水着エイミ……このクソ寒い冬に……?
妙だな……。
「ところでシロコちゃん。警戒してた割には僕達のことをあっさり信用してくれたけれど、本当に大丈夫かい? 自分で言うのもなんだが、砂漠のど真ん中で遭難していた奴らがちょうどアビドスに用事のある奴だったって、結構怪しいと思うんだけど」
アビドス高校へ向かう途中、ふと気になったので聞いてみた。実際のところよく分からねーんだよな。素直に案内してくれる理由が。
「ん、大丈夫。ちょっと前にアヤネが『これで少しでも状況が良くなれば……!』みたいな独り言を言ってた。タイミングも加味すれば、先生達を呼んだと考えるのが妥当」
「あー、つまりはシロコちゃんは、元から僕達が来るかもしれねえって思ってたわけだ。それで一応形式として警戒はしたけど、事前の情報と一致していたから警戒をやめた、と」
「そういうこと。
「へえ、よかったじゃないか先生。君の顔写真のおかげで、僕達はいらない誤解を避けることに成功したらしい。ほら、喜べよ」
「"なんか釈然としないけど……まあいいや。こんな形でも、
僕達三人はそれなりのスピードで歩きながら、くだらない世間話をしたりしてアビドス高校へと向かった。
そうして歩くこと、およそ20分ほど。いい加減に顔にへばりつく砂粒が鬱陶しくなってきたあたりで、ようやくアビドス高校らしき建物が近づいてきたのだった。
「"おお、あれがアビドス……で合ってるよね、シロコ?"」
「そう。私達がいつも通ってる
マンモス校って噂だったからデカい校舎を想像してたんだが、なるほどこちらは別館だったのか。道理で小さいわけだ。小さいっつってもまあ、その辺の学校よりはでけえんだろうが。
「さ、二人とも。ようこそ、アビドス高校へ。とりあえず、学校の案内を……あれ? 」
僕達に学校を紹介する気満々なシロコちゃんについて行こうとしてたんだが、突然動きが止まってしまった。
どうしたのだろうと思い、シロコちゃんが見ている方向に目を向けると──校庭に一人の生徒が存在しているのが見えた。
彼女は見るからに眠そうな顔をし、派手に目立っている桃色の頭髪をたなびかせ、そして……その幼なげな風貌には似合わないセミオートショットガンを携え、ちょうど校舎に背を向けて、猫背気味に立っている。
「……珍しい。ホシノ先輩がこんな時間に起きてるなんて」
「"確かに眠そうだしね……向こうから手紙をもらったけど、なんの連絡もせずここまで来ちゃったわけだし、一応挨拶しておこうか"」
「うん、挨拶は大事。それに、先輩に二人を紹介しておかなきゃいけない」
そう言うとシロコちゃんは僕達に先んじて歩き始め、ホシノという生徒の元へと向かっていった。僕と先生はその動きに
ちょっとめんどくせえかもな。
「おはよう、ホシノ先輩。こっちの二人は思わぬ拾い物」
「おはよ、シロコちゃん。人のことを物呼ばわりするもんじゃ……って、おお〜久しぶりだね〜。最近調子はどう?」
ホシノちゃんは先生と僕の方を見てから、わざとらしく目を見開き、声を上げ、近づいてきて、横に並んでから背中を叩いた。まるで旧友と接するように。
どういうつもりかと思ったが……多分僕と一対一で話したいんだろうね。最近活躍している先生は知っていたけど、僕に関しての情報が一切ないから、少しでも情報を引き出したいとか……まあそんなところだろう。
「それはそうと、そっちの大人はどちら様かな〜? ああそうそう、私は
「"おじさん……? まあいいや、私はシャーレの先生をやってる 機密事項 です。よろしくね、ホシノ"」
「よろしくね〜」
──なるほど、中々変わった子らしい……いやまあ、今まで出会った生徒は全員揃って変わり者だったが。一人称が「おじさん」は……女子高生としてはどうなんだろうか。
そんな風に僕が考え、本題を見失いかけていた時に話を戻したのは、先ほどから僕とホシノちゃんの方を首を傾げながら見ていたシロコちゃんだった。
「……ホシノ先輩と
「うへ〜、疑うの〜? 私と
僕と肩を組んでいるホシノちゃんの方をチラリと見ると、ホシノちゃんもまたこちらを見ていた。それからふっ、と優しく微笑み、再びシロコちゃんの方を向いた。
……合わせられたな。視線を動かすタイミングが揃うだけでも、この状況なら仲がいいように見える。いわゆる阿吽の呼吸のような感じで、それこそ友人だと捉えられかねない。
「"
