UA10万ですって。
祝ってください。
かくして、なし崩し的にアリスと和解──というのも違うか。破壊しようとしていたのは僕の方だけで、アリスの方は敵意なんかを抱いたりはしていなかったようだし。
一応ヒマリちゃんにも連絡しておいたのだが、彼女は彼女で事情を把握していたらしく、特段問題視しているような反応は返ってこなかった。それどころか、むしろ好意的に捉えているらしいぜ、あの子。
恐らくはヴェリタスが身分証を偽造した時に情報を得たのだろうが……しかし百パーセントそうとも言い切れない。いやはや、流石は「全知」というべきか。名は体を表すというが、彼女ほどにその言葉を体現している者も中々いない気がするな。
と、そういう経緯で、一応アリスが現時点では危険ではないということは確定した。危険かもしれねーが、しかし僕とヒマリちゃん、そしてエイミちゃんで十分制圧できるだろう。
アリスは武器を持っていないしね──っと。そうだそうだ、今現在アリスは武器を持っていない。つまり攻撃手段を有していない。拳はあるが、しかしアリスには「無闇に人を殴ってはいけない」と教えておいたからね。
これさえ教えておけば、いきなりすれ違いざまに見知らぬ人をぶん殴ったりはしないだろうぜ。いやまったく僕の作戦は完璧だね。
足技? 僕の感知するところではないね。
そうだ、サバットでも学ばせてみようか。
なーんて嘘嘘、冗談さ。アリスに蹴られたら大抵の相手はダウンしちまうだろうから、
つまりはまあ、
しかしキヴォトスではやはり銃撃戦がメインになるようだからね。某ステルスゲームの如く近接格闘戦に興じるっつーのも乙なものだが、しかし難易度が高すぎる。
そんなわけで、だ。僕たちはモモイちゃんのアリスに新しい武器を用意してあげたいという提案を飲み、アリスに愛銃を用意してもらうべく、
ユズちゃんはお留守番だ。残念なことだがね。
「いやしかし、エンジニア部ねえ。僕としちゃあ
生憎というか、なんというか。僕の想像力が欠如しているのではないかと、危うく自分の頭の方を心配したくなるような連中だったぜ。
Bluetooth・コンビニ決済機能付きの拳銃をアリスに勧めていた一年生
「三年生で部長の
「うん、概ね異論はないよ。私たちエンジニアというのは、各々が追い求めるロマンのためならばどこまでもバカになれる──むしろ、バカになるために工学の理論を学んでいるようなものだからね」
「……あー、うん。今のではっきり分かったぜ、きみが
「ふふふ、秀作だよ。何せあの『全知』からの依頼だ──普段から全力を尽くすのは当然とはいっても、力をいつもより込めて作ったというのは確かだね」
「その結果がBluetooth機能だっていうのかな」
「面白いし、
いつの世も、どこにいたとしても発明家連中というのは変わらないねえ。いやしかし、それにしたってエンジニア部の連中はより一層滅茶苦茶な気がするが……まあいい。
……
頭痛がするね。
「新しさを追い求めるその精神には感服するし、それと同時に同意もするが、しかし下半期の予算およそ70%をつぎ込んでまで作らなければならない代物だったのかな、あれは」
僕は視線を動かし、アリスの方を見る。そこにはとんでもない重量の宇宙戦艦用レールガン──確か名前は光の剣:スーパーノヴァ──を、目を輝かせて見つめているアリスの姿があった。
あいつ、ゲームに感化されてレールガンを欲しがってやがるな。まさか寄越せとか言い出さないだろうね、アリス。
「あれは、ほら。ロマンの追求という奴だよ。もしかしたらこれから先、使わないことがないとも言えないからね」
「観測されてねー未来に関してなら何とだって言えるっつーの。面白い試みであるということは否定しねーが、しかし使えないなら宝の持ち腐れだぜ」
「……うん、まあ、持ち腐れであるということには完全に同意するよ。扱える人もいなければ、そもそも持ち上げることすらかなわない──武器というか、現状は置物だね。あれを持ち上げられるほど力の強い子がいれば、あげちゃってもいいんだが」
ウタハちゃんは部屋の片隅に置かれている冷蔵庫(コールドスリープ装置のつもりだったらしい)から取り出した水を飲みながら、そんなことを宣った。
予算の70%を使って使えもしない武器……置物を作る連中、か。これは多分、セミナーの会計職を務めているユウカちゃんと度々小競り合いが発生していそうな雰囲気がするぜ。
「ぷは。
「もしかするとあのレールガンを適切に扱えるかもしれねーって話かい? おいおいちょっと待てよ、一体僕をなんだと思っているのかな」
「……そうか。それならいいんだ、実践データが取れるかとも思ったんだが、しかし難しいのなら──」
「僕なら
「──えっ? 今、なんて……」
予想外だ、といった表情を隠しもしないウタハちゃんを横目に、僕はアリスが眺めているレールガンに一歩ずつ近付いていった。
近づいてレールガンに触れてみると、想像していたよりも遥かに重たそうで、尚且つ精密そうな感じがする。確かクレーンでもないと持ち上げられないんだったかな。
「あっ、
「僕が何とかしてやることも、まあできなくもないんだがね。アリス、きみがそのレールガンを欲しがっているのは、きみが『
「はい! ゲームの中に登場していた勇者たちは、みなそれぞれ強力な武器を持っていました。だから、今はまだ勇者見習いのアリスも……」
「
「……? えっと……」
「説明しましょう!
