なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 サブタイ通り。




第31箱「助けに行こうじゃねーか」

 

 

 紙の上でペンを踊らせる。契約書には確かに、私の名前が記されていた。

 

 私が、記した。だから、これでおしまい。

 

 あっけない。

 

「……これで良い?」

 

 黒服が契約書に目を通す。それから満足げに笑って、私の方を向いた。

 

「ええ、確かに。サインは頂いたので、これでホシノさんがお持ちの生徒としての権利は、全て私の元に移譲されました」

 

 もう戻れない。だけど、大丈夫。

 これで対策委員会も、少しは楽になるはず。

 

「これで正式に、アビドス高校が背負っている借金の大半は、こちらで負担することにしましょう」

 

 ……私は、アビドスを守れましたよ。

 

 ほんの少しだけど、守れたんだ。

 

 そうですよね──。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 ──おや、もう朝か。いやー、よく寝たぜ。全身砂まみれで眠るのはこれが最初で最後だろうなあ……ところで、僕の身体をこれでもかってくらい揺さぶっているのは一体誰だろう?

 

「……院(いん)さん、安心院(あんしんいん)さん! 何があったんですか!? 安心院(あんしんいん)さん!!」

 

「ああ……おはようアヤネちゃん、全員揃ったら説明するから……揺さぶるのはやめておくれ、変な体勢で眠ったせいで首が痛えんだ」

 

 そう説明すると、アヤネちゃんはすぐさま手を離した。さて、あれからかなり時間が経ったが、体は……動くね。スキルの効果は既に切れたらしい。

 

「安心院(あんしんいん)さん、大丈夫ですか……? その、こんな所で、あの……」

 

 アヤネちゃん、どうしたというんだい。そんな風に昇降口の方をしきりに気にして──……ああ、そういえば、入口の窓ガラスも校庭のクレーターも直してなかったんだった。

 

 とりあえず修復のスキル「修繕修美(エニシングリペアー)」を使っておくか……はい、元通り。

 

「それから、そんな風に言い淀まなくたっていいんだぜ、アヤネちゃん。事態は君の想像の通りさ、大体ね」

 

「……安心院(あんしんいん)さんが負ける相手って、私には一人しか思いつかないんですけど……」

 

「ま、その辺も全員揃ってから説明するさ。同じ説明を二回も三回もするのは好きじゃねーんだよ、僕は」

 

 数十分もすれば全員揃うだろ。そう考えて僕は、アヤネちゃんを連れて対策委員会室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「……乗れ、小鳥遊ホシノ」

 

 促されたので車に乗る。

 しょうがない。

 

「……これ、どこに向かうの?」

 

「アビドス砂漠だ」

 

 カイザーの指定した企業に就職するのだから、あの基地に向かうのだろうか。

 仕方ない。

 

 私のさいごは砂漠の真ん中か。

 

 お似合いだ。

 

 お揃いだ。

 

 車に揺られて、私は砂漠へと運ばれて行った。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「さて、これで全員揃ったね。それじゃあ──」

 

「待って、安心院(あんしんいん)さん。ホシノ先輩がまだ来てない」

 

「──そ(・)こ(・)の説明を今からするから、しばしの間ご清聴を頼みたい。それから、怒るのは僕の話が終わってからにしておくれ」

 

「……ん。分かった」

 

 シロコちゃんの同意も得られたので、僕は対策委員会室を見渡し、ホシノちゃんを除いた対策委員、そして最後に先生と目を合わせ、事の顛末を語った。

 

 昨日の夜、先生を含めた三人で話し合ったこと。

 ホシノちゃんが退部しようとしていた──。

 

「ちょっと待って!? 聞かされてないんだけどそんなの!!」

 

「セリカちゃーん、ご静聴お願いしますって言っただろう?」

 

「いや、そうだけど! こんな話いきなり聞かされて驚かないでって方が無理でしょ!?」

 

 今のうちからそんなことを言ってたら、この先どんだけ驚いても驚き足りなくなっちまうぜ。

 

