「大人の戦い」です。
これをめだかボックス的解釈に落とし込むと
「言葉の戦い」になります。
「"……ここで合ってるんだよね、
「ああ、間違いねーぜ。レーダーによると、ホシノちゃんは確かにここを訪れて──その後、車で移動したような痕跡を描いている」
というわけで、僕と先生は黒服とやらの拠点と思わしきビルを訪れていた。やたらとエレベーターが多いビルだが、市街地ならばこんなものか。
右手に視線を落とすと、黒服からの
一人でに扉が開いたエレベーターを前にして、先生は何か考え込んでいる様子だ。ここまで来て悩むことねーだろ。
「"……本当に"」
「行くって言っているだろう? 僕も気になることがあるんだってば」
「"……分かった。それじゃあ、行こうか"」
何度目か分からねー確認を経て、ようやく先生は折れてくれたらしい。そりゃまあ、心配なのは分かるとも。だがしかし、こちとらはそんなにやわじゃねえ。
むしろ大船に乗ったくらいの気持ちでいてほしいくらいだぜ。
そんなことを考えて、エレベーターで上昇すること十数秒。扉が開かれ、僕たちは廊下に出た。歩いて数十秒。目的の部屋を発見し──先生と僕は扉を開けた。
目に飛び込んできたのは、椅子に座ってこちらを見つめる黒服の姿。
第一印象。
第二印象。
第三印象。
僕達は足並みを揃えて、黒服の待ち構えている部屋へと入室した。床には、
……やはり、
なんだよ、無駄足じゃん、僕。
「……お待ちしておりましたよ、 認識不可 先生、
「……僕のことは、親しみを込めて
ホシノちゃんから伝えられた通りの風貌に、
混沌よりも黒き
「さて……あなた方とは、一度こうして話してみたかったのですよ。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在と、正体不明の平等主義者──いえ、
へえ、どうやって僕のことを知ったんだか。そんなことは、今はどうでもいいがよ。
「どうです、
「"黒服、本題に入ってくれないかな。生憎こっちはアイスブレイクに興じるほど、あなたのことを信用できていないんだ"」
「──ククッ、アイスブレイクとはそもそも、打ち解けるために
先生が僕を庇うように立つが、別にその必要は無いんだけどな。だってほら、
「あのオーパーツ『シッテムの箱』の主である、
黒服は小首を傾げ、まるで腹黒い微笑を浮かべているかのようにこちらを見た。
「私たちは、あなた方と敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいと考えています。先ほど
「へえ、僕の友達を一人攫っておいて、よくもまあそんなことを口にできたもんだぜ。
「ククッ、やはりそのつもりでしたか。いやはや、わざわざ借りてきた甲斐があったというものですね」
僕も負けじと腹黒い笑みを浮かべて見せるが、こんなことしても誰の得にもならねーよな。やめておこう。笑顔はまた今度に取っておく。
「……『ソードライン』。二本の赤い線と、その間にある剣の全長二本分の間隔。その
銃を撃ってみても、弾丸が黒服へと到達することはない。
「スキルを使ってみても──」
スキルで攻撃してみても、黒服が消滅することはない。
「──この通り、ビクともしねー。しかも今僕が『出来ない』を証明しちまったせいで、今ここにいる全員に『出来ない』っつー認識が植え付けられちまった。この上なく厄介だよ、まったく」
「"……だけど、私たちはホシノを返してもらいに来ただけだ。だからそんな細工に興味はないんだよ"」
僕の実践に、先生が繋げてそう付け加える──声色がいつもと違ったので、少し気になってその横顔を見てみると、普段よりも幾分か男らしかった。
……うん、僕はこういう顔をする奴を
「細工、とは……ええ、まあいいでしょう。ともかく、私たちはあなた方シャーレとの敵対は避けたいのです。それは武力面に限った話ではありません」
「それにしては随分と警戒しているじゃないか。『敵対されかねない行為をしているのだ』という意識はあるのに、何故止めないんだい?」
「
そういうもの、ねえ。しかし「そういうもの」の中に
つまるところ、こいつは──
不可解。解きほぐせない。
「"あなた達は……一体、何者なのかな?"」
「一言で表すのならば、あなた方と同じキヴォトス外部の者──ただし、
「"……所属する団体の名前は?"」
「『ゲマトリア』と、そうお呼び下さい。そして私のことは『黒服』とでも。ホシノさんにはそう呼ばれていましてね……中々気に入ったので自称しているのですよ」
「ゲマトリア」──
そこから推察するに、ゲマトリアを名乗る連中が目指しているのは──。
「秘儀の『観察』と『探求』……かな?」
「それもあります。が、しかし……まだ足りない」
