縁を辿って戦力増強。
ブルアカのこういう所が好きです。
「
「うん、久しぶり。ヒフミちゃんも息災のようで何よりだ」
つーわけで、黒服との有意義な話し合いの時間から12時間ほど経過して、現在は日が昇り僕らを燦々と照らしている。
夜の深い青も好きだが、やはりキヴォトスの醍醐味はこの雲一つない青空だろう。中々気に入ってるんだぜ、これでも。
あの後、というか今日の朝。僕たちシャーレとアビドス廃校対策委員会の連中は今後の方針についての会議を
いやまあ、当然僕一人でどうにかすることも可能なわけだが、どうせ先生はいい顔しねーだろうし、折角なら同じ学校の奴らに救出させてやった方が粋ってもんだろう。
と、まあそんな感じで。僕はトリニティに、先生はゲヘナに、対策委員会は便利屋を説得しに向かったというわけだ。先生にしちゃあ、合理的で隙のない人選だと思うぜ。
ほら、僕ばっかりが便利屋と関わっているから、アビドスと便利屋を仲良くさせたがってるんだよ、あの大人は。細かいところまで気を回すねえ。
「さて……それじゃあ早速だが、事前にモモトークで伝えた通りに生徒会長の元まで案内しておくれ」
「はい。何やらピンチらしいですし……ティーパーティーのホストである
「……えっと、ちなみにその
「え? いえ、違いますけど……ほら、私はごく普通な感じですが、一応トリニティの生徒なので、仲良くさせていただいているとはいえ、礼儀はしっかりしておかないといけませんし」
よかった。やや非日常に憧れるこの子のテンションが普通ってことは、ナギサちゃんとやらも普通なはずだ。そうであってくれ。
この前ヒフミちゃんにモモフレンズのグッズを届けた時みたいに、3時間21分もぶっ続けで魅力を語られるのはもう御免だからね。
「……ふう。なるほど、ご説明ありがとうございます。
現ティーパーティーの一角にして、トリニティ三代分派の一つである、フィリウス分派のリーダーであるナギサちゃんは、僕の説明に対して、ソーサーにティーカップを置きながらそう返した。
……普段アビドスの連中か便利屋、そして連邦生徒会の暇そうな奴らとしか関わらねーせいで、こういう雰囲気は何だか落ち着かないね。まあこの程度の礼儀作法、努力せずとも身につけられるがよ。
しかし……しかし、ティーパーティーの現ホストは
「というよりも、ナギサちゃん。僕がフルネームで呼ばれることを嫌い──ってほどではないにせよ避けているということを、よく知っていたね。どうやらヒフミちゃんと大変仲がよろしいようだし、彼女から聞いたのかな?」
「いえ、
「……それもそうだね。話している内容が内容とはいえ、折角お出し頂いたものにいつまでも口を付けないというのも礼儀がなっていなかったかな。それでは頂くとするよ」
ローテーブルのお茶会ではないので、ソーサーは持ち上げずに、ティーカップだけを手に取る──持ち手が左にあるので、しっかりとカップを時計回りに右まで回してから、カップだけを持ち上げた。
ミルクは……要らないね。僕はストレート派だ。
つまむようにしてカップを持ち上げた後は、それを口元まで運び、少し傾けて口に含む。当然この時、音を立てて啜るような真似はしない。そういうのはラーメンとか、あとは茶道とかでやるものだ。
……ふむ、ダージリン・ティーか。ミルクを入れなかったのは正解だったね。折角の繊細な香りが損なわれちまうところだった。もっとも、ミルクや砂糖の有無は人の好みそれぞれだが。
こういった風味のことを何と言うんだったか……マスカテルフレーバーだっけ? 確か、「マスカットの味がする」という意味では無いんだっけか。その辺りは曖昧だね。
それから、フルボディだとかウィークボディだとか、そういう紅茶の程度を表す言葉もあったはずだが──おっと、別に僕は紅茶の品評会をしに来たわけじゃなかったんだった。
ソーサーにカップを起き、僕はナギサちゃんの方を見る。微笑をたたえているが、しかしその実、僕の紅茶の飲み方を観察していたことは知ってるんだぜ。
「御眼鏡には適ったかな?」
「ええ。想像以上でしたとも」
