10,000文字です。
長い。
「……
「おいおいユウカちゃん、見て分からないのかい──アリスと二人でセミナーを襲撃しているだけだが?」
「襲撃しているだけだが? じゃないんだけど!?」
わっはっは、流石に説明を省きすぎたかな。それに突然過ぎたというのもある──まあ何はともあれ、僕とアリスはセミナー棟に襲撃をかけていた。
アリスはユウカちゃんとC&Cのコールナンバー
まああんな風にど派手な破壊行為……エレベーターのセキュリティロックを光の剣で破壊なんてしたら、ここまでやられるのも当然というやつだよな。
申し訳ないが、これも作戦の一部だ。悪く思うなよ。
「……お初にお目にかかります、
「やあ、こちらもきみの噂は兼ねてより耳にしているとも。『掃除のプロフェッショナル』だったかな? いやはやしかし、凄まじい
「あら、お気に召しましたか? それでしたら
「……ちょっと? なんで少し和やかな雰囲気になってるのよ?
と、アカネちゃんと僕が親交を深めていたところで、ユウカちゃんはそんな風に横から口を挟んできた。しっかりしているねえ、本当に。
「そんなことを言われてもねえ。僕はあくまで
「だからって……! 止めてくれたっていいじゃない!? 本当は私だってこんなことしたくなかったのに、これじゃあアリスちゃんを反省部屋に入れるしか……!」
「そうだね。きみは規則違反──ひいては襲撃を
何故ならば、アリスは明確な
「
この言葉の意味が分からないユウカちゃんではない。
「ぐっ……!」
「成程。ここでアリスちゃんを反省部屋に入れなければ、セミナーは単一の部活に肩入れし過ぎだとされて悪評が広まる。であれば反省部屋に入れるしかありませんが、そうすると今度は──」
「
「それなら残された手段は、
「おいおいちょっと待ちたまえよきみたち。まさか言うに事欠いて、まだ何か悪い事をしたわけでもない僕を攻撃するつもりじゃあないだろうね? ただ
無理だろうぜ。なんせそのためだけに今日の僕は
今の段階ならば、まだ
「それこそ外交問題に発展してしまいかねないのではないかな?」
「……ええ、そうね。現状
「……ん? あれ、てっきり僕はそこ込みできみたちは作戦立案していると思っていたんだが──へえ、そうか。
「というよりは、
まあネルちゃんの参戦もこちらとしては予想通りなのだけれど、しかしC&Cはプロフェッショナルだ。
彼女たちとてプライドはあるはずだろうに、それを踏まえた上で「ネルちゃんに頼むしかない」とまで言わせるとは。僕も随分高く買われたもんだ──そして、ネルちゃんへの信頼も垣間見える返答だった。
はてさて、果たして僕はどこまでやれるのかな。
「ま、僕は相手が誰だろうがやるべき事をやるだけなんだがね。さて、一応聞いておくんだが、ユウカちゃんは僕に対して攻撃を加えなくてもいいのかな? このままだと僕は何事もなかったかのように帰っちまうぜ」
「こっちが
「アリスが爆破されている時に使った、シールドを体に纏うスキル『
「私が『
「そうかい、そうするのが一番いい──きみにとっても、僕にとっても、C&Cにとっても。そういうわけだからアカネちゃん、きみたちのリーダーによろしく伝えておいてくれたまえ」
「ええ、言伝しておきましょう。しっかりと『
「……まあ、もうそれでいいさ。どうせここからは死闘なんだからね──」
僕はユウカちゃんとアカネちゃんに背を向け、オペレーションルームを後にした。
本当はもう少し滞在していてもよかったんだが──ま、
さて、ここは任せたぜ、アリス。
「と、そんな感じでこちらの第一段階はおおよそ完璧と言ってもいい。僕とアリスはそんな感じだったが、エンジニア部の方はどうだったのかな?」
「さっきウタハ先輩から連絡が来てたよ。『トロイの木馬』は無事に潜り込ませられたって──これで、作戦の第二段階に問題なく移れるね!」
「うう、アリス……絶対助けに行くからね! ていうかいないと作戦壊れちゃうし!」
「お姉ちゃん、もっとアリスちゃんのこと心配してあげなよ……!?」
一旦アリス以外の全員で集合し、現状の確認をする手筈になっていた。だから僕は本校舎のロビーに一度寄ってから、
いやしかし、驚くほどに順調だね。破壊したセキュリティロックは無事に
恐らく一筋縄では行くまい。が、しかし、それでもやってもらうしかない。
この作戦は、
「……さて。この作戦だが、ユズちゃん。僕から言うことはそんなに多くない。とにかく、気楽に行きなさい。何かが起きても、
「っ……は、はいっ!! えっと、できるだけ……できることだけ! できることだけを、できるだけやってみます!」
「それでいい。ま、きみには沢山の仲間がいる……僕もその一人だし、ゲーム開発部のみんながきみの仲間なのは言うまでもないね。きみは成すべきことを成せばいい。困ったら僕を呼べ。だからまあ、つまりは、そうだな」
僕はしばらく考え込むようなそぶりを見せながら、たっぷり五秒ほど使ってみせた後、あえて大仰な態度を取りながら
「最終的には僕が全てを何とかしてやるから、安心してくれたまえ(
「はい、
な。景気付けにはちょうどいいだろう?
