〜〜〜ケベック州/ウィニペグ上空〜〜〜
3月28日の夜、カナダとアメリカの国境線から約100km。ミネソタ州と旧アガシー湖に挟まれた幅150kmほどの陸地に、マニトバ州州都ウィニペグは横たわっていた。上空には雲一つない満点の星空が広がり、その下の都市部には、夜空の光に負けず劣らずの人工の灯りが高層建築に灯っている。
すでにビルの隙間からは少し柔らかな風が通り始め、キリスト教徒の住民たちはきたる復活祭の準備を始めていた。
今でも市街にちらほら白い冬の残があったが、ウィニペグの大部分はすでにあたたかな季節を迎え始めていた。
ただひとつ、上空だけをのぞいて。
「ん?」
旅客機ベースの多用途機にレドームを貼り付けたウラヌスAEW.1早期戒管制機に乗っているオベレーターは、何か発見したのか、寝ぼけた目を凝らしながらコンソールを見つめた。
どうした、と飛行統制将校が彼に聞く。
「レーダーに感がありました。防空識別圏内に国籍不明機が侵入しました」
「ヤンキーの機体か。出せる機体はあるか?」
オペレーターはすぐさま自分の操作車を叩いた。画面には他のAWACSと同様にウラヌスAEW.1の機内には広いスペースがあったが、地上を制する大量の操作卓で埋め尽くされ、ぱっと見たら中小会社のオフィスの一部分をまるまる引っ張ってきたような様になっている。
軍事用というにはものものしさが欠けてるような光景だが、その果たす機能に不足はない。なんせ、レドームにおさめられたEL/W-2090は400km圏内の軍用機機を捉え、なおかつ60以上の目標を追跡できるほどの性能をしてることで知られている。
基地情報から機体を把握したオペレーターは、飛行統制将校に言った。
「ウィニペグ空軍基地が2機出せると言っています」
「よし、そいつを向かわせろと伝える。うちの領空内で好き勝手はさせんぞ」
「了解っす」
モルダート1の通報があってから数分後、ウィニベグの市街地から西へ8kmほどの閑静な住宅街のちょうど真横にある滑走路から、航法灯を光らせた二機の航空機が飛び立った。
もちろん、民間機ではなかった。その証拠に、2機の主要には英連邦空軍機なことを示す青、白、赤の鮮やかなラウンデルが塗装されていた。
飛び立った二機の戦闘機は、二次大戦時から続くロッテ戦術にならった配置につき、目標へと進路を向けた。
『モルダート1よりバーボネラ1へ、アンノウンは君たちの現進路より4時の方向、距離40kmの地点にいる。もう少しで君たちの目視距離に入るはずだ。オーヴァー』
「こちらバーボネラ1、了解した。おい2、そっちも聞いたな?」
『バッチリ聞きました。ちゃんとついてきますよ』
「よし」
バーボネラ1こと特殊空軍所属のダグラス空軍中尉はヘルメット越しのくぐもった声で返答すると、両手で支えている操縦を右に向けた。操縦が倒れるのと連動し、乗機のライトニングF.7要激戦闘機もその向きを変える。
後方からは彼と同じ機体に乗ったバーボネラ2ことブレッド(実家が有名なパン屋であることからこのようなTACネームになった)が付いてきている。
この機体が子持ちシシャモなどとあだ名されるようになった要因の、体から縦に二つ並べられたロールス・ロイス【エイヴォン】ターボジェットエンジンの出力は良好で、操縦計に示された燃料の割合は十分。この機体が要撃機な都合上、総合的な航続距離は短く、戦間できる時間も限られるが、今回のような任務であれば十分な作戦行動が可能であった。
「しっかし、今日に入って3度めの出等かあ‥厄介だなまったく」
ダグラスはそうぼやきながらバーボネラ2に話しかけた。話しかける声には疲れがにじみでている。無理もなかった。日米が太平洋で開戦し、アメリカ空軍機がカナダへの領空侵を繰り返してる今、即応軍である特殊空軍所属の彼も、先月の倍以上にのぼるほど出撃回数が上がっていた。度重なるスクランブル発進は彼らにかなりの肉体的、精神的な疲労を与えていた。
『まったくですね。疲れすぎてヘマしちまうのが怖いっすよ‥』
「ま、いつも通り追い払えばいい。前回の連中もすぐに尻尾巻いて逃げたからな」
『確か、使ってた機体はF-5でしたね。米空軍でも旧式な方の機体だったはずです』
バーボネラ2はダグラスと同じように疲れている口で答えた。飛行機に詳しく、なおかつ視力の高い彼は、一目見るだけでどこのなんの機体か判別できるという特技を持っていた。すぐに機体がわかることができるため、ダグラスとしても2の能力は重宝していた。
「つまり、失っても惜しくない機体を領空侵犯に使ってるってことか...そんな任務に使われるヤンキーのパイロットも可哀想だな」
