ホシノ視点多め。
つーかほぼそう。
「な、何で……何をしてる!?」
信じられない。どうして?
借金を肩代わりしてくれるんじゃないのか?
「どうして、どうしてアビドスを……街を攻撃しようとするんだ!?」
モニターの向こう側で尚も侵攻を続けるカイザーPMCの部隊を見ながら、私はそう喚く。
喚いている。
子供みたいに。
「どうして、と言われましても……何もおかしいことなどありませんよ、ホシノさん」
「ッ!!」
「あの借金の大半は返済させていただきますとも。それが、私たちの間に交わされた約束──【契約】ですから」
すぐ隣から、忌々しい声がした。飛び上がるようにそちらの方を見る──黒。
黒かった。
白々しくて、腹黒い。
「それはそうとして……あなたが、つまりアビドスの生徒会最後のメンバーが退学してしまったので、現在あの学校には公式に認可された部活が存在しないようですね」
「……まさか、そんな」
「いいえ、その通りですよ、ホシノさん。公的な生徒会メンバーが一人も在籍していない以上、学校は成立しない」
「…………」
「私たちがあんなくだらない企業の、詐欺まがいの行為を支援していた理由はただ一つ。
「……私?」
「ええ。まさか本当にアビドスの土地が狙いだと思いましたか? あんな所を占拠しても、ブラックマーケットのように普遍的な無法地帯が発生するだけです。全くもって、新しくもなんともない」
頭が回らない。
ぼんやりとした諦念だけがある。
「そういうわけで、何か誤解を招いていたのならば謝罪致しましょう。しかし『私の所属する企業がカイザーである』などとは一度も言っていませんし、ここはお互い様、ということにしておきましょう。私たちにとって、それが一番良いはずです」
「…………」
「お話が長くなってしまいましたが、つまり私たちの目的は、あなたを実験体として研究し、分析し、理解することだったのです。あなたという
キヴォトス最高の神秘、か。また悪い大人に騙された私には、不釣り合いな二つ名だ──。
──ん?
キヴォトス最高の神秘?
いや、それはおかしい。そんなはずはない。
それをこいつが、知らないはずがないだろ。
「──どうかしましたか、ホシノさん。何か質問でもありましたか?私の話で分からない所があったのなら説明致しますよ。その方があなたにとっても、私にとっても良いでしょうし」
「……それなら、一つだけ」
黒服に正対し、私は問いかける。
今聞くべきは──
こんなこと考えちゃって、未練たらたらだなあ、私。
だからどうした。
「
「ええ、知っていますとも。
この反応……やはり
何か、
……それなら、何か残せるかもしれない。
「ここに来る前、あの子と喧嘩したんだ。どうしても私を止めたかったみたいで、お互いにスキルも使って」
「……ほう。それは興味深い──続けてください」
「
「ええ、勿論。少し調べれば予想できることですし、本人も隠すつもりが無いようなので、容易に理解出来ましたが」
やっぱりか。どういう手段を使ってあの子の情報を手に入れたのか知らないが、今はそんなことはどうでもいい。
いや、本当は……結構、心配してるのかも。
実際話してみると、全然似てないのに。
「ホシノちゃん」って呼び方が、被るだけなのに。
声も似てない。姿も似てない。何もかもが似ても似つかない。自分でも笑えちゃうくらい、この目は節穴だ。
──だけど、初めて対等でいられた。
私を引き留めるための嘘だったとしても、
単純だなあ。
「……あの子は、約1京のスキルを持ってる。それなのに、私の方が『最高の神秘』と呼ばれるのは、納得がいかない」
「ああ、そういうことですか。いや何、それについてはそこまで難解な答えがあるわけではありません。読んで字の如く、あなたの方が神秘の保有量が多いだけですよ」
……そういう、ことか。
