なじみアーカイブ   作:Minus-4

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 暇つぶしに。





第71箱「こんなに上手く行くだなんて」

 

 

 

「なあ、安心院(あんしんいん)さん。てめえは『奇跡』とか『魔法』とか、そういうの信じるクチか?」

 

 僕の隣に未だ(足を崩して)座したままのネルちゃんは、退屈そうに目を瞑りながら──かつあくびを噛み殺しながら、そんな質問を寄越してきた。

 

「……何というか、意外と言えば意外だぜ。きみの口からそんなメルヘンチックな単語が飛び出してくるとは思っていなかったよ」

 

「あたしがこうして我慢してやってる時間を無駄にしてぇっつーんならそのまま無駄口叩いてろよ」

 

「そんな物騒なことを言われてもねぇ。僕はこれでも案外話し合いでの解決を望んでたりするんだが──まあいいさ、こんなことを言って聞く相手じゃないし」

 

 そこで一息間を置く僕。

 話の主導権を握られるのは気に食わねーが、しかしそう贅沢も言っていられないし。一旦は聞きの体勢に徹することにしようか。

 

 だからと言って、一方的にはさせてやらねーけどよ。

 

「ぶっちゃけた話をするとだね。僕は『奇跡』とか『魔法』とか、そういうのには懐疑的だったりするんだぜ」

 

「へえ。あたしらにはス(・)キ(・)ル(・)とかいう物理法則を思っきしぶち破ったみてぇな能力があるのにか?」

 

「あるのに、だよ。極端な話になってしまうが、神(・)秘(・)と(・)い(・)う(・)物(・)質(・)が存在している以上、つまりは科(・)学(・)で(・)解(・)明(・)可(・)能(・)な以上。人知の及ぶ存在である以上は、それってつまり奇跡でも魔法でも何でもない、至(・)極(・)普(・)通(・)な(・)こ(・)と(・)だ(・)ろ(・)う(・)」

 

 実際に神秘とやらが物質なのかどうかは置いておくとして。しかしそれでも概念として存在し、それらを表すに相応しい名称があり、そしてある程度任意での消費が可能である以上。これはエ(・)ネ(・)ル(・)ギ(・)ー(・)と言い換えてしまっても問題ないはずだ。

 

 だからその辺り僕としては、そもそも『神秘』という呼称自体も改めるべきだと思っちゃいるんだが──しかし恐らくはこの世界(キヴォトス)に固定された概念(ルール)である以上は、大人しく従っておくほかないのだろう。

 

 ……まあ、僕がこっちに来た影響で色々捻じ曲がってるっぽいんだが。これでも研究者を気取っていた時期もあるから、解明したくはあるんだけど、どうしてもね。

 

「だからつまり、僕が何を言いたいのかというとね。この世に存在するもののほとんどは──生物の感情以外の全ては、押(・)し(・)並(・)べ(・)て(・)方(・)程(・)式(・)の(・)羅(・)列(・)で(・)あ(・)る(・)と考えているんだよ……と。ミレニアム生が好みそうな回答をしてみたのだけれど、どうかな?」

 

「話(・)に(・)な(・)ら(・)ね(・)ぇ(・)な(・)。てめぇ自身の思うところを聞かせろっつってんだよ、あたしは。方程式がどうだの科学がどうだの……あたしをキレさせようとしてんのか?」

 

「……ちょっと生徒証見せてもらってもいい? いよいよミレニアムの生徒か怪しくなってきたぜ、きみ」

 

 ネルちゃんが取り出した生徒証をまじまじと眺める僕。所属は間違いなくミレニアムサイエンススクールだった。

 

 多分、通う学校を間違えていると思うぜ。

 

「それにしても、僕自身の意見ねぇ。つってもさっきのと大差はないんだけどな。『奇跡』やら『魔法』やらは起(・)こ(・)る(・)べ(・)く(・)し(・)て(・)起(・)こ(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)以上、現実に存在している何らかの法則に即しているわけだからね」

 

「だったら、てめぇはどういう現象を『奇跡』と呼ぶんだ?」

 

「そりゃあもちろん、解(・)析(・)不(・)能(・)で(・)理(・)解(・)不(・)能(・)な(・)出(・)来(・)事(・)さ。もっとも、そんなことが起ころうもんなら、それはもはや『奇跡』なんかじゃなく──」

 

 不(・)具(・)合(・)と。

 そう呼ぶべきなんだろうけどね。

 

「……へえ、不具合。ありがとよ、何となく腑に落ちた」

 

「お安い御用さ、この程度の雑談ならね……っと。そんなことより見てみたまえよネルちゃん、どうやら才羽姉妹と先生が生徒会の差押品保管所に辿り着いた、ようだ、ぜ──?」

 

「ああ、そうみてぇだな」

 

 ……差(・)押(・)品(・)保(・)管(・)所(・)に(・)辿(・)り(・)着(・)い(・)た(・)?

