我慢できなかった……。
ホシノちゃんの案内のもと、アビドス高校をあちこち見て回った結果、分かったことがいくつかある。
まず一つ目。水道や電気などの必要最低限の設備は整っているらしい。それ以外は、まあことごとく酷い有様ではあったが。
二つ目。空き教室がかなり多いため、警戒を緩めようものなら即座に学校を占拠されかねない。しょっちゅう襲われてるのは、不良集団にとっても、この建物は砂や風を防げる丁度いい拠点となるからだろうね。
最後に三つ目。校舎の老朽化が激しい。歩くだけでギシギシと軋む廊下は、見方を変えれば素敵な
総括すると、やはりこの学校は既に限界を迎えている。頑張ったところで滅ぶのが遅いか早いかの違いであり、本質的に、滅亡からは逃れられない学校だ。
──と、散々こきおろしてみたけれど、この程度ならまあ、問題ないだろう。十分に僕と先生の権限でなんとかできる範疇だ。
「っつーわけで、このアビドス高校に物資を補給しに来たシャーレの
「ん、
「それは、何というか……」
「シロコ先輩、『すごい』で済ませちゃダメじゃないの? それ……」
アビドス探索を終えた僕は、そのままの流れで先生達と合流し、対策委員──アビドス廃校対策委員会の部室へと向かった。
そこで出会った
ちなみに先生とシロコちゃんに合流した時に、僕とホシノちゃんが全く旧知の仲などではないことをカミングアウトしておいた。まあ二人とも何となく察していたのか、驚いたりはしていなかったけれど。
「僕自身、砂漠でサバイバルしたことがどう凄いのかはいまいち理解してねーが……まあ褒められて気分もいいし、素直に受け取っておくよ。お返しに補給物資を死ぬほどくれてやる」
僕は弾丸補充のスキル「
「わあ☆ こんなに弾丸を出せるなんて、すごいですね!」
「なるほど……これが
ん?
いやおい、ちょっと待てよシロコちゃん。
「僕の聞き間違いじゃなきゃ、今確かに『私達のスキル』みてーな単語が聞こえた気がしたんだが……シロコちゃん、君はスキルを持ってるのかな」
「持ってるも何も……私達はみんなスキルが使える。私はドローンを作り出すスキル『
「被弾した相手を気絶させるスキル『
「私のスキルは弾数が減らないスキル『
「力と速度が倍化するスキル『
「指定した範囲を回復するスキル『
「"へえ、知らなかったよ。みんな凄いんだね!"」
お前は仮にも先生なんだから知っておけよ。
じゃなくて。
……おいおいマジかよ。どうやら僕がこのキヴォトスに来ちまったせいで、スキルもキヴォトスに存在するようになっちまったらしい。元から存在していた可能性もあるが……その線はかなり薄いだろう。
大方、僕の存在を証明するために、世界の方が捻じ曲がったんだろうね。そこまでしなければ、1京2858兆0519億6763万3867個のスキルを持つ僕の存在を許容することは、この世界にはできなかったのではないか。
しかし、しかし。
別に僕は、今のこの状況を嘆いたり、憂いたりはしていない。むしろ嬉々として受け入れている節さえある。
だって、そうだろう?
これで
ふふっ……おもしれーな、思わぬ収穫だ。ここまで連れてきてくれた先生と、スキルの存在を明言してくれた対策委員会のみんなには本当に感謝しかねーぜ。
「そういえばさー、私達はスキルを明かしたわけだけど、
気になって気になって気が気じゃない、ってか。さっき僕が消滅のスキル「
あの場で矛を収めた理由はいまいち分からねーが……今のこの雰囲気を見るに、後輩達に全力で戦っているところを見せたくないとか、そんなもんだろう。
かわいらしいじゃねーか。
「ちょっと、ホシノ先輩! それって『奥の手見せて』って言ってるみたいなものなんですよ!? せっかく助けに来てくれた方達にいきなりそんな──」
「いや、別に構わないさ、アヤネちゃん。要するに僕達を信頼してくれたから、君達対策委員会の面々はスキルを僕に教えてくれたってわけだろう?」
「えっ……それはそうなんですけど、本当にいいんですか? 相当な無理を言っていると思うんですが……」
「信頼には信頼で返す。その昔、僕が友人達から学んだことだ。そしてそれは、シャーレ全体の総意でもある──だろう、先生?」
「"そうだね、シャーレは生徒達にとって身近でなければならない。だから、生徒達との距離感もまた、相応に近くなきゃいけない。まあ、要するに『仲良くしてね』ってことだよ"」
それはちょっと意訳がすぎる気がするが……この手の話題は先生に任せておこう。どうにも僕が話していると、文章が長くなりがちでよくない。
「それで、肝心要の僕のスキルについてだが……弾丸補充のスキル『
「……ま、今はそれでいいや。いやーありがとね〜。これでおじさんは安心して、日課のお昼寝に勤しめそうだよぉ……むにゃ」
絶対納得してないように見えるが……まあいいか。これ以上追及されないんだったら、僕にとっても好都合だし。
ホシノちゃんもシロコちゃんも、根が本当にいい子なんだろうな。二人とも「
これは、借りを作っちまったかもね。
と、僕がそんなふうに考え、ホシノちゃんが隣の部屋に昼寝しに行こうとした時。突如として校庭から銃声が響き、その場にいる対策委員会のメンバー全員が即座に各々の銃を手にした。
そして次の瞬間、銃声と共に、お世辞にも品がいいとは言えない、甲高い笑い声が聞こえてきた。
「ひゃーっはははは!!」
