12時間ぐらい読み返してペースを落としてもらえませんか。嫌?はい……
【六】
ゆきんこの巻き起こされた大吹雪は凄まじく、ユタを中心とした周囲に存在する魔物を諸共薙ぎ払った。
「ふぅっ、多少すっきりしました。……オマエー!生きてますかー?さっさと立って帰りますよ!」
冬はどう考えてもダメそうな恰好の相方を探すべく、ゆきんこがふいと辺りを見渡す。
規模にして半径6mに及ぶ魔法の痕跡には、真っ白な積雪とそれを様々な血色で汚す肉塊ばかりだ。元はスライム状だった魔物達はきらりと輝く氷像と化していた。
「……」
「あれ。ちょっとー、返事して下さいよ」
少し心配を含んだ声色で今一度呼びかけるが、姿が見当たらなければ返答も無い。ゆきんこは若干青ざめた。
「ま、まさか……」
「ぶはっ!寒い寒い寒い寒いっつうの!!!」
積雪の下からユタがばさりと姿を現した。身を縮こめてガチガチと歯を鳴らしている。
「あ、生きてました」
「安否を確認する位ならもうちょい繊細にやってくれよな!!」
良く見ると、彼女の身体の至る所には細かな砕氷が突き刺さっている。ゆきんこは物理による近接戦も魔法による遠距離戦を熟せる魔法戦士だが、専業とは異なり細かな魔法制御が出来なかった。
「でもまあ、結果的には良かったでしょう?」
ゆきんこはざくざくと雪を踏んで歩み寄ると、罪悪感など全く無いかのように胸を張って言った。
「そりゃそうだが……ああもう。戦利品の回収が終わったらさっさと出るぞ」
「ん、勿論です。あと帰ったらその斧槍はどっかに埋めますね」
「あ゛?(ピキピキ」
ユタの額に血管が引く程浮かび上がった。
「当ったり前です。戦いに出る時は私も連れて来なさいって約束、久しぶりに破りましたよね」
「約束も何もこっちは同意した覚えが無いが」
◇
大規模な戦闘の後にはそれなりの戦後処理がある。これ以上の戦闘を避けるべくゆきんこが周囲一帯に幻惑魔法によるカモフラージュを施せば、後は黙々と作業が始まった。
ユタが倒れている魔物一体ずつに確実に止めを刺し、ゆきんこはその後を追う様にして戦利品を回収してゆく。単調な作業の中、ユタは今後の自分を内心で危惧していた。
(失敗した、失敗した、失敗した……!あいつの目が深夜まで行き届いている事が判った以上、如何なる場所でも逃れられない。これでもう暫くは戦場に立てない!いつまで掛かる?一日だって待っちゃあ居られないってのに!)
……ユタの内心を説くには、前提として彼女に対するゆきんこのスタンスを語らねばならない。
ユタがまだ男性であった頃の過去。彼はゆきんこに”英雄”を目指して戦場に赴き続けると宣言した。それは自分の願望であって、お前を巻き込むつもりは無いとも。
それに対するゆきんこの返答はこうだった。
『戦いに出るなら必ず私を連れて行ってください。探索でも傭兵でも、どんな時でも』
以降、薄水髪の少女はユタの傍を殆ど離れなくなった。
ユタがその後日、戦争を経験すべく何も言わずに表あるけみすと大陸の南東部へと向かった時も。
オールインを外して宿代すら無くなった夜も。
層を経る毎に脅威を増す探索に、もう付いて来るなと何時間も懸けて伝えた次の日も。
ユタの”英雄”以上にゆきんこは意固地だったのだ。
次第に諦めていったユタは彼女の命だけは保証する事を前提に、探索へと同行するのを容認した。
……その前提が”英雄”を目指す事と両立しない事に気付いたのは、もう少し後の事だ。
それでも”英雄”を目指すユタにとって、ゆきんこが療養している長い間それに合わせて戦場から離れるという選択肢は採れない。故に今回の単独潜行は失敗出来ないものだったのだ。
(何だってこんな事になったんだろうか)
ユタは”英雄”を諦められず死地へと向かう。ゆきんこはそれを阻止する為にユタに付き纏う。
一方がもう一方を見捨てられないが故に傷つけ合って守り合う、どこまでも歪な相思の螺旋。それが今の二人の関係性の正体だった。
(もうずっと雁字搦めのままでいる。自分が何をしたいのかすら分からなくなって、頭がおかしくなりそうだ。こんなのは嫌だ)
「オマエ?ぼーっとしてないで、さっさと次行ってくださいよ」
自分がいつの間にか立ち尽くしている事に、ユタは今になって気付いた。
「悪い。ちょっと考え事してた」
(ああいっそ、手の届かないぐらい遠くに消えてしまえば良い。そしたら…)
次の瞬間、雪の下から黒い鎧が飛び出した。
「……あ?」
普段のユタなら自身を刺す殺気に気付かない事など無い。戦場で思考の渦に呑まれたが故、油断が招いた隙だった。
「ッ、こんな…」
正眼に構えられた直剣が振り下ろされる直後、ユタは漸く得物を握り締めた。間に合わないだろうと、心では無く経験が囁く。
(こんなところで!?嫌だ、おれはまだ!まだ何も、お前に……)
「本当に、もう!」
凶刃が迫ったその直後。過ったのは走馬灯で無く、後ろ首を掴まれた感触だった。
「オマエは──」
「私が居ないと、ダメなんですから!」
自分と入れ替わる様に、見慣れた少女が前に躍り出る。
何かが弾けたような音の後、砕けた氷晶のティアラが宙を舞って、雪の上に音も無く落ちた。
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