四苦八苦してて遅れました。
ネルちゃんと出会い、シャーレまで送り届けてもらった次の日。僕はモモイちゃんに呼び出され、ミレニアムの最強ハッカー集団であるヴェリタスの部室へと足を運んでいた。
一応
いや、特段気にしていないどころか。
「へえ、この人がモモの言ってた
「実際こうして見てみると、思っていたよりも背が低いですね。話し口調から勝手に自信ありげな人物像を想像していたので、何となくギャップを感じてしまいます」
「うん、確かに……そういえば
むしろヴェリタスの連中──
ここまで気にしていないそぶりを見せ付けられると、菓子折りとか渡す必要なかったんじゃねーのかな、という気持ちになってくるね。
「悪いねハレちゃん、生憎現在の僕はスキルの使用を控えているんだよ。増やすことはできなくもないんだが、しかし断腸の思いで断るしかないのが現状さ」
「増やせはするんだ。なんというか、流石に凄まじいね。私たちヴェリタスの包囲網を掻い潜っただけのことはある」
「ま、中々に手強い相手だったとは言っておこうか。キヴォトス最強のハッカー集団だというのにも頷けるセキュリティ強度だったとも」
と、そんな風に少々のリップサービス(「
「さて、それで? 僕をわざわざここに呼び出したということは、当然きみたちのほうはG.Bibleを手に入れたんだろうね?」
「もちろん! いやー大変だったんだよ、ロボットに追いかけ回されて廃墟中あちこち走り回って……そしたら、
……へえ?
ここでもまた
「──まあいい。その様子だと全員怪我なんかもしていないみたいだしね。となると、今回僕が呼び出された理由は、怪我の治療とかそういうのではなく、もっと単純にG.Bibleに関連する何かであるということか」
「その通りです。モモイたちがG.Bibleを持って帰ってきたはいいのですが、それをハッキングできるツールであるOptimus Mirror System──通称『鏡』が、現状私たちの手を離れ、セミナーに押収されています」
「"
「……足止め? おいちょっと待てよ先生、まさかきみ、僕に
「"うん。本当は
「それはあれかな、まだこちらでは使ったことがないから
「"誤解を恐れず言うのなら、そういうことになるね"」
「そういう損を背負い込むような言葉遣いはやめておきなさい。ただでさえ損な性格をしてるんだ……つーかそもそも、戦闘なんざキヴォトスではよくあることだろう? これもその延長みてーなもんなんだから、そんなに畏まらなくてもいいっつーの」
「"……でも"」
「『でも』も何もない。もしも次、畏まった態度を僕に取ろうもんなら、僕の方もお前に畏まった態度を取らせてもらうからな、先生」
「"えっ? か、畏まった態度って……どんなの?"」
「どんなのと言われましても、少々説明が難しいのでこうして実践することでしかお伝えすることはできませんが、これならすぐに分かるでしょう?」
先生が不安そうな目付きでこちらを見てくるものだから、僕は本当に仕方なく
ほら、あれだ。イオリちゃんの時のやつ。それを見せてやったわけだが、すると先生は。
「"うわあああ距離感!! 持ち味を生かそう! きみはきみのままでいいんだよ、
「その反応はその反応でまた別の問題がある気がするなあ」
その反応はその反応でまた別の問題がある気がするなあ、と。僕はちょうどそう思っていたんだが、どうやらマキちゃんもそう思っていたらしい──というか、もろ声に出てしまっていた。
「ま、なんだっていいさ。『親しみを込めて
「"……うん、そうだね──念のため確認しておきたいんだけど、もしかして私って、
「……アリス、言ってあげな」
「はい、モモイ! 先生は廃墟探索中も
モモイちゃんの指示でそう言い放ったアリスの表情は、何故だか知らねーがとてもいい笑顔だったし、それを聞いた先生の方は頭を抱えて「そんなに分かりやすく……?」と呟いていた。
無自覚にあそこまでの過保護をやってのけるというのは、それはそれでまた別の凄まじさがあるような気がするが……まあ、今のところは置いておこうか。今の僕は気分がいいしな。
