また話すだけの回です。
セミナー直下のエージェント組織、ミレニアム最強の集団
そのリーダー、
「つーかよ、
「いやー、珍しくうっかりしていたよ。不用心な
「ヘタクソ。というか適当すぎんだろ。あ〜クソっ、頭痛ぇ……間違えて空にワープした後、スキルが使えなくなって墜落した奴があたしの頭の上に降ってくるとか、マジでどんな偶然だよ……このクレープ美味いな」
どうやら僕が無傷で済んだのは、地面に墜落する際に
そういうわけで、一応ネルちゃんは僕の命の恩人ということになるらしい。だから自己紹介した後、心ばかりのお礼と称してクレープを食わせている。1,000円くらいする大きめの奴だ。
そんな風に長椅子に二人で腰掛けながら、僕たちは話していた。正直話になってもらえるかどうかは賭けだったが、向こうも向こうで暇だったらしい。運が良かったね。
「ふう、ごちそーさん……で? あたしにクレープ奢って何聞こうとしてんだよ」
「いや別に、特段何かを聞きたいと言うわけでもなくてね。ただ、せっかく有名な
「行き当たりばったりすぎるだろお前……まあいいけどよ。つーか、有名人なのはお前の方だろ、
「へえ、なんというか意外だね。そういうSNSとか、きみは確認しなさそうに見えるが」
「実際見ないから当たってるよ。うちの連中──C&Cの奴らがそういうのを時々あたしに見せてくるってだけだ」
ネルちゃんはそう言いながら、ぶっきらぼうな感じで携帯をこちらに差し出した。うん、とりあえずこれでいいだろう。
「ありがとう。これからよろしく頼むぜ、ネルちゃん」
「ネルちゃんって呼ぶな。ナジミって呼ばれてーのか?」
「別に好きに呼んでくれればいいんだが──っと。おいおい、そんな怖い顔しないでおくれよ。僕みたいな小心者は縮こまってまともに話せなくなっちまうぜ?」
「上空から叩き落とされて気絶して、目を覚ました直後に放った第一声が『ほらな死ななかった』だった奴のどこが小心者なんだよ」
「実際僕の心臓は平均よりも小さいかもしれないよ」
「『実際』って言葉を使ったからには『かもしれない』とかいう不確かな言葉を使うなよ……クレープご馳走様」
……あれ。いつの間にか二個目のクレープも食べ終わっていたらしい。小さい体でよく食べるねえ、ネルちゃんは。
これを本人に言ったら激昂しそうだから流石に言えねーがよ。体に関することに言及するのは、流石にデリカシーもなさすぎるしね。
「僕としては、クレープの奢りは一つで終わらせるつもりだったんだが……頭をぶつけちまったことに対する迷惑料に加えて、その後介抱までされちまったことに対する感謝ってことで、二つもあれば十分かな?」
「あー、まあな。そんで? 確かお前が聞きたがってたのは……
「それで間違いないよ。見たところここはミレニアム自治区の外郭らしいからね──どうしてネルがここにいたのか、シンプルに疑問に思ったからさ」
「ははっ、クレープ二つで聞くことがそれかよ? 何でもなにも、ちょっとした野暮用だよ。まあ今日は非番……っつーか、ここ最近は割と暇だしな。良さげなスカジャンでも探しに行ってみっかと思って、その辺を散歩してたんだよ」
「ああ、なるほど……いやしかし、僕はスカジャンというものに対する造詣が深いわけではないが、ネルのそれは随分と似合っているね。何というか、服に着られていないのが実にいいと思うよ」
「おっ、話がわかるじゃねーか! ま、あたしのトレードマークみたいなもんなんだよ、このスカジャンは。でもなあ、ここら一体の不良にはこれを目印に喧嘩を打ってくる奴もいるからさ。厄介ごとも引き込みやすくなるから、そこは玉に瑕ってやつだ」
そうは言いながらも、ネルちゃんは立ち上がりながら僕に背中を見せつけている。相当自慢げな笑みを浮かべているし、よっぽどお気に召しているのだろう。
「そうだ、今度他のスカジャンを見せてやってもいいぜ。あたし珠玉のコレクションの数々をな!」
「そりゃあいいね。是非ともお願いしたいところだ──っと、そういえばもう一つ聞きたいことがあったんだけどさ、構わないかい?」
「おう、何でも聞いてくれていいぞ。
やはりだいぶさっぱりとしている性格らしく、ここまで話しやすいのは僕としてもありがたい。
ヒマリちゃんに言われていたことも気になるし、ここは少し踏み込んでみるとしようか。
「僕がさっき空から墜落したのはね、別に僕がスキルの位置指定を失敗したからというわけではないんだよ。元々はシャーレに帰ろうとしていたんだが、気付いたら上空に飛ばされていたんだ」
「ふーん? まあ言い訳って感じに見えないし、
「話が早くて助かるよ。ネルは知らないかな、そういうスキルを持っているやつに──あるいはきみ自身のスキルの話でもいいんだが」
「はっ、あたしな訳あるかよ。そんな陰湿なスキルの使い方をするように見えるか?」
口の片端を吊り上げ歯を見せつけるようにしながら、ネルちゃんはそう言って笑って見せた。
まあこの子の性格を鑑みるに、搦め手みたいなスキルの使い方はしなさそうだしね。これは本当に、ただの興味本位で聞いているにすぎない。
「いやしかし、スキルを妨害するスキルねえ。結論から言うと、あたしは