「そりゃあもう。仲が良かったとホシノちゃんは言っているけれど、僕達の関係性はそんな陳腐な言葉だけじゃ語り尽くせないほどに深いものだぜ。そういうわけで、先生にシロコちゃん。僕達は久々の再会を果たしたのもあって、積もる話がありまくりだからさ。しばらく二人で話させてくれたりしないかな?」
こんなものだろう。隣のホシノちゃんも指で肩に「ありがとう」と書いてきたし、どうやら僕の推測は間違っていなかったらしい。
「"そういうことなら……別に構わないよ。それじゃあ私はシロコに校舎の案内をしてもらうことにするから、
「もちろん任せて〜。おじさんはこれでも3年生だからね、学校のありとあらゆるところを知り尽くしてるから、心配しないでよ」
「"分かったよ、ありがとうホシノ。それじゃあシロコ、案内をよろしく頼むね"」
「ん。任された。それじゃあまずは屋上に行こう」
「"普通は屋上とかって最後なんじゃ……?"」
なんだよ、シロコちゃんってば結局先生とも意気投合してるじゃねーか。まあいつものことだし、今更驚いたりもしねーが。
というか、それよりも──。
「──さて、二人は行ったみたいなんだが……一体何が目的で、僕をここに留めたのかな? ホシノちゃん」
「いやー、ありがとね〜話合わせてくれて。ついでと言っちゃあなんなんだけど、いくつかおじさんの質問に答えてくれると嬉しいな〜」
──今は、ホシノちゃんの質問をやり過ごす方法を考えなきゃね。
「もっかい挨拶しとこうかな。
「……ああ、初めまして、ホシノちゃん」
初めまして、か。
「まあやましい所は特にないし、僕としては全くもって構わないんだが……どうしてこんな真似をしたのかな?」
「私はアビドス高校の最上級生で、対策委員会の委員長だからね〜、後輩達のためにも、見たことない人が来た時には一応この目で人となりを確認して──」
気に食わない。気に入らない。この期に及んで、穏便に事を済まそうとするその精神が。ここまで来ておいて、未だに決まりきっていないその決意が。自分を取り繕おうとするその曖昧さが。
見ていれば分かる。見なくても分かる。こいつは僕の事を最大限に警戒しているからここまでわざわざ出てきたんだ。
「だからショットガンのトリガーをいつでも引けるようにしておいたんだろう? ねえ、ホシノちゃん」
「……お見通しだったみたいだね〜。うん、そうだよ。私は
ホシノちゃんはにへらと笑ってそう言うと、一度居佇まいを正してから、真顔でこちらを見返した。
「アイスブレイクとか誤魔化しは必要なさそうだし……最初っから本題に入っちゃおうかな。うん、そうしよ〜」
ぽん、と左の手のひらに右の拳を乗せる仕草を見せた直後、
次の瞬間、背中の辺りに何か硬いものが触れ……そして、すぐに離れた。恐らくはいつでも撃てることをアピールしながら、しかし銃口を塞がないために一歩引いたのだろう。
「──動かないでね。私としても撃ちたくはないし、できれば信用できるってところを見せて欲しいんだ」
「随分と素早いね。僕と正面から相対するのはそんなに怖いかい? 僕としては、せっかくお話しするなら目と目を合わせて言葉を交わしたいんだが」
「それじゃあプレッシャーが足りないでしょ? のらりくらりと躱されちゃったりすると、私としても面倒なんだよね」
「ふーん、そういうもんかな? まあいいや、さっさと本題に入ろうぜ」
いや、マジで速かったね。動き出しも移動の最中も、残像すら認識できるかどうかって感じだった。後ろを取られただけだし、僕には「
「それじゃ……
ふむ、なるほど……おおよその想像はつくね。「連邦生徒会にずっと助けを求めていたけど来なかったくせに、どうして今このタイミングでここに来た?」ってとこだろ、多分。
「どうしても何も、ホシノちゃんの所の……えっと、なんだっけ……そうそう、奥空アヤネちゃんだ。そのアヤネちゃんに助けを求められたから、三日三晩の遭難の末にここに辿り着いたんだけど」
「違うよ
意外と鋭いね。さっきまではあんなに眠たそうな顔をしてたんだが……今はどんな顔をしてるんだろうか。背中から感じるプレッシャーが段違いだ。
こうなったらもう、全部正直に言っちまうか。
「僕が来た理由なんて大したものじゃないよ。言っちまえば、
「面白半分でここに来た、ってことなのかな」
おー、怖い怖い。声音こそ変わっちゃいないが、プレッシャーがどんどん増してる。これが「神秘」ってやつなのかな?