 お(・)か(・)し(・)い(・)だ(・)ろ(・)う(・)、そ(・)れ(・)は(・)。

 

 ──C&Cを構成するメンバーは五人いる。

 今ここにいるネルちゃんは僕が完封するとして、アカネちゃんとカリンちゃんはエンジニア部とヴェリタスの面々で足止めするつもりだった。

 

 だから僕たちレジスタンスとしては、差押品保管所の前に残りの二人が配置されることを想定して、コンビネーション抜群の才羽姉妹で撹乱した後、アリスがこっそり『鏡』を回収する──というところまで読まれていることを想定して、背後から残りの二人をレールガンで不意打つ段取りだったんだが。

 

 しかしそこには、どう見ても誰もいなくて。

 となれば、残る可能性は一つしかない。

 

 なるほど、追い込み漁か。

 

「確かに差押品保管室に逃(・)げ(・)場(・)は(・)な(・)い(・)。あえて懐に引き入れることでむしろ逃げ場をなくすとは、流石に歴戦のエージェントだね」

 

 僕の視界の先では、これまで姿をひた隠しにしていた一之瀬(いちのせ)アスナちゃんが、才羽姉妹と先生に立ちはだかっていた。

 

 僕のスキルをもってしても。そしてヴェリタスの調査力をもってしても、た(・)だ(・)一(・)つ(・)の(・)情(・)報(・)す(・)ら(・)仕(・)入(・)れ(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)存(・)在(・)。

 

 明確な異分子(イレギュラー)──異常(アブノーマル)。

 だから僕としては、この子を才羽姉妹に相手取らせることはかなり渋ったんだが。

 

「……ま、てめえならそこまで辿り着くだろうなと思っちゃいたけどよ。しかし流石に、あたしとしちゃ驚かざるを得ねぇな」

 

 しかし、しかし。

 この場合はむしろ、運(・)が(・)良(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 だって、そうだろう。差押品保管室であれば──ゲ(・)ー(・)ム(・)開(・)発(・)部(・)が(・)全(・)員(・)揃(・)っ(・)て(・)相(・)手(・)取(・)れ(・)る(・)。それに加えて先生の指揮もあるのだから、よっぽどのことがない限り、負けの目はない。

 

 だから、僕は。

 ネルちゃんが放った言葉に、耳を疑うことになる。

 

 

「驚いちまうよ、こんなに上手く行くだなんて」

 

 

 ──こんなに上手く行くだなんて。

 つまりこの状況すら、C&Cにとっては想定済みであるということだ。

 

 間違いようもない、異常事態。

 だから僕は、すぐさまネルちゃんを問いただそうとして──しかし。視界の先にいるアスナちゃんの行動に、目を奪われてしまった。

 

 それは、至極単純な動作。

 

 

 ゆ(・)っ(・)く(・)り(・)と(・)。

 こ(・)ち(・)ら(・)を(・)振(・)り(・)向(・)い(・)て(・)。

 笑(・)顔(・)で(・)ピ(・)ー(・)ス(・)を(・)し(・)て(・)み(・)せ(・)た(・)。

 

 

 向こうから、こちらは見えていないはずなのに。

 見ていることすらも、わからないはずなのに──

 

 

「こんばんは、安心院(あんしんいん)さん!」

 

「ッ!?」

 

 

 その声は、耳(・)元(・)か(・)ら(・)響(・)い(・)た(・)。

 僕はすぐさま「腑罪証明(アリバイブロック)」を使い、背後にいる何者かから距離を取った──。

 

 は(・)ず(・)。

 だったのだけれど。

 飛び退いた僕の眼前には。

 

 笑(・)顔(・)。

 楽(・)し(・)げ(・)な(・)──笑(・)顔(・)。

 

「もう、そんなに驚かなくてもいいのに」

 

 なんてことはない、ただそこにいるだけ。

 なんのことはない、ただそこにいただけ。

 

