なじみアーカイブ   作:Minus-4

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第39箱「どんな夢でも」

 

 

「あっ改めて、ほっ、本日はよろしくお願いします!! 便利屋68の伊草ハルカです!! 精一杯頑張ります!!」

 

 ……百鬼夜行に到着するなりハルカちゃんはそう叫んだ。そんなに緊張していちゃあ普段通りの動きが出来ねーぜ。

 

「ほらほら、リラックスリラックス。肩の力を抜きたまえハルカちゃん。そこまで気を張ることはないさ」

 

「そうだよ〜、それに折角一緒にここまでやって来たんだからさー、一緒に食べ歩きとか楽しみたいじゃん?」

 

「えっ、あっそうですね! 護衛として呼ばれたとはいえ……護衛として呼ばれているのに、私なんかが楽しんだりしたら……死んでもいいですか……?

 

「えっ? いや、ダメだよ……?」

 

「"ハルカ、ストップストップ……"」

 

 わっはっは、ホシノちゃん困惑してやんの──いや、多分僕も初見ならああなってたな。あまり人のことをとやかく言うのもアレだし、やめておこう。

 

 とまあこんな感じで、その後もたっぷり5分ほど、道のど真ん中で4人仲良く立ちはだかりながら死ぬだの死なないだの、死ぬなだの死なせないだの言い合っていたせいで、僕たちは無駄に衆目の注目を集めてしまった。

 

 まあその甲斐もあって、ハルカちゃんを落ち着かせることにも成功したが。借りてきた猫みてーな感じだったけど、先生とホシノちゃんによってほぐされたから、多分大丈夫。

 

「えっと……ハルカちゃん、もう大丈夫かな〜? おじさんもう歳だから、最近の若い子がどんなことを考えてるのかいまいち分からなくて……」

 

「その、ご迷惑をおかけし……()()()()

 

「うん、おじさんはおじさんだよ〜。小鳥遊ホシノ、アビドス高校の3年生さ〜」

 

「えっと、それは知ってます……でも、おじさんなんですか……?」

 

「おじさんだよ〜。花の女子高生で、なおかつおじさん。うへへ、いいでしょ〜?」

 

「????」

 

「"……安心院(あんしんいん)さん。ハルカを助けてあげて……"」

 

 まったくもーしょーがねー連中だぜ。僕がいないとまともに話すら進みやしねえ。僕はハルカちゃんの両頬に手を当て、むにむにと表情筋をほぐしてやった。

 

「むぐっ……あ、安心院(あんしんいん)さん……?」

 

「ほらハルカちゃん、あんまり真面目にホシノちゃんの相手をしちゃあダメだぜ。八割適当言ってるだけだから」

 

「ちょっとちょっと安心院(あんしんいん)さーん、それは流石に心外だよー! 侵害と言ってもいいんじゃないかな〜?」

 

「人外たる僕相手に心外も侵害もあるかっつーの。そもそも僕には人の心とかねーから。どちらかと言うと、人でなしに近いかな──どうして二人して顔を見合わせているんだい?」

 

「えー? そんなに気になるならしょうがないなー……ほら、ハルカちゃん言ったげな!」

 

「えっ? あ、えっと、はい……その、今更『人の心がない』とか『人でなし』って、結構無理があるような……」

 

 ……それこそ心外だな、そんな風に思われてたのか。いやまあ、本気で人の心がどうこうとか言ってたわけじゃないが、これに関しては寝耳に水といった感じだ。

 

「ちなみにハルカちゃん。どうしてそう思ったんだい? どんな理由でも構わないぜ」

 

「だって、ほら。安心院(あんしんいん)さんはお腹を空かせた私たちにラーメンを奢ってくれましたし、猫ちゃんも送ってくれましたし、所々で良くしてくれていたので……」

 

「なーんだ、安心院(あんしんいん)さんめちゃくちゃいいことしてるじゃん! それで冷血ぶるのは無理だから諦めなよ〜」

 

「"……だってさ、安心院(あんしんいん)さん?"」

 

 ああもう、分かったからその顔をやめなさい先生。その調子だと僕が場を和ませるためにわざわざ道化を演じてやったことまで気付いていそうだが、間違っても口に出すんじゃねーぞ。

 

 ──と、僕たちは人混みの中で、そんな風に親交を深め始めたわけだが。

 

「あっ、あっ! 危ないですーーっ!?」

 

 どこからか突然可愛らしい声が響き渡り、そして。

 

 その声の主が、ちょうど先生にそのままの勢いで激突した──()()()()()()()()

 

 咄嗟に飛び出したホシノちゃんとハルカちゃんによって、その突進は()()()()()()()()()()

 

「あ痛ぁっ!?」

 

──もっと周りは見た方がいいんじゃないかな?

