めっちゃ話す回。
「"
へえ、なるほど、セリカちゃんがねえ。それで? 続きを話してみなよ。
「"今は私名義で連邦生徒会のセントラルネットワークへのアクセス権を申請しているけれど、向こうからの返信までにはまだしばらく時間がかかりそうなんだよ"」
ほう。まあ連邦生徒会の連中は毎日が火の車みてーなもんだから、メールの返信が遅れることくらいは、まあ、ままあることだろうね。
「"それはそうなんだ。毎日かなりの量の仕事をしているリンちゃん……
ああ、彼女ね。なんだっけ……そうだそうだ、連邦生徒会長代行とかいう、やけに長くて仰々しい肩書きのあの子か。生徒の割には大したもんだと思うよ、いやマジで。
「"そうだね、
猫を探すために猫の手を借りることほど、戯言じみたこともそうそう無えとは思うが。
「"この際戯言でも構わないんだ"」
そういうもんかね。
「"そういうもんだよ"」
それで、先生。君はわざわざセリカちゃんが行方をくらましたことを、この夜更けに伝えに来てくれたわけだが、一体僕に何を命令するつもりなのかな。
「"いいや、命令はしない。私が
普段から僕がそう言っているのは、あくまで心構えの話さ。実際のところ、僕はシャーレ直属の生徒であるわけだし、先生の命令に逆らう権利は有してねえんだぜ。
「"私のこれも、心構えの問題だよ。生徒に命令して、強権を行使して、無理矢理
律儀なことだ。自分の身よりも生徒の方が大切ってことかな。
「"その通りだよ、
いつか身を滅ぼすぜ、先生。
「"私は不滅さ。大切な生徒が、一人でもいる限りね"」
不滅、不滅ねえ。先生、ここは一つ、心優しい僕から君へ、この世界の真実を贈ってあげようじゃないか。
「"へえ、どんな真実なのかな。
いいかい先生。この世に滅びないものはないんだ。いかにそれが絶対的なものに見えても、いつかは必ず崩れ去るものだよ。
「"想いは滅びないよ"」
それこそ戯言だろ。
「"いいや、格言さ"」
まあ、君がそう思うのならそれでいい。あくまでも僕は、そうは思わないけどね。というよりかは、想えない。
「"そうかな。私には君が、いつもここではないどこかを想っているように見えていたけどね。見間違いや勘違いでなければ、だけど"」
へえ、ようやく気づいたってわけか。まあ流石に、二週間前までなんの痕跡も無かったとなると、不自然極まりないからね。念のため聞いておきたいんだが、一体いつから気付いていたのかな。
「"初日だよ。君がシッテムの箱に迷い込んだタイミング。突然生徒がシッテムの箱に出現するなんてことはあり得ないから、可能性があるとすれば、いわゆる転移の線だろうと思ってね。アロナに調べてもらったから間違いないよ"」
なるほどねえ、伊達に先生やってねえってわけか。まあ今はそんなことどうでもいい。僕が別世界から転移して来たであろうことも、元いた世界のことを引きずっていることも。それで、先生。君は僕に、どんなお願いをするのかな。
「"セリカを探すのを手伝って欲しい"」
断る。
「"……どうして? 昼間の感じを見る限り、セリカと
へえ、怒らないんだね。
「"怒るようなことでもないよ。
よく分からねえな。
「"私は先生だからね。何があっても、生徒に何かを強制することはないよ。何かを間違っている生徒がいるとしたら、あくまでお話して、教え諭すだけ。私はそういう人間さ"」
そういうもんかね。
「"そういうもんだよ"」
ふーん、まあいいさ。えーっとそれで……そうそう、僕がセリカちゃんを探しに行かない理由だが、大きく分けて二つある。
「"へえ、ぜひ教えて欲しいな。思えば私は
迂遠な言い回しをせずとも話すつもりだったさ。シロコちゃんにも言われただろう? 伝えない言葉は言葉じゃないからね。それじゃあまずは一つ目。単一の学校に肩入れしすぎだ。
「"そこまで肩入れしたつもりはないんだけれど"」
先生がそう思っていなくても、周りから見た時にそう見えるって話さ。廃校寸前のアビドスを躍起になって救おうとしている大人、という構図になる。まあつまりはとても怪しい。アビドス高校の連中をシャーレの私兵として運用しようとしている、と言われてもおかしくない。
「"私はそれでも構わないけどね"」
僕が構うんだ。元の世界へ戻る手がかりを探すのに支障が出る。
「"私がそんなことにはさせないよ"」
そう言うのは簡単さ。誰にでもできる。
「"信じてもらうには、まだ信用が足りないかな"」
出会って二週間とそこらだぜ。無条件で信用できる方がおかしいだろって話さ。
「"私は
例を挙げて話をしてる時に特例を挙げんなよ。
「"まあ私が奇特な人間だということは自覚しているけれど、これに関しては、さして珍しいことでもないと思うけどね"」
君がそう思うならそれでいい。君が僕を否定しないように、僕も君を否定はしないさ。一方的に否定するのは性に合わない。
「"そうだね。その
君はそういうことを平気で言うね。それで、えっと……なんの話をしてたんだっけか。忘れちまったな。今夜はここでお開きにしないかい?