「まあそうだろうねえ。任務遂行率100%って聞いたぜ、きみは。しかしそうなるとますます謎は深まるばかりだね。こんなことができる奴を放っておいたら、ミレニアムはかなりの危機に晒されてるっつーことになるが……」
「……そういうのを調べるのが得意な奴が知り合いにいる。もし気になるようなら、あたしからそいつに繋いでやってもいいんだけど──お前はそういうの、あんまり好きじゃなさそうだしな。違うか?」
「いいや、それで相違ないよ。どうやらきみには人を見る目もあるらしい──ま、そうでもなければ最強のエージェントなど名乗れないか」
「名乗った覚えはねーけどな。まあ、それについては単なる事実だ。否定はしねーさ」
圧倒的な自信があるようだが、それもまあ無理はないだろうね。実際僕の目で見てみても、ネルちゃんの戦闘力は……まあ軽く見積もっても
ということは、まあ。
確かに今の僕では勝てなさそうだ。
まあ実際に
負けず嫌いっていうのは、言い換えちまえばつまりは
「つーかそもそも、そういうスキルを持ってる奴がミレニアムにいたとして、だ。そういう奴らが真っ先に狙うのは、まず間違いなくあたしだろ。ミレニアムの連中はどいつもこいつも自分の発明品やら何やらに圧倒的な自信を持ってるからな」
「戦闘においてもそれは変わらない……というかまあ、好奇心が強い連中が多いってことかな? それともはたまた、向上心と言い換えるべきか」
「あたしが見た限りではそんなんじゃねーよ。ただ単に『これをやってみた時の反応が知りたい』ってだけなんだ、そういう連中はな。だからまあ、この場合は単に
長椅子に片足を乗せ、頬杖をつきながらそんなことを言うネルちゃん。随分と粗雑な仕草ではあるものの、しかしそれは彼女にひどく似合っていた。悪口じゃないぜ。
ふうむ、それにしても。確かにミレニアムの奴が僕をわざわざ狙い撃ちにする理由もないか。生徒たちから恨みを買った覚えは、今のところ僕にはないし。
となると、やはりゲマトリア関連──いやいや、それこそないだろう。僕と敵対するのは避けたいと、黒服もそう言っていたし。
まあもし仮に。
その気になれば。
僕はいつでもキヴォトスを滅ぼせるっつーのによ。
やんねーけどさ。
「しかしそうなると、結局僕のことを罠に嵌めた何者かは分からずじまい、ということか。まあいいさ、次僕になんかしてきたら格の違いを見せつけてやればいい。つってもまあ、僕にできることはと言えば精々が
「……一京?
「ん? ああ、そうだよ。僕の顔が嘘ついてるように見えるってのかい、心外だぜ」
「いや……嘘ついてるとまでは言わねえけどよ。しかしなるほど、最近よく聞く『一京のスキルを持つ生徒』、アスナが適当言ってるわけじゃなかったのか……」
ネルちゃんの反応を見るに、どうやら僕のことはキヴォトスでも噂になっているらしいが……しかし妙だ。
普通に考えればC&Cはセミナー直下の組織なのだから、ユウカちゃんから聞いたと考えるのが妥当なんだろうが……しかし僕の勘はそれを肯定することはなかった。
もしかすると、後々厄介になるのは、ネルちゃんだけではないのかもしれない。
まあ別に、一人も二人も変わんねーけどよ。
「──っと、さて。そろそろ僕はシャーレに帰るとするよ。本当はネルのスキルについても聞いてみたかったが、スキルって一応は隠しておくものなのだろう?」
「まあな。ただでさえ切り札みてえなもんだから、あんまり大勢に知られてると対策とかされてめんどくせえんだわ。ま、あたしのは
「やはりね。僕の友達はあっさりと教えてくれたけれど、やはり隠したい奴もいるわけか……まあいいさ。いずれ見せてもらえることを楽しみにしているよ。それじゃあまた会おうぜ、ネル」
「ん? ああ、おう、また──いや、違えだろ」
と、僕がネルちゃんに別れの言葉を告げ、杖を片手に立ち去ろうとした瞬間。ネルちゃんはスカジャンのポケットに手を突っ込みながら僕の横に立ち、こちらを見上げてきた。
「……どうしたんだい、ネルちゃん。ミレニアムはこっちじゃねーぜ?」
「知ってるよんなこと……そうじゃなくてさ、お前忘れてるかもしんねえけど、頑丈とはいえ空から落ちてきて頭打ってんだぞ? 途中で倒れたりしたらどうすんだよ」
「と、なると。つまりあれかな、きみはシャーレまで僕を送っていってくれようとしているのかな」
「むしろそれ以外に何があんだよ。ま、スカジャンを褒めてくれた礼みてえなもんだ。大人しく送らせろよ、なっ、
「……ネルちゃん、見た目にそぐわず優しいのな」
「ちゃん付けすんなっつってんだろ! あたしはそういう柄じゃねえんだよ! ぶっ殺すぞ!?」
しかしそうは言っているものの、ネルちゃんが僕に暴力的な行為を取ることはなかった。想像していたよりも随分と優しい子らしいね。ネルちゃんと知り合えてよかったぜ。
──まあ。そんなことを言っていられたのは、この時、シャーレに送ってもらった時までだけだったんだけどさ。
この出会いより、数日後。
僕とネルちゃんは、ミレニアムの校舎を一つ、跡形も残さず破壊することになった。
めだかボックスあるある。
校舎倒壊。
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