なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 なんか日に日に一話が長くなってる気がする。




第7箱「信用しちゃってるから」

 

 

 カタカタヘルメット団の本拠地を制圧し、僕達はわざわざ30kmほど移動してアビドス高校まで帰って来た。

 

 ──ところまでは、良かったんだがね。

 

「だから! これ以上大人の力を借りるつもりは無いって言ってるでしょ!! 私はそんなの認めないから!!」

 

 セリカちゃんはそう叫ぶと、対策委員会の部室を飛び出して行ってしまった。いやー、年頃の女子ってすげーめんどくせえのな。反抗期ってわけじゃあないんだろうが……ムキになってるって言うのかな。

 

 事の発端は、今から数分前にまで遡る。その間に聞くも涙語るも涙な大事件が──あったとか、そういうわけではない。

 

 ただ単に、アビドスが抱えている借金──数字にして9億6235万円──をどうにか返済するために、シャーレから仕事を割り振るという提案をしただけ。

 

 先生が担当している書類仕事を手伝うだとか、シャーレ居住区の清掃を行うだとか、要請が入った時に不良集団を鎮圧するだとか……まあ早い話が「暇な時にシャーレでアルバイトしない?」ってことだ。

 

 本当は僕が金品増殖のスキル金生殖(カウンターフィット)でその辺に落ちてるお金を増殖させまくって9億円にしてやってもいいんだが、提案したら先生に怒られた。

 

 ひでー話だぜ、まったく。僕は僕なりの善意に基づいて、それなりに現実的なプランを提案してるだけだっつーのによ。

 

 セリカちゃんを除く対策委員会のメンバーは、時間がある時にシャーレでアルバイトをする、という案に賛成していた。一応ここで明言しておくんだが、別にセリカちゃんが子供だったとか、そういうわけではない。

 

 きっと彼女は自分達の、対策委員会の力だけでアビドスの借金返済を成し遂げたいだけなんだろうね。仲間内で部活動を頑張っている時に、喧しい大人にあれこれ言われたくない、という心理状態に似たものを感じる。

 

 あるいはコンコルド効果だろうか。もう少しで景品が取れそうなクレーンゲームに、延々と硬貨を投入し続けてしまうあの心理状態。

 

 ここまで五人だけで頑張って来たのだから、最後まで五人で頑張りたい。頭ではそれが悪手だと分かっているけれど、今更引くに引けない。引きたくない。

 

 手を取りたい。だけど、やっぱり手を引いた。

 人間関係なんて、大抵そんなものだろう。

 

「と、僕はセリカちゃんの心理状態について、独断と偏見をもってそう判断したわけだが。先生はどう思う?」

 

「"それもあるかもね。でも私の考えは安心院(あんしんいん)さんとはほんのちょっとだけ、本当に少しだけ違うかなあ"」

 

 ほう。てっきり先生も、セリカちゃんはムキになっているだけ、と……そう判断していると思っていたんだが。どうやら聞く限り、僕と先生では考えが違ったらしい。

 

「"セリカはきっと、弱いところを見せたくないんだよ"」

 

「──えっと、そんなに単純なはずはねえと思うけどな。それに僕達が提示した条件は、そこら辺の木端みてーなアルバイトなんかより、よっぽど良いものだし」

 

「"()()だよ。それがまさしく、セリカが私達の提案を数分に渡って、頑なに飲もうとしなかった原因だったんだ"」

 

「私も気付くのが遅れてしまったけれど」と先生はいい、どこか苦味を含んだ笑みをこぼした。呆れているのだろうか。

 

 呆れていたとして、何を呆れるようなことがあったのか。

 

「……何が、原因なのかな」

 

「"『何が原因なのか』、うーん……出来るだけ簡単にまとめるなら、そうだな……責任感が強いんだよ、セリカは。そして彼女は恐らく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と知っている"」

 

 そんなこと、生きていれば誰もが知っていることではないのか。そしてそれは、特段気にするようなことでもねえと、個人的には思うんだが。

 

「"だからつまり、セリカには私達が怪しく見えてしょうがないんだろうね。まあ無理もないことだよ。私だってこんな破格のバイトを見たら、最初から警戒するからね"」

 

「……まあセリカちゃんがいなくなっちまった以上、本人の意思を無視して事を進めるわけにも行かねーか。とりあえず今日はお開きにするとして、また明日セリカちゃんと会った時に話をするとしよう」

 

「あー、それなんだけどね。明日は自由登校日だから、セリカちゃんはここには来ないんじゃないかな〜。最近どうもアルバイトを始めたみたいでねー」

 