 目の前の少女は、た(・)だ(・)僕(・)の(・)移(・)動(・)先(・)を(・)予(・)測(・)し(・)、先(・)ん(・)じ(・)て(・)動(・)い(・)て(・)い(・)た(・)だ(・)け(・)。

 

 ただ、それだけ。

 恐らく彼女にとっては──それが、いつも通り(ノーマル)なだけ。

 

 紛うことなき、異常(アブノーマル)。

 一之瀬アスナ。

 

「そして、てめえの考(・)え(・)の(・)甘(・)さ(・)に(・)も(・)驚(・)い(・)ち(・)ま(・)う(・)な(・)──一体どうして。あたしらC&Cがてめぇらレジスタンスの掌の上で踊らされっぱなしになると思ってたんだ?」

 

 笑みすら浮かべず。

 ただ、それが当然のことであるかのように、ネルちゃんはゆっくりと……余裕たっぷりに立ち上がる。

 

 それをみすみす許す僕じゃない──が、しかし。

 そ(・)れ(・)す(・)ら(・)も(・)予(・)測(・)し(・)て(・)い(・)た(・)のであろうアスナちゃんが、僕の手首と首を引っ掴み。そして壁に思いっきり叩きつけたまま、僕の足首に彼女の足が添えられた。

 

「ッ……分からないな」

 

「分からない? でも、私は分かってるよ?」

 

「何が分からないって、ど(・)う(・)し(・)て(・)き(・)み(・)が(・)こ(・)こ(・)に(・)い(・)る(・)の(・)か(・)が(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。だってきみは今も、ゲーム開発部と激闘を繰り広げているじゃないか」

 

 そうだ。それが分からない。

 まるっきり──意味不明だ。

 

 どうして僕に気取られずここまで接近することができたのかも。

 

 そうだ。それが分からない。

 まるっきり──理解不能だ。

 

 どうしてアスナちゃんが同時刻に二人存在しているのかも。

 

 そうだ。それが分からない。

 まるっきり──解読不能だ。

 

 どうして僕の行動を全て予測することができるのかも。

 

 そうだ。それが分からない。

 まるっきり──予測不可だ。

 

「……何(・)と(・)な(・)く(・)理解わ(・)か(・)る(・)か(・)ら(・)。それでいーでしょ?」

 

「…………納得しかねるなぁ。僕はきみみたいに──初(・)見(・)の(・)タ(・)イ(・)プ(・)を相手取るのは苦手なんだが。あまり僕のことを困らさないでおくれよ」

 

「はっ、てめぇにも理解の及ばねぇ領域(あいて)がいたみたいで、あたしとしちゃあラッキーと言わざるを得ねぇな。この期に及んで余裕ぶってるのが癪だが──どうせその顔も、数分後には崩れてる」

 

 ネルちゃんが吐いたそんな言葉に対して、僕はやはりいつもの通りに、軽口混じりの返答を投げつけようとして。

 

 しかし、都合三度目。

 僕の行動は、またしてもアスナちゃんによって阻まれることとなる。

 

 力ではなく。

 知略でもなく。

 

 ただ、誰でも用いるような──言(・)葉(・)に(・)よ(・)っ(・)て(・)。

 

「そういうわけだから、ごめんね?」

 

 そう言って、ほんの少し申し訳なさそうにしながら。アスナちゃんはなんてこともなさそうに、て(・)へ(・)ぺ(・)ろ(・)っ(・)みたいな擬音が付きそうな感じで。

 

 舌(・)を(・)出(・)し(・)た(・)。

 

 そこには。

 本来、存在しないものが。

 存在してはいけないものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舌

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──な(・)ん(・)だ(・)、そ(・)れ(・)は(・)?

 

 そんな言葉(もの)は、前の僕だって知らない。

 そんな言葉(スタイル)・・は、前の僕だって知らない。

 

 分からない。理解(わか)らない。解読(わか)らない。

 

 何も──知(わか)らない。

 

 ……そんな僕の混乱をよそに。

 

「ま、そういうわけだ。いい加減待ち続けんのにも飽きちまったし──」

 

 アスナちゃんとネルちゃんは。

 

「リーダーもそのつもりらしいし──んじゃま!」

 

 得物を構え──啖呵を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「C & C を  

 始めるのも、

 悪くねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

「かるーく!    

C & C を    

始めよっか!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここから先、僕に見せ場はない。

 あるのはただの──修(・)羅(・)場(・)だけだ。

 

 

 







 ノリで書きました。
 感想・評価・ここすき等よろしくね。


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