なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 めだかボックス風味を入れようとすると、どうしてもお話が長くなりがち。遠慮はしません。




第29箱「何の問題も無えよな」

 

 

「じゃーん! ホシノちゃん見て見てー! アビドス砂祭りの昔のポスター! やっと手に入れたよー!」

 

 …………。

 

「この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!」

 

 …………。

 

「えへへ、すっごく素敵でしょー? もし何か()()が起こったら、またこの頃みたいにたくさん人が集まって──」

 

()()なんて起きっこないですよ、先輩」

 

「──でも」

 

「そんなものあるわけないじゃないですか。奇跡なんかに(うつつ)を抜かすよりも、現実に目を向けてください!!」

 

「は、はう……」

 

「こんな砂漠のド真ん中に、もう大勢の人なんて来るはずがないでしょう!? 夢物語もいい加減にしてください!!」

 

「うぇぇ……だって、ホシノちゃーん……ごめんね?」

 

「っ……そうやってふわふわと、奇跡だの幸せだの何だの……もっとしっかりしてください! あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!? もう少し、その肩に乗った()()を自覚したらどうなんですか!!

 

 私はユメ先輩から手渡されたアビドス砂祭りのポスターを破り捨てた。ばらばらに。

 

 私はユメ先輩から手渡されたアビドス砂祭りのポスターを破り捨てた。ばらばらに。

 

 私はユメ先輩から手渡されたアビドス砂祭りのポスターを破り捨てた。ばらばらに。

 

 ばらばらに。

 

 ばらばらに。

 

 ばらばらに──。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「──夢、か」

 

 私は深夜のすっかり静まり返った学校の中──対策委員会室の中で目を覚ました。

 

 どうやら眠ってしまっていたらしく、起き上がるついでに伸びを一つする。丸まりきっていた背骨が音を鳴らして、なんとも言えない快感を覚えた。

 

 背筋を伸ばしたところで、私は眼前の退()()()()()()を見た。先生と安心院(あんしんいん)さんを騙す形になってしまったが、きっとあの二人なら許してくれるはず。

 

 ここ最近、あまり寝付きが良いとは言えなかった。その分どうしたって疲労は溜まるし、そのせいでここで眠ってしまっていたのだった、と思い出した。

 

 一度家に帰ったフリをして、しばらく経った後に再登校し、破り捨てたのとは別の退部届──それと、皆に向けた手紙も置いていくことにした。

 

 未練は……ないと言えば、余裕で嘘だ。出来れば後輩達とも一緒にいたいし、先生や安心院(あんしんいん)さんと色々やってみたいこともある。

 

 ただ、私は先輩だから、そういうわけにもいかない。守らなければいけない。居場所を。心を。

 

「……私は、」

 

 守れるのだろうか。これで良かったのか。良くない。ただ、これしかない。安心院(あんしんいん)さんのスキルに頼るのもアリかと思ったけど、何やら反動があるらしいから申し訳ない。

 

 約束を破ることになる。謝っても謝り足りない。私は致命的に間違えている。誤っても誤り足りない。こんな契約だって、本当は受けたくない。こんな約束、本当は破ってしまいたい。

 

「私、やぶれかぶれなのかも」

 

 口に出してみたものの、しかしあまり適切な表現とは思えなかった。対策委員会室を後にしながら、色々なことを考える。

 

 シロコちゃんが心配だ。あの子は思考回路が物騒だから。ノノミちゃんが心配だ。あの子はあれで抱え込むふしがあるから。セリカちゃんが心配だ。あの子は大人に騙されやすいから。アヤネちゃんが心配だ。あの子はいざという時自分の身を鑑みないから。

 

 ……今挙げていて気が付いたけれど、後輩たちの問題点は私にも全て当てはまるな。なんというか、笑えてくるね。笑ってみようか。

 

「あははっ」

 

 歩きながら笑ってみる。人間不思議なもので、笑っていると楽しい気分になっているかのように錯覚する。後輩を守れてハッピーだ。スキップでもしてみよう。

 

〜♪

 