「いやいや、別に面白半分ってわけじゃあない。僕は僕の価値観と善意に則ってアビドスに来ただけなのさ。あとそれからホシノちゃん。さっきから頑張って背中にプレッシャーをかけ続けてるが、そんなものは僕の「
──おっと、完全に背後を取ったはずなんだが……まさかノールックで眉間に銃口を添えられるとは。目に見えて「神秘」の力が強まってるし、そろそろまずいかもな。
「二回目の警告だ、三回目は無い。私の質問に答えろ。分かったなら両手を上げて。それ以外の行動を取った場合は撃つ」
「気持ちよく眠れるかもね」
「勝てるつもりでいるのかな」
「ハナから負ける気のやつなんていないよ」
いい加減にしつこいな。
……試してみるか。
僕がもう面倒臭くなって、適当なスキルで話を終わらせようとしたタイミングで、ホシノちゃんは再びおどけた感じに戻ってしまった。
……なんだよ、せっかく人がスキルを使おうとしてたってのに。これじゃあ消化不良で欲求不満だ。まあ僕にスキルを乱用したいという欲求はないけれど。
「……ホシノちゃん。僕としては一応、これから全力でバトルでもするのかな、とか思っていたのだけど」
「え〜めんどくさいな〜……。シロコちゃんがあんなに信用してる子だったから、どっちにしろそこまで長引かせるつもりはなかったんだよね〜」
「ああ、もしかして……僕が不用意に『面白そうだから』とか言ったから、脅しとして『神秘』の力を強めたのかな?」
「あっちゃ〜、バレちゃった? 私達は一応真剣に日々を生きてるからさ〜、面白半分で首突っ込むと痛い目見るよ、って教えたかったんだけど……生半可な気持ちでここに来たわけじゃ無いみたいだしね〜」
おっと……まさか僕が
「ちなみに僕が近づいて来たのにはどうやって気付いたんだい? 自慢じゃねーが、そこまで事を大きくした覚えはないんだけどね」
「うーん……おじさんは心配性だからね〜、日課のお散歩をしていた時に見つけた遭難者っぽい人たちを、ずっと陰から見守ってたんだ〜。その時にシロコちゃんに懐かれてたのも知ってるよ」
おいおいマジかよ。視線も何も感じなかったんだが……やっぱり僕の見立て通り、ホシノちゃんは相当やり手だね。ま、いざとなれば僕の方が強いが。
「そこ見てたんだったらさ、僕のこと脅す必要は無かったと思うんだけど。危うく本気で戦っちまう所だったんだが」
「人間、追い詰められた時こそ本性が出るからね。わざと追い詰めてみて、暴れるようだったら鎮圧するつもりだったよ」
ホシノちゃん……うへうへふにゃふにゃとしてはいるけど、その実かなり色々考えてるな。人は見かけによらねえってのは球磨川くんで十分理解していたつもりだけれど、僕もまだまだだね。
「そういえばさ、
「ふむ……それもそうだね、それじゃあ名乗らせてもらおうか。僕は
そう言いながら、僕は手を差し出す。本日何度目か分からない握手の構えだ。この構えもだんだんと様になってきたなあ。
僕が出した手をホシノちゃんは迷いなく取り、「うへ、手小っちゃいねえ」と言ってから手を離した。どうして時々おじさんのムーブをするんだよ。
まあ、いいや。ともかくこれで、ひとまずは落ち着いたかな。
──ああ、でも。
「さっ、それじゃあ行こっか。先生とシロコちゃんも心配してるだろうしね……あれ、 おーい、
「……いや、なんでもないよ。今行くぜ」
僕は気づいてるぜ、ホシノちゃん。
こんなに怪しいやつをホシノがそう簡単に信用するはずがない。むしろ信用してくれるな。
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