ま、何はともあれ。
よく言ってくれたね、アリス。
今度新しいゲームを買ってやろう。
そんなこんなで先生の過保護から解放された僕は、早速作戦会議に参加していた。
本当は会議などわざわざ参加しなくともいいのだけれど、しかしこういう時間もたまには大事だろう。無駄になるわけではないしね。
と、僕は通常の作戦会議──
うっかりしていたよ。ここがミレニアムサイエンススクールであるということを、すっかり忘れていたぜ。
「さて、それで? わざわざここに僕を呼んだということは、足止めとは言っても相当に難易度の高いことを要求されているのだろう? まあ大方の予想はつくが、それでも一応、詳細を聞かせてもらいたいね」
「当然だよ。まず私たちの目的は『G.Bibleを解凍し中身を確認すること』。そしてその目的を達成するためには、私たちヴェリタスの部長である
「ところがこの『鏡』というハッキングツールは、あまりの性能に
「だからモモたちゲーム開発部には、この『鏡』を差押品保管所から取り返してきて欲しいって話をしてたんだ。ヴェリタスはそのサポートに回るって感じで、まあ言うなれば分業だよね! 私たちも『鏡』は取り返したいし……」
「そういうわけで、私たちゲーム開発部とヴェリタス、それからエンジニア部でセミナーを襲撃することになったってわけ! 利害は一致してるし!」
「ただ……私たちヴェリタスがいるとはいえ一つ気がかりなことがあってさ。えっと、
「まあ名前と噂はね。僕はユウカちゃんとも結構交流がある方だから、そこからよく話を聞いていたよ。部員数は──一応
ユウカちゃんから聞いたっつーのは完全に嘘だが。
「そうらしいです。私たちゲーム開発部は、あんまり関わり合いになったことはないから知らないんですけど……
「綺麗さっぱり
「とは言っても、相手だって普通の生徒! 当然戦力に差はあるけど、そこは数の差で何とかなるはず! と、そんな感じの計画だったらしいんだけど……ちょーっと、大きな問題が発生しちゃってね?」
「モモの言う通り、少し看過できない問題が発生しちゃったんだよ。C&Cが
「現状C&Cとして活動している生徒は四名います。コールナンバー
「コールナンバー
「……えっ」
「えっと、
「マジマジ。大マジだぜ」
と、マキちゃんに対してそう返すと、マキちゃんは分かりやすく驚いた顔をしていた。
「昨日僕がシャーレに帰っている途中、
「そうなんだ……?」
嘘はほとんどついていない。が、本当のことを言っているわけでもない。そんな感じで適当に誤魔化しながら話してみると、何だか空気感が変な感じになってしまった。
ふむ、この感じは……あれか。「仲のいい相手と戦え」と言うことに抵抗を覚えているな、こいつら。
はあ。
「おいおいみんな、僕に対して遠慮はいらねーっつっただろう? どうせ誰の相手をしようが、僕にとっちゃあそんなん些事だしよ」
「……まあ、そうだね。何にせよ、
「それが何故か、
「もう少しままなってくれてもいいと私は思うんだけどな!!」
「まあモモイちゃんは置いておくとして、だ」
「私に対してだけ雑すぎるよ!?」
ギリギリになってゲームを作ろうとしている桃色が何か言ってるが、まあいい。本気になれば一週間もありゃゲームは作れるだろうし。
「一応聞いておきたいんだが、この『鏡』奪還作戦に参加するメンバーは誰なのかな。そこだけ確認させてくれたまえ」
「あ、言ってなかったっけ? まずはゲーム開発部の四人でしょ? それからシャーレの二人と、ヴェリタスからは私、コタマ先輩、ハレ先輩の三人。あとはエンジニア部のウタハ先輩とコトリ、ヒビキの三人だから……合計十二人だね」
「エンジニア部がこの作戦に参加する理由は──」
僕はそこでアリスの方に視線をやった。すると、ヴェリタスの三人はほんの少しだけ頷き、僕の考えていることを肯定した。
なるほどねえ。アリスの
「──先生と仲良くなっておきたいとか、どうせそんなところだろう? どうかな、僕の推察が正しければこれは間違っていないと思うんだが」
「まあ、そうだね。私が今回エンジニア部のみんなに話を繋がせてもらったよ。申し訳なかったけど、どうやらウタハたちも