「とにかく、続きを話しても?」

 

「……分かったわよ! どうぞ!!」

 

 セリカちゃんの許しをいただいたので、続きを語ることにする。えーっと、どこからだったか……そうだ、ホシノちゃんが退部しようとしていたことだ。

 

 先生と僕で説得したこと。

 ホシノちゃんが退部届を目の前で破いたこと。

 深夜になってホシノちゃんが二枚目の退部届を

 

「それじゃあダメじゃん!?」

 

「セリカちゃん?」

 

「うっ……ごめん……」

 

「続き、話してもいいかな?」

 

「うん……」

 

 ホシノちゃんが二枚目の退部届を出しに来たこと。

 帰ろうとしたホシノちゃんを僕が止めたこと。

 しかしそれでもホシノちゃんは止まらなかったこと。

 僕がアビドスの生徒になったこ

 

「ええ〜!? それじゃあ安心院(あんしんいん)さん、私達の後輩になったんですか!?」

 

「…………そして、僕とホシノちゃんは戦闘に」

 

「説明です!! 安心院(あんしんいん)さん、私は説明を求めます!!」

 

「ああもう分かった。分かったから。詳しく説明するから挙手しながら身を乗り出すのはやめておくれ。今の僕の視界はノノミちゃんの手のひらでいっぱいだぜ。それから、一応僕が先輩だ」

 

 そう言うとノノミちゃんは手を引いた──結構真剣な話をしてるんだが、伝わってねーのかな。話術に自信が無くなってくるぜ。

 

「かくかくしかじかで」

 

「それじゃ分かりません☆」

 

 同じことを二回も三回も説明するの嫌いなんだってば。

 

「簡単に言えば、S.C.H.A.L.E(独立連邦捜査部)の立場だとホシノちゃんを止められねーんだよ。ほら、生徒達の思いを尊重するって言っちゃってる以上、あまり強気には出られない。そういうわけで、先生の説得は失敗した」

 

「"それに関しては本当に申し訳ない。だけど、ホシノだって考えに考え抜いて答えを出したはずなんだ。だから、頭ごなしに否定はできなかった"」

 

「と、こういうわけでね。シャーレは善意で成立している組織だが、その善意こそが今回は仇になった。生徒に任せる形を取ったことが、今回の結果を招いた──もっとも、こんな事態を予測しろっつー方が無理だから、しょうがないことではあるがね。さて、ここまでの話、分かるかい?」

 

 僕がそう問うと、全員がはっきりと頷いた。ちゃんと話について来てくれているようで何より。

 

「そういうわけで、先生が大人らしく諭しても、ホシノちゃんに効果は無かった。だから僕は先生とは反対に、子(・)供(・)の(・)や(・)り(・)方(・)で行くことにしたのさ」

 

「そのやり方が……アビドスへの転校なの? それと、安心院(あんしんいん)さん、アビドスの前はどこにいたの?」

 

「いやいや、転校じゃないさシロコちゃん。僕は入(・)学(・)したんだ──もっとも、学年は三年生だが。あと、前居たところは覚えてない。今の僕は記憶喪失だからね」

 

「……記(・)憶(・)喪(・)失(・)? 安心院(あんしんいん)さん、記憶喪失だったの?」

 

 やけに食いつきがいいな、シロコちゃん。もしやこの子も記憶喪失だったりするのだろうか。まあ僕の場合は、記憶喪失と言うよりも記録喪失と言うべきなのだけれど。

 

「ま、おおよそその認識で間違いない。それで、先生に無理言ってアビドスに学籍を捩じ込んで貰って、『友達』という立場からホシノちゃんに駄々捏ねてみたんだけど、あの子ってば『生徒同士なら遠慮いらないよね』とか言って、僕に向けて攻撃してきたのさ」

 

「……やっぱり、今日の朝に安心院(あんしんいん)さんが昇降口で倒れてたのって……」

 

「アヤネちゃんの予想通りさ。僕は頑張りに頑張って応戦したんだけど、ホシノちゃんのスキルで動けなくさせられちまってね。ホシノちゃんを逃したというわけだ」

 

