友達とボウリングしに行ったんですけど、球を投げたら親指の皮膚が破裂しました。あかぎれみたいになってめちゃ痛いです。
案の定と言うべきか、予想通りにと言うべきか。
廃墟の屋上に潜んだ僕たち三人──僕、ハルカちゃん、イズナちゃんの耳には、大方予想通りのセリフが聞こえてきていた。
ニャン天丸──本名をニャテ・マサムニェという──は、まず初めに先生のスマホを回収した。連絡手段を絶ったことで優位に立ったと思い込んでいるマサムニェは得意げに先生を煽っている。
周りには魑魅一座の連中もいて、何かあればすぐさま銃弾が放たれるだろうね。まあ、放たれたら放たれたで、僕が何とかするがよ。
次に奴が語ったのは、お祭りを妨害する動機について。伝統を守る、とかそんなんじゃなく、シンプルに金が目当てらしい。お祭り運営委員会が実権を握ってるのが気に食わないんだと。
なんつーか、キヴォトスの大人は全員こんな奴なのかと思っちまうね。今のところの例外は先生と──あとは黒服くらいのものか。
まあ金をたくさん稼ぎたいという、その欲求自体は否定しないとも。そんなことは全人類が考えていることだからね。ただ、もう少し真面目に稼ぐとかさ、そうしてみたらどうだい。
アビドスの連中を見習って、コツコツと地道に稼いでほしいもんだぜ、まったくよ。
……さて。で、ここからが本題、もとい問題の箇所だ。つまりは
簡潔にまとめてしまうのならば、その高い身体能力と釣り合わないほど安いコストパフォーマンスが原因らしい。
ここでも
くだらねえ大人だ。
「少し
おかげで先生と隣にいるハルカちゃんがブチ切れている。
先生はまあ、そりゃあ怒るだろう。あの大人は子供の夢とか未来とか、そういうものが大好きだし。可能性の芽を潰すような老害は、そりゃあ嫌いだろうし、許せねーだろ。
ハルカちゃんは、落ち込んでしまったイズナちゃんを撫でながら慰めているから今はいいものの、いつ爆破スイッチを押すか分かったもんじゃねえ。
せめてカエデちゃんが到着するまでは待ってほしい。あの子のスキルが無ければ、先生が爆破に巻き込まれちまう──極論を言ってしまえば、アロナちゃんだけでもどうにか出来るんだろうが。
……しかし、何というかなあ。アロナちゃんに頼りっきりになることに慣れてしまうと、
──というのが、ここまでの要約。イズナちゃんを傷付ける形になってしまったことは本当に申し訳ないが、しかし大方想定通りの展開だ。
当然このままじゃあイズナちゃんが可哀想すぎるんでね。この後僕が、その悲しみをぶっ飛ばすくらいにすげーのを見せてやるつもりだぜ。
僕の予想が間違っていなければ、強めの頭痛で済むはずだ。
「なあ、シャーレの先生。おぬし、ちと不用心すぎはしないか? イズナも魑魅一座も、どちらも儂の支配下にあると知っておきながら、のこのこと一人になるなど」
「"……そうだね、確かに迂闊だったかもしれない。だけどこうすれば、一番早く黒幕の正体を知ることが出来たから。それに、魑魅一座の尾行には気づいていたからね"」
「……なおさら、分からんな。確かにおぬしは『先生』らしいが、あの子供──イズナとはまだ出会ったばかりだろう? わざわざここまで体を張る必要は無かったはずだ」
「"私の心配なんてしなくていいよ、心配なら、普段から生徒たちに沢山されているからね"」
ほう。先生ってば言外に「余計なお世話だ」と伝えやがった。かの老害も気付いたらしく、見るからにイラついているね。どうしてわざわざ煽るような真似をするんだか。
「ふん、まあいいわ。どちらにせよ、おぬしのその性格と、
かの老害がそう言ったのを聞いて、先生は何やら考え込んでいるようだった。しばらく会話が進まなそうなので、僕たちはひそひそと会話を開始する。
「……あ、
「いいや、まだだぜハルカちゃん。君が全てを吹き飛ばすのも、まあ僕としちゃあ構わねーけどさ。しかしそれをしたら、
僕がそう言うと、落ち込んで下を向いていたイズナちゃんは僕の方を向いた。ハルカちゃんの方を見ると、一応起爆装置から手を離してくれている。ありがたいね。
「……え? イズナは、ですか……?」
「ああそうとも。友達という関係である以上、あまり説教くさいことは言いたくないんだがね」