てっ敵ですか!? 敵ですね!?()()──

 

「落ち着きなさい二人とも。別にこの子、先生に害意を持ってるわけじゃ無さそうだから、一旦離してあげなさい」

 

「……はーい。ほら、ハルカちゃんも」

 

「えっと……分かりました……」

 

 ……()()()()の名は伊達じゃねーってことかな。いかにもな和装、加えて狐耳と巨大な黄金色の尻尾を有した、()()()()って感じの狐っ子だ。

 

 体付きや服装などから察するに……かなりの元気を有する子な気がするな。運動能力も高そうだし、鍛えればかなり強くなりそうだ。

 

 もっとも。

 

「"ホシノもハルカも、守ってくれてありがとう。でも多分この子も、悪気があったわけじゃないと思うんだ。だから……"」

 

()()()()()()()()()()。でしょ?」

 

「"うん、その通り……えっ? ()()()()って……"」

 

「あの……せ、先生──気絶しちゃってます!!ど、どうしましょう、償いのためにも死んだ方が……」

 

「あはは……その、ちょっと咄嗟に手加減出来なくて……」

 

 運動神経も反射神経も何も、失神しているんだったらそもそも意味がないんだけど。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「はッ! ここは何処(いずこ)私はイズナ!!」

 

「おや、思っていたよりも早く目覚めたねえ。しかし急に動くと危ないぜ、もう少しゆっくり飛び起きなさい」

 

「そうですね、次からは気を付けます……って、ここは()()()……?」

 

 時間にして……まあ十数分くらいか。何やら()()()()()()ようだったし、先生の鶴の一声で連れて逃げることにしたのはいいんだが、しかし事情くらいは先に確認したほうがいいと思うんだがね。

 

 風通しをよくするために展望台の上まで上がってきていたから、その甲斐があったということかな。

 

「"おはよう。頭を打っちゃったみたいだけど大丈夫だった? まだ痛む?"」

 

「あっ、いえ! イズナは平気のへっちゃらです! 見ての通りピンピンしています!」

 

 狐っ子──イズナちゃんとやらは、先生の問いかけに対してそう返し、耳と大きな尻尾をピンと二度立てた。器用なことするねえ。

 

「えっと、ところで……そちらに正座して首から『私がやりました』と書かれたプラカードを下げているお二人は……?」

 

「うへ、おじさんだよ〜」

 

「名前はありません、私は雑草です……」

 

「小鳥遊ホシノちゃんと伊草ハルカちゃんだ。君の突進を止めて気絶させた張本人二人組だぜ、仲良くしてやってくれ」

 

「ああ、なるほど! ホシノ殿ハルカ殿ですね。イズナは久田(くだ)イズナと言います、よろしくお願いします!」

 

 イズナちゃんはそう言うと、ホシノちゃんとハルカちゃんのところまで駆け寄り、半ば強制的に握手をした。

 

 ホシノちゃんはぐでぐでとしていたし、ハルカちゃんは顔を青くしながらも精一杯にへっと笑っていたが……まあ親交は深まっただろ。

 

「その、お怪我はありませんでしたか? 人混みに紛れて追手を撒こうと思っていたのですが、その途中でそちらの大人の方にぶつかりそうになってしまって……」

 

「あー、うん。こっちは大丈夫だけど……」

 

「雑草殿です……」

 

 ふむ、なるほど。つまりイズナちゃんは僕たちが死ぬだの死なせないだの大声で言い合っていたせいで出来ていた人だかりを利用しようとしたというわけか。

 

 ホシノちゃんも流石にバツが悪そうだ。ハルカちゃんに至っては冷や汗だらだらだし、もはやよく分からない顔色をしている。何色だこれ。紫?

 

 なんて、そんなことを考えながらハルカちゃんをうちわで(あお)いでやっていたんだが、しばらくしてからイズナちゃんが突然大声をあげて飛び上がった。

 

「あーっ!! というか()()()()()、その()()()()()()、もしかしてあなたは()()()の──」

 

「ああいや、違う違う。君のことを追いかけていた連中とは別団体だよ、僕は。この()()()()()()()は自前の物さ。似合うだろう?」

 

「──えっと、勘違いしてごめんなさい……」

 

 おっと、見るからにしゅんとしちまった。しかしまあコラテラルダメージというやつか。

 

「……ひとまずさあ、自己紹介しようよ〜。『まず名乗れ、誰が相手でも。そして名乗らせろ、誰が相手でも』って、先生も安心院(あんしんいん)さんもよく言うじゃん?」

 

