魔法で造られたゴーレム。ロボではない。
再生産が容易で雑に扱われている。弱い。
何者の命を受けてか、浅層で装備と祝福をひたすらに掘っている。
『気付くの遅っっっっっっっっっっっっっっっっっっそいです!!!!!』
青白く朧げな輪郭で宙を漂う少女…ゆきんこはカッと叫んだ。怒りと呆れの混じった表情だった。
「おれが。おれが……」
しかしその声が生者に届く事は無い。眼下の黒髪の女は変わらず、嗚咽を漏らすばかりだった。
『……まあ、相当応えてはいるのが唯一の救いですね。これなら暫くの間は放っておいても大丈夫でしょう』
月明かりの僅かに差し込む窓の方に、ゆきんこはふわりふわりと浮かんでゆく。そして最後にちらりと振り返って、こう言い残した。
『オマエはここでちょっと休んでると良いです。いつか、私が帰るまで』
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無謀な冒険を付き添って来た当然の結果として、少女はその命を喪った。
しかしその魂は異界のものであるが故にあるけみすと世界の輪廻(そもそも存在するか否か分からないが)に還る事は出来ず、現世に留まり続ける事となる。
或いは望めばこの世界に招き入れられた時の様に神の手で元の世界に送って貰えるかもしれないが、彼女は”心残り”の為にそれを希うことは無かった。
【三】
『さて、ここが…』
ユタの元を離れたその翌日、ゆきんこは馬車の荷物に憑いて共和国を出立し、はじまりの町へと赴いた。
今一度腕利きの治癒師の助けを乞いに来たという訳ではない。かと言ってこの地そのものに目的がある訳では無い。
彼女の目的はその先、新天地たる”裏世界”だった。
『ぱっと見ただけだと、思ったより表のはじ町と大差無いですね。けど、若干暗めの雰囲気はするような?』
実の所は行き交う人が多少少ないだけなのだが、ゆきんこにはその些細な違和感が気にかかった。幽体を視認出来る者など居ない筈だが、誰かに見られているかのような錯覚すら感じる。
『な、何だかちょっと怖くなって来ましたかもです…』
年相応に怖がりながらも、そんな筈は無いと首をぶんぶんと振る。きっと直ぐに慣れるはずだと自分に言い聞かせて、少女は表はじ町では酒場のあった場所へと向かった。
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特に迷う事も無くゆきんこは酒場に辿り着いた。酒と料理の匂い、ガヤガヤと話し声の絶えない場。裏も表も、ここはやっぱり同じなのだなと少し安心する。
『やっぱり建物の位置も表と全く同じなんでしょうか。地図を探す手間が省けて良かったです』
とはいえ、やはり表との差異は確かに存在する。一際目立つ位置に張り出された広告の内容は祭事の告知や装備の買取宣伝、はたまた何の関係も無い事まで様々だが……何と言っても国への勧誘文が多い。
『良かった、聞いてた通りです!』
そもそもの前提として、彼女が裏に来た理由は”元の生活に戻る為の方法の研究”だ。
表には無かった”死んだ人間を生き返らせる術”が存在するのではないかという淡い期待を抱いてきたというのもあるが、何より自分の手で実現出来るビジョンがあり、それを為す為の拠点が欲しいというのが主だった。
なお、表でそのまま活動するという選択肢は無い。目を付けられ除霊なんてされたらたまったものでは無いからだ。
『裏世界は表と比較すると住民側のメリットが少ない。人手不足の国が多いんですよね。これなら国への貢献さえしていれば、多少の不審もきっと…!』
安堵で表情を綻ばせながらゆきんこは掲示板を流し見る。
『さあ、どれにしましょうか。なるべく怖くなさそうで、楽で、あんまり戦争はしなさそうなところが…』
『……こ、これは!?』
そしてふと、ある張り紙が目に留まった。そこには───
<黒王軍では新規入国者募集中!経験不問!戦力不問!今なら【無料】でお散歩体験&ボコスカ体験出来ます!"ボコスカ教材費"も【無料】!ボコスカの勉強したい方は入国or郵便にてお待ちしております!>
如何にも、といった具合に詐欺めいた文章が有った。
『すごいです、実質ぜんぶ無料じゃないですか…!い、いや。こんな美味しい話がある訳が』
重症の治療費で金銭面を常に圧迫されていたゆきんこは【無料】の二文字にかなり弱かった。
しかし仮にも多少の年季を経ている冒険者。間際で何とか踏み留ま───
『…いえ』
『切迫しているからこそ、苦渋の決断としてこうせざるを得ないんでしょうね』
『気持ちは分かります。うんうん、じゃあ仕方ないですね(?)』
───れなかった。彼女が接して来たあるけみすとの住人は殆どが性善であり、猜疑心を養う機会にはあまり恵まれなかったのだ。
【四】
斯くして、数日後にゆきんこは黒王軍の郊外に辿り着いた。
『馬車代が掛からないのだけはこの身体の良いところですね』
霊体の彼女を認識出来るものはそう居ない。今回も黒王軍行きの馬車の荷に憑りつく事でタダ乗りを敢行したようだ。
『そしたらもう、後は…』
きょろきょろと周囲に人が居ない事を確認し、ゆきんこは何かの呪文を唱え始める。
実体を持たないがゆえに今の彼女は魔力さえ持つ事は無いが、大気中に存在するマナを搔き集める事で低位の魔法程度であれば行使する事が出来るのだ。
『【
そうして終まで唱え終ると、眼下に有った石に変化が起こる。魔力を持った石が周囲に散らばっていた小石を引き寄せ始めた。
『手足の代わりさえあれば問題無し、ですね』
集った石塊はやがて不格好な人型を成し、その目と思しき部分には魔力の光が宿る。
『さあ、行きますよ”祝福ロボ”!世のため人のため私のため、オマエには24時間休みなしで働いて貰いますっ』
『森を駆け谷を越え、霊園を抜けて海底を歩き───黒王軍で
ロボ「やりがい!やりがい!」
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