「へえ、そうかい。早とちりしすぎたかな──先生は何だと思う?」
「"……それらを通じての、
「……ククッ、クククッ……概ねその通りです──
黒服は随分と楽しそうにそう話してから、今度は僕ではなく、先生の方に声をかけ、再び提案を持ち掛けた。
「さて先生。一応お聞きしますが、
「"断る。微塵もない。"」
「ええ、そうでしょうね。このような結果になるのは分かっていましたとも──ですが、
黒服は先生にそう問い掛けを続けたけど、少し考えれば分かんねーもんかな? いやまあ、分からないから聞いてるんだろうけどさ。
「"さっきから言っているけど、私たちはただ
「……クックック、先生……あなたに一体何の権利があって、そんな要求をしているのですか? それに──先ほど出会い頭に私が持ち掛けた提案も、あなたではなく
「"ナジミはシャーレの生徒だ。そしてシャーレの責任者は私だ。私の大切な生徒に、私の許可なく提案を持ちかけるのはやめてほしい"」
「それにそもそも、僕はどんな提案されたって断ってたさ。一体どういう内容だったのかは知らねーが、君よりも先生の方が信用できるしね」
「『信用』、ですか。もしこの提案に乗っていただけるのならば、あなたにとっても有用な見返りがあるかもしれないというのに。例えば……元の世界に帰るための手段、とか。それでもその『信用』とやらを重視するおつもりで?」
……そう言われると、少し違う気もしてくるが……ふと気になって先生の方を見ると、僕の方を心配そうな顔付きで見ていた。そんな顔しなくても、この程度じゃ靡かねーよ。
それよりも、揃いも揃って下の名前で呼びやがって。
「いや、すまないね。さっき僕は『信用』を重視するという風なことを言ったが、それは間違いだった。まあ実際問題、先生よりも先に君に会っていたなら、僕は嬉々として君の実験に協力していただろうね」
「……でしたら、何故そちらに着いているのです?失礼を承知で言わせてもらいますが、先生のやり方は──」
「
「それが分かっているのなら、尚更理解できません。あなたまでその『非合理的』に付き合う必要はないではありませんか。一刻も早く元の領域に帰りたいのであれば、他の生徒のお悩み解決などやっている場合ではないはずです」
……まあ、そりゃあそうなんだけどさ。
「そりゃあ、そうなんだが──どっちにしろ目指すゴールが変わらないなら、
そう語ると、横にいる先生の顔がわずかに緩んだ、ような気がする。
「……成程。あなたは、安易で単調な作業よりも、難解で複雑な方を選ぶと。非合理の極みですが……否定はしませんとも。ただ、理解は出来ませんが」
「別にそれでいいさ。僕だって自分のことなんか分からねーんだから、出会って数十分の奴を理解できる方が珍しいって奴だぜ」
いつものように余裕の笑みを浮かべながらそう言うと、黒服は一度大きく息を吐いたかのような動きを見せながら、先生の方へと視線を向けた。
「
「"……いいや、したさ。ホシノの筆跡で書かれた彼女の名前を、しっかりと確認した。この目で見た。間違いなく、ね"」
「それならば分かっているでしょう。あなたがホシノさんに対して取れる行動など、何も──」
「"『顧問』である私が、まだ
「──…………」
自分の探究に結論を付けるのなら。
【
【
……アツいねえ、先生。はっきりと、臆することなく、自分の信念を貫き通しやがった。やはり甘い……こういうところ、嫌いではないがね。
「……成程。あなたが【先生】である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要──そういうことですか。なるほどなるほど……学校の【生徒】、そして【先生】……ふむ。やはりこの概念は厄介ですね」
「"あなた達はあの子たちを騙し、心を踏み躙り、その苦しみを利用した。だから、私たちはあなた達を許さない"」
「ええ。その通りです。確かに私たちは他人の不幸よりも、自分たちの利益を優先しました。私たちの行動は、善か悪かと問われれば、きっと悪でしょう。しかし
痛いところを突かれた──と、そう思うかもしれないが、実は全くそんな事はない。こんなしょうもねー論理では先生の信念を打ち破れない。
「"あれは向こうが先に不義理を働いたからね。それに、私たちはあくまで『金銭引渡しの書類を確認させてもらいに行った』だけで、間違っても『お金を手に入れるため』にあそこに行ったわけじゃない"」
「しかし結果として、金銭を受け取ってしまったことは紛れもない事実ではありませんか。そこについては、どうお考えなのですか?」
「"確かに受け取った。だけどあのお金は1円だって使っていない。それからさっきも言ったけど、先にこちらの信頼を裏切り、カタカタヘルメット団に学校を襲わせていたのはカイザーローンの方だ"」