 鼻歌なんかも口ずさみながら、誰もいない、砂まみれの学校の廊下をスキップしながら通ってみた。

 

 動くたびに砂埃が舞うけれど、これもまた風情があるかのように思えてきた。なんせ、砂に月明かりが反射して、きらきらと輝いて見えるのだから。

 

 私一人だ。いま、この場所には私一人しかいない。楽しいような感じもするけれど、他にも何か、別の感情があるような気もする。

 

「あだっ」

 

 小躍りしながら移動していると、何かに躓いた。かなり盛大に転んだので、顔のあたりにも砂が付いてしまう。

 

 ふと、何かが気に掛かって──後ろ髪を引かれるかのような感覚がして、辺りを見渡す。適当に移動したにしては、なんだか、見覚えがある場所のように思えて──。

 

「……ここ、は」

 

 ()()()()。対策委員会ではなく、正式な生徒会の部室。現在は施錠されているその部屋の前で、私は転んだらしかった。

 

 因果なものだな、と思いながら、私はその部屋のドアに手をかけ──やはり開けずに、昇降口へと向かうことにした。

 

 ただでさえ未練がましいというのに、これ以上未練を増すわけにも行かない。やることはすでにやった。やり残したことは沢山あるけれど、きっと先生たちが何とかしてくれる。

 

「……さようなら」

 

 誰に向けて、何に向けて放った言葉なのか、私にも分からない。顔に付いた砂をさっと手で払い、昇降口へと向かう。

 

「……うへ、砂が目に入ったかな〜……」

 

 私の顔から払われた砂は、やはり月光によって照らされ、きらきらと輝いていた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「……どうして、ここにいるのかな?」

 

「どうしてって、わざわざ言わないと分からないほど、君は察しが悪い方じゃないだろう?」

 

 本気になれば君に気取られず、校庭で待機するくらいは出来るんだぜ、ホシノちゃん。

 

「さて、大方きみは、僕たちの前でわざとらしく破いた退部届の代わりに、2枚目の退部届を出しに来たんだろうが……バレバレだぜ、ホシノちゃん」

 

「うーん……結構、自信あったんだけどな〜? そこまでバレてるなんて、安心院(あんしんいん)さんは流石だね〜」

 

「お褒めに預かり光栄だ──そういうわけで、退部するのは諦めてくれたまえ。悪いが僕は、ありとあらゆる手段を使ってきみを止めるぜ

 

「ごめんね、()()()()()だよ。安心院(あんしんいん)さんじゃあ、私には勝てないんじゃない? これでもおじさんは、一対一じゃ負け知らずだよ」

 

 ホシノちゃんはそう言って銃のセーフティーを外す……いや、参ったな。まさか()()()()()()()()()()とは。

 

 一応僕は、話し合いに来てるんだけどな。

 

「まあまあ、待ちたまえよホシノちゃん。別に僕は、きみに決闘を申し込みに来たってわけでもないんだからさ。シャーレとして、きみを止めに来ただけなんだって」

 

「……安心院(あんしんいん)さん、それはさっき先生とやったでしょ? そんなこと言われても、私の考えは──」

 

「ホシノちゃんがいなくなったら、アビドスの連中は全員悲しむ。それに、シャーレの業務も遂行できない。だから残りなさい」

 

「──変わらないよ。それでも。私のせいで悲しませちゃうのは申し訳ないけど、もう方法はこれしかない」

 

 分からねー奴だな。

 

「方法が自己犠牲(それ)しかないと言うけれど、支払いまで一週間は猶予があるんだぜ? 別に今すぐじゃなくてもいいだろう。3日後とか4日後でも」

 

「遅れれば遅れるだけ、吹っ掛けられるかもしれないよ。カイザーはそういう奴らだから」

 

「そんなことを言ったら、きみが向こうの指示に従ったところで、状況が改善されるとは限らねーぜ。むしろ、悪化するかも」

 

「だからって足踏みしてる理由にはならないでしょ。判断は早いに越したことはないよ、安心院(あんしんいん)さん」

 

「『判断が早い』と『やけっぱち』は全然違うさ。今の君は『やけっぱち』なだけだ、勘違いしてんじゃねーよ」

 

