なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 特殊タグいじってたらいつもの二倍くらい時間かかっちゃった。
 あと第1箱に動く特殊タグの演出を追加しました。よかったら見てみてね。




第57箱「また勝てなかった」

 

 

 モモイちゃんから依頼を受け取っちまったもんだから、僕としてはどうしてもゲームをやるしかなくなっちまった。

 

 今回僕がやらされているTSC(テイルズ・サガ・クロニクル)というゲームは、ゲーム開発部の名を色(・)々(・)な(・)意(・)味(・)で(・)広める要因となったものだ。

 

 悪い意味のほうだぜ。

 

 ミレニアムについて調べている間に、偶然目に入ったもんだからさ。結構な酷評を喰らっていて大変そうだと思っていたんだが……まさか僕がやる羽目になるとは。

 

 ま、やるからには堪能させてもらうさ。

 

「セッティングできたよ! はいどうぞ、安心院(あんしんいん)さん!」

 

「ありがとう。いやー、ゲームなんていつぶりかな。ましてRPG(ロールプレイングゲーム)となると、最後にやったのはだいぶ前のように感じるね」

 

「ふっふっふ……久しぶりにやるゲームが私たちの作ったゲームだなんて、安心院(あんしんいん)さんは間違いなく幸せものだよ!」

 

 隣でふんすと鼻息を立て、自慢げに胸を張っているモモイちゃんは置いておくとして、だ。

 

「……ミドリちゃんと先生、それにアリスは何をそんなに心配しているのかな。まるでこのゲームをやると、僕にとんでもない被害がもたらされるのではないかとでも言いたげな表情だが」

 

「そのー、えっと……先生、えっと、こういう時は何と言えばいいんでしょうか?」

 

「"ま、まあまあ! やってみれば私たちの言いたいことも分かると思うから、物は試しでやってみよう! ね?"」

 

 アリスの方を見ると、ぶるぶると震えながら涙を流している。

 

 へえ、こいつ、涙を流せるのか。

 もしかしたら希望ヶ丘の奴より性能がいいのかもな。

 

 ここまでの高性能となると、僕としては、ますますデカグラマトンとの関与を疑わざるを得ないね。

 

「まあそんなことは後でもいいか──それじゃ、存分に楽しませてもらおうじゃねーか、ゲーム開発部のTSC(テイルズ・サガ・クロニクル)とやらをよ」

 

 僕はコントローラーを手に持ち、ゲームを開始した。

 

 

 

 コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ。レトロなRPGと思っていたが、舞台設定はややSF寄りなのか。いいね、新しい物が好きな僕好みではある」

 

「ゲームに慣れてなければ、タイトルからはちょっと予想がつかないかもしれないけど、これは王道ファンタジーRPGだからね!」

 

「王道とはいっても、ただ王道をなぞるだけなら既存のゲームと変わりませんから、色々な要素を混ぜているんです」

 

 モモイちゃんとミドリちゃんはそんなことを僕に向けて説明してくれた。何だかんだと言っても、自分たちが作ったゲームを誰かにプレイしてもらえるのが嬉しいらしい。

 

「……それで? アリスはどうして僕の服を掴んだまま震えているのかな」

 

「ちょっとアリス!? そんなホラーゲームみたいな反応しなくてもよくない!?」

 

「まあ、進めれば分かりますから、今はとりあえずゲームを続けてみてください」

 

 ふうん、今のところアリスに敵意なんかは感じないし、特に気にしなくてもいいか。ゲームに集中しよう。

 

 画面には往年の王道RPGのような画面が広がっている──どうやら画面の指示によると、現在は簡単な操作方法を教えるチュートリアル中であるとのことだった。

 

 

 

 コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた……

 チュートリアルを開始します。

 まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

「……Bボタンで武器を拾うなんて、中々珍しいシステムじゃないか。そこもまた、既存のゲームとは違う部分を見せたいということなのかな──」

 

 まあ諸々の考察は後回しにしよう、まだチュートリアルなんだから。そう考えた僕は、とりあえず画面の指示に従ってBボタンを入力した。

 