『ですねぇ‥あ、そろそろ目標が見えますよ」
「了解」
ダグラスは再び視点を前に向けた。2が言った通り、夜間なのでぼんやりとだが、だんだんと目標が見えてくる。
見えてきた機体は、パッと見た感じだと可変翼を搭載したようみ思われた。強いて言えば映画とかで有名なF-14に近いように見えなくもないが、どことなく各部の形状が違っている。正直、彼にとっては見たこともない機体であったが、軍用機だろうことに違いなかった。
「よし‥お出ましになったな。おい2、なんの機体かわかるか?」
『待ってくださいね‥ん?』
機体を見たバーボネラ2は急にその声色を変えた。普段ミリオタの彼なら、目の前の兵器に対して興奮した時なのだが、今回の場合は、珍しくかなり焦った声で叫んだ。
『あれはまさか、F-111!!』
「F-111?なんだそりや」
兵器に詳しくないダグラスの質問に、2は動揺したまま答える。
『米空軍が冷戦の時に配備した機体です!戦闘機や爆撃機として使用されてて、確か今は戦略航空兵団で核パトロールに使われてたはず‥』
核パトロールという言葉を聞いて、ダグラスにはなんとなく悪い予感が頭をよぎった。なんとなくF111をよく知らない彼にも、2がなぜここまで焦ってるのか理解できた。
「まてまてまて!!ってことはあいつ核持ってるのか?」
『ええ、今搭載してるかは知りませんが戦術核を1発は積めたはず‥』
ダグラスは、彼からしたらイカれたようにしか感じれない敵の行動に舌打ちした。
「爆撃機だと?ヤンキーどもめ、ついに頭がいかれやがったか‥」
「んなこと言ってる場合じゃないっすよ!早くモルダート1に連絡しないと」
わかってる、と言いダグラスはモルダート1へと回線を繋げ、
「バーボネラ1からモルダート1へ、現在ウィニピグから 15km上空に機体を視認した。
機種はF-111。警告を実施してもよろしいか?オーヴァー」
『こちらモルダート1、警告を許可する』
「了解」
とやりとりしてから切った。ヘルメット越しで分かりづらいが、彼の額には少し冷や汗を浮かんでいる。
正直、彼は内心焦っていた。普段なら核なぞ搭載していないと判断できる。だが、今のアメリカはクーデターにより軍隊が政権を掌握し、多少ギスギスしていたとはいえ以前から同盟国であった日本へと喧嘩ふっかけるような暴力装置と化した。そんなやつらが正常な判断ができるような連中だとは彼は考えられなかった。もし連中が本気で戦争をやるつもりであったのなら…
(核攻撃か)
たしかに、ありえない話ではなかった。ウィニペグはマニトバ州の州都かつ、カナダ国内でも発展している南部に位置している有数の大都市だ。だから、それゆえに市内の人口も多い。だから、中が核を落とした場合の被害も確実に大きくなる。
そもそも、被害の程度関係なく核攻撃が行われた時点でまずいことになるのだ。下手したら双方とも核を投げ合って共倒れ..いや、もっとひどい場合だと、第三次世界大戦なんて考えたくもない事態になりかねない。
ダグラスは、そんなことを考えながらもすぐに航空無線を開いた。
「こちらに注目せよ。我々はイギリス特殊空軍である。現在費機はカナダ領空を侵犯しつつある。速やかに南方へ退避せよ。繰り返す….」
ダグラスはそのようにF-111に警告を続けた。
だが、目標から返答はなかった。進路の変更もしなかった。まるで知らぬ存ぜぬとでも言うかのようにカナダ領空を悠々と飛行している。
しかも、機体はもはやウィニペグ上空へと入っている。これ以上領空内に入られるのはまずい。
やむをえんか。とダグラスは操縦のトリガーに指をかけ、モルダート1へと指示を求める。
「こちらバーボネラ1、目標は蓄告を無視。射撃の許可を求‥『待ってください』」
突如としてバーボネラ2の声が彼を遮った。
「どうしたブレッド」
『目標が進路を南方に向けてます!!』
「なんだと!」
ダグラスは驚きを隠せない表情で目標に視線を向けた。
事実だった。すでに、目標のF-111は進路を反対側へと変更していた。
戦車の名前だと何がいい?
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モントゴメリー
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トライアンフ
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ヴェネラブル
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ブラックタイガー