「……そろそろ行っていいかな? おじさん最近はあんまり眠れてなくって、もうヘトヘトで……ふぁ〜」

 

 ……糠に釘、暖簾に手押し、馬の耳に念仏か。馬耳東風と言ってもいいかもしれないね。

 

 一応アプローチの方法は変えてみるが……ここで終わってくれていれば、僕としても助かったんだがね。しかし文句を言っている場合でもない。

 

「ホシノちゃん、僕と君は友達だろう? だからさ、僕を頼ってくれたっていいんだぜ。お金を増やすのに反対なら、増やす手段くらいは教えてやってもいい」

 

「ダメだよ、そもそも安心院(あんしんいん)さんはうちじゃなくてシャーレの……連邦生徒会の所属なんだから、あんまり勝手なことをしちゃいけないんじゃない?」

 

「まあ確かに、僕はアビドスの生徒じゃねーから、断られてる以上はそこまで肩入れをする理由はねーな。しかし僕としちゃあ、君にいなくなられると困るんだがね」

 

「そうは言うけどさ、安心院(あんしんいん)さん。やっぱり私も、結構な覚悟の上でこんなことをしてるんだよ。シャーレってのは生徒の応援をしてくれるような所でしょ?」

 

「それを言われると弱っちまうぜ、僕は。ここにもシャーレの安心院(あじむ)ナジミとして来ている以上、その方面で攻められると弱いな」

 

「……安心院(あんしんいん)さんが()()()()()()で良かったよ〜。そうじゃなかったら、この方法で言いくるめるのは無理だったからね〜。おじさんも中々、頭が回るでしょ?」

 

「ああ、そうだね。してやられた、一本取られたよ、ホシノちゃん。しかしそうなると困ったな──ああ、そういえば、ホシノちゃんに聞いておきたいことがあるんだった」

 

 僕はそこで、ポケットの中に入れていたスイッチ──スキルで作り出したもの──を押した。これで()()は送られた。

 

「最後の最後で申し訳ないんだが、僕とホシノちゃんって()()って認識で合ってるかな? 少なくとも、僕はそういう認識だったから、さっきも『友達』と呼んだわけなんだが」

 

「何をいきなり聞いてんのさ、当たり前でしょ〜? 短い間とはいえ、一緒に戦ったし……それに、同じ釜の飯も食べた仲じゃんか」

 

「飯っつーか麺だけどね、あれ」

 

「細かいとこは気にしないでよ、おじさんはガサツなんだから困っちゃうってば〜。それで、私と安心院(あんしんいん)さんが友達なことと、今の状況になんの関係があるのかな?」

 

「いいや、念のための確認さ──それから、もう一つ質問だ。僕からの支援を受け入れないのは、()()()()()()()()()()()()なのかい?

 

 僕の質問に、ホシノちゃんは首を傾げていた。そりゃあそうだろうね、いきなり「友達だよね?」って聞かれた次は「所属が原因?」って聞かれてんだから。

 

 常識的に考えれば意図が読めず、困惑するだろう。

 ()()()()()僕は君の、ここ(キヴォトス)の常識を破る。

 

「……まあ、そうだよ。正直に言っちゃうと、やっぱり連邦生徒会は信用ならないからさ。今まで一回も助けてくれなかったし……もちろん、安心院(あんしんいん)さんたちは違うと思ってるよ?でも──」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そういうことかな、ホシノちゃん。だとすれば杞憂もいいとこだぜ、だってここいらには砂漠地帯しかねーんだからさ」

 

「──うへ……まあ確かにその通りだけどさ。でもやっぱり、私は先輩だから、万が一を警戒しないと。ここでこの話に乗っかって、もし連邦生徒会が何かしてきたら、きっと私は──もう、本当に何も、許せない。

 

「……そうかい、なるほど。なるほどねえ。つまり君は、あれか。僕のことは信用しているが、連邦生徒会は信用していないと、そういう状態なわけだ」

 

 ようやくホシノちゃんの精神状態が分かってきたぜ。つまりこの子は、()()()()()()()()()()()()のだろう。

 