「"逃がさないよ
あーそうかい。しょうがねーから二つ目も話すとしよう。
「"うん。ぜひそうして欲しい"」
僕が助けなくても、先生だけでどうにかなるから。
「"──え?"」
おや、やっと表情が崩れたね。
「"いや、
まあつまりは、僕がいなくてもどうにかなるからだね。きっとこの後先生は、セントラルネットワークを通じて手に入れたセリカちゃんの位置情報から、現在どこにいるかを割り出して、対策委員会と共に救出に向かうのだろう。きっとそこに僕がいなくとも、何も問題はない。
「"ちょっと、
そういうわけで、僕はセリカちゃんを探すつもりは無いよ。何か困った時は呼んでくれ。そうでなくとも、アビドス高校で飲み物でも作って待っててやるさ。
「"ナジミ。嘘はダメだよ"」
だから、僕のことは
「"違うよ。私だったらいくらでも騙していいけど、そうじゃなくて、自分を騙す嘘はダメってこと"」
自分を騙す嘘ねえ。何を言いてえのかいまいち分からねーけど、僕は本音しか吐いてないよ。
「"そうだね、本音を吐いてるっていうのは本当なんだと思う。だけど君は、まだ本音を吐き切ってない。吐き出しきれていない。吐き出しきったと、無理矢理そう思い込んでいるだけだ。それは君にとって、よくない嘘だよ"」
そうは思わねーな。
「"そういうものなんだよ"」
……外、明るくなってきてるぜ。
「"そうだね。ちょうどセントラルネットワークへのアクセス権を貰えたし、私はお
全くだぜ。一応先生は男で、僕は美少女なんだから、怪しまれるような行動は控えた方がいいぜ。
「"あはは……いや、全くもってその通りだよ。次からは気をつけるね。それじゃあありがたいアドバイスをいただいたことだし、私からも一つ、君にアドバイスを送ろう"」
へえ、そりゃあいいね、楽しみだ。で、先生はどんなアドバイスをくれるのかな。
「"もっと君自身が、やりたいようにやっていいんだよ"」
…………そうかよ。
「"うん。君はどこにいたって、結局のところ
──言うことだけ言って、さっさと行っちまった。
はあ……いやー疲れるね、大人の相手は。おかげで寝る時間の確保もできなかった。まあ僕は寝なくてもなんの問題もないんだが。
いや、それにしても、「やりたいようにやっていい」ねえ。先生にしては、随分と無責任なことを言ったもんだ。そんな言葉を真に受けて、やりたい放題するようなやつだったらどうするつもりだったのか。
多分先生はそういうつもりで言っているのだろうけれど。
それに、「どこにいたって
僕がこの世界に対して、どこまでやっていいのか迷っていることに。僕はキヴォトスの住人じゃねえから、僕が存在していた痕跡を残すべきか迷っていることに。
先生はそこにほんの少しだけ踏み込んで、さっさとセリカちゃんを助けに行っちまった。
くだらねー。
しょうもねえ。
…………。
そういえば、あの時セリカちゃんは、僕に向かってこんなことを言ってたな。
「私っ、先生のことはまだ信用しきれないけど、
うん、確かにこう言っていた。
そういえばセリカちゃん、予定通りに行けば、今日は先生と真正面から相対するんだったっけ。
それなら。
そうだな。
信用できない先生よりも先に、信用できる僕と会っておけば、セリカちゃんは先生と相対出来るようになるだろう。
とても、安心して。
「結局、
「"うん……ごめん、みんな。説得しきれなかったのは、私の責任──"」
