なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 気分で更新。




第70箱「背後に気をつけたほうがいい」

 

 

「アカネはまあいいとして、カリンの奴とはやり合いたくねーんだよな」

 

 アカネちゃんの戦闘(蹂躙)が終わるなり、ネルちゃんはそんなことを呟いた。

 

「……理由、聞かせてもらっても?」

 

「ん、ああ……いや、単純な話だよ。アカネとアスナはまあ、十中八九くらいは無傷で勝てるんだけどな。カリンだけは()()()()()()()んだよ」

 

「やはりそれは、彼女が狙撃手であることに起因するのかな」

 

「それだけなら問題ねえよ。でもあいつの狙撃は()()()()()()からな……あんなことされちまったら、どう足掻いたって無傷じゃ済まねえ」

 

 ──最強が集まってるから、()()()()なんだろうが。

 

 ネルちゃんが放ったその言葉が間違いではなかったらしいということを、僕としては認めるわけにはいかないのだが……しかしそうも言っていられないらしい。

 

騒々しき掃除機(ブラストクリーナー)》ことアカネちゃんは確かに()()()()()()()最強だった。室内戦争(バックファイアワークス)を使いこなす彼女は、キヴォトス全体で見ても上澄みの方だろう。

 

 しかし。あくまでも()()()()()()()()()最強と()()()()()()()というだけで。それならば単純に、場所を選ばず強い奴の方がよっぽど最強と呼ぶに相応しいだろう。

 

 だからその辺り、ネルちゃんやホシノちゃんなんかは──彼女たちも場所によっては力を発揮しきれないとはいえ──最強と呼ぶに相応しい存在なのかもしれない。

 

 けれど、しかし。いかに最強と呼ばれる存在であっても、完全に意識の外から襲い来る()()()()()()()()()なんかには、対応しかねるだろう。

 

 もちろんのことながら、先ほど例に挙げた二人のような()()に、直線的な軌道を取る──()()()()()()()()()()()()()()()()()SRの銃撃が通用すると思っているわけではない。

 

 ──ならば。

 ()()()()()()ならば、どうなるのか?

 

 曲芸のように、襲い来る弾丸。

 カリンちゃんはそれを使いこなせるのか。

 ウタハちゃんはそれをさばき切れるのか。

 

 僕がカリンちゃんとウタハちゃんの戦闘に期待しているのは、実のところ、そんな可愛らしい知識欲を満たすためだったりするんだぜ。

 

 

⬛︎  ⬛︎  ⬛︎

 

 

「……私は無意味なことが嫌いだ。一つの物事に対して、必要以上に労力を割かなければならないという状況そのものそれ自体が嫌いだ」

 

「へえ、まるで私とは正反対だね。無理なこと無駄なこと無茶なこと──それら全てが()()()()()()()のだから、私たちエンジニア部は大歓迎なんだが」

 

「あなたたちエンジニア部では私たちC&Cに勝てないのだからさっさと諦めてくれないか、ということを言っているんだが、伝わらなかったか?」

 

「まるで伝わらなかったね。すまない、生憎ながら遠回しな言い回しは嫌いなんだ──それこそ、理解するまでに()()()()()()()()()()()()()()()()()からね」

 

 果たして戦況は膠着していた。互いにほとんど傷を負っていない。カリンちゃんの双眸には相変わらず闘志が滾っていたし、ウタハちゃんはまだまだ飄々としていた。

 

 変わったところといえば──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだろうか。

 

 当初は三十機やそこらだったのが、今となっては五十機弱にまで増えている。そしてそれら全てにカメラが搭載されていた。

 

「……このドローン、あと何台あるんだ? 私だって相当な数打ち落としたはずなのに、まるで減らないんだけど」

 

「言うわけないだろうそんなことを。というか、言ったところでどうにかなる数でもないし──絶望が趣味なら、教えてあげないこともない」

 

「ただ自慢したいだけだろう、その表情(かお)を見た限りだと──!」

 

 直後、カリンちゃんは愛銃であるホークアイを構え、ウタハちゃんの眉間をぶち抜こうとした。

 

 が、しかし。

 ウタハちゃんはそれを間一髪で躱す。

 

 弾丸は紫の長髪を掠めただけで──ウタハちゃん本人には、一切のダメージを与えることができなかった。

 

「……その表情を見るに、きみが今考えているのは『なぜこいつは銃撃のタイミングと場所を的確に把握できているんだ?』というところかな」

 

