めだかボックス風味を入れようとすると、どうしてもお話が長くなりがち。遠慮はしません。
「じゃーん! ホシノちゃん見て見てー! アビドス砂祭りの昔のポスター! やっと手に入れたよー!」
…………。
「この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!」
…………。
「えへへ、すっごく素敵でしょー? もし何か
「
「──でも」
「そんなものあるわけないじゃないですか。奇跡なんかに
「は、はう……」
「こんな砂漠のド真ん中に、もう大勢の人なんて来るはずがないでしょう!? 夢物語もいい加減にしてください!!」
「うぇぇ……だって、ホシノちゃーん……ごめんね?」
「っ……そうやってふわふわと、奇跡だの幸せだの何だの……もっとしっかりしてください! あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!? もう少し、その肩に乗った
私はユメ先輩から手渡されたアビドス砂祭りのポスターを破り捨てた。ばらばらに。
私はユメ先輩から手渡されたアビドス砂祭りのポスターを破り捨てた。ばらばらに。
私はユメ先輩から手渡されたアビドス砂祭りのポスターを破り捨てた。ばらばらに。
ばらばらに。
ばらばらに。
ばらばらに──。
「──夢、か」
私は深夜のすっかり静まり返った学校の中──対策委員会室の中で目を覚ました。
どうやら眠ってしまっていたらしく、起き上がるついでに伸びを一つする。丸まりきっていた背骨が音を鳴らして、なんとも言えない快感を覚えた。
背筋を伸ばしたところで、私は眼前の
ここ最近、あまり寝付きが良いとは言えなかった。その分どうしたって疲労は溜まるし、そのせいでここで眠ってしまっていたのだった、と思い出した。
一度家に帰ったフリをして、しばらく経った後に再登校し、破り捨てたのとは別の退部届──それと、皆に向けた手紙も置いていくことにした。
未練は……ないと言えば、余裕で嘘だ。出来れば後輩達とも一緒にいたいし、先生や
ただ、私は先輩だから、そういうわけにもいかない。守らなければいけない。居場所を。心を。
「……私は、」
守れるのだろうか。これで良かったのか。良くない。ただ、これしかない。
約束を破ることになる。謝っても謝り足りない。私は致命的に間違えている。誤っても誤り足りない。こんな契約だって、本当は受けたくない。こんな約束、本当は破ってしまいたい。
「私、やぶれかぶれなのかも」
口に出してみたものの、しかしあまり適切な表現とは思えなかった。対策委員会室を後にしながら、色々なことを考える。
シロコちゃんが心配だ。あの子は思考回路が物騒だから。ノノミちゃんが心配だ。あの子はあれで抱え込むふしがあるから。セリカちゃんが心配だ。あの子は大人に騙されやすいから。アヤネちゃんが心配だ。あの子はいざという時自分の身を鑑みないから。
……今挙げていて気が付いたけれど、後輩たちの問題点は私にも全て当てはまるな。なんというか、笑えてくるね。笑ってみようか。
「あははっ」
歩きながら笑ってみる。人間不思議なもので、笑っていると楽しい気分になっているかのように錯覚する。後輩を守れてハッピーだ。スキップでもしてみよう。
「〜♪」
鼻歌なんかも口ずさみながら、誰もいない、砂まみれの学校の廊下をスキップしながら通ってみた。
動くたびに砂埃が舞うけれど、これもまた風情があるかのように思えてきた。なんせ、砂に月明かりが反射して、きらきらと輝いて見えるのだから。
私一人だ。いま、この場所には私一人しかいない。楽しいような感じもするけれど、他にも何か、別の感情があるような気もする。
「あだっ」
小躍りしながら移動していると、何かに躓いた。かなり盛大に転んだので、顔のあたりにも砂が付いてしまう。
ふと、何かが気に掛かって──後ろ髪を引かれるかのような感覚がして、辺りを見渡す。適当に移動したにしては、なんだか、見覚えがある場所のように思えて──。
「……ここ、は」
因果なものだな、と思いながら、私はその部屋のドアに手をかけ──やはり開けずに、昇降口へと向かうことにした。
ただでさえ未練がましいというのに、これ以上未練を増すわけにも行かない。やることはすでにやった。やり残したことは沢山あるけれど、きっと先生たちが何とかしてくれる。
「……さようなら」
誰に向けて、何に向けて放った言葉なのか、私にも分からない。顔に付いた砂をさっと手で払い、昇降口へと向かう。
「……うへ、砂が目に入ったかな〜……」
私の顔から払われた砂は、やはり月光によって照らされ、きらきらと輝いていた。
「……どうして、ここにいるのかな?」
「どうしてって、わざわざ言わないと分からないほど、君は察しが悪い方じゃないだろう?」
本気になれば君に気取られず、校庭で待機するくらいは出来るんだぜ、ホシノちゃん。
「さて、大方きみは、僕たちの前でわざとらしく破いた退部届の代わりに、2枚目の退部届を出しに来たんだろうが……バレバレだぜ、ホシノちゃん」
「うーん……結構、自信あったんだけどな〜? そこまでバレてるなんて、
「お褒めに預かり光栄だ──そういうわけで、退部するのは諦めてくれたまえ。悪いが僕は、ありとあらゆる手段を使ってきみを止めるぜ」
「ごめんね、
ホシノちゃんはそう言って銃のセーフティーを外す……いや、参ったな。まさか
一応僕は、話し合いに来てるんだけどな。
「まあまあ、待ちたまえよホシノちゃん。別に僕は、きみに決闘を申し込みに来たってわけでもないんだからさ。シャーレとして、きみを止めに来ただけなんだって」