「……あっ! 確かにそうです、それだと終盤の敵は全て勇者ということになってしまいます! でも、そうだとしたら、勇者見習いのアリスはどうやって勇者になれば──」
僕の言葉にコトリちゃんがすかさず細く説明を挟んでくれたおかげで、アリスも僕の言いたいことが飲み込めたようだ。
ふむ、しかし僕としては結構噛み砕いて分かりやすく話したつもりだったんだが……モモイちゃんの方を見てみると、頭の上に「?」が浮かんでいた。
あー、なるほど。直前、っつーかまあ昨日なんだが、ヒマリちゃんやエイミちゃんと話した感覚そのままで会話しちまってるせいかもね、少々話し方が遠回しになっちまうのは。
見回してみると、エンジニア部連中と先生は僕の言いたいことをおおよそ把握しているらしい。ゲーム開発部の頭が悪いって言ってるわけじゃねーぜ、周りにいる連中の頭が良すぎるだけだ。
しかし、アリスはいまいち僕の言いたいことを把握できてねーようだから、やはりここは誰にでも分かりやすいように、
よっ、と。ふむ、重さはこんなもんか。
「えっ? いや、
「そうだろうね。まあ実際こんなふうに持てているんだから、ヒビキちゃんもそう構えずに、安心して見ているといいさ(
「まあ、持てるんなら別にいいんだけど……データとか取れるかな……」
取りたいのなら勝手に取ればいいさ。別に減るものでもないし、僕としても現在の自分の状態を知ることができるからね。いわゆるWin-Winというやつだ。
さて、それよりもアリスの方だが……念の為にもう少しだけ
「なっ……いや、なるほど、そういうスキルというわけだね、
「ご明察だぜ、ウタハちゃん。これは僕の持つ一京のスキルのうち二つ、物を持ち上げるスキル『
「
「モモイちゃん、それに関してはまた後で話してやるからさ、今はとりあえずお口にチャックで頼むぜ」
僕がそうお願いするとモモイちゃんは口に片手を当てて塞いだ後、もう片方の手で僕に向かって親指を立ててみせた。こうして見ている分には素直でいい子だね。
「さて、僕は今二つのスキルを応用することによって、クレーンがないと持てない光の剣──
「言い換えるのならば、
「補足説明ありがとう、コトリちゃん。それで、アリスはどう思う? 果たして勇者の剣を軽々と引き抜いた僕は、一体何者なのだろうね?」
「
僕の問いかけに対して、そんな風に考え込むアリス。答えを出すまでに結構な時間がかかっているし、流石にまだ難しすぎたか……とも、思ったのだけど。
しかし僕の、あるいは僕たちの予想に反して、アリスは自分の中に存在する明確な答えを見つけたようだった。
「……
「へえ。ちなみにだが、アリス。きみがそう考えた理由を、僕に論理的に説明することはできるかい? あるいは、僕が勇者ではないと証明できそうな材料を僕に示すことはできるかな」
もしかしたら僕の質問に対して、それっぽい答えを返しているだけかもしれない。そう考え、僕は少々意地の悪い質問をしてみる──が、しかし。
「はい、できると思います」
と。アリスは僕の目にまっすぐ視線を合わせて、はっきりとそう言い切った。
いやはやまったく、目覚ましい成長を見せられると楽しくなっちまうぜ。
「
「ああ、別に構わねーぜ。一つと言わず、一京個くらいまでなら渋々答えてやるよ」
「お姉ちゃんお姉ちゃん、
「
別にもう気にしなくてもいいけど、おもしれーからあのまま放っておこう。
「……それで? アリスは僕に何を聞こうって言うのかな」
「
「いいやまったく。英雄──勇者だなんて、僕はあれになるつもりはないとも。そういうのは僕の柄じゃねーしな」
「それならやっぱり、
……うん、いいだろう。結構お膳立てしちまった気もしたが、その答えが出せるのならば、本格的に「アリスが破壊兵器である」という可能性は捨て去っちまってもいいかもな。
