──いくつか、思い出したことがある。
これはきっと、
どんなことがあったのかまでは、まだ思い出せない。ただ、特に気にかけていた三人──めだかちゃん、人吉くん、球磨川くん──プラス、
どうして思い出せたのか……おそらく、あの蛇っぽい奴を撃退したから。この世界を仮にゲームだとするのならば、あいつは分かりやすくボス格だった。
それから、ホシノちゃんの救出にも成功し、アビドスの諸問題はひとまず解決した。上記の通りゲームで例えるのならば、これも分かりやすくちょうどいい区切りだ。
ストーリーが進行したから。
あるいは、親交が深まったから。
だから僕も、帰る時間に近づいたのではないか。
……もっとも、憶測でしかねーがよ。
そう考えると、シャーレに所属したのは本当にファインプレーだったのかもしれねーな。少なくとも僕の観測上、この世界は先生を中心として存在しているようだし。
いわゆる相棒キャラの立ち位置に収まったわけだが、しかしこれで満足しているわけにもいかない。先生に頼りきりになるわけにはいかねーし。
……と、そんな風に、アビドス砂漠で倒れてから一週間、僕は教室空間を作るスキルで作り出した異空間で考え込んでいたわけだ。
つっても、僕だってやりたくてこんなことやってるわけじゃないってことは理解しておいてほしい。
なんかさ、
だからこうして一週間、異空間で寂しく考え事をしていたわけだが──おや、何だか今なら
よし、それならこうしてもたついてる訳にはいかねー。先生たちも無駄に心配してるだろうし、さっさと元気なところ見せてやんねーとな。
こうして、僕の意識は急激に浮上していった──。
僕が眠っていた病院のベッド、その隣のパイプ椅子。
白々しい漆黒──黒服はそこに、足を組みながら座り、楽しげに笑っていた。
結論から言うと、黒服は僕に何をしに来たわけでもなく、ただただ僕の身を案じてお見舞いに来たらしかった。
「いや、黒服。こういうのは普通さ、目覚めたらいの一番に視界に入り込むのは先生かホシノちゃんの二択だろうよ」
「理解は示しますよ。しかし私としては、ぜひあなたと個人的に話がしてみたかったのです──私の話、興味深かったでしょう?」
「……まあ、そうだね。否定はしないさ」
「クックック……そうでしょう、特にあなたにとってはね。では、私はこれで失礼します。
黒服はそう言うと、僕の病室からそそくさと出ていってしまった。帰る途中でホシノちゃんあたりと鉢合わせてくんねーかな。
……それにしても、
違いを痛感する静観の理解者だかなんだか知らねーが、ともかくあいつは新しい神らしい。デカグラマトンが
……さて、正直なことを言わせてもらうと、
だからこういうのは一旦置いておく。今度先生と会議で共有するとしよう。
……さて、いつまでも病衣のままというのも落ち着かない。一度気にし始めると、なんだか妙な感覚に身が包まれ始めた。
なので僕は「
「痛ッた──……はあ、やっぱりそう来るか」
黒服曰く、スキルの使用には
しばらくすれば徐々に神秘は復活するらしいが……僕のスキルはかなり神秘の消費量が多いらしく、迂闊に使うと
キヴォトスのスキルは、
……こういうのって、多分ミレニアムサイエンススクールが得意とする分野だよな。デカグラマトンについても何か分かるだろうか。
とりあえず、ユウカちゃんにモモトークで連絡してみるとしよう。
スマホをいじってユウカちゃんに連絡を寄越した後、着替えるためにベッドから出ていたので、制服に着替え終えた僕はベッドに飛び込んでみる。
硬っ。安物かよ。
「……はあ、めんどくせー……」
思わずそう呟くが……いや、本当にめんどくさい。何がって、あの子の性格上──その過去を考えるに、どう考えても
どうしてよりにもよって、
「どうしたもんかな……」
と、うんうん唸りながら一人で考え事をしていたが、ふと、廊下を走るような音が聞こえてきた──しかも、大勢の。
……6人分、か。まああいつらだろうね。病室が騒がしくなりそうだが、個室でよかったぜ。
しょーがねー、ドッキリも仕掛けられないし、ここは大人しくベッドの上から出迎えるとしようか。
そして僕の予想通り、6人分の足音はどんどんと病室に近づいてきて──直後、ドアを開けただけとは思えない轟音を響かせながら、そいつらは姿を現した。
ほらな、思った通りの面子だぜ。
「はいはい、おはようおはよう。一週間も眠りこけちまって悪かったね」
「……あれ、思ってたよりも元気そう。ホシノ先輩、ほら見て、
「うへ……よかったよぉ〜……」
うっわ、ホシノちゃん、しなっしな。
後日談というか、今回のオチ。
目覚めた翌日、僕は退院した。先生とホシノちゃんが滅茶苦茶心配するもんだから、危うく車椅子に乗せられるところだったぜ。
しかしあいつら頑として譲らねーもんだから、折衷案として僕は杖を持っている。杖っつっても、先端が鎌みたいになってるやつじゃなくて、もっとハイテクな見た目のやつ。
ちなみにホシノちゃんのしなしなは治った。少なくともスキル関連以外では後遺症が残っていないことを知った今の彼女は、つやつやでぴちぴちだ……なんか魚みてーな表現だな。
そんなこんなですったもんだのすえに自由に歩く権利を勝ち取った僕が、現在何をしているかと言うと──。
「それじゃあこれから『ホシノ先輩お帰りなさいパーティー』アンド!!」
「『
──盛大な歓迎会に参加していた。司会はセリカちゃんとアヤネちゃんだぜ。なんつーか、この二人は息ぴったりだねえ。
ちなみにこんなことになったのには原因があって、先生が「こっちにいる間はアビドスに学籍を置いておきなよ」と言いやがったからだ。
まあいいんだけどさ、別に。ここは砂だらけだし滅茶苦茶暑いが、その分
このロケーションは──こんなに眺めがいいところは、他のところには多分ないだろう。遮るものひとつない空というのは、このキヴォトスにおいても中々に貴重だからね。
ああ、そうそう。アビドス廃校対策委員会なんだが、先生の承認を得たことによって
まあつまるところが
それから。ホシノちゃんの件は解決したものの、そもそもの契約自体を
カイザーローンには連邦生徒会がガサ入れするらしいが……正直なところ、まともに捜査のメスが入るのかどうかは怪しいところだ。
連邦生徒会も、一枚岩ではない。
もちろん僕が無理矢理一枚岩にすることもできるが。
カイザー理事は理事から転落し、現在は営業をしているらしい。てっきり指名手配されるかと思ったんだが……カイザーが裏で手を回したのかな?