「よろしい。それじゃあみんな、後は任せたぜ。僕は然るべき時まで休憩させてもらうから、それまでは頑張ってくれたまえ」
「任せときなよ! 何なら
「わっはっは、そりゃあいいね、そうなるのが僕としても一番だぜ──」
まあ。
夢を抱く分には、止めやしねーさ。
作戦開始の前に、簡単にミレニアムタワーの最上階──セミナーの専用スペースに関して説明させていただくとしよう。
最上階のセキュリティは厳重を極めており、各セクションごとに独立した警備システムによって管理されている。
侵入者が発生したり、何か強い衝撃を感知した場合は
破壊はせずとも、セミナーによって登録された指紋をスキャンすることにより、シャッター自体を開けることはできる。故に、突破は容易である。
が、しかし。登録されていない指紋や強い衝撃に反応すると、更に頑強なチタン製の
そうなってしまうと今度は
それに加えて大量の監視カメラと警備ロボットが駐在しているため、最上階西セクションに位置する差押品保管所に行くことは困難を極める。
ただでさえ最上階に行く方法はエレベーターのみなので、そこの出口を抑えられてしまえば侵入者は一網打尽というわけだ。
しかもその上、エレベーターに無理やり侵入しようとすれば、その時点で即座に最上階のシャッターは全て閉ざされる。
セキュリティシステムは完全に外部から遮断されているため、ハッキング等によって介入するのは困難を極める。はっはっは、絶望的だね。
が、しかし。一見最強に見えるミレニアムタワーの警備システムだが、一つだけ
それは外部からの電力遮断に弱いということだ。この方式を使うことにより、
エンジニア部が作った超小型EMPであれば、その隙を狙って
無効化できる時間は、およそ六秒。キヴォトス最強のハッキング集団であるヴェリタスにとっては──。
「……えーっと、この辺でいいんだっけ?」
「すごく奥の方まで来た感じですが……恐らく間違ってはいないかと」
二人はそんなことを話しながら、ミレニアムタワーの奥の方へと向かっていく。周囲は薄暗く、ほんの少し月明かりが差し込んでいる程度で、廊下の奥までは見通せないほど暗い。
おっと。ちなみに僕は今、指定した場所を見るスキル「
さて、こいつらの所はどうなるかな。
「きみも気になるだろう? なあ、
「ちゃん付けすんな──って普段なら言ってるけどよ。どうせこの後てめえをぶっ飛ばせるってことは分かってるんだ。今のうちに腹くくっとけよ、なあ、
何を隠そう、現在の僕は
というか。スキルを応用して、僕とネルちゃんは
と、そんなことをしている間にも、僕の見ている先の景色は変わって行く。二人のところにはちょうど、誰かがやって来たようだった。
「おっと、どうやらあの子たちのところに来たのは──アカネちゃんかな? へえ、メイドらしくお客様をお出迎えしに来たというわけか。きみの後輩は随分と意識が高いらしいね?」
「んぁ、アカネ──あー、なるほどな……そんじゃあお前ら、多分出鼻を挫かれて終わりだよ。最初の方は遠慮するだろうが、最終的には──」
「ま、閉所を普通に爆破して終わりだろうね。が、しかしだ、ネルちゃん。それは
「──あぁ? 強がり……ってわけでもねえのか。となると……あれか!