この子は昨晩(厳密には今日の未明あたりだが)、僕に向かって確かに「勇者になりたい」と宣言したからね。勇者になりたいのなら、勇者らしからぬ行為──例えば破壊とか殺戮とか、そういうことは間違ってもしないだろう。
つーか、僕がさせねーけどな、そんなこと。
「そもそも
アリス、一言余計だぜ。
その後、僕はアリスにレールガンを投げ渡した。誤字とかじゃねーぜ、マジで投げ渡した。エンジニア部の連中が「持てるのならあげる」っつったからね。これでレールガンはアリスのものだ。
本当に持てたことにウタハちゃん達は驚いていたが、しかしアリスならばそれくらい余裕だろう。その辺のことはちゃんと考えてるよ。ただまあ、そのせいでウタハちゃんにはバレたっぽいんだけどさ。
何がって?
アリスがおそらく戦闘用のロボットだってこと。
「だから、そんなに気にしなくていいっつーの。戦闘用のロボットくらいそこらへんにごまんといるだろう?」
「
「まあ前例はないだろうね。皮膚には人工タンパク質が使われているみたいだし、どうやら涙も流すことができる──僕たちの
だから僕たちと何も変わりはしない、と。暗にそんな意味を込めて、僕はそう言った。ウタハちゃんにもどうやら伝わっているらしいが、しかしそれでもまだ何かを気にしている表情を浮かべていた。
一体何がそんなに気がかりなんだか──ん?
ああいや、違うな、これは。
「いざとなった時、というか何かあった時、アリスが持っているレールガンで僕たちが傷付けられるのが心配なのかい?」
「まあ、言葉を選ばないのならばそうなる。自慢じゃないが、私たちの作ったレールガンの威力は──直撃すれば、大抵の相手は気絶する。そのレベルだから──」
「それじゃあ、そのレールガンに対処できればきみの心配事はすっかり解消されちまうってことだね」
「ああ、うん、そうなる……って、まさか、
「おや、ちょうど、アリスがレールガンの威力が本当かどうかを確かめようとしているね。おっと、このまま弾が放たれると、校舎に穴が開いてしまうのではないかな──」
僕は今にもレールガンの試し撃ちを開始してしまいそうなアリスを指差しながらそう言った。横ではウタハちゃんがまさか、信じられないといったような雰囲気を醸し出している。まあ見てなって。
そして、その直後。
「光よ──────!」
という声と共に、レールガンの先端から極光が放たれた。校舎の壁や天井に風穴をぶち開けるには十分すぎる威力に見える。
「ッ、
「まあそんな慌てんなよ、ウタハちゃん。レールガンっつったって、要はたかだか銃だろう? もっと堂々と──」
「だから! あれは私たちエンジニア部が予算の七割を注ぎ込んで作った超高性能の──……って、あれ……?」
「──もっと堂々としていなさい。だって、もう対処は
アリスが放ったレールガンの弾は、天井をぶち抜くかに思えたが。しかしその直前で、僕が消滅のスキル「
エンジニア部の活躍の場は、完璧な状態で、傷ひとつなく保たれた。つーか、僕が保った。
「どうやらあのお転婆娘は勇者になりたいらしくてね。しかしいつ道を違えちまうかは誰にも分からない。だけど勇者には
「……ははは。それなら、そうだな。安心して光の剣を任せられそうだ」
こうしてアリスは、勇者の剣を手に入れた。
アリスが勇者見習いかられっきとした勇者になるまで、あとどれほどのものを手に入れる必要があるのだろうね。
UA10万なので評価とかもらえたりすると嬉しかったりします。感想もほしいです。UA10万なので。
普段評価を入れない人も、この機に入れてみたりしてみてください。お祝いだと思って。
これからも『なじみアーカイブ』をよろしくお願いします。