「いーよ先生、謝んなくて。私達としては先生一人来てくれるだけでも、だいぶありがたいんだからさ〜」
誘拐したセリカを乗せていると思われる車両を目視できるところまで近づいたが、ここに至ってもナジミは来なかった。
やはり、私の説得の仕方がいけなかったのだろうか。
セリカとは仲が良さそうだったけど、ナジミだけは助けに来ていないとなると、やはり関係性が変わってしまうだろう。もしもそうなったら、私がどうにか間を取り持つつもりでいるけれど。
なんて、うじうじと考えていた時。ホログラム通信先のアヤネが突然叫んだことにより、私は目の前の現実へと引き戻された。
『後方からとんでもないスピードで何か飛んで来ています!! 全員警戒態勢を──』
……
……まさか。
「"──いや、みんな。多分それは敵じゃないよ。だから、
後方からとんでもないスピードで飛んでくる。一瞬ミサイルでも飛んできているのかと思ったが、いくらなんでもそこまでするのはありえない。
となると、そんなことが出来る生徒は──
「あー、なるほどね……これはちょっと、予想外かな〜」
「ん、やっぱり私の親友はすごい。私の言った通り」
「えーっと……思ったより、強い人だったんですね☆」
『私、とんでもない人を呼んでしまったんじゃ……』
アヤネが通信で警戒を呼びかけたのが、つい3秒ほど前。
それから3秒たった今、私達の目の前に広がっていたのは、爆発四散して大炎上する車両、その周辺に倒れ伏している数十人のヘルメット団、そしてそれらを背景に、悠々と歩きながらこちらに向かってくる──。
「意外と軽いね。ちゃんと毎日三食食べてるのかい?」
「ちょっ、降ろしなさいよ恥ずかしいでしょ!?」
「断る。僕は猫にちょっかいをかけるのが好きなんでね」
「離してーーーーっ!!」
──怪我一つないナジミと、お姫様抱っこで抱えられている、同じく怪我一つないセリカだった。
その光景を見て、自然と私の頬が緩んでしまう。絵面は途轍もなく物騒なのに、それでもどこか、微笑ましくて。
ナジミはセリカを対策委員会のみんなのところに、わざと雑に投げ捨ててから、私の方へ向かって来た。途端にセリカがみんなにもみくちゃにされているのを見て、ついうっかり、声を上げて笑ってしまった。
「やあ、先生。さっきぶりだね」
「"うん、さっきぶり。ありがとう、セリカを助けてくれて。それで、今回はどうやったの?"」
「なに、誰でもできる簡単なことさ。リミッターを解除するスキル『
「"
「肉体を修復するスキル『
ナジミはそう言って楽しげに笑うと、セリカがもみくちゃにされている所へ近づき、今度は対策委員会の面々に向かってこう宣言したのだった。
「そういうわけで、今まで隠してて悪いね。別に隠そうと思ってたわけじゃないんだが、まさか二日以上関わることになると思ってなくてね。
ナジミは一呼吸置き、そして。
高らかに、宣言した。
それを聞いて、確信した。
ナジミはきっと、歩み方を定められたのだ。
そう思うと、嬉しくてたまらなかった。だってナジミは、ようやくこの世界にいる自分を容認できたのだから。
その事実が、ひどく嬉しかった。
というわけで、先生の一言で
ちなみにホシノは「まだ勝てるな」って思ってます。
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