 僕は悲壮感たっぷりに、演技がかった口調でそう言ってみる──が、しかし。対策委員会の連中は、悲しんだり落ち込んだりはしていないように見えた。

 

「おいおい、随分と冷静じゃねーか君たち。先輩が居なくなっちまいそうって時なんだから、もう少し──」

 

「でも、安心院(あんしんいん)さんが落(・)ち(・)着(・)い(・)て(・)る(・)。だから、まだ何か策があるんじゃないの?」

 

「そうですよ〜。それに、安心院(あんしんいん)さんがわざとらしく深刻そうな語り口の時は、大抵他にも何かあるので!」

 

「……セリカちゃん、アヤネちゃん。君たちにも聞いておきたいんだが、今の僕ってもしかして分(・)か(・)り(・)や(・)す(・)い(・)?」

 

 一縷の望みをかけて二人にそう聞いてみるが、ただ頷かれただけだった。おいマジかよ、冗談じゃなくて? うーん、わざとらしいからだろうか。

 

 先生の方を見て──2秒で見るのをやめた。いい笑顔浮かべてんじゃねーよ。

 

「……君たちの言う通りさ。僕は確かにホシノちゃんに負けたが、わ(・)ざ(・)と(・)負(・)け(・)た(・)ん(・)だ(・)。強がりなんかじゃなく、根拠も理由もあるぜ」

 

 僕はそう言って、レーダーを取り出した。ほら、あれだよ。七つ集めると願いが叶うオレンジ色の球体を探すためのやつみたいな。

 

「これは受(・)信(・)機(・)だ。そして受信機があるということは──」

 

「発(・)信(・)機(・)も(・)あ(・)る(・)。でしょ、安心院(あんしんいん)さん?」

 

「ご名答。シロコちゃんには景品としてロードバイクのタイヤのスペアをプレゼントだ……とまあ、そういうわけで、実はホシノちゃんがどの辺にいるかはいつでも分かるんだよ」

 

「しかし……ホシノ先輩がそういう発信機に気付かないとは思えません。私でも、そんな高性能な発信機を仕込まれれば気付くと思いますし……」

 

 アヤネちゃん、どうやら僕の発信機を信用していないらしい。つーか、説明してねーから信用も何もねーけどさ。

 

「ああ、あれは絶(・)対(・)に(・)何(・)が(・)あ(・)っ(・)て(・)も(・)感(・)知(・)で(・)き(・)な(・)い(・)発信機だから、安心してくれたまえ(安心院(あんしんいん)さんだけに)」

 

「えっと……それは、どうしてですか?」

 

「物質作成のスキル『余裕作々(マスターオブマスプロダクション)』範囲無限化のスキル『手に取るよう(ワールドイズマイン)』透明化のスキル『伴透明(アンチビジブル)』存在感消滅のスキル『消質量(バニシングマス)』接触不可能のスキル『接触渉外(コンタクトレス)』接着のスキル『継ぎ接ぎ纏い(パッチワーク)』そして常に正確であり続けるスキル『自己決定鍵(エンターキー)』の七つのスキルを組み合わせた発信機だからさ。付けられたことに気がつくどころか、僕が言わなかったら誰も気付かねー代物だぜ」

 

「……安心院(あんしんいん)さん、私前々から気になってたことがあるんだけどさ、どんだけスキル持ってるの!?」

 

「128個。」

 

「128個!?」

 

「じゃなかった1京2858兆0519億6763万3865個だ。」

 

「1京2858兆0519億6763万3865個!!??」

 

「わっはっは」

 

「わっはっは!!??」

 

 そこも驚く必要あった?