「"それもそうだね──初めまして、イズナ。私の名前は 観測不能 。シャーレで先生をやってます。よろしくね!"」

 

「それじゃあ僕も。僕の名前は安心院(あじむ)ナジミ。僕のことは親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼んでくれたまえ」

 

「ほほう、シャーレの先生……イズナ、聞いたことあります! どこにでも現れて問題をズバッと素早く解決してしまうって! まるで忍者みたいでかっこいいなと思ってました!!」

 

「"あはは、ありがとう。そう言ってもらえると、私としては鼻が高いよ"」

 

 ほう、()()か。この様子だと、もしかするとイズナちゃんってば、忍者のことが大好きなんだろうか。いい趣味をしているね。

 

「っとと、それから安心院(あんしんいん)殿(どの)──じゃなくって、えっと、安心院(あんしんいん)さんと呼んだ方がいいですか……?」

 

 うーん……まあ別にいっか。大して変わんねーし。

 

「いいや、別に構わないさ。安心院(あんしんいん)さんでも安心院(あんしんいん)殿でも。安心殿(あんしんでん)さんとかでもいいぜ」

 

「本当ですか!? ありがとうございますっ! それでは、親しみを込めて安心院(あんしんいん)殿と!」

 

「わはは、あだ名で呼んでいいっつっただけなのに、ひどく元気がいいねえ。まるで何かいいことでもあったみたいじゃないか」

 

「ええ、たった今あったんですよ安心院(あんしんいん)殿! だって、イズナはいつか安心院(あんしんいん)殿に会ってみたいと思っていたのですから!!

 

 おや、マジで? まあ僕も先生の横に着いて回っているから、そのせいで噂が広がっているということかな。別に構わねーけどさ。

 

安心院(あんしんいん)殿!!」

 

「なんだいイズナちゃん」

 

「よければ噂になっている()()()()()()を見せてほしいです!!」

 

「……ホシノちゃんにハルカちゃん。もしかして僕って僕が想定しているのとは別の理由で知名度が広まっているのかな。何か知ってたりしないかい?」

 

 何やら想定外の事態が起こっている気がしたので、未だに正座している二人にそう聞いてみることにした。ホシノちゃんは足が痺れてきたのか目が> <(うへ)って感じになってきている。

 

安心院(あんしんいん)さん、よくネットニュースになってるよ〜。『シャーレの先生と所属の生徒、今日も今日とて慈善活動!』みたいな」

 

「あっ、アル様はそれを見て、たまに誇らしげにしてます……えへ、えへへ……わっ、私からはそれだけです……」

 

「おいおいマジかよ、どこから見られてるのか分かったもんじゃねーな。万が一不祥事をすっぱ抜かれたりしたら、僕は友人に恥をかかせちまうってことになるね」

 

「ちなみにそういうニュース見るたびにシロコちゃんがコメント欄で『やっぱり私の親友である安心院(あんしんいん)さんはすごい。しかもすごく強いし、頼りになる』みたいにコメントしてるよー」

 

「やめさせろ。すぐにやめさせなさい。ニュースサイトのコメント欄は、シロコちゃんに見せるには若干恐怖を覚えるぜ」

 

 親友であることは事実(現に今度二人でツーリングに行く予定)だし、それをアピールされたところで困らないから別にいいんだがよ。

 

 ネットニュースは蜘蛛の巣だぜ、シロコちゃん。

 努努(ゆめゆめ)、絡め取られねーようにしなさい。

 

「それで、イズナちゃんは僕に『瞬間移動の術』を見せてもらいたいと、そういうわけだね。ちなみに、何故なのか理由を聞いてもいいかな?」

 

「はい! 何を隠そう、イズナには夢があるんです! このキヴォトスで一番の()()になる、という夢が!」

 

「"──忍者? イズナ、()()()()だって言ったの?"」

 

「……先生、一体何だよそのむぐ

 

 何だよその言い方は──と、そう言おうとしたのだが、しかし僕のセリフはいつの間にか立ち上がっていたホシノちゃんの手によって遮られた。足が痺れているらしく、ぷるぷると震えていて格好はついていない。

 

ぷは……いきなり後ろを取るのはやめてくんねーかな」

 

安心院(あんしんいん)さんだってよくやってるでしょ〜。それよりもさ、多分()()()だよ。だって()()()()? ハルカちゃんも、そう思うよね〜」

 

「えっと……はい、よく分かりませんけど……こんな私にも優しくしてくれる()()()()()()……」

 

 ……それもそうか。僕としたことが、余計な口を挟んじまう所だったぜ、危ない危ない。

 

 それじゃあ、ここは大人しく見守ることにしようか。

 

