そんなわけで襲撃──もとい、ホシノちゃん奪還作戦当日は、あまりにもあっけなくやってきた。
全員気合い十分、睡眠もバッチリ取ったようだし、こちらの準備は十全だ。対してカイザーどもは勝ちを確信して気が緩んでいる。
絶好の奇襲日和だぜ。
「ぐあああああっ!!」
「増援は、増援はまだか!?」
「くそっ、こいつら……!!」
さて、僕たちは今カイザー基地に襲撃をかけ、次から次へとやってくるPMCの兵士をばったばったと薙ぎ倒していた。なんだかんだでノノミちゃんが一番張り切っているね。やはりあの子はこういう乱戦に強い。
シロコちゃんはその類稀な身体能力とドローンを活かして、油断した兵士を片端から蹴り壊している。サバットなんかを教えてみたら、もっと強くなるかもな。
セリカちゃんは全身から青い炎を出して、手当たり次第に敵兵器を破壊していた。青い炎はどうやら気迫の表れらしく、流石に燃やせるわけではないらしいね。
それから今回はアヤネちゃんも同行している。今回ばかりは、アビドス高校でお留守番というのも落ち着かねーだろうし。
ちなみに現在アヤネちゃんがこの場の制空権を取っている。どうしてそのドローンで空の支配者になれるんだよ。
……ははは、わっはっは。一方的な戦いってあまり個人的には好きじゃねーんだが、何でか爽快感みてーなもんが胸の奥から溢れ出てくるね。
「"悪いけど、こっちも大切な生徒の未来がかかってるんだ。そういうわけで、容赦せずに行くよ"」
先生も珍しく張り切っているようで、指揮にも覇気が篭っているように見えるね。これは僕も負けていられねーな、インパクトある一発をくれてやるとしよう。
「そういうわけで爆弾生成のスキル『
僕はそう言ってから「
「たっ、退避! 退避ィィーー!!!」
「おっと、避けられちまった。
「うおあああああっ!!!!」
「
「…………」
おや、二十発かそこらで沈黙しちまった。どうやら今ここにいる部隊は全員始末しちまったらしい。ふと横を向くと、シロコちゃんが真顔でサムズアップをしていた。
「
「おいおいシロコちゃん、僕のことを冷血だと言いたいのかい?だとすれば生憎だがね、今の僕は
「……爆弾ばっかり投げてるし、爆血?」
「はは、爆血──いや、なんかどっかで聞いたことあるなそれ。悪いがシロコちゃん、それは却下で頼む」
多分これも前の僕関連……いや、何となく違う気がするな。僕にしては珍しく勘でしかないけど。
「あいつらだ! 囲め! 囲めーっ!!」
おっと、どうやらお喋りの時間は終わりらしい──かなりの量の援軍だな。これって本当にPMCの兵力だけなのだろうか。
どうにも突っかかるね。いくら何でも──僕を警戒していたとしても、
「"……アヤネ。あれが何か解析できる?"」
「はい! どうやらあれは
「ちょっ、ちょっと待ってよ……
「……セリカちゃんの
「囲まれた……それでも、
「当然だとも。わざわざこんな開けた場所で戦ってたのには、当然それなりの理由があるさ」
僕たちは周囲を
こうして分かりやすく優位に立たせてやれば……おそらく、あいつは怒りに身を任せて出てくるはずだ。
「アビドス、廃校対策委員会いぃぃ……年貢の納め時だああああ!!」
ほらね? カイザーの理事、この前僕に面子潰されてるからさ。わざとらしく窮地に陥ってやればのこのこ向こうからやってくるんだよ。
「それから貴様だ
「そんなことを僕に言われてもねえ。あくまでも先に攻撃してきたのはそっちなんだから、僕のやったことは正当防衛でしかねーよ。それから、ホシノちゃんを取り返しに来た
「……どうでもいい」
「カイザー理事。細かい説明は省くけど、ホシノはまだ正式にアビドス高校の生徒だと証明されているんだよ。だからこれ以上の戦闘は、法律にも──」
「どうでもいいと言っているんだ!! 貴様らシャーレと対策委員会をここで消してしまえばいいだけの話だろうが!!」
先生が理路整然と説明しても、やはり応じる様子はない。それを確認した僕たちは、作戦を続行することにした。