 ふーん。自由登校日、それにアルバイト……なるほど、これはこの世界について調べるチャンスかもね。セリカちゃんとのお話で、少し確かめたいことを調査するとしよう。

 

「ホシノちゃん。良かったらでいいんだけど、セリカちゃんの家を教えてくれないかな? 本当に良ければなんだが」

 

「……まあ、いっか。えっとねー、セリカちゃんのおうちはアビドス住宅街45ブロック地区の 個人情報保護 らへんにあるよ〜」

 

「オッケー、恩に着るぜホシノちゃん。それじゃあ先生、僕は明日の朝、散歩がてらセリカちゃんと親交を深めてくるから、先生はシロコちゃんあたりと駄弁りながら、のんびり借金返済の目処でも立てておいておくれ」

 

 先生とシロコちゃんは僕の言葉を聞くと、力強く頷いた。なんだろうね、碌なことにならない気がするが……まあどうにかなるだろ。というか、どうにでもなっちまえ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「や、セリカちゃん」

 

「げっ……安心院(あんしんいん)さん……」

 

 翌朝。僕はホシノちゃんに教えてもらったセリカちゃんの家に出向き、家から出てきたタイミングで声をかけた。

 

 こんな時間に突然訪れた僕も僕だけどさ、それにしたってその反応はないだろう? 僕だって人並みに傷ついたりはするんだぜ。人外だけど。

 

 ……近くの電柱の影に隠れている先生とシロコちゃんは、この際完全に無視することにする。頼むからバレてくれるなよ、特に先生は。

 

「なっ、なんの用!? どうせあんたも先生に言われてここまで来ただけなんでしょ! 何があっても私は認めないから!!」

 

「おいおいちょっと待ってくれよ、別に僕は先生に言われたとかじゃなく、自分の意思で……行っちまった」

 

 まだ僕が話してる途中だっつーのに、全く聞く耳持ちやしねえのな。頭に生えてるそのでけー耳が飾りなのか確かめたいところだが、ここはひとつぐっと堪えて、セリカちゃんに話を聞いてもらう方法を考えることにしよう。

 

 ひとまず彼女を驚かせて、冷静になってもらおうかな。

 

「──ふぅ……ここまで来れば、いかにあの安心院(あんしんいん)さんといえどついて来やしないはず……」

 

「あれ、セリカちゃんさっきぶり。なんだか今日はよく会うねえ、嬉しくて笑いが込み上げて来ちゃうな、わっはっは」

 

「うわあぁっ!?」

 

 なんだよセリカちゃん、そんなに驚かなくたっていいだろう? 見た感じ、2mとちょっとは跳び上がっていたが……そこまで驚かせるつもりはなかったんだけどね。

 

「いやあごめんごめん、そこまで脅かすつもりじゃなかったんだがね。思いの外びっくりしてくれたようでなによりだ」

 

「嘘つかないでよ絶対最初から驚かすつもりだったでしょ!! なんでさっきまで後ろにいたやつが気づいたら前にいるわけ!?」

 

「えっ? いやいやすっとぼけんなよセリカちゃん。君が僕を追いかけて来たんだろう?」

 

「はあ? 私は安心院(あんしんいん)さんから逃げてここまで走って来たんだから、普通に考えればそんなわけないでしょ」

 

「そうだね、確かにそうだ。でもそれはあくまで()()()()()()()、の話だぜセリカちゃん。ここで自分の行いを今一度思い返して欲しいんだが、さっきまでの君の行動は、果たして冷静だったかな?」

 

「えっ、いやでも……確かに、冷静では……なかったけど、そんなことってある……? 興奮してたなら、まあ、確かに……そうなの、かも? えっと、それじゃあ……ごめんなさい」

 

「まあ全部嘘だが」

 

「謝り損じゃない!!」

 

 あはは、おもしれー。

 

 ──いやそれより、この子大丈夫なのかな? ちょっと騙されやすすぎるというか……ああいや、なるほど。先生が言っていたのはこういうことか。

 

 要するに、()()()()()()()()()()()ということ。本人の気性も関係しているのだろうが、他人を頼ったことが極端に少ないのだろう。

 

 言い換えれば、責任感が強い。

 裏を返せば、誰かに頼ることが怖い。

 

 驚くほど先生の分析が当たっていたわけだが、やはり……いや、これで決めつけるにはまだ早いか。もう少し判断材料が欲しいところだ。

 