 瞬間。

 世界を巻き込んだ爆発が発生して全てが消し飛んだ。

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

<GAME OVER>

 

 

 

 

 

 

「はあ??」

 

「あはははははっ!! 予想できる展開ほどつまらないものはないよね!!」

 

「……いや、モモイちゃん、これ……」

 

「さっき、って言っても三時間前だけど……アリスも同じところで引っかかってたよ! 本当はここで指示に逆らってAボタンを押さなきゃいけないんだよね!」

 

「本当に、何回見てもここの部分だけは酷いと思うよ……」

 

 逆に作ってる段階で酷いと思わなかったのかよ、この部分を。絶対どこかで『あれ? これってもしかしておかしいかも』ってなるタイミングがあったはずだろ。みすみす改善のチャンスを逃しやがって。

 

 いやでもまあ、あのゲームよりはまだマシだ。

 黒神めだか作、道徳クエスト。略してDQ。

 

 うん、あれは酷かった──僕は記録を喪失しているから細かいところまで覚えているわけではないが、しかし『酷かった』という事実だけは覚えている。

 

 まだマシ、まだマシ。

 まともじゃないが、マシではある。

 

「いやあ、きみたちの言いたいことが分かったぜ、先生にミドリちゃん。それから、アリスが震えている理由も。つまりこのゲーム、終(・)始(・)こ(・)の(・)調(・)子(・)なんだろ?」

 

「"……まあそうなんだけど、でも、このゲームはゲーム開発部のみんなが頑張って作ったものだからね。独創性に溢れていて、私はとても素敵だと思うな"」

 

「先生、先生。気を遣わなくても別にいいんですよ。それから安心院(あんしんいん)さんも、もし耐えられなければやめちゃってもいいですから……」

 

「うう……言語では説明できない感情が再発しています……これは『恐怖』……?」

 

 楽しそうなのはモモイちゃんくらいのもので、他のみんなは阿鼻叫喚というか、何というか。

 

 ともかく、このゲームがまともな感性をもって作られたものではない、ということだけはよく理解できた。

 

「そういうわけで、モモイちゃん。後で覚えとけよ」

 

「えっなんで!?」

 

 隣で騒いでいるモモイちゃんを無視して、僕は先ほどの場面までゲームを進め、しっかりと指示に逆らいAボタンを押した。

 

 

 

 武器を装備しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここでまた爆発したらこのゲーム機の方を爆発させるところだったぜ。命拾いしたね」

 

「やろうかとも思ったけど、流石にそれをやっちゃうとゲームが進行できなくなっちゃうからね〜」

 

 やろうとはしてたのかよ。とんでもねーなゲーム開発部。いやまあ、やってたとしても道徳クエストよりはマジなんだろうが。

 

「とりあけずそのまま進めて進めて! もう少ししたらRPGの花形である戦闘が──あっ、来た来た! 初戦闘だよ、安心院(あんしんいん)さん!」

 

 ゲーム内外からの指示に従い、僕は武器を装備したまま町の外へと出て、しばらく散策してみる──と、すぐに敵キャラとのエンカウントが発生した。

 

 

 

 武器を装備しました。

 エンカウントが発生しました!

 野生のプニプニが現れた!

 

 

 

 

 

 

 

 最初に現れた敵は、見るからに『一番弱い敵』といった風貌をしていた。こちらは剣を持っているから、一見余裕そうに見える。

 

 ……このテキストを見た瞬間からアリスの震えが強まったから、何かあるんだろうなとは思っているけどさ。

 

「ミドリちゃん、何かを選択する時のボタンはどれか教えてくれるかい? モモイちゃんは……何かこういう時騙してきそうだし」

 

「ちょっと信頼度失うの早すぎない!? ミドリもそう思うでしょ!?」

 

「あっ、選択はAボタンでできますよ。その辺りは普通のゲームと同じなので、直感に従っていればどうにかなると思います」

 

「実の姉に対して塩対応が過ぎるよ妹!!」

 