ははっ。想像以上って、どんだけ下を想像していたんだか。この程度の礼儀作法は一般教養みてーなもんだろうに。
……随分とまあ、分かりやすい皮肉だ。少々迂闊というか、何にそんなイラついているのかは知らねーが、僕に対してそれをぶつけられても困るんだがね。
念のため連邦生徒会の制服で来ておいて助かった。アビドスの制服だとスカートが短いから、こういう場だと不適格な服装だと見做されかねない。いやまあ、学生主体のお茶会がそこまで固いわけが無いんだけどさ。
「それで、そのPMC……でしたか。確かに我が校の生徒にも、悪影響を及ぼしそうというのは同意できますね。今回はちょっとした例外ということで、何か策を考えた方が良いかもしれません」
「そうかい、それは助かるよ、ありがとう。最悪の場合、曖昧な返事で有耶無耶に濁されて終わると思ってたから、本当に助かる」
「いえ、あくまでも
ふう。何とかうまく行ったかな。いやしかし、よく考えると、キヴォトスで僕が先生を伴わずにこういうことをするのって、実は初めてなんだよな。
便利屋とはあくまで個人的な付き合いだったから、こんな風にシャーレとして単体行動するのは初めてだ。何というか、新鮮な気分だぜ。新しい制服に袖を通した時みてーな清々しい気分だ。
しかしナギサちゃん、想像していたよりもいい奴だったな。僕はそう考えながら、
差し当たっては、まずこのロールケーキを──。
「……それから、
──前言撤回だ。こいつ、よりにもよって
豪勢なティーセットや高品質なお茶でもてなし、あまり固い雰囲気を作らずに受け入れる姿勢を見せ、何の利もない取引に乗り、そして僕がそのままの流れでケーキを口に運んだタイミングでこれだ。ここまでされておいて
まあ断ろうと思えば断れるんだが、今の僕はシャーレの
「……善処するよ。僕は
「あら、そうでしたか? それなら良かったです。愛は巡り巡るものですから、
……政治屋め。だが、その
おっ、このロールケーキ滅茶苦茶美味えな。
「……これ、どこのお店の物かな? 先生たちにお土産として買っていきたいんだが」
「あら、それは私の手作りロールケーキです。そこまで気に入って頂けたのでしたら、後日シャーレに郵送致しますよ」
「本当かい? いや助かるよ、何本でもいけそうだぜこれ。クリームが上品な甘さだし、生地も程よくしっとりとしていて、紅茶にも合うし……おや、どうして笑っているんだいナギサちゃん」
「ふ、ふふっ……いえ、少し警戒していたのが、どうやら考えすぎだったと分かり……あなたなら、そうですね。ひとまずは信用に足りそうです」
よく分からねーが、信用を勝ち取れたのなら良かったぜ。反感を買うよりもこっちの方がよっぽどいいからね。さてと、もう一口。
……いや、本当に美味いなこれ……。
ナギサちゃんとの会談はまあまあといった感じだった。いつかまた会うことになりそうだが、まあその時に考えよう。
「ど、どうでしたか……? ナギサ様は優しい方なので、きっと大丈夫だったと思うんですけど……」
「うん、問題なかったよ。それに援護の件も快諾してくれた。いやー、やはりお金持ちはスピード感が違うね。決断までの速度が段違いだ」
速度で言えば、ヒフミちゃんも負けちゃあいねーがよ。
「そうですか! それなら良かったです……!」
「ああ、それからヒフミちゃん。今度は君がナギサちゃんに呼び出されていたぜ?」
「えっ? 私が、ですか?」
「どうにも『ピクニックのお誘い』らしい。そういうわけで、行ってきたらどうだい?」
「ああ、なるほど……分かりました。それじゃあ
「またねー」
ヒフミちゃんはそう言って一礼すると、さっさとティーパーティーのテラスに向かって走り去って行っちまった。
さて、と。それじゃあ先生の様子でも見に行ってやるか。そう考えて、僕は「
「おーい、先生。首尾はど──」
「"あっ、ナ
──あれ、先生はどこだろうか。僕の目の前にいるのはイオリちゃんの足を舐めている不審者だけだし、舐められているイオリちゃんもそれを見ているヒナちゃんも顔は真っ赤だ。
いや、舐めてるっつーか。
食べてないか? 足を。
