いい加減ゲーム開発部出せって。
「ところで
「物で取り入ろうとしてるのかい? まあ別に止めねーけどさ……先生は味の薄いものが好きらしいぜ。まったく、若い男性とは思えねーチョイスだよな」
「ふむ、なるほど……味が薄いものが好きということは、順当に考えれば淡いものも好きでしょう。となれば未だ足跡の一つも刻まれていない新雪の如き儚さと潔白さそして透明感を兼ね備えたこの超天才病弱美少女ハッカーこと明星ヒマリは、先生とも仲良くなれそうです」
「その言語化によって削ぎ落とされた情報こそがきみの言う『美しさ』ってやつなんじゃないかな」
「高次元の『美しさ』はそのあまりの高潔さに理解の及ばないものです──ですから私は、誰にでも分かる形で私の魅力をお伝えしているにすぎないんですよ、
「イデア論みてーなこと言いやがって。せっかくハッキングの才能もあって容姿も──まあ確かに美少女ではあるっつーのに、そこまで自己を誇るのかな。きみは大人しくしていても十分美少女なんだから、誇張や誇示は必要ねーと思うんだがよ」
「褒め言葉として受け取っておきましょう。ふふっ……やはり私の目に狂いはありませんでしたね。『全知』と『全能』は想像通りに──想像以上に気が合いそうです」
まあ、これまた随分とおもしれー奴だっていうのは嫌ってほど分かったさ。もしかすると、百鬼夜行に続きミレニアムも癖の強い奴揃いなのかもしれねーな。いやはや、困っちまうぜ。
ねえ、きみもそう思うだろう、エイミちゃん?
「いや、多分百人に聞いたら百人中全員が『
「そりゃあそうさ。だって僕はまだまだキヴォトスの常識を把握し切れていないからね。どうしても浮いてしまう──癖のある部分は出てきてしまうとも」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「まあまあ。癖が強い人の方が、私としても関わり甲斐があるというものですから……おっ、このお菓子美味しいですね。エイミが淹れてくれたお茶によく合います」
どうやらヒマリちゃんの方は、僕の持ってきた菓子折りを気に入ってくれたらしい。ユウカちゃんのセンスに任せたのは正解だったね。
「エイミちゃんも遠慮せずにどんどんお菓子を食べてくれたまえ。一応謝罪の品として持ってきたものだからね、特異現象捜査部の部員であるきみには、これを貪り食う資格がある」
「そうですよエイミ。食べないなら私と
「いや、あの……なんで二人はそんなに仲良さそうに話してるの?」
僕はエイミちゃんが買ってきてくれたお茶を飲みながら、その言葉の意味を脳内で反芻した。
なんでそんなに仲良さそうに話してるの、か。そんなこと僕に言われてもなあ。
「気が合いそうだったからね」
「気が合いそうでしたからね」
「あ、そう……」
エイミちゃんはそんなことを言って、大人しくお菓子を食べ始めた。表情にあまり出ないタイプらしく、彼女がお菓子を気に入ったのかどうかは、表面だけでは推測できなかった。
まあ、二個目に手を伸ばしていたから気に入ってくれたんだろう。つくづく、ユウカちゃんに任せて正解だった。
その後三十分ほど簡易的なお茶会をしてから、僕たちはようやく本題に入った。ここで言う本題と言うのは、つまり
「とは言っても、正直薄々分かっちゃいるんだけどさ。つーか『特異現象捜査部』なんて名前の連中に呼ばれてるんだ、理由なんざ一つしかねーだろうよ」
「それならばわざわざ話を長引かせる必要はなさそうですね。理解が早い人は嫌いではありませんよ」
「正直な話、僕はスキルで人の思考を読めるから、こんな話をわざわざ耳で聞く必要もないんだが、しかしまあせっかくの機会だ。しっかりと対話しようじゃないか」
先ほどからエイミちゃんは僕のことをジトっとした目で見てきている。多分ここで『思考読んだから帰るね』とか言おうものなら、あの視線はさらにジトっとするのだろう。
どうせ今後も何度か顔を合わせることになるだろうから、せっかくなら仲良くしておきたい。無駄な軋轢を生むのは望むところではないしね。
「では早速ここに呼び出した理由についてなのですが──あなたが特異現象そのものであるからです。自覚はありますか?」
「当然。僕は
「その通りです。私がこの結論に辿り着いた理由は、大きく分けて二つあります。まず一つ、持っているスキルの数が多すぎること。二つ、キヴォトスの常識に疎すぎること」
ヒマリちゃんは車椅子に腰掛けながら、僕に向かって指を二本立て──いわゆるピースサイン──そう言った。
