花粉症のせいで遅れました。
「さて、ひとまずG.Bibleとやらを探しに行く方向性で話はまとまったわけだが、ここで一つ、僕からきみたちに説明しておかないといけないことがあるから、一度耳を傾けてくれたまえ」
「ん? あっ、オッケー。ほらみんな、
現状を打開する策を見つけて浮き足立っているゲーム開発部の面々に、僕は極めて普段と変わらない調子でそう声をかけた。
何となく重要な話をするのだろうと察しているのだろうね。モモイちゃんは妙な茶々を入れてきたり、何かしらおふざけを入れたりしてくることはなかった。
けど、それだと僕がつまんねーからもう少し軽い雰囲気で聞いて欲しいんだがね。聞き流さない程度に、軽い調子で。
「"どうしたの
「いいや先生。きみの考え──きみたちの計画には明確な穴はない。まあ強いて言うなら
「"……っ!
先生はやや目を見開きながら、そんな風に声を出した。こいつの思い通りになるというのも癪だが、しかし意地になって自分一人で何とかし続けようとするのもね。
それに僕は、さっきアリスに同じような話をしちまった。だからまあ、僕の姿勢から改めるべきだろうぜ。
記録を喪失して子供っぽくなっているとはいえ、その辺りの分別を付けられない僕ではないのさ。
「モモイちゃんやミドリちゃんは僕のことを度々『チートキャラ』呼ばわりしていたね? それについてなんだが」
「えっもしかしてお説教!? お説教するってならこっちも考えがあるよ!」
「……違うから落ち着きなさい。チートキャラなのは紛れもねー事実だと自覚しているからさ。ちなみに、仮にお説教だった場合の、きみのその
「『お説教って書いてユウカって呼ぶよ』って言おうとしてた!」
「きみは一回ユウカちゃんに謝った方がいいと思うぜ、僕としては」
うん、そうだね。これくらいの空気感であれば、特に深刻そうな雰囲気を醸し出すこともなく、現状だけをぱぱっと伝えることができそうだ。
ゲーム開発部の連中に深刻そうな
辛気くせーのは嫌いなんだよ、僕は。
「話を戻そうか。とにかくその『チートキャラ』であるということについては、特段間違っていることはない──ならば、何となくイメージしやすいと思うんだけどさ」
「イメージ……って、一体どんなイメージですか?」
「ミドリちゃん。ゲームではよくあることだと思うんだが、敵だととんでもない強さだった奴が味方になった瞬間弱体化する、みたいな現象があるだろう? あれを
その言葉を僕が放った瞬間、部室の空気感は凍りつき。それからしばらくして、ユズちゃんがとてつもなくか細く「あっ……」という声を出すまでの間、時間が止まっているのかと錯覚するほどの冷たさが持続した。
「えっ、じゃあ
「使えなくなると言うよりは、ある程度の制限をかけていると言うのが正しいね。効果が軽いものは問題なく使えるが、効果の強いものはあまり使いすぎると……まあ最悪僕の脳がダメになる」
「脳? ヤバ……えっと、じゃあ! 効果が軽いスキルなら使えるって言ってたけど、それは大体何回くらいまでなら使えるの?」
「申し訳ないんだが、僕も
「えっと、それじゃあ……
と、ここでユズちゃんが挙手をしながら、また縮こまりながら、そんなことを質問してきた。
素晴らしい着眼点をしているね。見たところどうやら動体視力も優れているようだし、彼女は目がいいということになるのかな。
あるいは、空気を読み取る力に優れていると取るべきか。
「いい質問だぜ、ユズちゃん……と、その前にだ。きみたち、スキルについては知っているね?」
「あ、はい。一応わたしとモモイ、ミドリはスキルを持ってます。あんまり使わないけど……そうだ、アリスちゃんはスキルって持ってるのかな……?」
「……スキル、ですか? もしかしたらアリスにも、秘められた力があるかもしれないということですか!? もしそうだったら、すっごく勇者っぽいです!」
「なるほど、アリスがスキルを持っているか持っていないかは、現状不明と……まあいい、どうせこの子のことだ。多分持ってるんだろうぜ」
(
ミドリちゃん辺りが妙なことを考えていそうだが、まあいい。今はそれよりもユズちゃんの質問に答えることが先決だ。
「さて、ゲーム風に言うのであれば、この場合は『スキルの使用回数を回復する方法』を聞かれているわけだが──そもそも勘違いしているようだからまずはそこから正させてもらうよ。
「回数制限は存在しない……となると、スキルはゲームで言うならMP制ってことですね。あんまり使わないから知らなかったな……」
「ユズちゃんの言う通り──ちょっとホワイトボード借りるぜ──っと。今ここに引いた線はゲームで言うところのMPだ。基本的にスキルというのは使用するのに
僕は緑色のペンを手に持ち、先ほど引いた青い線の上にもう一本線を引いた。しかしそれだけだと味気なかったので、ついでにデフォルメした僕の絵も描いた。
「絵が上手だ……」
「ありがとうミドリちゃん、褒め言葉として受け取っておくぜ。さて、たった今書いた線はゲームで言うところのHPというやつだ。最近色々と調べてみて分かったんだが、スキルというのはMPがなくても、
「……でもさ、