「…………」

 

「図星らしい。まあこのまま種を明かさずのらりくらりと銃弾を躱し続けても構わないんだが──」

 

 と、ウタハちゃんはそこで言葉を区切って、あたりをきょろきょろと見渡し。

 

 しかし目当てのものがどこにあるのかは分からなかったらしく、肩をすくめた。

 

「──そんなことをしていたら、あの平等主義者さんに睨まれてしまいそうだからね。ここは一つ、種明かしといこう」

 

 ウタハちゃんはそう言うと、散開させていたドローンのうち数機を自らの傍まで動かして、周囲を旋回させ始めた。

 

 その内の一つはウタハちゃんの会心作──雷ちゃんこと雷の玉座である。

 

 大仰な名前の椅子型ドローンに、大袈裟に腰掛けながら、ウタハちゃんはカリンちゃんを見下ろすような姿勢を取った。

 

「ドローンを操作するスキル白宙導々(ホワイトスペース)──それが私のスキル。大方の予想はついていただろう?」

 

「まあね。というかそもそも、あなたのスキルは有名だから、私たちC&Cも感知はしている──けれど、まさかこんな形で相見えるとは思ってもいなかった」

 

「私だってそうさ。本当ならばC&Cとことを構えるだなんて、そんなことはしたくないんだよ。しかも相手は()()冥き視線(サテライトサイト)ときた。本当に、冗談もほどほどにして欲しいところだよ」

 

 心底うんざりといった感じでそう語ってはいるものの、しかしその表情には相変わらずの笑みがたたえられている。

 

 本当は()()と試すことができて嬉しいだろうに、どうしてこんなスタンスを取っているんだろうか。

 

 ……それとも、あれかな。

 

 ()()()()()()使()()()()()()カリンちゃんから奥の手を引き出すため、あえてそんな態度を取っているとか?

 

「ところでサテライトサイト。きみのスキルに関しては、どう頑張っても何を調べても、ほとんどの情報を手に入れることができなかったんだ。手心を加えるつもりで、教えてくれたりしない?」

 

「……安心しろ。C&Cが始まっている以上は、どうせこのあと知ることになる──もっとも。その頃にはあなたは地に倒れ伏しているだろうけど!」

 

 やけに決め台詞みたいなことを言いながら、カリンちゃんは再び愛銃を構え、ウタハちゃんに向かって銃弾を放つ。

 

 それと同時にウタハちゃんも、とてつもない量のドローンを散開させ、側には雷ちゃんと数機のドローンを待機させる。

 

 放たれた銃弾は雷ちゃんの強固な装甲に弾かれ、明後日の方向に飛んでいったようだ。

 

「……これもまた、スキルではない、と。随分と舐められたものだね、確かに私は戦闘慣れはしちゃあいないが、しかし──っと」

 

 続いて襲い掛かってきたのは、カリンちゃん本人。彼女は狙撃手であるとはいえ、それは決して近接戦闘が不得手であるということを意味しない。

 

 とはいえウタハちゃんもそれをみすみす見逃したりはしない。散開させたドローンはカリンちゃんが動き出したことを即座に察知し、ウタハちゃんへとフィードバックを寄越していた。

 

 つーか、あれだな。今の今まで言及を避けてはいたが、ウタハちゃんの白宙導々(ホワイトスペース)で操作されているドローン。

 

 ファンネルみてーだな、これ。

 

 そんなのはどうでもよくて。今注目するべきなのは、カリンちゃんの動向だ。

 

 僕の予想が正しければ。

 

 恐らくはもう少しで、彼女も()()()()使()()()()──。

 

「……やっぱり近接戦闘には持ち込ませて貰えないか。インドア派とはいえ三年生、流石に慣れてるらしい」

 

「インドア派を舐めちゃあいけないよ。クローズ・クォーターズ・コンバットだってお手の物さ、年がら年中引きこもってるからね」

 

「ぬかせ──!!」

 

 再び周囲のドローンを打ち落とし始めるカリンちゃん。いくつかの機体が撃ち落とされるが、しかしウタハちゃんは気にするそぶりもない。

 

 時々彼女の愛銃であるマイスター・ゼロからばら撒かれる弾丸がカリンちゃんを襲う──ドローンから放たれる弾丸も追加で──だから、いい加減に動きが鈍り始めてもいいころなんだが。

 

 そうして、しばらくその状況は動かなかった。

 

 カリンちゃんの銃弾は避けられ。

 ウタハちゃんの弾丸は身を捉える。

 

 避けられて。

 避けられて避けられて。

 避けられて避けられて避けられて。

 避けられて避けられて避けられて避けられて。

 避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて。

 避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて。

 避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて。

 避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて。

 避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて。

 避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて。

 

 そうしてウタハちゃんが都合何度目かの回避をしたところで──ようやく()()()()()()()

 

 こんなに回避が上手く行くことなんてあるのか?