今更気付いても、もう遅えよ。
「あらためまして、私はC&Cのコールサイン・
はははっ、何だそれ。中々に愉快な奴だね、本当に、こんな時でもなければ親しくなれそうだったっつーのに。
ま、今は敵だが。
「あっ、アカネ先輩!」
「アカネ先輩って、特技が『暗殺』で有名な、あの?」
「……うーん、一応秘密のエージェントのはずなのですが、いつの間にそんな知られ方を……正体を明かさない系ヒロインは、もう時代遅れなのでしょうか……?」
「色々知ってるよー。コタマ先輩によると、どうやら最近体重が──」
「ち、ちょっと待ってください! その情報漏洩は流石に問題がありますよね!?」
……精神攻撃は基本、と。つまりはそういうことなのだろうが、しかし年頃の少女にその言葉は
僕? 体重が増えたことなんてねーよ。
「その情報に関しては永久に黙っていていただきます……! さあ、そろそろ姿を見せていただきましょうか、モモイちゃん、ミドリちゃん!」
アカネちゃんのその言葉を聞くなり、ネルちゃんは不可解なものを見たかのように顰めっ面を浮かべた。ま、そりゃそうなるよな。
「ん? いやいや、アカネは何を言ってんだよ。あそこにいるのは、どう見たって……モモイとミドリとかいう奴じゃねえだろ」
「
「……アカネは、見間違いだなんてそんな単純なヘマをする奴じゃねえ。となれば、そうだな。考えられるのは監視カメラの映像が差し替えられていたとか、その辺だろ」
僕の隣であぐらをかいているネルちゃんは、そう言いながら僕に向かって、真面目な顔つきをしながらぴっと指をさした。
「その通り。それで正解だぜ」
何もかも。
気付くのが遅過ぎると言わざるを得ないね。
「……何故、黙っているのですか? モモイちゃんも、ミドリちゃんも──」
「まだ気付いてない感じかな。失敗してるのは、そっちの計画の方だよ?」
「──はい?」
と、アカネちゃんがそう呆けた声を出した、その次の瞬間。彼女自身もどうやら、自身の失策を悟ったようだった。
目の前にいた二人は、モモイちゃんとミドリちゃんではない。何度でも言わせてもらうが、その認識をするには、やはりいささか遅過ぎた。
「……ハ〜イ、アカネ先輩! 寮に戻ろうとしてたんだけど、道に迷っちゃってさ〜!」
「なっ、あなたたちは……!?」
「あなたたちはと聞かれたら! 説明するのが世の情け! どんな質問にも答えをご提供! エンジニア部の説明の化身、豊見コトリ!」
「芸術と科学のコンビネーション! ヴェリタスのデジタルアーティスト、マキだよ!」
「そんな!? ここに来たのは確かに、ミドリちゃんとモモイちゃんだったはず! 監視カメラで、確かに──!!」
と、突如として目の前に現れた予想外の二人……コトリちゃんとマキちゃんの姿に混乱しつつも、現状の認識に努めているようだった。
あまりの予想外、あまりの想定外。そんな状況でもアカネちゃんはやはりプロフェッショナルの矜持からだろうか、すぐさまオペレーションルームへの連絡という選択を取った。
「ユウカ、ユウカ! 何が起きているんですか!?」
『──ッ!! やられた! よく聞いてちょうだいアカネ、たった今防犯カメラの設定をリセット、プライベート回線で接続しなおしたら──モモイとミドリは最初から映っていなかったわ!!』
「ということは、やはり、先ほどまで見ていた映像はダミーということ──ッ!?」
アカネちゃんの言葉が最後まで紡がれることはなかった。一応言っとくが、別にアカネちゃんが一瞬でやられたとか、そういうわけじゃないぜ。
「さて、ここで質問だネルちゃん。たった今ミレニアムタワーのシャッターが閉まった理由は何だと思う?」
「……ミレニアムタワーのシャッターが閉じる理由は大きく分けて二つ。一つは実験やら何やらで事故が発生した時、マニュアルで操作するとかで、もう一つは──エレベーターに無理矢理侵入した場合、オートでシャッターが下がるシステムのせいだ。だからまあ、この状況をお前らが作り出したってのは、まあ分かる」
そう言いながらもネルちゃんは、片頬を吊り上げた好戦的な──それでいて呆れたような笑顔を浮かべながら、僕の方に向き直り、続きの言葉を放った。
「その上で──あたしらC&Cをシャッターでそれぞれ隔離したいんだろうって目論見には一定の理解を示した上で、それでも言わせてもらうけどよ。お前らは、
ウウゥゥゥゥ────という警報が鳴り響いた直後。機械音声によるアナウンスが流れると同時に、ミレニアムタワーの廊下にはシャッターの下りる音が鳴り響いた。
《 侵入者を発見。緊急時のため、セミナー専用フロアの各セクションを閉鎖します 》
「シャッターが──ということは、誰かが無断でエレベーターを使いましたね? はあ、まったくもう……」
「へへっ、仲良く閉じ込められちゃったね〜、アカネ先輩?」
と、マキちゃんが挑発的な笑みを浮かべながらアカネちゃんにそう言う──が、しかし。こんな状況でもアカネちゃんは冷静さを失いはしないようだった。
「……そんなことはありません。マキちゃんやコトリちゃんと違って、私はシステムに指紋登録がされていますから」