口に含んでるよな。
っていうか、うん。
これはアレだな。
事案だ。
圧倒的に。
完全に。
風紀が乱れている。
そう決めた瞬間、僕は不審者の上空15mまで跳躍し、
「"うわああああっっ!!??"」
着地と同時に、地面に亀裂が走る。やっべ、やり過ぎた。でもまあいいだろ、生徒の足を舐める変態も退治できたはずだ。
とりあえず、地面は「
「いけね、手加減したんだがちょっとやり過ぎたかな」
「"ちょっと、
あれ、やれてない。
「……ええっと、どちら様でしょうか? 生憎僕の知り合いには、子供の足を舐めるような大人はいなくてですね……」
「"なんでそんなに距離があるの!?"」
「え、ええ……? いえ、距離があるだなんて、そんな……確かにこれ以上ないってくらいの生理的嫌悪感は抱きましたけれど、決して、気持ち悪すぎて近寄りがたいだとかそんなことは……」
「"長々と生理的嫌悪感について語らないで!?"」
「じゃあ気色悪いんで近寄らないでください」
「"端的な方が傷付くんだけど!!"」
久しぶりだなあ、こうして先生とふざけ合うのは。アビドス来てからはやってない気がするね。
「まあそんな冗談はさて置き」
「"さて置けないほどのダメージを喰らったんだけど"」
「ハゲ散らかしたマスコットの戯言はさて置き」
「"さて置いておかないで……?"」
「文句多いなあ。それじゃあ君の戯言は神棚にでもさて置いておいてやるよ」
「"罰! 当た! り!!"」
「生徒の足舐めてる奴とどっちが罰当たりなんだか」
「"それ! それだよ
「足舐めにちゃんとした理由があってたまるかよ。舐めさせられたパターンでしかあり得ないだろ。イオリちゃんが『足舐めろ』とか言うわけないし……だろう、イオリちゃん?」
僕はそう言ってイオリちゃんの方を向く。目が泳いでいた。これ以上ないってくらいに。おい、マジで? きみから舐めさせたの?
これはダメだと思い、ヒナちゃんの方を向いてみた。顔は真っ赤だし汗はだらだらだが、きっと事実を教えてくれるはず。
「なあ、ヒナちゃん。一体どうして先生は──」
「う、うぁぁ……? えぇ……っ、えぇ……?」
うん、ダメだねこれは。この子には刺激が強過ぎたらしい。いやまあ、そりゃあそうか。僕でも一瞬混乱したんだから、ヒナちゃんが耐え切れるわけもない。
それにほら。なんかこの子こういうの苦手そうだし。
「"私はヒナに会うためにゲヘナを訪れたというのは周知の事実だろうけれどそれをイオリは良しとしなかったんだよまあ私は側から見れば怪しい大人でしかないわけだしイオリの警戒もまあむべなるかなという感じではあるねとはいえそのまま引き下がるわけにもいかなかった私はイオリに対して『どうすればヒナに会わせてくれる?』と交渉を持ちかけたんだよ心が広いイオリは私のその交渉に乗ってくれてそこで『誠心誠意足を舐めるのならば会わせてやらないこともない』と寛大な心で私に対してヒナに会うチャンスをくれたんだだから私はその厚意に応えるために精一杯全身全霊を込めてイオリの足を舐めることに決めたんだ当然恥ずかしかったけれどしかしホシノに危機が迫っている状況で四の五の言ってはいられないからねそういうわけで私はすぐさまその場に跪きイオリのシューズとソックスを心底丁寧に万が一にも傷が付かないようにゆっくりと脱がせてからその健康的な色の肌に舌を這わせていたところヒナがちょうどそこにやってきて私がイオリの足を隅から隅まで舐めていたところに遭遇しさらにそこに
僕がナギサちゃんと一進一退の舌戦を繰り広げていたというのに、先生はイオリちゃんの足に舌を這わせていた、と。そういうわけか。
「おい細かく説明するなよ!! 足なんか舐めたら汚いだろ!!」
「"汚くなんかない!! 二度とそういうことは言っちゃダメだよ!!"」
「あし……なめ……?」
「僕もう帰っていいかな」
あの後なんとかヒナちゃんとイオリちゃんを説得して、ホシノちゃん救出作戦に協力してもらうことになった。
……いや、どうやったらあそこから待ち直せるんだよ。自分の足舐めてくる奴に対して好感度が1以上になることあるのか?
