なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 普段は情けないのにたまに格好よくなる系のキャラ、僕は大好物です。




第4箱「S.C.H.A.L.E(独立連邦捜査部)を執行する」

 

 

「へえ、用事があって数日前にこの街に来たけど、飲食物を売ってるお店が一件もなくて、脱水と空腹で力尽きた、と」

 

 ロードバイクを横に置きながら、先ほどまで電柱に隠れていた彼女──砂狼(すなおおかみ)シロコは先生から聞いた話をまとめた。

 

「じゃあ二人は遭難者なんだね。それにしては、ええと……女の子の方は、なんだか身綺麗すぎる気がするけど」

 

「"ナジミってば酷いんだよ! 私がこんなになってるのに、一つも助けてくれなかったんだから!"」

 

「いや、あなたが悪いと思う。助けて欲しいなら『助けて』って、ちゃんと口に出して言うべき。伝わらない言葉は言葉じゃないよ」

 

 おっと、てっきりシロコちゃんは先生側につくと思ってたんだが……まさか僕の味方をしてくれるとは。感無量だぜ。

 

 ──ちょっとばかり真面目な考察をすると、この世界では〈先生〉って概念はかなり大きく強いはずなんだが……〈生徒〉だからといって、〈先生〉の言うことを一も二もなく肯定するって訳でもないらしい。

 

 そうなってくると、少しばかり厄介だね。今後先生を裏切り、騙し、利用しようとする生徒が出てくるかもしれねえってことか。まあ僕は先生を利用している生徒筆頭なわけだから、人のことは言えねーが。

 

「先生、シロコちゃんもこう言ってるぜ? 確かに大人として、子供……うん、まあ……この世界の概念の上では子供である僕にいいところを見せてえってのは理解できる。だがしかし、今の君は、僕から見てみるとものすごくみっともない大人にしか見え──」

 

「"助けて……ください……ッ!!"」

 

 僕が先生を(なじ)っていると、先生は歯を食いしばって、目を瞑りながら、苦悶の表情を浮かべてそう言った。そんなに嫌かね、僕を頼るのが。

 

「……先生、だっけ。どうしてそんなにナジミに──」

 

「僕のことは親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」

 

「──安心院(あんしんいん)さんに頼ることを嫌がるの? ここは見ての通り砂漠のど真ん中だし、数日間飲み食いしていないなら命の危険だってあり得る。安心院(あんしんいん)さんとは違って先生にはヘイローもないし……どうして?」

 

 シロコちゃんはしゃがみ込んで、今なお廃墟の塀にもたれかかっている先生にそう質問した。本当なら心を操るスキル心神喪失(エブリシングロスト)とか使って無理矢理聞き出してもいいんだが、仮にも信頼してもらおうとしている相手にすることでもない。

 

 それに先生も、つまんねー言い逃れをするようなやつでもないし。

 

「"……くだらない理由だよ。ただ単純に、少しでも安心院(あんしんいん)さんに休んで欲しかったんだ"」

 

「……は?」

 

「"だって、そんなにすごいスキルを一杯持ってて、しかも簡単に使えちゃうんだ。『大人のカード』ほどじゃないにしても、それほどのスキルを使って『()()()()()()()()()()()()()()()()()()"」

 

「すごいスキルとその代償……安心院(あんしんいん)さん、先生が言っていることは本当なの?」

 

「あーいや……シロコちゃん、まあ確かに半分は本当なんだが……」

 

 なるほどね。そう言えば完全にいつものことだから忘れてたが、こういう特殊能力みたいなのって普通は代償があるもんだよな。普段から使いすぎてて失念してたぜ。

 

 ……僕の落ち度だな。先生を信用はしていたけど、信頼はしていなかったことがここに来て響いてきた。もっと詳しく自分について話しておくべきだったね。うっかりしてたぜ、わっはっは。

 

 もっとも、そのうっかりで人が死にかけたわけだが。

 

「先生、まずは謝っておくよ。紛らわしいことをしてすまなかったね。実は僕のスキルには代償的ななんやかんやは一切ない。だからもっと気軽に、安心して僕を頼ってくれていいんだぜ(安心院(あんしんいん)さんだけに)」

 

「"……本当に、代償とかはないんだよね? 使いすぎると目が潰れるとか、段々と心が蝕まれていくとか"」

 

「いやに具体的な例えだけど……うん、一切ない。なんならシロコちゃんに誓ってやってもいいぜ」

 

安心院(あんしんいん)さん、そこは先生に誓ってあげるべき」

 

