だけで精一杯なのに……」
……僕のミスだな、これは。いや、厳密に言えばこの状況は、僕たちが何もしなくても発生したのだろうけど、しかし阻止することはできたはずだ。
恐らく、前の僕ならば……いや、今その話をしても仕方がないか。それに、
「……みんな、帰るよ〜。このままここにいても、色々といちゃもんつけられちゃうだけだからさ〜」
「……ホシノちゃん、すまない。今回に関しては完全に僕のミスだ。もっと早く──」
「んーにゃ、しょうがないよ。
ホシノちゃんはそう言うが……しかし、使える力を万全に使わないことは、怠慢っつーんだぜ。だから僕は、考えうる全てのパターンを想定して動くべきだった。
……
「ふむ、流石に賢明だな、副会長……いや、小鳥遊ホシノ。あの
「……そう」
……こんなことまで言わせてしまった。ホシノちゃんがいるというのに、僕の予測が甘かったせいで。
ままならない。
人生は、まるで週刊連載──とは、いかない。
「では保証金と利子に関しては、きっちりお支払いをお願いするよ、
「……帰るよ、みんな」
カイザー理事の高笑いを背に、僕たちはすごすごとアビドス高校へ帰って行った。
帰り道に吹く風は普段よりも強く感じ、肌に打ち付けられる砂は、やけに痛かった。
ここからどうしようって感じの対策委員会。
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