「……
「ホシノちゃんがいなくなったら、アビドスの連中は全員悲しむ。それに、シャーレの業務も遂行できない。だから残りなさい」
「──変わらないよ。それでも。私のせいで悲しませちゃうのは申し訳ないけど、もう方法はこれしかない」
分からねー奴だな。
「方法が
「遅れれば遅れるだけ、吹っ掛けられるかもしれないよ。カイザーはそういう奴らだから」
「そんなことを言ったら、きみが向こうの指示に従ったところで、状況が改善されるとは限らねーぜ。むしろ、悪化するかも」
「だからって足踏みしてる理由にはならないでしょ。判断は早いに越したことはないよ、
「『判断が早い』と『やけっぱち』は全然違うさ。今の君は『やけっぱち』なだけだ、勘違いしてんじゃねーよ」
「……そろそろ行っていいかな? おじさん最近はあんまり眠れてなくって、もうヘトヘトで……ふぁ〜」
……糠に釘、暖簾に手押し、馬の耳に念仏か。馬耳東風と言ってもいいかもしれないね。
一応アプローチの方法は変えてみるが……ここで終わってくれていれば、僕としても助かったんだがね。しかし文句を言っている場合でもない。
「ホシノちゃん、僕と君は友達だろう? だからさ、僕を頼ってくれたっていいんだぜ。お金を増やすのに反対なら、増やす手段くらいは教えてやってもいい」
「ダメだよ、そもそも
「まあ確かに、僕はアビドスの生徒じゃねーから、断られてる以上はそこまで肩入れをする理由はねーな。しかし僕としちゃあ、君にいなくなられると困るんだがね」
「そうは言うけどさ、
「それを言われると弱っちまうぜ、僕は。ここにもシャーレの
「……
「ああ、そうだね。してやられた、一本取られたよ、ホシノちゃん。しかしそうなると困ったな──ああ、そういえば、ホシノちゃんに聞いておきたいことがあるんだった」
僕はそこで、ポケットの中に入れていたスイッチ──スキルで作り出したもの──を押した。これで
「最後の最後で申し訳ないんだが、僕とホシノちゃんって
「何をいきなり聞いてんのさ、当たり前でしょ〜? 短い間とはいえ、一緒に戦ったし……それに、同じ釜の飯も食べた仲じゃんか」
「飯っつーか麺だけどね、あれ」
「細かいとこは気にしないでよ、おじさんはガサツなんだから困っちゃうってば〜。それで、私と
「いいや、念のための確認さ──それから、もう一つ質問だ。僕からの支援を受け入れないのは、
僕の質問に、ホシノちゃんは首を傾げていた。そりゃあそうだろうね、いきなり「友達だよね?」って聞かれた次は「所属が原因?」って聞かれてんだから。
常識的に考えれば意図が読めず、困惑するだろう。
「……まあ、そうだよ。正直に言っちゃうと、やっぱり連邦生徒会は信用ならないからさ。今まで一回も助けてくれなかったし……もちろん、
「
「──うへ……まあ確かにその通りだけどさ。でもやっぱり、私は先輩だから、万が一を警戒しないと。ここでこの話に乗っかって、もし連邦生徒会が何かしてきたら、きっと私は──もう、本当に何も、許せない。」
「……そうかい、なるほど。なるほどねえ。つまり君は、あれか。僕のことは信用しているが、連邦生徒会は信用していないと、そういう状態なわけだ」
ようやくホシノちゃんの精神状態が分かってきたぜ。つまりこの子は、
自分がいなくなった後、後輩たちを任せられるような……そんな存在を。
……自己評価が低すぎるねえ、ホシノちゃん。そこまで行くと、最早自己嫌悪と言っても差し支えはないかもしれない。
だがよ、ホシノちゃん。
君の代わりなんて、一人もいないんだぜ。
僕は君の代わりにはなり得ない。先生も同様に。
君は、間違っている。
だから、
僕はポケットに忍ばせたスイッチをもう一度押し──ポケットから手を引き抜いた。
「──そうかい、そうかよ、そうかそうか、分かった分かった分かりました。ホシノちゃん、君の言いたいことは大体伝わったとも。あれだろ、要するに、僕が
「……?」
「それに僕は素性が不明だし、言動も胡散臭いし……ホシノちゃんから見た僕は、確かに不安の種みてーなもんだろうさ。それもまたむべなるかな、という感じだけど」
「あの、ちょっとおじさん、
「連邦生徒会としての僕は、信用してもらえない。
僕の言葉を聞いた瞬間、ホシノちゃんはおもしれーくらいに困惑していた。冷や汗なんかもかいたりしちゃって、意外と可愛らしい一面もあるじゃねーか。
「い、いや……いやいやいや、
「勘違いすんなよホシノちゃん、別に君のためだけってわけじゃない。ほら、僕って
「だったら……! うちだけじゃなくて、トリニティとか、それこそミレニアムとか!
「ああそうさ、僕は
ゲヘナとかだと、ちょっとキツいかもな。いや、毎日退屈はしねーだろうけど、あの辺は爆発音が煩わしい。
「言っておくが、
「いくら先生とはいえ、いくら
「いいや、それが許されちまうんだよ。なんせ
それに、現在アビドスの実質的な代表者は先生ということになっている。だから僕が入学の手続きを先生に対して行えば、僕は晴れてアビドスに入学できるというわけだ。
おそらく
「さて、そういうわけで……これで僕はアビドスの生徒だ。だから、ホシノちゃん。
「……そういう、ことなら──」
ホシノちゃんは目を伏せながら、俯きながら、ゆっくりと
……あーもう、これでもダメかよ。だったらしょーがねー、本当に気は進まないけれど、やるしかないか。
この僕に第二のプランまで使わせるだなんて、本当に手のかかる奴だぜ、まったく。
手のかかる子は、嫌いじゃねーがよ。
この分からず屋。
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