 えー。なんだよ照れ臭いじゃねーか。人外生通して人に約束事をした経験が少ねえから、こういうのってなんか気恥ずかしいんだよな。

 

 ……こういう時、めだかちゃんなら──いや、そうでなくとも生徒会の連中なら、ささっと一気に、恥ずかしげもなく約束しちまうんだろうな。

 

「分かったよ、分かった分かった。スキルに代償がないことを誓う。これは嘘偽りや言い逃れとかじゃあなく、100パーセント本当のことさ。これで満足かい?」

 

 こんなものはあくまでも口約束で、誤魔化そうと思えばいくらでも誤魔化しが効く。だがまあ、お人よしの先生に嘘をつくってのも忍びない。あとはこれを先生が信じてくれるかどうかだが……ぶっちゃけ、心配はしてねえんだよな。

 

 先生は僕を、信頼しているらしいからね。

 

「"うん。それならいいんだ……ナジミ。私を助けてくれないかな? できれば経口補水液が飲みたいんだけど"」

 

「ほらよ。安心院(あんしんいん)さん特製の経口補水液だ。飲めば一撃で熱中症も脱水症状も治るし、肌艶も増す。髪質改善の効果までついてるぜ」

 

「"やりすぎじゃない?"」

 

「生憎だが僕の辞書に『やりすぎ』なんて文字は……無くなっちまったみたいだ。これはちょっとまいかもね。使える文字が四つも減っちった。まあ四つくらいなら別にいいか」

 

「"全然良くないよ!? それは許容したらダメ!"」

 

 普通に冗談だがね。先生もその辺は分かって乗っかって来ているみたいだし、調子が戻ったようで何よりだ。

 

「二人とも、本当は随分仲がいいんだね。仲直りできたみたいでよかった。それで──先生達は、アビドスに何の用時で来たの? 安心院(あんしんいん)さんは見た感じかなり手練れっぽいし……何かする気なら、私が相手になるよ」

 

 おや、折角いい感じに纏まりかけてたんだが、まさかこうなるとはね。でもまあ、元々バレないように電柱の陰からこちらの様子を窺っていたくらいなんだから、普通に考えれば警戒されてるよな。

 

「見た感じ、連邦生徒会から来た人達っぽいけど……私達を支援しに来たんだったら、物資の補給だけでどうにかなったはず。それなのに、わざわざ安心院(あんしんいん)さんみたいな強い人を送ってくるのは、正直不自然」

 

 さて、どうしようかな。どうせ先生が僕を連れ出した理由なんて「もっとキヴォトスを知って欲しい!」みたいなもんなんだろうけど、僕がそんなこと言っても信じてもらえなさそうな雰囲気だ。

 

 逆説的に。ここまで神経を擦り減らさねばやっていけないほどに、アビドス自治区は衰退しているのだろう。おそらく目につく武力は全て敵であり、それら全ては彼女達を狙ったものだったのだろう。

 

 つまりは、武力を有する僕ではシロコちゃんの警戒を解くに至らない。それならば、武力を有していない先生に任せるしかないだろうね。

 

 ……これ、僕がついてこなければもっと話は早かったんだろうな。ま、だからといって自重するつもりはこれっぽっちもねーが。

 

「先生、僕が何言っても無駄だろうから、ここは任せてもいいかい?」

 

「"もちろん。勘違いで気持ちがすれ違っちゃうのは悲しいことだからね。任せて"」

 

「それさっきまで意固地になってた先生が言うことじゃねーと思うんだが」

 

「"まあまあ……それじゃ、早めに誤解を解いちゃおっか"」

 

 先生はそう言うと壁にもたれかかるのをやめて立ち上がり、シロコちゃんと相対した。露骨に話を変えられたが、いちいち目くじら立てるのもめんどくせーから放っておいてやる。

 

「"シロコ。君が心配しているのは、私達みたいに得体の知れない連中が、アビドスに不利益をもたらすのが心配だから……で合ってるかな?"」

 

「うん。例えば校舎の中に盗聴器を仕掛けられるとか……安心院(あんしんいん)さんに学校まるごと制圧されるとか。そういうことを心配して、私は二人に立ち向かってる」

 

「"ここが普通の状況であれば、そういう風に神経を擦り減らすこともないんだろうけど……そんなに警戒するのは、やっぱり財政難が原因?"」

 

「ッ……どうして、どこで、それを?」

 

「"安心院(あんしんいん)さんがパッと調べてくれたらすぐに出たよ。9億円の借金があるってさ"」

 

 おーおー、先生も中々切り込むね。シロコちゃんの表情が見えてないわけじゃないだろうに、よくもまあこんなに堂々とした立ち振る舞いをできたものだ。

 

 ──()()が、先生たる所以か?