なるほどなというか、やはりというか。ヒマリちゃんがこういうのだから、このキヴォトスに
いたとしても、僕のように一京個持ってる奴なんていないはずだ。というか、いたら困る。
「厳密に言えば──そうですね、スキルの数は多くて三から四個といったところでしょう。そしてこれらのスキルは大抵の場合
「つまり、あれかな。少年漫画で言うところの
「そういうことです──が、しかし。その例だとやや混乱を招くかもしれません。つまりはソーシャルゲームで言うところの
なるほどねえ。つまり僕はゲームで例えれば、衣装違いで一京回実装されているので、必殺技を約一京個持っているぶっ壊れキャラだと、そういうことか。
しかし今は弱体化を喰らって──いるとはいえ、それでも五個から十個は問題なく使えるのだから、どちらにせよ圧倒的なのか。
うーん、なんというか、まるで気分は二次創作小説にありがちなメアリー・スーだぜ。
「キヴォトスの常識に疎すぎるというのは、まあその言葉のままだろうから飛ばしておくとして、だ。それらの理由で僕が異世界から来た人間(人外だけど)と確信した上で、きみは僕に何を望むんだい?」
「誤魔化しは嫌いでしょうから率直に言います。あなたのデータを取らせてほしいのです。具体的には、
「それは何故? そんな言い方だと、まるで僕に一切のメリットがないみたいな印象を受けちまうぜ」
「ヒマリ部長、ちょっと
「なっ……エイミ、あなた何を言っているんですか!? まるでそんな、私が寂しがりみたいな風説を流布しないでくれませんか!?」
ははは、ヒマリちゃんってば顔に朱が差してるぜ。何をそこまで恥ずかしがることがあるのやら。
いやしかし、それにしてもヒマリちゃんは色白だね。そのせいで余計に染まった頬が目立つ。清楚系美少女を自称していたが、わざわざ自称するまでもないことだと思うんだが。
「それで? 僕のデータを取りたいとのことだったけれど、しかしそれにしたって一体どうやって収集するつもりなんだい? そこのところ、はっきりお聞かせ──」
「えっ? いや、いやいやいやちょっと待ってよ
「エイミちゃん、心配はご無用だとも。これでも一応、僕はきみたちを信用してるんだぜ。ぶっ倒れた時に問答無用で実験体にせず、こうして許可を取ろうとしているあたり、マッドってわけじゃあないんだろう?」
「ええ、そこは約束します。あなたに危害を加えるようなことはしません、あくまでもデータを取らせていただいて、特異現象の解明などに有効活用したいだけですから」
「だろう? 自慢じゃないが、僕も昔は似たようなことをしていてね。だから今更人体実験に対して忌避感はねーのさ」
「それはそれで、また別の問題な気がするけど……」
せっかく普通になってきたエイミちゃんの視線がまたジトっとしてしまった。まあ嫌われたりしているわけではないっぽいし、別にいいかな。
呆れられているのには納得いかねーがよ。
「先ほどの
「──おい、これは……」
「チョーカーにしか見えないよね、これ。ミレニアムのエンジニア部にかかれば、精密機械もこんな風に偽装できるんだよ」
どこからどう見てもチョーカーにしか見えないが、しかし透視のスキル「
「こちらのチョーカー型測定器は脈拍や呼吸の回数などを測定し、私のデバイスに自動で送信される仕組みになっています。あとは
「えっ、Bluetooth機能が付いてるのかい、これ」
「はい、付いていますね」
「えっと、何故?」
「エンジニア部の趣味としか……」
何だそれ。遊び心に満ち溢れすぎだろう、エンジニア部。まあいいけどさ、面白いし。
「そんなことより、その
「申し訳ないのですが、これだけは現時点で明かすことはできません。
「要するに、一番の機密事項ってことだよ。
「しかしこの機能は、
ふむ。僕にとって最もメリットとなる──つまり、今は使用制限のかかっているスキルに関連した何かということになるのか。
わざわざチョーカー型にしているところを見るに、その秘密の機能というのは──。
「僕の脳に関連している機能かな」
「ッ……思考を、読みましたか?」
「いいや、読んでいないさ。これもまた、状況と言葉から感じた印象による考察だよ。もっともその反応を見るに、間違ってはいなかったようだがね」
僕がそう言うと、やや空気感がピリついたのを感じた。エイミちゃんは平静を保っているように見えるが、しかしほんの少しだけ緊張したのは分かっているんだぜ。
……ただ、一つだけ言っておきたいんだがよ。二人とも、僕が今どこにお世話になっているのかを忘れているんじゃないのかい?