「裏切られたから裏切ってもいいと? そんな理論が罷り通って良いはずがありません。仮に生徒が『大切な人を殺されたから相手の大切な人を殺した』という事態に陥った場合、あなたはそれでもそんな戯言を吐くおつもりですか?」
「"論点がずれてるよ、黒服。それにそもそも、
「……
……先生、マジで口論強えのな……。いや、黒服も中々痛いところを突いてきているんだが、そのことごとくが無効化され続けている。僕も一度は負けたもんだけど、あの時はここまでじゃなかったはずだ。
あの時──セリカちゃんが攫われた時は、僕が生徒だったというのもあって、先生は僕の選択を尊重してくれていた。ただ今回は、いかんせん相手が大人なもんだから、僕の時とは違って
……先生側につく判断をした前の僕には、感謝してもしきれねーな。
「それから、アビドスに降りかかった災難もまた、私たちのせいではないということをお伝えしておきましょう。あれは一定の確率で起こり得るただの自然現象に過ぎませんので」
「その機会を利用しておきながら、よくもぬけぬけとそんなことを言えたもんだね。その現象を利用した以上、君たちが今のアビドスの惨状を作り出したのとほとんど同じだっつーのによ」
「世の中にはありふれた話でしょう。持つ者が、持たざる者から搾取する。知識の多い者が、そうでない者から搾取する。大人なら誰しも──そうでなくとも、
「"違う。子供を騙し、その未来を搾取するのは、大人として、人間として最低の行為だ。自覚がありながらやっているのであれば、尚更。そもそも、生徒の未来は私たちのためにあるんじゃない。生徒自身が生きていくための
「──先生、あなたの希望を語るのは構いませんが、子供じみた理想論だけでは世界は成立しません。社会は回りません。なればこそ大人が適切に管理し、合理的に回していくべきではありませんか?」
正直なところ、「どちらも一理ある」というのが僕の意見だね。これは僕の平等性に起因する感想だとは思うが、なんにせよ、
……
「先生。あなたがホシノさんのことを諦めてくれさえすれば、全ては丸く収まるのです。カイザーはアビドスから手を引き、生徒も借金苦からは解放されます。そしてそれは、ホシノさんも望んでいたことです。ですから──」
「"断る。誰か一人の犠牲の上に成り立つ平穏なんて、私は望んでいないし、アビドスの皆も望んでない"」
平等性って、いや、それはアリなのか?
「……どうあっても、私たちと敵対するおつもりですか? あなたは無力です。
──これがアリだとするならば、もしかすると……僕は
「なあ、先生。お話中のところ悪いんだが──」
「──そいつを使うのは、やめておいた方が賢明だと思うぜ」
「……大人のカード、なるほど。ええ、確かにそれはあなただけの武器です。しかし、私は薄っすらと、それを使うことの
大人のカード。それは分かっている。だが──思っていたのとは違う。
僕は当初、大人のカードとはクレジットカードのようなものだと思っていた。未来の自分からの、「神秘」の前借りを行うものだと。だがこれは、使えば使うほど──。
「使えば使うほど、削られていくはずです。あなたの
「"うん、そうだよ。
「あなたにはあなたの人生があります。わざわざ生徒のために身を削る必要はありません。ちょうどあなたの隣にいる彼女も、私と同じ考えのはずです」
「そうだね、その通りだ。少し前までは『まあそこまで使いたいなら使わせてもいいかな』なんて思っちゃあいたが、たった今、ついさっき、そんな気はすっかり失せちまった」
ここで嘘を吐いたりしてもしょうがないので、正直に思うところを語ってみることにする。僕らしくも無いが、しょうがない。
「先生の献身の精神には感服するばかりだが、しかし忘れねーでほしいのは、仮に君の無茶が祟って死んだりされると、
「"……大丈夫だよ、忘れてない。それに、ナジミのことはちゃんと記録して残してもらってる。私とナジミ以外が確認できないように、シッテムの箱で。だから、いざという時は──"」
「その時は僕が本気でやればいいだけさ。もっとも、僕なんかが本気を出したところで、1京のスキルによって事態が迅速に終息するだけだがよ。それから、僕のことは
「"……それもそうだね。私と
ふう、危ないところだった。この大人は少々自分を省みなさすぎる──僕が帰れるかどうかは君にかかってるんだから、よろしく頼むぜ先生。
ふと気になって黒服の方を見ると、結構分かりやすめに安堵していた。なんつーか、
「思い直してくれたようで何よりです──しかし、解せませんね。あなたは何故そこまで生徒に肩入れするのですか? 所詮は他人なのです、放っておけばいいではありませんか」
「"そんなのは簡単なことだよ。だってあの子たちの苦しみに対して、責任を取る大人が誰もいなかったから。
「……何が言いたいのですか?