 多分自業自得だと思うぜ、という言葉は飲み込んだ。とりあえず今はゲームの方を進めなければならない。

 

 モモイちゃんからの依頼は「クリアするまでゲームをやってほしい」という依頼だった。それまで僕は、アリスに尋問を行うことができない。

 

 だからさっさとクリアする他ないんだよな、この歴史上稀に見るやべーゲームをよ。

 

「攻撃、となるとこれかな。【秘剣つばめ返し】、効果は敵に対して二回攻撃する……このプニプニとかいう奴になら、十分すぎるほどのダメージが与えられそうだ」

 

 ミドリちゃんに言われた通りに、僕はAボタンを押して【秘剣つばめ返し】を選択し、プニプニに対して攻撃を行(おこな)った。

 

 

 

 武器を装備しました。

 エンカウントが発生しました!

 野生のプニプニが現れた!

 ッダーン!

 攻撃が命中、即死しました

 

 

 

 

 

「へえ、テキストには書いていなかったけど、この攻撃って即死効果が付いていたのか。あれかな、内部ステータスによって即死率が、上がったり、するの……かな……?」

 

 僕の言葉が段々と尻すぼみになったのには、当然ながら訳がある。わざわざ説明せずとも察している奴は察しているかもしれねーが、一応説明しておこう。

 

 攻撃が命中して、即死したのは。

 僕(・)の(・)方(・)だった。

 

 

 

 

 

 

<GAME OVER>

プニプニ:どれだけ剣術を鍛えたところで、我が銃の前には無力……ふっ。

 

 

 

 

 

「……モモイちゃん、一つ質問があるんだが」

 

「ん? あっ、やっぱり安心院(あんしんいん)さんも、プニプニが『ふっ』て言うのは不自然だと思う? 他にいい表現が思い付かなくてさ」

 

「ゲーム機ときみ、ど(・)っ(・)ち(・)が(・)い(・)い(・)?」

 

「何をしようとしてるのか教えてくれないと怖くて選べないんだけど!?」

 

 まったくもう。僕が道徳クエストの存在を知っていなければ、今頃このゲームは世界から跡形もなく消滅しているところだったぜ。『存在していた』という痕跡ごとね。

 

 ……いや、僕は詳しく覚えているわけではねーっつーのに、うろ覚えな記憶だけでここまで言わせる道徳クエスト、どんだけやばかったんだろうか。

 

 絶対に思い出したくねーな。

 

「まあいいさ……あのプニプニは要するに、銃の攻撃が届かないような長距離からどうにか攻撃を仕掛けて、何とか倒せばいいってわけだろう?」

 

「結局何しようとしてたんだろう……まあいいや。とにかく、それで正解だよ! 安心院(あんしんいん)さん、このゲームどうかな? レトロゲーム特有の理不尽さ、結構再現できてると思うんだよね」

 

「レトロゲームのそれとはまた話が違う気もするが……そ(・)う(・)い(・)う(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)として捉えたのなら、個人的には中々面白いとは思うがね」

 

「先生、あれって暗に『TSCを死に覚えゲーとして捉えてる』って言ってませんか?」

 

「"えっ? どうだろう、絶対そうなんじゃないかな……"」

 

 ミドリちゃんに先生、隠してるつもりかもしれねーが聞こえてるぜ。そしてそれで正解だ。

 

 いや、実際のところね。先ほどから怒ったようなフリをしているが、見かけ通りに怒ってるってわけでもねーんだよ。

 

 思えばこの手のゲームは今までやったことがなかったからね。新鮮すぎるあまり、面白さを見出してしまっているってわけだ。手放しでおもしれーとは言えねーがよ。

 

「まあいいさ。確かアリスは三時間でクリアしたんだったね。その記録を大幅に縮めてやろうじゃないか」

 

「おおっ、言ったね安心院(あんしんいん)さん! ウチのゲームはそう簡単にクリアできるほど甘ちゃんな難易度設定じゃないよ〜?」

 

「へえ、そいつは楽しみだ──ズルをしようとも考えたが、しかしそれは僕の性には合わないからね。一つ一つ、丁寧に爆弾を解除していくとしよう」

 

