暇つぶしに。
「なあ、
僕の隣に未だ(足を崩して)座したままのネルちゃんは、退屈そうに目を瞑りながら──かつあくびを噛み殺しながら、そんな質問を寄越してきた。
「……何というか、意外と言えば意外だぜ。きみの口からそんなメルヘンチックな単語が飛び出してくるとは思っていなかったよ」
「あたしがこうして我慢してやってる時間を無駄にしてぇっつーんならそのまま無駄口叩いてろよ」
「そんな物騒なことを言われてもねぇ。僕はこれでも案外話し合いでの解決を望んでたりするんだが──まあいいさ、こんなことを言って聞く相手じゃないし」
そこで一息間を置く僕。
話の主導権を握られるのは気に食わねーが、しかしそう贅沢も言っていられないし。一旦は聞きの体勢に徹することにしようか。
だからと言って、一方的にはさせてやらねーけどよ。
「ぶっちゃけた話をするとだね。僕は『奇跡』とか『魔法』とか、そういうのには懐疑的だったりするんだぜ」
「へえ。あたしらには
「あるのに、だよ。極端な話になってしまうが、
実際に神秘とやらが物質なのかどうかは置いておくとして。しかしそれでも概念として存在し、それらを表すに相応しい名称があり、そしてある程度任意での消費が可能である以上。これは
だからその辺り僕としては、そもそも『神秘』という呼称自体も改めるべきだと思っちゃいるんだが──しかし恐らくはこの
……まあ、僕がこっちに来た影響で色々捻じ曲がってるっぽいんだが。これでも研究者を気取っていた時期もあるから、解明したくはあるんだけど、どうしてもね。
「だからつまり、僕が何を言いたいのかというとね。この世に存在するもののほとんどは──生物の感情以外の全ては、
「
「……ちょっと生徒証見せてもらってもいい? いよいよミレニアムの生徒か怪しくなってきたぜ、きみ」
ネルちゃんが取り出した生徒証をまじまじと眺める僕。所属は間違いなくミレニアムサイエンススクールだった。
多分、通う学校を間違えていると思うぜ。
「それにしても、僕自身の意見ねぇ。つってもさっきのと大差はないんだけどな。『奇跡』やら『魔法』やらは
「だったら、てめぇはどういう現象を『奇跡』と呼ぶんだ?」
「そりゃあもちろん、
そう呼ぶべきなんだろうけどね。
「……へえ、不具合。ありがとよ、何となく腑に落ちた」
「お安い御用さ、この程度の雑談ならね……っと。そんなことより見てみたまえよネルちゃん、どうやら才羽姉妹と先生が生徒会の差押品保管所に辿り着いた、ようだ、ぜ──?」
「ああ、そうみてぇだな」
……
──C&Cを構成するメンバーは五人いる。
今ここにいるネルちゃんは僕が完封するとして、アカネちゃんとカリンちゃんはエンジニア部とヴェリタスの面々で足止めするつもりだった。
だから僕たちレジスタンスとしては、差押品保管所の前に残りの二人が配置されることを想定して、コンビネーション抜群の才羽姉妹で撹乱した後、アリスがこっそり『鏡』を回収する──というところまで読まれていることを想定して、背後から残りの二人をレールガンで不意打つ段取りだったんだが。
しかしそこには、どう見ても誰もいなくて。
となれば、残る可能性は一つしかない。
「なるほど、追い込み漁か」
「確かに差押品保管室に
僕の視界の先では、これまで姿をひた隠しにしていた
僕のスキルをもってしても。そしてヴェリタスの調査力をもってしても、
明確な
だから僕としては、この子を才羽姉妹に相手取らせることはかなり渋ったんだが。
「……ま、てめえならそこまで辿り着くだろうなと思っちゃいたけどよ。しかし流石に、あたしとしちゃ驚かざるを得ねぇな」
しかし、しかし。
この場合はむしろ、
だって、そうだろう。差押品保管室であれば──
だから、僕は。
ネルちゃんが放った言葉に、耳を疑うことになる。
──こんなに上手く行くだなんて。
つまりこの状況すら、C&Cにとっては想定済みであるということだ。
間違いようもない、異常事態。
だから僕は、すぐさまネルちゃんを問いただそうとして──しかし。視界の先にいるアスナちゃんの行動に、目を奪われてしまった。
それは、至極単純な動作。
向こうから、こちらは見えていないはずなのに。
見ていることすらも、わからないはずなのに──
「ッ!?」
その声は、
僕はすぐさま「
だったのだけれど。
飛び退いた僕の眼前には。
「もう、そんなに驚かなくてもいいのに」
なんてことはない、ただそこにいるだけ。
なんのことはない、ただそこにいただけ。
目の前の少女は、
ただ、それだけ。
恐らく彼女にとっては──それが、
紛うことなき、
一之瀬アスナ。
「そして、てめえの
笑みすら浮かべず。
ただ、それが当然のことであるかのように、ネルちゃんはゆっくりと……余裕たっぷりに立ち上がる。
それをみすみす許す僕じゃない──が、しかし。
「ッ……分からないな」
「分からない? でも、私は分かってるよ?」
「何が分からないって、
そうだ。それが分からない。
まるっきり──意味不明だ。
どうして僕に気取られずここまで接近することができたのかも。
そうだ。それが分からない。
まるっきり──理解不能だ。
どうしてアスナちゃんが同時刻に二人存在しているのかも。
そうだ。それが分からない。
まるっきり──解読不能だ。
どうして僕の行動を全て予測することができるのかも。
そうだ。それが分からない。
まるっきり──予測不可だ。
「……
「…………納得しかねるなぁ。僕はきみみたいに──
「はっ、てめぇにも理解の及ばねぇ
ネルちゃんが吐いたそんな言葉に対して、僕はやはりいつもの通りに、軽口混じりの返答を投げつけようとして。
しかし、都合三度目。
僕の行動は、またしてもアスナちゃんによって阻まれることとなる。
力ではなく。
知略でもなく。
ただ、誰でも用いるような──
「そういうわけだから、ごめんね?」
そう言って、ほんの少し申し訳なさそうにしながら。アスナちゃんはなんてこともなさそうに、
そこには。
本来、存在しないものが。
存在してはいけないものがあった。
──
そんな
そんな
分からない。
何も──
……そんな僕の混乱をよそに。
「ま、そういうわけだ。いい加減待ち続けんのにも飽きちまったし──」
アスナちゃんとネルちゃんは。
「リーダーもそのつもりらしいし──んじゃま!」
得物を構え──啖呵を切る。
ここから先、僕に見せ場はない。
あるのはただの──
ノリで書きました。
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