 

 言うまでもないことだが、カリンちゃんは狙撃において他の追随を許さないほどの凄腕である。

 

 だというのに。いくら対策を練ったとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()だなんて、そんなことがあり得るのか?

 

 往年の少年漫画みてーに長ったらしく引き延ばすのは嫌いだから、結論から言っちまうが。

 

 答えはNOだ。

 

「……おや、私はいつの間に()()()()()()()()()()いたんだろうか──っと! 容赦なく撃つなんて危ないじゃないか、落ちたらただじゃ済まないと言うのに」

 

「もういいよ、言葉を弄するのは」

 

 時間稼ぎのためにトラッシュトークをかまそうとしたらしいが、しかしカリンちゃんはそれに取り合わず、()()()()()()()()()()()()()()()を構えている。

 

 どころか。その雰囲気は、今までのどの瞬間よりも凪いでいた。

 

「──どうせ。あなたはこれで終わりだ

 

 直後。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!!」

 

 そのポインターには何やら数字が書かれていて──「2800.00m」から数字がどんどん減っている。

 

「成程、これがきみのスキルというわけだ、サテライトサイト。しかしいいのかな、わざわざカウントダウンで着弾のタイミングを教えてくれるだなんて、随分と親切じゃないかい?」

 

「……どうせあなたは、この銃弾だって大量のドローンで防ごうとするだろう。だがしかし、先にそれらの試みは全くの無意味だと言っておく」

 

「ここでもまた『無意味』かい。しかしそんなことはない、何故ならば……次の銃撃も、私は100%! 問題なく切り抜けるからだよ」

 

「100%? いいや、()()()()()()()()()()()。次の狙撃の後、あなたがその場に立っている確率は──」

 

 0%だ。

 

 カリンちゃんは何でもないように、ウタハちゃんへとそう告げた。

 

 カウントダウン。残り1750.50m。

 

「……どうかな、やってみなきゃ」

 

「分かるよ。どうせすぐに分かる。あなたが今するべきは、その場で歯を食いしばることだけだ」

 

 冗談を言っている風には見えない。

 

 ウタハちゃんはここでようやく、一条の冷や汗を流した。

 

 カウントダウン。残り1048.77m。

 

「…………ま、やるしかないか」

 

 ドローンを忙しなく動かし、カリンちゃんとの射線を切ろうとする。

 

 銃弾も撃ち込んでみるが、しかし銃口は靡かない。

 

 ポインターのようなものは、()()()()()()()みたいな形をしている。

 

 カウントダウン。残り495.23m。

 

「せっかくかわいい後輩たちから大役を仰せつかったんだ、一発くらいは──」

 

 何もかもが分からない。どうしてカリンちゃんはそこまで自信満々なのか。どうして銃弾を回避しようともしないのか。至近距離から放たれる狙撃はどれほどの衝撃をもたらすのか。

 

 分かっていることは。何やら立ち位置を調整されたらしいということだけ。背後に建造物はない。だからつまり、背後から()()()()()()()()()()()()()とか、そういったことを心配する必要はない。

 

 集中すべきは。

 目の前の狙撃手だけ。

 

 カウントダウン。残り108.10m。

 

格好付けて防いでおかないとね!!

 

 そうやって啖呵を切り、口の端をぐいっと吊り上げて。

 

 ウタハちゃんは雷ちゃんを含む全ドローン──その数はゆうに100を超えているだろう──を全力で操作し、カリンちゃんとの間に強固な防壁を築いた。

 

 カウントダウン、3m。

 

 カウントダウン、2m。

 

 カウントダウン、1m──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──かかったな、白石ウタハ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 ウタハちゃんが彼女らしくもない、間の抜けた声を出した直後。

 

 カウントオーバー。0m。

 

 

っがは!!??