「マインスイーパーと勘違いしてる?」

 

 してねーって。

 あれと違って、TSC(これ)には運要素とかないだろうし。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 苦節一時間半。僕はやっとの思いでTSCをクリアした。やっとというか、ようやくっつーか。

 

 二度とやりたくねーぜ。

 

 いわゆる「草食系」と呼ばれる人のことを「植物人間」と表現していたのには、スキルを使っていないのにも関わらず頭痛がした。モモイちゃんは辞書を読んだ方がいい。

 

 アリスなんか、何か初見殺しや滅茶苦茶なテキストが出てくる直前になると、僕の腕をきゅっと掴んで震え始めていた。ネタバレは勘弁してくれ。

 

「……す、すごい! たったの一時間半でトゥルーエンドだなんて、最速記録かもしれないですよ!?」

 

「あーっ! 今になって思ったけど、ちゃんと動画とか取ってればRTAの記録狙えたかもしれないのに〜っ!」

 

 何やら才羽姉妹が僕の後ろできゃいきゃいと騒いでいるが、そこまで早いのか。それならまあ、初見にしてはよく出来た方なんじゃないかな。

 

 ただ、文句は尽きねーけど。ゲーム性の面はともかくとして、僕が色々と申し立ててーのは、主にゲーム内テキストの方だ。

 

「それで? モモイちゃん、言い訳はあるのかな。母親がヒロインでそれでいて実は前世の妻でさらにその妻の元に子供の頃に別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてきているとかいう説明されればされるほど訳の分からなくなりそうな関係性を作った理由についての言い訳は。つーか『腹違いの友人』って、それ普通の友人じゃねーのかな」

 

「う。そ、それは──」

 

「エ、エラー発生、エラー発生! その話は聞きたくありません!!」

 

 僕がこのゲームのテキスト面を担当したモモイちゃんを詰めていると、突然僕(・)の(・)腕(・)に(・)抱(・)き(・)つ(・)い(・)て(・)い(・)る(・)ア(・)リ(・)ス(・)が大きな声でそんなことを言いながら、目に涙を浮かべ、困ったような顔で僕の方を見てきた。

 

 随分とまあ感情表現豊かなようだね、このロボットは。本当に、どういう仕組みで作られているのかが気になるところだぜ。

 

 いやあ。

 

 それにしても。

 

 随分と懐かれたなあ──。

 

「アリスちゃん、安心院(あんしんいん)さんの隣でずっとゲーム見てたけど、やっぱりみんなそうだよね。一回やった苦行を誰かがやってるのを見るの、楽しいもんね……」

 

「……ふっふっふ、これこそ古き良きレトロゲームの……良さだよ! 難しいゲームをクリアして、それを隣で見ている人もいて、そして──終わった頃には、同(・)じ(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)を(・)プ(・)レ(・)イ(・)し(・)た(・)人(・)同(・)士(・)で(・)友(・)達(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)り(・)し(・)て(・)る(・)ん(・)だ(・)よ(・)!!」

 

 ──うん? なんだ、今の言い回し、何か含みがあったような気がするな。

 

 しっかりと考えようとするが、しかし。TSCをクリアした直後に考えを巡らせるなんて、今日一日中動き回っていた上に、スキルを連発していた僕には到底不可能だった。

 

 友達。

 友達になる。

 

 そうだ、こ(・)の(・)部(・)分(・)だ。何というか、やたらと強調されていた気がする。

 

 何だ。強調する理由は何だ。

 それさえ分かれば──。

 

 

「つまり、アリスと安心院(あんしんいん)さんはもう友達だよね!」

 

 

 ──僕と、このロボットが?