「そんなに心配しなくとも、私たちは彼女──
それなら。
もう終わる私でも、役に立てる。
「──黒服。そういえば、
私はニヤリと笑って、まるで挑発するかのように黒服へと話しかけた。冷や汗が垂れるが──どうせ終わる身だ、この程度で怯んでられない。
黒服は私が途中で話を遮ったことに一瞬驚いていたようだが、すぐさま好奇の視線をこちらに向けた。
「……そうですね、確かにあなたの言う通りです。私はあなたに情報を提供したのですから、あなたからも見返りをいただきませんと。彼女に関しての情報は未だ少ないのですから──それで、一体ホシノさんは、私に何を教えてくれるのですか?」
乗ってきた。
引っかかった。
これで、みんなだけは──私に残された、唯一意味のある場所だけは、私の手で守れる。
息を吸って。
言葉を吐いた。
黒服の身体が、硬直した。
「………………なるほど。なるほど、なるほど。
黒服はそう言いながら、アビドスの市街地の状況を映したモニターに目をやり、電話を取り出した。私もそちらを見ると、ちょうど
「……侵攻を止めさせようとしましたが、これは手遅れですか。ふう、今夜辺り、シャーレのお二方とお話せねばならないかもしれません」
黒服は電話を誰か──恐らくはカイザー理事──にかけ、「撤退してください」とだけ伝えると、電話をスーツのポケットにしまった。
再びモニターを見ると、カイザーの理事が悔しそうにしながら、
「いやはや、しかし……このままでは先生と
うへへ、ざまあみやがれ。
っつーわけで、カイザー理事にはナレ死してもらった。いやまあ、実際には死んだんじゃなくて撤退だからナレ退だけども。
市民の皆々様は避難させ、市街地への被害も最小限に抑え、対策委員会の連中が来る前に全てのカタを付けた。弾薬を無駄に使うわけにもいかないし、およそ理想的だ。
「……さて、こいつをどうしようか?」
カイザー理事が乗っていたゴリアテとかいうおもちゃを、丸めて壊すスキル「
僕の背丈と同じくらいはあるこの鉄塊、果たしてどうしてくれようか──……ん、ようやく来やがったか。
「"……ね、ねえ、
「おっと、先生……それに対策委員会じゃねーか。学校の方は無事だったのかい?」
「"うん、お陰様で……それよりも、
「ああ、これは──何だと思う?」
僕が笑みを深めてそう問うと、先生と対策委員会の連中は皆一様に青い顔をした。学校に一人でいる所を狙われないために帯同してきたアヤネちゃんも、同様に動揺している。
「"何、って……まさか、
「ああ、その
「"カイザー理事の乗っていた乗り物……よく一人で撃退できたね……"」
……聞こえんのかよ。あれか、生徒の声は聞き逃さない的な。僕以外に発揮してほしいところだぜ。
「まあいいさ、とりあえず急場は凌いだし……次はどうするよ、対策委員会諸君」
「そんなの決まってる。ホシノ先輩を助けに行く」
「その通りです! 勝手にいなくなろうとしたんですから、お仕置きしなきゃいけません!」
「私も私も! 誘拐された時散々バカにされたから、一発言い返さないと気が済まない!」
「幸い、
おっと、アヤネちゃんの言ってることは確かに戦いにおいては正しいんだが、それじゃあ
「まあ待ちなさい。希望が見えて飛びつきたくなるのは分かるが、急いては事を仕損じるとも言うしね。僕がこのアビドスに来て学んだことだ」
「……それなら、どうするの?あんまりモタモタしてると、ホシノ先輩がどこか遠くに連れていかれちゃうかも」
「"そうだね、ホシノを助けるための口実の準備には……最低でも今日を含めて2日は欲しい。だから、ホシノ救出作戦の実行は明後日になるかな"」
とりあえず、僕と先生の見解は一致していたらしい。そして今シロコちゃんへも共有されたから、情報の認識に齟齬はない。