ちなみに利子だが、当然適正価格に引き下げられた。大方黒服の手回しだろう──あいつ、敵なのか味方なのか分かんねーな。
それは僕もか。
土地に関しては正式な契約が結ばれていたので、その大半は相変わらずカイザーのものだ。こればかりはどうしようもないね。
あそこで何をしていたのかは結局分からずじまいってことになっちまった。僕がスキルを使えるうちに調べておけば、何かわかったかもしれないね。ま、後の祭りだがよ。
「ねえ、
「んあ、すまないねシロコちゃん……ちょっと考え事をしてたんだ──いや、量おかしくないかい?」
「いえいえ、そんなことありませんよ? これからどんどん暑くなるんですから、食べられるうちに食べておかないと☆」
ノノミちゃんはそう言って、机に並べられている料理を皿に盛り付けて渡してきた。というか、これってあれか。フルコースをデリバリーしたのか。
「……美味しいね。結構量もあるし、これならみんな満足できそうだ」
先生もちまちまと口の中にサラダやらなんやらを運んでいる。胃は依然弱ったままらしい。食べ盛りだろうに、可哀想なことだ。
……いや、もしかしたら僕も原因の一つかもしれないから、あまり下手なことを言うのはよしておこう。
と、まあそんな感じで全員一通り食べ終わり……もう一度卓上を見回してみると、何というか、見覚えのある並びだった。
「……砂漠──じゃなくて、デザートは無いのかい?」
「あ〜、そういえばティーパーティーから
ふうん、ホシノちゃん……食べたくてしょうがねーって感じじゃねーか。というかナギサちゃん、ちゃんと送ってくれたのな。
「それじゃあ、みんなでありがたくいただくとしようか。君たち、甘いものは好きだろう?」
「やった!」
そうと決まればあとは早いもので、ホシノちゃんはそそくさとナギサちゃんの手作りロールケーキの包装を開けた。
待ち構えていたノノミちゃんがロールケーキを丁寧に七等分し、それぞれに配膳した。するとそのタイミングで、先ほどから席を外していた先生が戻ってきた。
真っ先にセリカちゃんがその手に持たれていたものに興味を持ち、問いを投げかける。ここでも先陣切るとは、中々やるねえ。
「先生……それ、コーヒー? どこのやつ?」
「"うん、ゲヘナの風紀委員会から豆が送られてきたんだよ。なんでも、勝手に自治区付近で戦闘行為に出たお詫びだってさ"」
「ロールケーキにコーヒー……ちょうどいいですね! それじゃあみなさん、いただきましょうか!」
アヤネちゃんがそう言うと先生も席につき、みんなでロールケーキを口にした。食べた奴から順番に目を輝かせているあたり、やっぱりナギサちゃんのロールケーキは美味いってことだね。
「えっ、なんですかこれ、美味しすぎる……コーヒーともぴったりだし……」
「本当にね……なんて言うか、後味が上品! 甘味と苦味のバランスがちょうどいい!」
「こんなに美味しいロールケーキ、中々食べられません! コーヒー豆も取り寄せてみましょうか……?」
「ん……美味しい。もう一個……」
「ちょっとシロコちゃん!? それおじさんのだよ〜!」
あーあ、一気に騒がしくなっちゃって。でもまあ、やっぱりこういうノリは嫌いじゃねーな。
「"……
おいおい先生、僕はまだロールケーキを一口も食ってないんだぜ?質問するのはもう少し待ってくれたっていいと思うんだが……まあいいさ。
「そうだね。今この状況で僕が言いたいことは、たった一つしかないさ──あむっ……」
ぎゃーぎゃーと騒いでいる対策委員会の連中を眺めながら、ナギサちゃんのロールケーキを口にした。うん、美味しいね。
僕はそう言って、先生とグータッチを交わした。
2章「小鳥遊ホシノの独善的救済」完ッ!!
次回以降の更新はしばらく空きます。あしからず。
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