「あのさあ、一応言っておくんだけど。僕ってこれでも
「……それもそうですね。エイミも、落ち着いてください。
「……了解。
まあそれはしょうがないさ。僕自身、僕みたいな奴がいたら怪しいと感じるだろうからね。
それもどうなんだろうか。
「……まあ、そういうわけなら今は詮索しないでおこう。僕にメリットがあるというなら、わざわざ断る理由もない──それにだ。もし僕に対して何かデメリットをもたらす機能がついていたなら……」
「……? 付いて、いたなら……?」
「この装置をすぐさまぶっ壊して一瞬できみたちに報復を行いにいくからそんな機能はあってもなくても気にする必要ねーしな」
「──そう、ですか。まあそんな機能は付いていないので大丈夫なのですけど、しかしそれでもその言い方をされると緊張しますね……」
ヒマリちゃんの顔には再び冷や汗が浮かんでいた。おいおい、ちょっとした冗談だろう。そこまで怯えなくてもいいっつーのによ。
「それじゃ、これはありがたく付けさせてもらうことにするよ。今まで散々人を実験体扱いしてきた僕が、実験体扱いされるというのも面白いしね──今度会う時は先生も一緒だと思うから、その時はよろしく頼むぜ」
「ええ、これからよろしくお願いしますね。独立連邦捜査部シャーレとはやはり仲良くしておきたいですし──
頼りたいこと、ねえ。ヒマリちゃんが『全知』であること、そして特異現象捜査部の部長であることを考えると、そうだな。
となると、あいつか。
デカグラマトンか。
「まあいずれね。僕たちシャーレは二十四時間三百六十五日、いつでも生徒からの相談を受け付けているから、きみの都合がいい時にでも便りをよこしてくれたまえ。ただ恐らく、今すぐにというのは不可能だ」
「ええ、その辺りは承知していますから、心配は必要ありませんよ。確か先生は今、ゲーム開発部の子たちと一緒に行動をしていましたよね」
へえ、そこまで把握しているのか。『全知』の名に恥じないね──と、感心している僕をよそに、ヒマリちゃんは真剣な目つきになって、僕に話しかけてきた。
「最後にこれだけ言っておきます。先ほど渡したそのチョーカー型デバイスなのですが、可能であればこの後すぐに付けてください。近いうちに使う機会が訪れます。恐らくは……一週間後くらいでしょうか」
「へえ。まあ別に僕としては構わないんだけど、一応理由を聞かせてもらってもいいかな。ほら、僕って平等主義者だからさ、そういうのは互いに納得した上で聞き入れたいんだよね」
「もちろん。理由は単純に、私の予想では
ヒマリちゃんは、そこで一度深呼吸をしてから、続きの言葉を絶対に聞き間違えないような、はっきりとした声音で言い放った。
「セミナー直下のエージェント組織、ミレニアムの最強集団こと
「弱体化してしまっていて、なおかつキヴォトスでのスキルの使い方に慣れていない今現在のあなたでは──
……へえ。『絶対に勝てない』ねえ。
『勝つこと』が、『できない』──なら、そいつは。
「ちゃんと僕を楽しませてくれるんだろうね?」
「うわ……」
エイミちゃんにはもう何だか呆れられてしまっているような気がするが、しかしまあ、どうせ後々挽回するから気にしないでおこうか。
付き合っていて、そう簡単に飽きがくるような奴ではないということの証明は、また今度にしておこう。
「ま、そういうことなら異論も異存もない。なんなら今ここで付けてやるぜ──っと。こんな感じでどうかな」
「いい感じにアクセサリーらしく擬態できていますね。数値もこちらの端末に送られて来始めましたし、問題はないようです」
「そいつは
「部長はすぐ調子に乗るけど、こういう時は頼りになるから……だから、
「
「……そういう、つもりじゃ、なかったけど……まあいいや。じゃあね、
「ふふっ……エイミもすっかり
はいはいそれじゃあね、と。そんな感じで簡単に二人と挨拶をして、僕は特異現象捜査部の部室を後にし、シャーレへと足早に戻って行った。
一応まだ軽めの仕事が残っているからね。とっとと終わらせて昼寝でもした後、帰ってきた先生にゲーム開発部がどんな連中だったのかを聞いてみるとしよう。
ようやくゲーム開発部出せそうです。よかった。
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