 とりあえずセリカちゃんの様子も落ちついたみてーだし、そろそろ冷静に話し合えるようになったかな。

 

「もうなんなの……それで! 用事は何!?」

 

「そうだね、本題に入ろうか。これからセリカちゃんはアルバイトだろう? とりあえず歩きながら、存分に世間話にでも花を咲かそうぜ」

 

 そう言って僕は先に歩き出す。恐らくセリカちゃんが向かっているバイト先とは、ちょうど真逆の方面に。

 

 わざと少し抜けてるところを見せてやれば、こういう手合い──まあつまり、ツンデレの気がある子は責任感を存分に発揮し、あるいは毒気を抜かれ、話を聞く姿勢くらいは取ってくれるはずだ。

 

「……はあ……安心院(あんしんいん)さん、私のバイト先はこっち。そっちは私の家の方だから、真逆も真逆よ」

 

「おっといけねえ、悪いねセリカちゃん。僕はとんでもない方向音痴だから、進みたい方向と真逆に進んじまう時があるんだよ」

 

「もしかして先生が遭難してたのって、安心院(あんしんいん)さんの方向音痴のせいじゃないの?」

 

 中々言うねえ、セリカちゃん。そういうつっけんどんな態度を取られちゃうと、僕としては揶揄(からか)いたくなって来ちゃうんだけどな。

 

 猫にちょっかいをかけるのは楽しいんだ。

 

「まあそれは置いておいて、だ。先に言っておくんだが、僕は別に先生に言われたからここに来たとかじゃない。あくまで僕の、僕個人の興味本位の上で君に会いに来た」

 

「そうなの? てっきり先生に言いつけられて、私を懐柔でもしに来たのかと思ってたんだけど」

 

「はっ、まさか。僕はシャーレ直属……まあつまりは先生直属の生徒だからアビドスまで来てるだけなんだよ。だから対策委員会のメンバーが全員揃って『もう帰ってもらって大丈夫』と判断すれば、恐らく先生はアビドスから手を引くだろうね」

 

「ふーん、そうなんだ……ちなみに安心院(あんしんいん)さんはどう思ってるの? その……先生について」

 

「ふむ、恋バナってやつかな。彼の顔は、まあ悪くはないよね。と言うよりむしろ、上位に喰らいつくくらいの顔はしているんじゃないかな。日頃から残業が多くて目の下に(くま)があるのはいただけなかったが、最近はそれも消え、少しずつ健康そうな見た目に──」

 

「そうじゃなくて! 先生を信用してるのかって話! さっきから私のことからかってるでしょ!?」

 

 おっと、流石にバレちまったか。しばらく揶揄(からか)うのはやめておこうかな。でないとまた激昂して走り出しかねない。

 

 それにしても、さて……()()()()()()()()()()()、か。どう答えるべきかな。

 

「先生は、その……見た感じだと頼りない大人だし、最近になってキヴォトスの外から来た人だし、ヘイローもないし……だから、なんていうか()()()()()()()()()()? 助けようとしてくれるのは嬉しいけど……でも、なんて言うんだろう、あまりにもタイミングが良すぎるから、騙されてるんじゃないかって、そう思っちゃって」

 

 ふむ、なるほど……つまりは今まで自分達に見向きもしなかった大人が、突然『助けてあげる』と言ってきたから警戒している、と。

 

「僕は先生を信用しているよ。まあでも、彼のことを疑うのも無理はない。相手にもよるけど、金銭のやり取りが絡みそうな場合は、ひとまず疑ってかかることも重要さ。だからその点、セリカちゃんは誰よりも賢かったということになるね」

 

「……何よ、いきなりそんなこと言って。つまり、何が言いたいわけ?」

 

「結論から言わせてもらおう。君のそれは全くの杞憂さ。他の大人なら疑ってかかるべき──と言ってしまうと少し言葉が強いけれど、それくらいの警戒心を持つことは大切だよ。だがしかし、こと先生を相手にするとなると、話はおよそ180度ほど変わってくる」

 

「それって……真逆ってことじゃない」

 

「そう、真逆なのさ。だって先生は、()()()()()()()()()()()()()()。セリカちゃん、君は生徒なんだから、先生を頼ってもいいんだぜ?」

 

 さて、セリカちゃん。

 君はどう出る?