「攻撃、攻撃だ!! 奴らは既に物資の補給を──」
のだが。
「いい加減にしつこいよ」
「なっ!? 小鳥遊ホシ──」
「いつの間にここまで──」
「はーい、帰った帰った。今はお客さん来てるんだからさー、ちょっとくらい空気読んでよねー?」
……なるほど、あれがホシノちゃんの「
つーか、まさかホシノちゃん……スキル無しで、純粋な身体能力だけで、一瞬であそこまで行ったのかよ。さっきまで閉まってた窓が開いてるし、多分窓から飛び降りて校門まで直進したんだろうが──それにしたって速すぎる。
その気になれば一瞬で僕の背後を取れるって考えると、身体能力だけで言ったらめだかちゃんと同等ってことか。
ホシノちゃんだけがここまで強い、とかならまあいいんだが……仮にシャーレとキヴォトスが敵対するようなことになった場合、あのレベルが複数人来ちゃうと、流石にちょっと困るなあ。
負けはしねえがめんどくさくて仕方がない。
「……相変わらず、頭数だけは多いね〜」
先ほどまでは持っていなかったライオットシールドを携えたホシノちゃんは、辺りを見渡して武装した集団の面々をたじろがせる。
膠着した状態が10秒ほど続いたが、しばらくするとシロコちゃん達が校庭へと飛び出していくのが見えた。どうやら僕と先生は、ホシノちゃんの大立ち回りを見ていたせいで出遅れたらしい。
アヤネちゃんはどうやらオペレーターらしく、僕達と同じ部屋で敵勢力の解析を進めていた。そこまで鬼気迫った感じではないが、それでもかなり集中しているのが見て取れる。
「カタカタヘルメット団……飽きないね。いい加減、学校を占領しようとするのは諦めて」
「何度言っても分かってくれない悪い子には、お仕置きしちゃいますよ〜?」
「またあんた達、性懲りもなく……! 今日という今日こそ許さないんだから!」
シロコちゃんがドローンを呼び出し、ノノミちゃんの持つガトリングの回転数が目に見えて上がり、セリカちゃんから発される怒気が増す。
しかし、襲いに来たヘルメット団と守る対策委員会では、かなり大きな数の差がある。いくらみんなの腕に覚えがあるとはいえ、やはりこの数を相手にするのでは時間がかかる上に、どうしても疲れは溜まるだろう。
絶対に負けることはないと分かるが、それにしたって疲労は溜まる。
それに──ホシノちゃん。頑張って取り繕ってはいるけれど、寝不足なのがバレバレだ。先ほどからちょいちょい彼女の方を見ているし、もしかしたらノノミちゃんも気づいているのかもしれない。
──しょうがねーな、ここは一つ、めだかちゃんの真似事でもしてお節介を焼いてみることにしようか。
「"
「これでも僕はシャーレの生徒なんでね、困ってる奴らは見過ごせねーのさ。それに……どうせ先生も、お節介を焼くつもりでいるんだろう?」
「"……バレてた?"」
「そりゃあね。シッテムの箱を取り出した時点で、戦術指揮をする気満々だったのは分かってたぜ」
「"あちゃー……まあ、放って置けないからね。こういう
先生がアロナちゃんに声をかけ、周囲の状況をシッテムの箱を通じて把握し始めたのを横目に、僕も「
驚いている対策委員会の面々の表情に内心してやったり、と思いながら銃火器精製のスキル「
「
おっと、流石に三つ目ともなると見逃してはくれねーか。まあいいさ、これに関しては勢いで誤魔化せるからね。
「わっはっは、いや別に大したことじゃねーさ。ここまで来たのはホシノちゃんの動きを真似ただけだし、銃を作ったのは『
「へえ、そんなに応用が効くなんて……すごいですね♧」
「ん、
「もしかしてアヤネちゃん、結構すごい人を呼んじゃったんじゃ……?」
当然大嘘だが。今の所は対策委員会のメンバーに僕が持っているスキルの数を明かす予定はないし、僕が元の世界に帰るためには明かす必要性が皆無だしね。
……えっと、スルーしようかと思ったんだが……ノノミちゃん、
「よし、そろそろいいかな。先生、戦術指揮の用意は万端かい? こっちはいつでも行けそうだぜ。みんなも準備万端だ」
『"うん、私の方も十全だよ。それじゃアヤネ。銃弾の弾道予測演算のお手伝いと「
『それではただいまより、独立連邦捜査部シャーレとアビドス廃校対策委員会による共同作戦を開始します! まずはノノミ先輩、「
──ここからは、あくまで蛇足。
言うまでもなく、記すまでもない、起承転結で言うところの「結び」の部分。
あの後、校舎を襲撃して来たカタカタヘルメット団の連中は全員撃退。その後ホシノちゃんの鶴の一声と、先生による許可を得た上で敵対勢力の本拠地まで追撃を
なお、ヘルメット団本拠地からアビドス高校に戻るまでの間、圧倒的な指揮能力とサポート能力を存分に見せつけた先生と僕が、ホシノちゃんとシロコちゃんに質問攻めにあったことは言うまでもない。
それにしても、まさか僕と一緒にスキルの概念までついて来てたとはね。元いた世界とキヴォトスを繋ぐ、ほぼ唯一と言ってもいい手がかりだ。
探るにせよ、慎重に探らなきゃいけねーな。
ネームド生徒の「EXスキル」をめだかボックスの「スキル」に見立てることにしました。
この決定により、僕には今後ストーリーに出てくる全てのネームド生徒にオリジナルスキルを持たせなければならないという義務が発生しました。
助けてくれ。
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