 

 セリカちゃんが仰天しながら立ち上がるが……そんなに驚かなくたっていーだろ。100個も1京も変わんねーって。アラビア数字にすると結構変わるけどさ。100と10,000,000,000,000,000。

 

「まあそういうわけで、ホシノちゃんの動向は完全に把握済みな上、ど(・)こ(・)に(・)行(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)か(・)という履歴も残る。だから先生、こいつは君に預けとくぜ」

 

「"うん、ありがとう安心院(あんしんいん)さん。これで事態は、どうとでも動かせる──それで、ホ(・)シ(・)ノ(・)は(・)何(・)か(・)言(・)っ(・)て(・)た(・)?"」

 

 先生にレーダーを渡すと、おもむろにそんなことを聞いてきやがった。とりあえずその前に、やらなきゃいけないことがあるからやっておこう。

 

「当然言ってたさ──だがそれを言う前に、対策委員会連中に聞いておかなきゃいけねーことがある。そ(・)こ(・)に置いてあるホシノちゃんからの手紙……読(・)む(・)か(・)い(・)?」

 

 一人一人に目を合わせながらそう尋ねるが、しかし全員の意思は固そうだった。まあそうだよな、全員そう思うよな──。

 

「ん、読(・)む(・)わ(・)け(・)な(・)い(・)。ホシノ先輩は自分勝手すぎる」

 

「そうですよ! 大切なことはちゃんと本人の口から言ってもらわないと!」

 

「私も同感! 散々人に言っておいて、自分だけ自己犠牲とかあり得ない!」

 

「はい、私も賛成です! 対策委員会は一心同体ですから、抜け駆けを許すわけにはいきません!」

 

「ふーん、まあそれなら、こいつはいらねーな」

 

 僕は手紙を斬らずに斬るスキル「無病死(ノーモーション)」で、ピッタリ四つに斬り裂いてやった。

 

「実のところ、僕も読むつもりはなかった──ホシノちゃんは『アビドスの生徒(みんな)を頼んだよ』って僕と先生に言ってきたぜ。そういうわけだから、騙されて誘拐されちまったアビドスの生徒(ホシノちゃん)を助けに行こうじゃねーか」

 

 僕がそう言うと、連中は一も二もなく、異論の一つもなく頷いた。当初僕が予想していた悲壮感なんかは一切なく、全員が同じ方向──前を向いていた。

 

「……ん?」

 

「あれ、どうしたんですか安心院(あんしんいん)さん、また何かありましたか?」

 

「周知侵(ノウアンノウン)」に何か引っ掛かったな。規模や練度から考えると……カイザーの連中か。

 

 まずいな、このままだと市(・)街(・)地(・)を(・)無(・)差(・)別(・)に(・)攻(・)撃(・)されちまう。折角上がった士気を下げられるのはいただけねーな。

 

「どうやら、債権者どもが雁首揃えてやって来やがったらしい。しかも連中、どうやら市街地に無差別な攻撃をするつもりみてーだぜ。このままだと柴関あたりはヤバいかもな」

 

「あっ、本当だ……こちらでも大規模な侵攻を確認できました! それに、ア(・)ビ(・)ド(・)ス(・)高(・)校(・)へ(・)と(・)向(・)か(・)っ(・)て(・)き(・)て(・)い(・)る(・)部隊もあるようです……!」

 

「"……安心院(あんしんいん)さん、私たちはこちらの対処にあたってから向かうから、先に行って住民の方たちを避難させてあげてほしい。お願いできるかい?"」

 

「おいおい先生、お願いなんかされずとも僕はやる気だぜ──っつーわけで、対策委員会諸君は準備が出来次第市街地に来てくれよ」

 

 振り向きながらそう言うと、やはり力強い頷きが帰ってきた。いやはや、頼もしいことこの上ないぜ。

 

 僕はそう考えてから、一秒もしないうちに「腑罪証明(アリバイブロック)」を使って市街地へと移動した。

 

 見た感じは……この前の風紀委員と同じくらい──よりも少し多いくらいの規模、かな。さて、どうしてくれようか。

 

 悪いがホシノちゃんに文句言いに行かなきゃいけねーから、手短に頼むぜ。

 

 






 手紙で勝手な言葉を残されるよりも、やっぱり直接声を聞きたいよね。少なくとも、僕はそう思います。
 みんなは?

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