「あっ、えっと……その、す、すみません……こんな夢を持ってる人なんて、今どきいないってことは分かってるんですけど──」

 

「"ううん、そうじゃなくて。すっごくかっこいいと思って。好きなことを夢にして、夢に向かってひたむきに努力できるって、凄くかっこいいことだよ、イズナ。私はそういうの、応援したいな!"」

 

 ……人たらしめ。

 人が()すぎるんだよ。

 

「──あ、っ……それが、その……『忍者になる』という夢でも……普通の人なら、あんまり言わないような夢でも、ですか……?」

 

「"どんな夢でも、それが生徒の夢なら私は応援するよ。かっこいい忍者でも、可憐なくノ一でも。イズナが『そうなりたい』と思っているなら、私は絶対に応援するよ"」

 

 先生がそう言うと、イズナちゃんは目を見開いて、表情をにぱっと綻ばせて、つまりはいわゆる満面の笑みというやつを浮かべ──尻尾がふぁさふぁさと揺れたりもして──目を輝かせた。

 

「えっ、えへへへっ、そ、そうですか……! イズナの夢を応援してくれるなんて、こんなの初めてです!!」

 

「"……そうだなあ、私だけっていうのも何だか勿体無いし──イズナの夢について、()()()()()()()()か聞いてみよっか?"」

 

「えっ!? いやっ、その……」

 

 先生がそう言いながら僕たち三人の方を向くが……そんな風に期待の眼差しを向けられたところで、僕たちに出来ることは一つしかねえっつーの。

 

 というかイズナちゃん、伏し目がちになりながらこちらをチラチラと見ているけれど、まさか君は、僕たちが夢を笑うとでも思っているのかな。

 

「うーん、おじさん的には……そういうキラキラした夢みたいなの、なんだか憧れちゃうな〜。私はすっごくいいと思うよ、イズナちゃんの夢」

 

「わっ、私も同じです。本当に忍者が好きなんだって、伝わってきて……その、(それ)に向かって努力できるって、すごいなって、思い……ます」

 

 ほらね、不安がることなんて無いんだ。だから安心しなさい、イズナちゃん。君の夢が、例えどんなに絵空事じみていたとしても──。

 

「僕たちは君の夢を応援するよ、イズナちゃん。というかそんなに身構えずとも、ここに君の夢を笑う奴はいないさ。だから安心しなさい(安心院(あんしんいん)さんだけに)」

 

 僕がそう締め括ると、イズナちゃんは──これ以上ないってくらいに目を見開き、輝かせ、ぴょんぴょんと小気味よく飛び跳ね、尻尾を忙しなく振り回し始めた。

 

 喜びすぎだぜ。

 

「い、イズナ……誕生日でもないのにこんなに嬉しいの、初めてです!! うわー……! 本当ですか、本当なんですよねこれ……! もしかして夢じゃないですよね!? (いひゃ)い! 夢じゃない!!

 

 頬をぐにぐにと引っ張り続けていて、夢を応援されたことが夢ではないと確認しているイズナちゃんの表情は、やはり興奮しているのか緩みっぱなしだ。

 

 ただ、あまりにも頬をぐにぐにと縦に横にと引っ張りすぎると、折角の可愛らしいその顔が腫れて真っ赤になっちまう。

 

 どうせ頬を染めるのであれば、痛々しい赤色よりも、華々しい朱色の方が僕好みだ。

 

 そういう打算も込みで、僕はイズナちゃんの言うところの忍術──つまりはスキルを見せてやることにした。「腑罪証明(アリバイブロック)」ならほとんど無償で使えるし。

 

「というわけでイズナちゃん、引っ張りすぎると可愛いお顔が台無しになっちまうぜ?」

 

 僕は「腑罪証明(アリバイブロック)」を使ってイズナちゃんの真横に移動し、彼女の頬から優しくその手を引き剥がした。

 

「──……」

 

「あーほら、真っ赤っかじゃないか。いくら嬉しいからって──」

 

安心院(あんしんいん)殿!!」

 

「……なんだいイズナちゃん」

 

 

イズナに忍術を教えてくれませんか!?

 

 

 ──この時の僕は、本当に迂闊だったと言わざるを得ない。こんなタイミングで……()()()()()()()()()()()()スキルを使ってしまったのだから、()()()()ことは予測できたはずだった。

 

 それを怠った僕の落ち度──と言うと、少し言葉が強すぎるな。つまりは、僕の行動により生じた結果なのだから、責任は僕が取るべきだろう、ということさ。

 

 責任は僕にある。だから『僕は悪くない』だなんて、口が裂けても言えねーぜ。

 

 






 イズナとハルカの口調、これでいいんだろうか。
 不安です。

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