ノリノリ、ねえ。
ものは言い様とはこのことか。
「まあエンジニア部の参加は僕としても想定の内だ、驚くほどのことでもない──となれば、そうだな。この
「……
モモイちゃんはそう言いながら、僕に向けて頭を下げた……この態度を見るに、モモイちゃんはモモイちゃんで責任を感じているのだろうね。
いやしかし、そんなことを僕に言われてもな。最悪僕は、ここでこの子の頼みを断ることもできるわけだ。
ここ最近、不審なことも増えている。スキルを乱用するのは正直避けてーんだよ、僕としちゃあさ。
決定権は、僕にある。
僕にとっては、断るのが最善手だ。
……さて、それにしても、一体どんな気持ちなのだろうね。
自分の好きなことを好きなようにできる場所が奪われる気持ちというのは──それを自分たちの力だけでは守ることができない気持ちというのは。
少し想像してみようか。
と、そう思ったが。
そういえば、そうだ。
……まったく、しょーがねーな。
僕はモモイちゃんの頭に手を置き、優しく撫でた。
「……
「僕としてはさ。正直きみの言うことを聞いてあげる義理はない──が、そうだな、モモイちゃん。きみ、ゲームはどれくらい好きかな?」
「えっ……いや、そりゃあ四六時中でもやってられるくらいには好きだけど──」
「それじゃあ、
「どんなもの、って……例えば?」
「何でもいい。文字通りに、何でも。まあものの例えだ、実際に何かを賭けるってわけでもないし、気楽に答えろよ」
「……それなら、そんなの、とっくの昔から! ゲーム開発部の部室の扉を、ミドリと二人で叩いた時から! ずーっと決まりきってるよ!!」
モモイちゃんはそこで僕の手を掴み、力強い視線で僕の視線に
わっはっは、聞いたこっちが恥ずかしくなるくらいの青臭い宣言だ──が、
青臭い春は大好物だ──僕はモモイちゃんから視線を離し、今回の作戦立案者である先生の方に視線を向けた。
「いいぜ。今回の作戦──僕がネルちゃんを抑え込んでやる」
「本当に!? やったあ!!」
と、僕が作戦の参加に承諾した瞬間、モモイちゃんは飛び跳ねながら喜び、近くにいたアリスとミドリちゃんに抱きついていた。随分と元気がいいねえ、何かいいことでもあったと見える。
そんな微笑ましい光景を見ながら僕は先生の方に近づいて行き、喜びに満ち満ちているモモイちゃんたちには聞こえないよう、少し小さめの声で語りかけた。
「だがしかし、一つだけ条件を飲んでもらえれば、の話だがね」
「"本当に!? ありがとう、
「足止めの方法は僕に一任し、今回の作戦中は誰も僕のいる場所に近寄らせるな。ま、死にてーなら近付いてもいいんだが」
「"──
ふむ、先生も中々勘が鋭くなってきたようだね。僕がこれから
「何個、何個ねえ。ところで先生、僕は現状、スキルを何個使えるコンディションだと思う?」
「"……一日休んだとはいえ、神秘はそこまでの回復はしていないはずだよね。だからまあ、五個やそこらなんじゃ──"」
「おいおい先生、ちょっと僕のことを甘く見過ぎなんじゃないかい? 砂漠で倒れた時から今まで、
「"──それじゃあ、一体何個のスキルを"」
「十五個以上。」
「"えっ!!??"」
前の僕であれば、
しかし今の僕は
できることは全部やってみるに限る。
どうせしばらくしたら元の世界に帰るんだ。
今のうちに、ここでできることは全部やっておかなければね。
「ま、そういうわけだ。
「"……うん、分かった。あんまり過保護すぎるのも、かえって不健全になってしまいかねないし──
ははは、随分と僕の扱いを分かってきたようで何よりだぜ。前に比べると幾分かこちらの方が接しやすくて助かるというものさ。
さて。それじゃ、目にもの見せてやるとしよう。久しぶりに大仕事だ、腕がなるね。
いやー、しかし。
あえて指摘しなかったんだが。
ま、どうにでもなるだろ。
つーか、どうにでもしてやるとも。
ようやく戦闘パートに入れそうです。
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