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……? ぇ????」

 

 本人の認識としては理解が追いついていないようで、地面に倒れ伏したまま、目を白黒させている。そういう顔もするんだね、この子。

 

 恐らくウタハちゃんの思考は、現在そのほとんどが「何故背後から攻撃されたのか」という事実の解明に回されているはずだ。

 

 ……俯瞰視点でもなければ、カリンちゃんのスキルの正体にはなかなか気付けなかったかもしれねーな。

 

「………………」

 

「何が起こったか分からない──という表情だね、白石ウタハ。でも大丈夫だから安心して。私のスキルを解明できた奴は、今までにただの一人だって」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いな、い…………ッ!? 何故まだ意識が……!?

 

「普段から爆発事故なんかに巻き込まれているからね、これで案外タフなんだよ、エンジニア部はね」

 

 カリンちゃんがその辺りをどう認識していたのかは、その思考を覗きでもしない限りは知る由もないが、しかし、現状から推測するに。

 

 ()()()()()()()()()()()のだろう、と。そう断言するほかない。

 

 ……いやまあ、まさか後頭部に虚を突いた一撃をぶち込まれておきながら、それでも一瞬怯んだだけで、他には何の反応も見せないだなんて、予想しろっつー方が土台無理な話だけどさ。

 

「いやいや、一本取られたよ! 狙撃銃を至近距離で構えられていれば、どうしたってそちらに意識が向くからね。そうして視線を釘付けにしている間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけだ、全く素晴らしい!」

 

「……まあ、うん」

 

 何ならキラキラと目を輝かせている始末である。鼻を強打したことでどくどくと流れ出ている血液には目もくれずに。僕がこちらから見ている限りでは、カリンちゃんはちょっと引いていた。

 

「私のスキルは──()()()()()()()()角度違反(バイオレイトアングル)という。使用した段階で()()()()()()()から、辻褄を合わせるために()()()()()()

 

 90°だろうと、180°だろうと。

 

 曲芸的な狙撃。

 つまるところが、曲がる狙撃。

 

 ネルちゃんが『無傷では済まない』と言ったのも頷けるというものだ。カリンちゃんの言い分をそのまま受け取るなら、彼女の狙撃を回避することは不可能だ。

 

 ──と、そんな風につらつらとカリンちゃんの強い点ばかりを並べてみたものの。

 

 しかしウタハちゃんは、このスキルに関するとある()()()について、既に勘付いているようだった。

 

()()()()()()()()()()()()使()()()()()()? 全ての弾丸に適用するとまでは言わずとも、最初から角度違反(バイオレイトアングル)とやらを使っていれば、私なんかは完封されていたはずだ」

 

 そうでなくとも。

 

 侵入者であるところの才羽姉妹に関しては、確実に仕留められたはずなのに──。

 

「そうしないのには、何か理由がありそうだね。解明(バラ)しがいのあるいい謎だ」

 

「……一発でダメなら、二発目をぶち込めば──」

 

「おっと、それは勘弁願いたいね。流石にあの威力をもう一度体感するのは避けておきたい……脳震盪を起こしてしまいそうだし」

 

 カリンちゃんの反駁(はんばく)を聞き流しつつ、ウタハちゃんは変わらぬ表情のまま起き上がり。

 

 そしてそれから「きみも背後に気をつけたほうがいいんじゃないかな?」と。

 

 空を指差しながら、そんなことを口にした。

 

「……何故、上を指差す?」

 

「見てみればいい。一発で理解できる」

 

 カリンちゃんから見れば、ウタハちゃんはしばらく動けそうにない。持っていた銃も遠くに吹き飛んでいるし、ドローンも落下の衝撃でショートしていそうだ。

 

 だから、彼女は。

 

 振り返って。

 

 それから、目撃した。

 

 ──50発前後、迫撃砲の砲弾が飛んできているところを。

 

「んなっ……そんな無茶苦茶があるか!?!?」

 

「それがどうやらあるらしいね。私の頼れる後輩は、随分と容赦がないらしい──」

 

 驚くカリンちゃんを横目に、ウタハちゃんは悠々と立ち上がりながら、鼻血を指先でピッ、と拭って。

 

 

 

 

 

第二回戦(ラウンド2)だ、《冥き視線(サテライトサイト)。」

 

 

 

 

 

 ウィンクをするかのように片目を瞑りながら、そう言った。

 

 






 ウタハ、なんか強すぎないか?
 まあいっか。

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