「"それが──"」
「……【大人】とは『責任を負う者』であると、そう言いたいわけですか。私はそうは思いません。【大人】とは『望む通りに社会を改造する者』です」
「"【大人】は支配者ではないよ。ましてや搾取なんて許されない。社会は一部の人間が利益を啜るために存在しているわけでもない"」
「まるで関係が無いかのような口振りですがそうはいきません。この学園都市における莫大な権力と権限、そしてこの学園都市に存在する神秘の全てが、一時的にとはいえあなたの掌中にあったことを忘れたとは言わせません」
「"そうだね。だけどそれは、
「なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜなのですか先生。理解できません。あなたとて生きているのならば権力が欲しいはずです。思い通りに世界を動かしたいと思ったことがあるはずです。その欲求を、システムを意のままに使役したいという欲望を押さえつけてまで、そのチャンスを捨ててまで、なぜ──」
もうそろそろいいだろ。
勝手に総括に入らさせてもらうが、結局生徒第一の先生と利益第一の黒服とじゃあ、反りが合わないのも当たり前なんだよ。
そもそもこれは、先生にだって
究極の感情論。「そうして当たり前だ」というポリシー。それに合理性を求めるという方が間違っている。
どれだけ手間がかかろうが、先生はそれらの一切を惜しまないのだから。黒服に、これは理解できない。もっとも、僕も掴みきれているわけではないが。
……だからと言って、この時間がまったくの無駄骨だったかと言うと、そういうわけでもない。むしろホシノちゃんがまだ生徒だということを証明できたし、
もう十分だぜ。
どうせ、ここから先は水掛け論だから。
「あー、お話が盛り上がっているところ申し訳ねーんだが、そろそろ僕は飽きてきちまったよ。あいにく【大人】とか【子供】とか、そういうのは僕にとっちゃあ、ぜーんぶひっくるめて
「──だから、何だと言うのですか、
「さっさとホシノちゃんの居場所を教えろっつってんだよ。そもそも僕たちの目的はホシノちゃんの奪還だ──
僕は黒服相手にそう凄み、彼へと向かって歩き出した。しかし「ソードライン」があるからか、黒服はほとんど反応を寄越さない。
「無駄ですよ、
「敵対行為? おいおい、あんまり滅多なことを言うもんじゃないぜ、黒服。第一、君が僕に言ったんじゃないか──僕が【
「ソードライン」がどうとか、
僕は
持ってるスキルに関しても
今ここにいるというだけでも、僕は【子供】と【大人】という性質を併せ持っている。加えて僕は、現在
つまり。
逆を言えば。
裏を返せば。
僕はソードラインを踏みつけながら、黒服の座る机の前へと移動し、机を「
「さて、痛い目に合いたくなければ正直に答えなさい。ホシノちゃんは今どこにいる? 行おうとしていた実験の内容は? 君はそれだけ答えてくれればいい」
「…………こちらが
へえ、恐怖ねえ。そういうのもあるのか……うん、ひとまずこんなもんでいいかな。あまり長居するのも黒服に申し訳ねーし、ここらで引き上げるのが礼儀って奴だろう。
「そうかい、ありがとう。いやあ、まさかここまで有意義な時間になるとは思わなかったぜ。疑問もいくつか解けたし、今日は最高の日だよ」
「そうですか。私にとっては、今日は最悪の厄日でしたがね……先生、
「"……
僕は先生と共に黒服の部屋を後にした。
さてと、どんな作戦を組むべきかな。
どうせカイザーは出張ってくるだろうから、まずはそこら辺の対策を考えないといけないね。
「……【先生】も厄介でしたが、【
一人語る。
「本当に厄介──ですが、
一人語る。
「『ソードライン』は
一人語る。
「
一人語る。
「ですが、それならば、仮にそうであるのならば、
一人語る。
黒服は、笑った。
黒服は、嗤った。
「──ククッ、クククッ……今度もう一度、
黒服一人になったビルに、腹黒い笑い声がこだまする。心底、楽しそうな笑い声が。
次の日の朝、そのビルはもぬけの殻になっていた。
選択肢の特殊タグはアネモネ様の「特殊タグ詰め合わせ」を参考にさせていただき作成しました。この場をお借りして御礼申し上げます。
感想・評価・ここすき等よろしくね。