アカネちゃんはそう言いながら、指紋認証システムに向かって歩き出し、そしてその白魚のような指をスキャンした。
「痛い思いをしたくなければ、大人しくしていてくださいね。お会いできて光栄でしたが、私はこれで──」
その白魚のような指を、スキャンし続けた。
それが、
《 データ不一致。未登録の指紋です 》
「──えっ……!?」
《 セカンドシャッター、作動します 》
「そっ、そんな……どうして──ッ!?」
アカネちゃんの嘆きの声が虚しく響いた後、無慈悲にも二枚目のチタン製シャッターが重々しい音を立てながら閉じてしまった。
「……さて、ここまで作戦通りだ。アリスにセミナーを襲撃させセキュリティロックを破壊し取り替えさせたのは、全てこの時のため。セミナー役員どもやC&Cの指紋データでは開かないように、ハッキングも既に完了している。こちらの有利は間違いない──のだけれど、それでもきみは、これを
ネルちゃんの笑顔は、依然として好戦的だ。
「だから、ずっと言ってんだろ。忘れてるかもしれねえけどよ、あたしらはC&C──ミレニアムの最強集団なんだっつーの。だからあたしは、アカネが閉じ込められて不利な状況に陥ろうが、ヘラヘラ笑ってこう言ってやるぜ」
ネルちゃんは、やはりその表情を崩すことなく、楽しそうに、挑戦的に、好戦的に──僕に向かって、こう言い放ったのだ。
「……なるほど、なるほど、なるほど。あの時アリスちゃんがセキュリティロックをわざとらしく破壊したのはこの時のため──ユウカ。他の役員に助けは頼めそうですか?」
『……残念ながら、難しそうよ。あの時取り替えたセキュリティロックは、恐らく名前を隠していただけでエンジニア部製だった。ハッキングされてるみたいで、ノアも閉じ込められているそうよ』
「承知いたしました──ええ、ええ。いいでしょう、いいでしょう、いいですとも。恐らくコトリちゃんとマキちゃんがここに来た理由は、私を誘き出し、このシャッターで閉じ込めるため。そうですね?」
「ふふん、その通り〜! ま、私ら二人がここに来るだけでアカネ先輩をここに監禁できるんだから、二人でC&Cを一人封じ込められるのならあまりにも安過ぎるよね!」
「この作戦の成功率は私の計算では98%でしたが、上手くいってくれて良かったです! その様子だと説明は……必要なさそうですね!」
コトリちゃんとマキちゃんは、俯いているアカネちゃんに対してそんな言葉を放つ。アカネちゃんの姿勢は、見ている限りでは打つ手が無くなり意気消沈しているように見えた。
が、しかし。
相手は
油断するには、まだ早い。
「……コトリちゃん、マキちゃん。念のため聞いておきますが、これは
「……え? まあ、はい、そうなのではないですか……?」
「うん、元々交戦状態になるのくらいは覚悟してきたし──ってちょっ!?」
マキちゃんが驚いたのにも無理はない。だって、三人が閉じ込められている場所はまごうことなき
それだと言うのに、アカネちゃんは。
「どうして両手に爆弾を持ってるんですか!?」
「どうして、と、そんなことを言われましても……あなたたち二人は──ゲーム開発部のみんなもそうですけれど、セミナーに対する敵対者、ひいては──C&Cの敵対者ということになりますよね?」
「そっ、それはそうだけど!! だけど、だけどさ、ここ
「知ったことではありません。C&Cの流儀──というか、私個人の流儀ですが。煩わしい物は、全て『お掃除』してしまえ、と。そのように考えているのです」
「滅茶苦茶だよ!?」
「
アカネちゃんは愛銃であるサイレントソリューションという拳銃と、大量の爆発物をその手に持ちながら、マキちゃんとコトリちゃんに向き合った。
既に、臨戦態勢。まさか一分の隙などあろうはずもない。
眼鏡のレンズが白く発光しているかのように見えるほどの威圧感を放ち、大気をびりびりと震わせながら、それでも柔らかな笑みを携えて、そして。
「だから、恨むのなら、敵対した自分たちを恨んでくださいね? それでは──」
爆弾を構え、啖呵を切った。
「……それはまた、随分とC&Cのメンバーを信頼しているんだね?」
「はっ、当たり前だろ。アカネならこの程度の窮地、覆せねえはずがねえからな!」
締めくくりにそう言ったネルちゃんの表情とは、これまでのものとは全く違って、随分と楽しさ一辺倒な笑顔だった。
……さて、何はともあれ、戦いの幕は切って落とされた。マキちゃんとコトリちゃんは、果たして『掃除のプロフェッショナル』とまで呼ばれるアカネちゃん相手にどこまでやれるのかな。
生憎ながら、僕はこの場を離れようにも離れられないからねえ。二人には是非とも
それじゃあ後は、この場に座してお手並み拝見と行こう。『C&Cを
「せっかくなんだ、ド派手に頼むぜ、アカネちゃん」
僕は誰に向けてでもなく、そう呟き。
その言葉は、闇夜を漂ってかき消えて行った。
零崎一賊?
いいえ、C&Cです。
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