 

「"9億円の借金に加えて物資も不足しているのに、地域の暴力組織との鎮圧まで並行してするのは難しいでしょ? だから私達はここに来た。私達の善意に則って、アビドスのみんなを助けるために。そして──"」

 

 

「"S.C.H.A.L.E(独立連邦捜査部)を執行するために"」

 

 

 先ほどまでとは空気感や雰囲気も一変し、それこそ様子が〈頼れる大人〉といった感じになった先生の言葉は、やけに大きく辺りに響いた。

 

 ついさっきまで銃に手をかけようとしていたシロコちゃんも、その言葉を聞いてからは警戒を解いたようだ。恐らくは、信用してくれたのだろう。

 

 いやー、助かったね。戦闘になったらまず間違いなく僕が勝つが、これから仲良くしようぜって奴と戦闘するのは僕としても忍びない。だから、この状況においての最適解を、先生は見事引き当てたってことだ。

 

 ──恐らく、必然的に。

 

「……分かった。先生、それに安心院(あんしんいん)さん。二人を信用することにする。疑ったりしてごめんなさい」

 

 シロコちゃんはそう言ってから、きっちり90度頭を下げた。僕からすればそこまでのことじゃねーんだが……彼女にとってはそれほど重いことなんだろう。

 

 どうやら、根っこから善良な子らしい。

 

「"シロコ、頭を上げて。私達は別に気にしてないから。ね、ナジミ?"」

 

「ああ。まあ僕自身、色々と胡散臭いやつであることは自覚があるから気にしてないさ。それと先生。さっきからちょくちょく『ナジミ』って呼んでるが、バレてっからな」

 

「"……分かったよ、安心院(あんしんいん)さん"」

 

 こいつマジで油断も隙もねえな。そこまでして名前で呼びてえの? 心の中でそう呼ぶ分には構わねーが、口に出すなら安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい。

 

「──二人とも、助けに来てくれてありがとう。それと、そうだな……アビドスへようこそ。見ての通り、砂しかないところだけど……精一杯歓迎するよ」

 

「精一杯かあ、それは楽しみだ。ちなみに歓迎パーティーとかはやってくれるのかな」

 

「うん、当然開かせてもらう。お食事も出るよ。砂アペリティフ(食前酒)に始まり、砂アミューズ(おつまみ)、砂オードブル(前菜)、砂スープ、砂パン、砂ポワソン(魚料理)、砂ソルベ(口直し)、砂ヴィアンド(肉料理)、砂サラダ、砂フロマージュ(チーズ)の全10品からなる砂フルコース」

 

「砂フルコース? それに10品? おいおいシロコちゃん、フルコースと言っておきながら、食後のデザートが無いように聞こえるが」

 

「ん、デザート(砂漠)なら辺りにいっぱいある」

 

 シロコちゃんはふんすと鼻息を立て、若干胸を張りながらそう言った。やっぱり渾身のギャグ(自虐)の前振りだったらしく、僕がわざわざ乗っかってやったのは正解だったらしい。

 

「ふっ……これで安心院(あんしんいん)さんと私はもう親友。先生共々信用できる」

 

「随分と遠回りだったが……まあいいさ。これからよろしく頼むぜ、シロコちゃん」

 

 シロコちゃんがこちらに歩み寄り、手を差し出してきたので僕も手を差し出し、軽く握るように握手をした。思えば最近握手をよくするなあ。

 

 しばらくしてから互いに手を離し、シロコちゃんは少し離れたところに立てかけてあったロードバイクを持ってきてから、先生と僕の方を見て話し始めた。

 

「それじゃあ二人とも。アビドス高校まで案内するからついてきてね。心配しなくても、わざと変なところに案内して置いて行ったりはしないから、安心して」

 

安心院(あんしんいん)さんだけに?」

 

「うん。安心院(あんしんいん)さんだけに」

 

「"すっかり意気投合してるね……"」

 

 そんな風に三人揃って、アビドス高校へと歩き出した。面倒なことにならねーといいが……ま、なるようになるだろ。

 

 万が一にも、到着した瞬間に戦闘になるとかありえねーだろうし。なっても多分余裕で勝てるしね。

 

 






 S.C.H.A.L.Eって字面がもう格好いい。

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