 

「……ごめん、安心院(あんしんいん)さん。それでもやっぱり、私はいきなり知らない大人を信用できない──いや、信用は、実はもうしてる。砂漠の中を三日三晩彷徨(さまよ)ってまで、物資の補給に来てくれたから。だから、信用できる人だっていうのは、初めから分かってた」

 

「……まあ、気にすることはないさ。今までキヴォトスの大人連中は君達を気にも留めなかったのに、急に救いの光が見えたら困惑するだろうしね」

 

「うん……だから、もう少し待って欲しい。明後日……いや、明日までには、心を決めておくから。あと、それと──」

 

 セリカちゃんはそこで、一度伏し目がちになり、そして僕の方をちらと見てから、頬を赤くし、いきなり叫んだのだ。

 

「昨日はあんなふうに帰っちゃったのに、わざわざもう一回、私と話に来てくれて、その……あ、ありがとう! 私っ、先生のことはまだ信用しきれないけど、安心院(あんしんいん)さんのことなら、もう信用しちゃってるから!!

 

 セリカちゃんがそう叫んだので、僕は呆気に取られてしまった。いやまさか、こんなに恥ずかしいことをいきなり叫ばれるとは。

 

 なるほどね、こういうパターンもあるのか。世界のジャンルが「学園×青春×物語」である以上、〈先生〉と〈生徒〉の関係性よりも先に、〈生徒〉同士の関係性が発展することもあり得るらしい。

 

 いくら〈先生〉といえど、全てに先んじて動けるわけでもないらしい。とりあえず確かめたいことは、一つ確かめられたからよしとしよう。

 

 というかまずい、こんなところで大声でそんなことを言われちまったら、明日から僕は先生とシロコちゃんに揶揄(からか)われたい放題になってしまう。

 

 そう思い、口止めのジェスチャーをするために先生とシロコちゃんが隠れていると思われる電柱の方を見て、絶句した。()()()()()()()()()

 

 下から順番に、ホシノちゃん、アヤネちゃん、先生、シロコちゃん、ノノミちゃんという並びで。こちらに生暖かい視線を向けながら。ホシノちゃんに至ってはハンカチを取り出して目尻に当て、わざとらしい泣き真似をしている有様だった。

 

 もうどうにもならなそうなので、僕は諦めてそのまま歩いてセリカちゃんに着いて行き、セリカちゃんのバイト先である柴関ラーメンの店前へと到着した。

 

「そうだ、安心院(あんしんいん)さん! ここが私のバイト先なんだけど、せっかくだから食べていかない? 味の方は保証するわよ」

 

「へえ、随分と自信満々じゃねーか。ちなみにどれくらい保証してくれるのかな?」

 

「キヴォトスで一番美味しいラーメンだってことだけは」

 

「保証っつーか誇った方がいいと思うけどな。まあいいや、そこまで言うなら一杯食べていこうかな」

 

「分かった。でも今お客さんで席埋まっちゃってるから……ちょっと外で待ってて!」

 

 そう言うとセリカちゃんは店の中へと入って行った。しばらくしたらお店の制服に身を包んだセリカちゃんが僕を案内してくれるはずだ。

 

 ──その前に、全員並ばせておいた方がいいか。

 

「バレてっからもう出てきていいぜ、対策委員会ども」

 

「……あちゃあ。バレてたか〜」

 

 当たり前だろう。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 その後、予想通りに対策委員会の面々に「随分仲良くなったね〜」とか「ん、セリカと仲良くなるとはさすがだね」とか散々言われたが、全部微笑みながらやり過ごした。

 

 当初僕だけを案内するつもりだったセリカちゃんは、五人ほど人数が増えているのを見てひどく驚き、そしてその中に先生がいるのを見て再び激昂しかけたが、すんでのところで堪えたようで、そこからは完璧な接客を見せていた。

 

 ちなみにラーメンは本当に美味しかった。なおさらのこと、誇ってもいいと思うんだが……大将の方針なのかな。それなら僕は何も言うまい。

 

 ラーメンを食べ終わり、先生が大人のカード──いわゆるクレジットカード──で会計を済ませ、なんだかんだでラーメンを奢られてしまった。そういえば昨日言ってたな、「いつかごはんでも奢らせてよ」って。まさかこんなところで奢られちまうとはな。まあこう言うのは値段の問題でもないが。

 

 そんな風に紆余曲折あり、ラーメンを食べ終わった僕はセリカちゃんと明日また会う約束を交わし、今日はこれ以上予定もないので、その場で解散した。

 

 そして、その夜。

 

 

 ──セリカちゃんは、行方不明になった。

 

 






 この小説プロットもなければ着地点も一切決めてないのでたまにこうやって話してるだけの完全趣味回があります。一応話は進んでるんですけどね。

 感想・評価・ここすき等よろしくね。

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