 自分がいなくなった後、後輩たちを任せられるような……そんな存在を。

 

 ……自己評価が低すぎるねえ、ホシノちゃん。そこまで行くと、最早自己嫌悪と言っても差し支えはないかもしれない。

 

 だがよ、ホシノちゃん。

 君の代わりなんて、一人もいないんだぜ。

 僕は君の代わりにはなり得ない。先生も同様に。

 

 君は、間違っている。

 だから、()()の僕が止めてやるよ。

 

 僕はポケットに忍ばせたスイッチをもう一度押し──ポケットから手を引き抜いた。

 

「──そうかい、そうかよ、そうかそうか、分かった分かった分かりました。ホシノちゃん、君の言いたいことは大体伝わったとも。あれだろ、要するに、僕が()()()()()()()()()()()()()()()から手を取ってくれないわけだ」

 

「……?」

 

「それに僕は素性が不明だし、言動も胡散臭いし……ホシノちゃんから見た僕は、確かに不安の種みてーなもんだろうさ。それもまたむべなるかな、という感じだけど」

 

「あの、ちょっとおじさん、安心院(あんしんいん)さんが何を言いたいのか、さっぱり分からないんだけど──」

 

「連邦生徒会としての僕は、信用してもらえない。S.C.H.A.L.E(独立連邦捜査部)としての僕は、君を理屈で止められない。そういうわけなら、それなら、つまり──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──は?」

 

 僕の言葉を聞いた瞬間、ホシノちゃんはおもしれーくらいに困惑していた。冷や汗なんかもかいたりしちゃって、意外と可愛らしい一面もあるじゃねーか。

 

「い、いや……いやいやいや、安心院(あんしんいん)さん。うちのためにわざわざ()()なんかしてこなくてもいいんだって!」

 

「勘違いすんなよホシノちゃん、別に君のためだけってわけじゃない。ほら、僕って()()()()()()()()()()()()()()()()()からさ、今まで不便だったんだよな」

 

「だったら……! うちだけじゃなくて、トリニティとか、それこそミレニアムとか! 安心院(あんしんいん)さんなら、きっとどこでも上手くやっていけるでしょ!?」

 

「ああそうさ、僕は()()()()()()()()()()()()()。だったら、所属する学園自治区が9億の借金を抱えているかどうかなんて、僕にとっちゃ誤差みてーなもんだぜ」

 

 ゲヘナとかだと、ちょっとキツいかもな。いや、毎日退屈はしねーだろうけど、あの辺は爆発音が煩わしい。

 

「言っておくが、()()()()()()()()()()。さっきホシノちゃんと話してる間に、先生に合図を送っておいたからね。だから僕は、これで晴れてアビドスの仲間入りだ。これからよろしく頼むぜ」

 

「いくら先生とはいえ、いくらS.C.H.A.L.E(独立連邦捜査部)とはいえ、そんな無法なことが許されるはずが──」

 

「いいや、それが許されちまうんだよ。なんせS.C.H.A.L.E(独立連邦捜査部)は超法規的な組織だからね。その莫大な権力を使っちまえば、生徒の一人を学校に捩じ込むことくらい、造作もないことなんだよ

 

 それに、現在アビドスの実質的な代表者は先生ということになっている。だから僕が入学の手続きを先生に対して行えば、僕は晴れてアビドスに入学できるというわけだ。

 

 おそらく()()()()()()だが──間違っても先生が生徒を退学させるような真似はしねーだろ。

 

「さて、そういうわけで……これで僕はアビドスの生徒だ。だから、ホシノちゃん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……そういう、ことなら──」

 

 ホシノちゃんは目を伏せながら、俯きながら、ゆっくりと()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……あーもう、これでもダメかよ。だったらしょーがねー、本当に気は進まないけれど、やるしかないか。

 

 

「──こっちも遠慮は必要ないよね?

 

 

 この僕に第二のプランまで使わせるだなんて、本当に手のかかる奴だぜ、まったく。

 

 手のかかる子は、嫌いじゃねーがよ。

 

 






 この分からず屋。

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