(友達だと思ってくれてたんですね……)
「イズナちゃん、君、
「……そうですよね。イズナ、お祭りを台無しにしようとしていたんですよね……」
「イズナさん……」
うーん、こんなにしんみりした空気感にするつもりはなかったんだがね。球磨川くんや人吉くんなら、僕がこうして発破をかけると奮起してきたもんだが──へえ、
意図せずして前の世界でのエピソードの断片を思い出したが──とりあえず今は、そっちよりもイズナちゃんのケアが先だ。
この場合は、ケアという表現が適切かどうかは分からねーがよ。どっちかっつーと、叩いて直すとかそういうのが近いのかもしれねーな。
……本当はこういうの、僕がやるべきじゃねーんだろうな。アビドスの連中相手には上手く行ったが、どこでも僕のやり方が通用するというわけでもねーだろうし。
「君がお祭りを台無しにしようとしたことは──騙されていたとはいえ、確かな事実だ。君が背負わなければいけない罪、というと大袈裟かもしれないが、少なくとも放ったらかしにしていいことではない」
「……はい、分かっています……イズナはイズナの夢のために、多くの人に迷惑をかけてしまいましたから。だからまずは、先生たちに──」
「ああ、いや。僕と先生には謝らなくてもいいよ。君の夢を応援すると言ったのはこちらだし──そもそも、僕たちが
「あっ、わ、私も……平気、です。むしろ、普段は私だって失敗ばっかりですし……今回は、先生たちのおかげで、なんとか上手くできていますけど……」
おや、ハルカちゃんもそう思うかい。しかも、
っと、先生たちの会話が再開されたかな。とりあえず聞きに戻るとしよう。ほら、イズナちゃんもこっちに来なさい。多分こっからが君にとって大切な部分だから。
「"……忍者ごっこ、だっけ? 確かあなたは、イズナの夢をそう呼んだよね"」
「ん? ああ、そうだな。ま、存外その『ごっこ遊び』も役に立ったがな。で、その忍者ごっこがどうかしたか?」
「"一つ言わせてもらうけど、忍者っていうのは──"」
「え?」
「……は?」
……ちょっと──いや、かなり思った方向とは違うが……まあいいか。確かに
「はっは──やはり先生、その辺りは上手くやるねえ。しかもこれで打算じゃねーってんだから恐ろしいもんだぜ。さて、イズナちゃん。聞いての通り、先生はあんな感じだが──」
「…………先、生……!」
うーむ、見るからに元気を取り戻しているね。尻尾がぴょこぴょこと跳ねるように動き回っているし、時折それがハルカちゃんの顔面を撫で付けている。
ハルカちゃんも友人が元気になったからか、少し喜んでいるように見える。一喜一憂できるというのは、やはりいい傾向だね。
と、そこでカエデちゃんからモモトークにメッセージが送られてきた。ふむ、カエデちゃんだけはひと足先に廃墟に到着したのか。流石の足の速さだね。それじゃあ、あと少し待機しておいてもらおう。
そうしているうちに、下のフロアが騒がしくなってきた。どうやら先生に痺れを切らしたかの老害が、先生のことを攻撃することにしたらしい。
なるほどなるほど、
さて、それではホシノちゃんにもモモトークを送っておこう。「廃墟全体が爆発した直後突入」と。まああの子なら意図を察するだろ。
そしてカエデちゃんにも。「5秒後に先生の側でスキルを使用してくれ」っと。これで準備は万端だ。
「さて、イズナちゃん。少々卑怯なタイミングだが、ここで最後に聞いておく。君は、
「──そんなの、もう決まっています……!!」
「そうかい、そいつは重畳。それじゃあ──」
僕がハルカちゃんの方を見ると、ハルカちゃんはいつものようににへらとした笑顔で、起爆装置に手をかけていた。
「──
「はいっ!! 全部、全部全部全部──
フロアの下で、カエデちゃんが高らかにスキル名を叫ぶのと、ほとんど同時に。
僕たちが滞在していた廃墟全体──それどころか、その周辺まで、まるで花火のように爆炎が上がり。
文字通りに、全てが消し飛んだ。
イメージとしては産屋敷ボンバー。
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