「ん、顔真っ赤。
「いや、何か特別なことをしたわけじゃないさ。ただ少しご自慢のおもちゃを、そのご大層なプライドと一緒にぶっ潰してやったってだけの話でね」
わざとカイザー理事に
僕は先生に向けて合図を送った。しっかり伝わったようで、先生は予定通りに連絡を送る。
「ッ──! 構えろ!!」
カイザー理事の指示により、砲門・銃口が僕たちに向けられる。絶体絶命のピンチで、誰かが唾を飲む音が聞こえた。
そして、僕たちに向けて砲弾が放たれる──瞬間。
爆音と共に、戦場には不釣り合いな
「……は?」
カイザー兵士の誰かが、そう呆けたように声を出したのも致し方あるまい。なんせ、
端的に言えば……
僕たちに放たれるはずだった銃弾・砲弾の山は、そのほとんど全て──厳密に言えばリロードが必要になる程度の量──がペロロ人形に放たれた。
しばらくして、スポットライトを浴びながら踊り狂うペロロ人形は完全に沈黙し、再びその場にはしばしの静寂が訪れた。
「……な、何だったんだ……?」
気を削がれてしまった。
気が緩んでしまった。
気を抜いてしまった。
それこそが、
静まり返った戦場に、高所から放たれた、その高い声はやたらと良く響いた。どうやらその
カイザーの連中が、なんとはなしに空を見上げた。今日はやや風が強いからか、
カイザーが目にしたのは──砲弾。それも、まるで
「なっ、なんでッ──……」
一人の兵士が何かを口にしようとしていたようだが、その後の言葉は全て爆音にかき消され、もはや認識は不可能だった。
当然僕の声も聞こえないので、僕はすぐさま紙袋の女の子──
(やあヒフミちゃん、いい演技だったぜ。あと一つ聞きたいんだけど、トリニティからここまでの支援があるとは聞いていないんだが──)
(トっ、トリニティではありません! 私はヒフミではなく覆面水着団のファウストなので無関係です! 偶然、偶然なんです!)
{あー、いや。僕は今、君の脳内に直接語りかけているからそういう誤魔化しは要らないよ。だから安心してくれたまえ(
(えっ、直接脳内に!? じゃない、そうなんですね、それなら安心です……というか、中括弧を数学以外で使うことってあるんですね……)
(僕も今初めて使ったよ。それよりも……流石にこの量の支援はおかしいだろう。ナギサちゃん、
(ナギサ様、ですか……? いえ、特には言われてませんけど……)
(ふむ、それならいいさ。じゃあその調子で砲撃を続けてくれたまえ。報酬の『モモフレンズもちもちぬいぐるみシリーズ』を期待しておきなさい)
(はいっ!! 楽しみにしてますからね!!)
ふう。本当にあの子は、モモフレンズチラつかせれば大抵何でもやっちゃうのが心配だな。現に今、彼女はファウストとしてここに来ているわけだし。
それよりもナギサちゃん……ここまでシャーレに、というか僕に恩を押し売りするなんて、
「なっ……おい、兵器はどうなった! すぐにあいつを……!!」
「だっ、ダメです!! 今の砲撃で、約半数が持っていかれました!!」
作戦の
カイザー理事は今、冷静さを完全に失っているはずだ。そしてそこに、
「私のスキルである『
「ぐっ……!! カイザーに楯突いたこと、すぐに後悔させて──」
はい、狙い通りに
だから、
一歩、また一歩と彼女たちは歩を進めて近づいて来ていた。決して彼女たちから目を離してはいけなかった。侵入される前に、対処しておくべきだった。
それを怠ったからカイザー理事は。
「なっ──便利屋、
「あら、覚えてくれていたのね。それなら良かったわ──これからあなた達がどうなるのか、説明しなくていいんだもの」
アルちゃん達……便利屋68は、バッチリとそれぞれポーズのようなものを決めながら、カイザー理事と相対した。見栄えがいいね。
……とりあえず、便利屋が来た時点で
あとは、ホシノちゃんを救出するだけだ。
「"やあ便利屋のみんな、久しぶり。来てもらったところ早速悪いんだけど……ここ、任せちゃってもいいかな?"」