 

 周りから見た時にそう見えているのだろうか。まあ距離感も近かったし、そう見えたのかもしれない。

 

 とりあえず、今はモモイちゃんは放っておこう。これでモ(・)モ(・)イ(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)か(・)ら(・)の(・)依(・)頼(・)は(・)ク(・)リ(・)ア(・)し(・)た(・)から、ようやくアリスに尋問できる。

 

 僕にとってはここからが本番で、瀬戸際だ。そう考えながら、僕はアリスの方に顔を向けて。

 

 そこには目を輝かせて笑みを浮かべるアリスがいた。

 

 TSC(苦行)から解放されて喜んでいるのか……いや、違う。この感じは、そうじゃない。もしそれならば、アリスの顔に浮かぶ表情は『安堵』であるはずだ。

 

 そうではない。これは『喜び』だ。

 

 何に対しての?

 

「安心院(あんしんいん)さん、パーティーメンバーになってくれるのですか?」

 

 僕(・)と(・)友(・)達(・)に(・)な(・)れ(・)た(・)こ(・)と(・)に(・)対(・)し(・)て(・)の(・)。

 

 思考を読むスキル「透思行(スルーパス)」で読み取れたのは、そんな感情だった。

 

 そういえばこいつ、ついさっき──つい一時間半前、TSCについて話している時に『恐怖』の感情を浮かべていなかったか?

 

 おかしいと思ったんだ。だってTSCはホ(・)ラ(・)ー(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)。驚かせる要素なんかもないから、流(・)石(・)に(・)恐(・)怖(・)を(・)感(・)じ(・)る(・)わ(・)け(・)が(・)な(・)い(・)。

 

 今、モモイちゃんに言われたことを文字通り鵜呑みにしているのを見て気付いた。こいつは、アリスは、起動したばかりで初期設定の済んでいない機械だ。

 

 もしくは、内部データが破損している──まあどちらでも変わらない。要するに、アリスは無(・)垢(・)すぎる。

 

 まだ、何も知らない。

 

「おおっ! アリス、安心院(あんしんいん)さんに随分懐いちゃって──これなら、任(・)せ(・)ち(・)ゃ(・)っ(・)て(・)も(・)い(・)い(・)か(・)な(・)」

 

 TSCで疲弊した脳を酷使し、頭痛を何とか抑え込みながら必死に考え込んでいたタイミングで、モモイちゃんはそんなことを宣(のたま)った。

 

 ……あー、ちくしょう。

 

 全部計算ずくなのか、それともまったくそうじゃないのかは分かんねーが。

 

 し(・)て(・)や(・)ら(・)れ(・)た(・)ね。

 

 

「安心院(あんしんいん)さん、アリスに色々教えてあげてよ!」

 

 

 僕は、そんな依頼を提示された。

 提示さ(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

 色々教えてあげて──という言葉が出てくるということは、やはりモモイちゃんはア(・)リ(・)ス(・)が(・)無(・)垢(・)で(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)──つまり、色(・)々(・)と(・)覚(・)え(・)さ(・)せ(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)る(・)ということを分かっているのだろう。

 

 その言葉を聞いたミドリちゃんやロッカーの中の子が何も言わないところを見た限り、全員それは理解しているらしい。流石はミレニアムと言ったところか。

 

 そして僕は……こ(・)の(・)依(・)頼(・)を(・)断(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)な(・)い(・)。

 

 いや、少し違うな。断ること自体はできる。が、絶(・)対(・)に(・)そ(・)れ(・)を(・)す(・)る(・)わ(・)け(・)に(・)は(・)い(・)か(・)な(・)い(・)。

 

 理由は単純に、ゲーム開発部経由でミレニアムとシャーレの関係性が悪化する可能性があるからだ。そうなると、僕は特(・)異(・)現(・)象(・)捜(・)査(・)部(・)と(・)コ(・)ン(・)タ(・)ク(・)ト(・)が(・)取(・)れ(・)な(・)く(・)な(・)る(・)可(・)能(・)性(・)が(・)高(・)い(・)。

 

 僕が後ろ指をさされる結果になるのは、まあ別に構わない。しかしシャーレは決して僕一人というわけではない。先生もいるわけだ。

 

 最悪の場合、先生と僕がミレニアムに入れなくなる可能性すらある。そうなると、アリスについて色々と探ることが難しくなってくる。様々な可能性が考えられる以上、これは避けたい。

 