でも実際にそうなってるし……うん、気にしないことにしよう。そういうのはいまいち分かんねーからさ。
そんなわけで──どんなわけかは分からないが──僕達は屋台形式になったラーメン柴関に集合していた。当然ラーメンも食べているが、しかしロールケーキと紅茶のあとにラーメンってどうなんだろうか。
それで屋台形式に戻した理由だが、どうやら立ち退きの勧告が来ていたことを受け、いっそ心機一転し、昔の屋台スタイルに戻すことを決意したらしい。たくましいぜ、大将。
「ずずっ……で、シロコちゃん達はどうだったのかな? こちらの首尾はおおよそ上々だったが」
「ずぞぞ……ん、協力してくれるって。やっぱり便利屋はいい人たち、初めて会った時とは大違いだった」
「そうでしたね! 事務所に行ったら、かわいらしい猫ちゃんもお出迎えしてくれて癒されました!」
「あの猫ちゃん──ベリーちゃん、アルさんにとっても懐いてましたね。カヨコさんがちょっと悔しそうにしていて、笑いそうになってしまいました……」
「そうだよね、あれでアウトロー目指してるとか、ちょっと信じられなかったし……なんていうの?善ッ! て感じというか」
どうやらそこそこ仲良くなって帰ってきたらしい。先生の采配は大成功だったというわけだ。まあ便利屋と仲良くなれない奴の方が珍しいとは思うけど。
……ふう、ごちそうさま。なんか屋台で食うラーメンの方が美味い気がするね。完全に錯覚だろうけれど。
全員がラーメンを食べ終わり、席から立ちあがったのを確認すると、セリカちゃんが器をさっさと片付けてしまった。手慣れているねえ、さすがの生真面目さだ。
「さて、それで? どうやらホシノちゃんがピンチらしいじゃないか。当然みんな、連れ戻しに行くんだろう?」
大将が僕たちに向けてそう問いかけてくると、全員が一様に頷いて見せた。それを見た大将は満足げに、人の善い笑みを浮かべると、続けて語った。
「ははっ、そうこなくっちゃなあ。ウチの常連さんが減っちまうのだけは勘弁願いたいからね、退部だかなんだか知らないが、是非とも連れ戻して、
「うん。今度はホシノ先輩も連れてくるから、大将はここで、いつもよりも豪華なラーメンを用意して待ってて」
「おう、腕によりをかけて作ってやるとも。それじゃあ頑張ってな、対策委員会! 行ってらっしゃい!」
「行ってきます!!」
大将の激励にそう返して、僕らは紫関の屋台を後にした。いよいよ明日はホシノちゃん救出作戦の決行日だから、英気を養うためにラーメンを食っていたというわけだ。
図らずも大将のおかげで、対策委員会どもの士気は右肩上がりだ。本当に、彼には頭が上がらないぜ。
──さて、ホシノちゃん。覚悟しておきなさい。
いち友人として、叱ってやるとも。
終わりは近いです。
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