「先生……ええ、ふふっ……ここは私たちに任せて、先に行ってちょうだい。もう
「"そっか、ありがとう──それじゃあ、対策委員会のみんな! ここは便利屋のみんなが引き受けてくれるから、私たちはホシノを助けに行こう!!"」
先生がそう号令をかけると対策委員会はそれぞれ頷き、そしてホシノちゃんの反応がある場所へと走り始めた。それに引き続き、僕と先生も走り始める。
さて、頼んだぜ、便利屋68。
「……
「ええそうね。でも今はそれより、元クライアントであるカイザー理事をどうするかを考えましょうか」
先生たちが走り去っていったのを確認してから、カヨコに向けて私はそんなことを言って、カイザー理事の方を向き直った。
……やっぱり、あんまり好きじゃないのよね、この人のこと。他人を騙すことしか考えてないというか……とにかく1に利益2に利益って感じで。
私が目指すアウトローは、こんな卑怯者じゃない。
「さて……ファウストさんも! ここは私たちに任せてちょうだい!!」
「……しかし、私は覆面水着団として……」
「それでも、よ。覆面水着団──アビドス廃校対策委員会のために、私たちも戦いたいの。だから、ここは私たちに任せて、戦わせてくれないかしら」
ファウストさん──多分トリニティの生徒──に、私はそう頼んでみる。これでダメなら、その時は大人しく引き下がって、破壊工作をするだけだけど。
「……分かりました! それじゃあ私はここから降りて、砲兵の皆さんに後はお任せするので、便利屋の皆さんもお気をつけて!!」
……ファウストさん、手を振りながら塀を飛び降りたけど……普段はあんな感じなのかしら? その、結構可愛らしい人なのね……。
「理事!!今お助けし──」
「うるさい、静かにしてて」
いつの間にか後ろから来ていた、ゴリアテとかいう兵器に乗っていたカイザーの兵士の足を、カヨコが怖がらせるスキル「
「殺します!!」
足を止めた兵士に向けて、ハルカが銃弾九倍化のスキル「
「便利屋68! 一度は貴様らを雇ってやった恩を忘れたのか……!? それが、貴様ら一体どういう了見で……!」
あら、カイザー理事……銃を突きつけられてるのに結構元気ね。多分
でもこれ、先生と
「どういう了見って言われてもねー、私たちは別に、恩なんて感じてないし〜?」
「そうです、それにこいつのせいでアル様は色々な銀行を駆けずり回ることになって……や、やっぱり殺しませんか……?」
「ダメだよ、ハルカ。それをやったらこっちが重大な犯罪者になるし、社長──アルにまた迷惑がかかっちゃう──だから、
「……おい、待て貴様ら。それは……C4の起爆装置じゃ──」
今更焦ってるようだけど、もう遅いわよ。
「ハルカ、やっちゃいなさい!!」
「はいっ!!」
私がそう合図を出した瞬間、ハルカが起爆装置のスイッチを一切の躊躇いなく押し、そして数秒後。
基地内のありとあらゆるところ──文字通りに、ありとあらゆる
連鎖して、施設内がどんどん爆破されていき、さらにそこにトリニティの榴弾砲がお祭りの花火みたいな頻度で飛んでくる。
ふふ……やっぱり強いわね、この戦法。私が銃弾が爆発するスキル「
それをカヨコとハルカが潜入してそこら中に設置して、C4で起爆すれば──。
「見ての通り、これ以上なく簡単に爆破して回れるってわけね。ちなみに抵抗は無駄よ、カヨコとハルカが基地中を回って兵器があるところをピンポイントで爆破できるところに爆弾を設置してくれたもの」
私は項垂れているカイザー理事に向けて、銃を突きつけながらそう語った……のだけど、どうにも様子がおかしいわね。
「……くくっ、くくくっ……
……なるほどね。それがあったから、まだ余裕を持って怒っていられたと、そういうわけだったの。
「……おい、応答しろ! さっさと向かわせろと言っているんだ!!」
『その……理事。非常に申し上げにくいのですが──』
ただ、ご愁傷様。生憎だけど、ゲヘナから来ているのは