 それから、僕が元の世界に帰る手掛かりを掴むとなった時、やはり一番当てにできるのは、これまたミレニアムだ。

 

 その上、現在の僕はシ(・)ャ(・)ー(・)レ(・)の(・)安心院(あんしんいん)さ(・)ん(・)として動いている。先ほどモモイちゃんの思考を読んだが、どうやらここで僕がアリスに何かするとと(・)に(・)か(・)く(・)困(・)る(・)らしい。

 

 モモイちゃんがそれしか考えていなさすぎて、それ以上何かを読み取るのは難しかった。いやまあ、それしか考えてないだけかもしれないが。

 

 とにかく、現状僕がシャーレとして動いている以上、困っている生徒を助けないわけにはいかない。これが銀行強盗のお誘いとかなら断れたんだが、今回は比較的真っ当な依頼だ。

 

 断りたい理由はある。が、しかし。

 それよりも遥かに、断らなくていい理由の方が多い。

 

 スキルで諸々を誤魔化すこともできるかもしれねーが、しかしそれをしてしまうと、後々のしっぺ返しが怖い。それに何より、そんな雑な方法で解決はしたくない。

 

 だから、僕の負けだ。

 

 ん? これだけで負けにはならないだろって? いやいや、それがなっちまったんだよ。なっちまったっつーか、何というか。

 

 違うんだよ、そういうことではない。キヴォトス全体の平和を見た時の話さ。僕が先ほど提示した「アリスを破壊して平和を保つ」という方法は、確かに手っ取り早い。犠牲はアリスだけで済む。

 

 が、しかし。モモイちゃんの取った「アリスの教育を僕に任せる」という方法は、誰(・)一(・)人(・)の(・)犠(・)牲(・)も(・)出(・)さ(・)ず(・)に(・)済(・)む(・)。

 

 アリスは無(・)垢(・)だ。まだ何も知らない。

 だから、今(・)か(・)ら(・)何(・)で(・)も(・)知(・)れ(・)る(・)。

 

 今(・)か(・)ら(・)何(・)に(・)で(・)も(・)な(・)れ(・)る(・)。

 

 それは例えば世界を支配する魔王なのかもしれないし、それは例えば世界を救う勇者なのかもしれない。

 

 そのコントロール権限が、僕に渡った。

 モモイちゃんが、それを僕に渡した。

 

 僕がアリスを破壊しようとしていることを知ってか知らずか。偶然にも、そんな権利が僕に投げ渡された。

 

 その権利があれば、アリスが仮に破壊兵器だったとしても、僕が彼女に「きみはそうではない」と強(・)制(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)る(・)。

 

 矯(・)正(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)る(・)。

 

 だから、僕がその権利を握った以上。ア(・)リ(・)ス(・)が(・)世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)す(・)き(・)っ(・)か(・)け(・)と(・)な(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)こ(・)と(・)は(・)な(・)い(・)と(・)断(・)言(・)で(・)き(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。

 

 だって僕だぜ。安心院(あじむ)ナジミだぜ。

 世界滅亡に興味なんかあるかよ。

 

 まあ、つまるところ、あれだ。

 ア(・)リ(・)ス(・)を(・)破(・)壊(・)す(・)る(・)理(・)由(・)が(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)ち(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

 だからこの勝負、僕の負(・)け(・)なのさ。

 

「ふふん! 安心院(あんしんいん)さん、私からの──私(・)た(・)ち(・)か(・)ら(・)の(・)追加の依頼、受けてくれるよねっ!」

 

「……そこまでしてアリスを守りたい理由は知らねーが、喜んで。僕でよければ、アリスを完璧な人(・)間(・)にしてやるぜ。あーあ、ままならねーな、まるで人生は週刊連載だぜ──」

 

 こういう時は、確か──そうそう、斜に構えながら、こう言えばいいんだったよね、球磨川くん。

 

 

 

 

 

「また勝てなかった。」

 

 

 

 

 






 これ言わせたかった。
 あとモモイは何も考えてません。ノリでゴリ押したらなんか上手くハマってこうなっただけです。

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