「モモイちゃん、正解だぜ。僕は以前、同じ高校の友達を助けるためにスキルを100個ほど使ったんだが」
「100個ほど!?」
「100個ほど。言い間違いじゃないぜ……とまあ、特に何も考えずにHPを消費することによって、スキルを連発したわけだ。その結果僕は、
僕はそう言いながら、ホワイトボードに描いた僕の表情を残念そうなものに変えた。差分というやつだね。
「そしてこのスキルなんだが、ゲームで例えるところの
「"HPの方まで消化しきってしまい、一週間の間昏睡状態に陥った。だったよね、
「そんな顔するなよ、先生。おかげさまで僕は何とかやれてる──まあこの杖に関しては本当に邪魔くさくてしょうがないとは思っているが、しかしきみの心配ももっともだ、と。そう思う部分があることも確かだからね」
そういやホワイトボードの絵には杖を描いていなかったな。もうこの際だ、ついでに描き足しておこう。
「……
「まあアリスの言うことももっともだね。勿体ぶらねーでさっさとそれについて説明してしまうことにしよう。MPを回復させる手段については──これもゲームで例えようか。つまりはスタミナのようなものだね」
「スタミナって、モンスタースレイヤーで走ったりガードしたり、回避の時に使うあのスタミナ? それじゃあ
「モモイちゃん、またまた正解だ。これで
「いきなり変なこと言っといて『それは置いといて』はだいぶ無理があると思うよ!?」
「別にいいだろう? 僕だって意味の分からねーことをしたい時の一つや二つくらいあるさ……というわけで。僕の話としてはこれで以上なんだが、僕の言いたいこと、察してくれたかな?」
「えー……? うん、まあ、何となくは……」
さて、ここまで話せば大体の連中は気付くだろう──と、そういう予想を立ててここまで僕のことについて話してきたわけだが。
果たして僕の予想通りに、ゲーム開発部の面々は僕の言いたいことに気付いたらしかった。
「はい、はい! アリス、
「へえ? 完璧に分かるとは、これまた随分と大きく出たもんだ──それじゃあ言ってみなさい、アリス。長々と話してきた僕は、一体きみたちに何を言いたいのか」
と、その言葉を聞いたアリスは、少しだけ息を吸い込み。それから、はっきりと大きな声で、僕の言いたかったことを看破した。
「最近頑張りすぎて疲れたので一旦お休みがしたいってことですよね!?」
「……まあ、正解だ」
いや、うん。つまるところはそうなんだけどさ。
僕としては、もう少し格好の付く言い方の方が嬉しかったかな。とか、柄にもなくそんなことを思った。
さて。そんな経緯があってG.Bibleの回収にはゲーム開発部の面々と先生で向かうこととなった。
恐らくこれから先、スキルを使わなければいけない場面が増えるだろうからね。休めそうな時には休んでおかねばならないだろう?
なので僕はここで一度シャーレへと戻ってしっかりと休憩を取ることにした。一応先生にも許可を取ったので、僕はこれからしばらくフリーということになる。
……先生が「"ちゃんと相談してくれて嬉しいよ、いつでも力になるからね"」みたいなことを言ってきたのがちょっと気色悪かったが、まあ心配をかけているという自覚はあるから、そこまで強く言うものでもないか。
「さて。それじゃあ僕はシャーレに戻るとするよ。何か問題が発生した時は僕に連絡しなさい。文字通り空間跳躍して向かうからさ」
「そんなこともできるんだ──まあいいや! G.Bibleのありそうな場所には前回の廃墟探索で目星を付けておいたし、
「ははは、そりゃあ頼もしい限りだぜ……じゃ、僕はこれで。じゃあね──」
という言葉を最後に言い放ち、僕は「
はず。
だったのだけど。
「……どういうことかな、これは」
僕は眼前の光景を見ながら、ついついそんな言葉を吐いちまった。
いや失礼。
「僕は確かにシャーレの部室に飛んだはずなんだが──どうして自治区が見渡せるような上空に投げ出されているんだろうね?」
再び「
……偶然にもこのタイミングで? いいや、
ゲマトリア──ではないだろうね。黒服がこのような短絡的な手を好むとも思えないし。
ふむ。しかしスキルが使えないとなると、僕はこのまま墜落するしかないわけか。地面はもうすぐそこまで迫っている。
「ま、死にはしないだろ」
その言葉を最後に。
僕は地面に叩きつけられ、気絶した。
しばらくして。
僕はどうやら、無事に目を覚ましたらしい。
「……ほらな、死ななかった」
全身痛むが、僕は何とか生存したらしい。視線を胴体の方に向けるが、流血なども一切していないようだった。
……いや、それはそれでだいぶ不可思議な現象だが──まあいい。こういうこともあるだろう。と、僕はそう割り切った。
「さて。そんなことよりも、だ。さっきから僕のことを膝枕で介抱しているきみは一体誰なのかな?」
「──お前、それが命の恩人であるあたしに対する態度かよ……!?」
「嘘嘘、冗談だっつーの。だってきみ、超が付くほどの有名人だろう? つーか、
まさかこんなところでお目にかかるとはね。
ミレニアム最強、
好き勝手やります。
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