『──それでここにいる兵力は全て制圧し終わりましたね。イオリもチナツも、お疲れ様でした』
「……いや、そんなわけないでしょ。私たちが倒したのなんて精々100人かそこらだし……ヘリも落としたしゴリアテとかいう奴の量産型も倒したけど、相手は
「アコ行政官、何かの間違いなのではないですか? いくらヒナ委員長といえど、たった一人で約500人を相手取った上で、この短時間で殲滅できるとは思えません」
『……いえ、ですから──まあ、そこまで言うなら、直接見た方が早いですね。そこの砂丘を超えれば、ちょうど前方に見えるはずですよ』
アコに促され、イオリとチナツは砂丘を登りきり、一度汗を拭ってから前方を見下ろした。
──山。
二人はまず、そのような印象を抱いた。実際それは
敬愛する風紀委員長──空崎ヒナは、その積み上がった鉄屑の……否、対デカグラマトン大隊の残骸の上に腰掛けていた。
「……あら、そっちも終わったの。思っていたよりも時間がかかったわね」
「いや、いやいや委員長……そんなこと言われたって、私たちは300人くらい相手にする想定だったんだって! だからペースが遅くなって……」
「というか委員長……どうしてわざわざ壊した兵器の上にいるんですか? その、危ないと思うのですが……」
「だって砂の上は照り返して暑いじゃない。こうして山を作ってその影に入れば、多少は涼しくなるでしょう?」
『流石ヒナ委員長……戦いながらもその後のことまで考えているとは流石です!!』
(……本当は、
こうして、ゲヘナ風紀委員会の精鋭部隊によって、カイザー理事の最後の頼みであった対デカグラマトン部隊は、あまりにもあっけなく全滅した。
『──対デカグラマトン大隊からの応答が、ありません……!!』
「……クソぉッ!!」
やっぱり、ヒナ達が上手くやったらしいわね──ちょっと待って、今
大隊って600人よ?
……気にしないことにしましょう。私は私にできることを、私にできる範囲でやるだけよ。
私は地面を拳で殴りつけているカイザー理事に近づいてしゃがみ込み、顔を近づけた。
「さて。カイザー理事……笑顔はどうしたの?」
「……は?」
「
私の役割は、
「ほら、笑ってみなさい。いつもやっていたみたいに、大声をあげて笑ってみなさい。ほら、早く」
「な、何を……」
「もしかして笑い方が分からないのかしら? それなら見せてあげるわ」
笑え。笑え。凄んで見せろ。凄みで魅せろ。そして見せつけろ。
私が、私たちこそが、
あの子多分気付いてないけど、あの笑い方って初見の威圧感が凄いのよね。そのせいで初めて会った時は攻撃しちゃったし……。
……ただ、そのおかげで今の関係があるって考えたら、悪い笑顔も、
「貴様……貴様、貴様貴様ァァ!! 便利屋68!! 絶対に許さ──」
「許すとか許さないとか、あなたにどう思われてようが
そう言って立ち上がり、振り返りながら手榴弾のピンを抜く。背後に軽く投げ、私たちは揃って歩き始めた。
直後、手榴弾が爆発して──私のコートと髪を、爆風が揺らした。カイザー理事はまともに喰らったみたいだし、気絶してるでしょう。
……それにしても、今の私──
いや、落ち着くのよ私……ここでいつもみたいに周りに同意を求めようものなら、ムツキにまた茶化されちゃうかもしれないわ──。
「アルちゃんアルちゃん、頑張って取り繕おうとしてるけど『いや、落ち着くのよ私……ここでいつもみたいに周りに同意を求めようものなら、ムツキにまた茶化されちゃうかもしれないわ』が顔に出てるよ?」
「そんなに!?」
せっかくカッコよく決まったのに!!
たまには最後までカッコよくいたいんだけど!!
……今度、砂狼シロコにポーカーフェイスのコツでも聞いてみようかしら……ええ、そうね、そうしましょう。
ラーメン柴関で、みんなでゆっくり話でもしながら。
バレてるかもしれませんが、僕は便利屋大好きです。
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