納得したらしいシロコちゃんは、神妙な顔つきで頷き、それに追随して他のメンバーも頷いた。
「"ありがとう。それじゃあ、今日は解散。明日以降忙しくなるから、今日はどれだけ眠れなくても、頑張って眠るように!"」
先生がそう号令をかけ、僕達と対策委員会は解散した。
「──さて、先生。また夜に会おうぜ」
「"……本当に、
「そりゃあそうさ。なんせ、
実はカイザー連中と戦っている間に「
議題はホシノちゃんがサインをしたであろう場所に突入するかどうか。一応、満場一致で突入することになった。
「"……分かった。だけど
「いざとなったら君も連れて離脱するさ。0コンマ1秒もかからねーよ」
「"──分かった。それじゃあ、また夜に。気を付けてね"」
そう言って僕と先生は、今度こそ本当に解散した。
黒服とやらのツラを拝みに行くのが楽しみだぜ。
「──最後に、何か聞いておきたいことはありますか?」
私は黒服に連れられ、カイザー基地の地下──実験室に移動していた。よく分からない機械がたくさんあって、何が何だかって感じ。
さて、最後に聞いておきたいこと……そりゃあ、これしかないでしょ。
「本当にもうアビドスには手出ししないんだよね?」
「ええ、約束しましょう。私たちがアビドス高校に何かを行うことは、今後一切致しません。わざわざ藪を突いて蛇を出す趣味もありませんしね」
そうか。それなら私は、もういいや。
やれることはやり切った。
「……?」
ふと、自分の手のひらを見る。
何故だか分からないけれど、小刻みに震えていた。
「…………よし」
その震えの裏にある感情ごと握り潰して、私はガッツポーズを浮かべた。黒服が怪訝な顔をしている(ように見える)が、高校を丸ごと守れた上に、借金も半分減らした。
後輩たちも、
アビドスのみんなは、これまで通りに──どころか、これまで以上に楽な学園生活を送れるはずだ。
子供みたいに、喚いた甲斐があった。
うへへ。
私の勝ちだ。
「……まあ、こちらとしては、あなたの権利さえ貰えれば問題はありません。いくつか不利益を被りましたが、それにも目を瞑りましょう。どうやらこの実験に、あなたは協力的なようですし」
「うん、どんな実験でも受け入れる。それで後輩たちを守れるなら、何だってやってやる」
「私には理解出来ませんね。先生ならば理解できるのでしょうが」
黒服はそう言うと、私に入室を促した。それに従って私は歩を進め、実験室の中央の台座で足を止めた──直後、身体が拘束された。
既に扉は閉まっている──これ以降、誰かに会うことはない。そう考えた途端、再び少し不安になった。案外、黒服と話して気を紛らわせていただけだったのかも。
……拘束されながら、ふと、ユメ先輩の言葉を思い出した。
私、みんな守れましたよ。
──自己満足だ。
また、いつか。
会えたらな。
──会えないよ。
会いたいです。
──会えないって。
誤ってばっかりの私だったけど。
──間違いないね。
今でも、謝らせてほしいって思ってる。
いつまでも、謝らせてほしいって思ってる。
──だけど無理だよ。
そうやって願ってる。
──もっと頑張れた。
そんなことを祈ってる。
──そんなことのために両手を塞ぐな。
誰かに、祈ってる。
──誰に。
誰かに。
──誰だよ。
誰かに……。
──いい加減、認めろ。見てみろ。
誰かに──。
──直視しろ。
誰か。
──弱さを直視しろ。甘さを直視しろ。失敗を直視しろ。失策を直視しろ。根底を直視しろ。発端を直視しろ。感情を直視しろ。普遍を直視しろ。本心を直視しろ。
誰でも。
──怖がるな。背けるな。閉じるな。怯むな。流すな。負けるな。隠すな。繕うな。逃げるな。
誰でも、いいから。
私だって、必死に頑張った。
頑張って生きたんだ。だから──。
せめてさいごに、もう一度だけ。
奇跡に、すがらせて。