【一】
とある夜のこと。町の一角にある何の変哲も無い酒場にて、冒険者の男二人が話していた。
一方は三十路程の人間で、もう片方は髭が豊かな初老のドワーフだった。
「そういえばよ」
「何じゃ」
「最近見ないよなぁあの二人組。ほら、”英雄症候群と氷姫”」
「知らんのか。奴等、とっくに解散したらしいぞい」
ドワーフの言を聞いて人間が目を見開く。
「そうだったのか?随分と親し気に話してた記憶があるが、内面は険悪だった訳か。おっかない女達だ」
「そうかのう」
髭を擦りながらドワーフが瞑目する。
「ただ、儂は一昨日に見てな」
「何を?」
「英雄の方の姿を。道具屋でな、棚にある傷用のポーションを右から端までぜーんぶ持って行ったんじゃ」
「流石に行儀がなっとらんと思っての。氷姫が傍に付いとらんかったのを不思議に思いながら「暫く潜るのかの。殊勝じゃが、多少は残して置いて貰わんと困る」と声を掛けたんじゃが」
「じゃが?」
「真似するでないわい。……振り返った時の、目の隈が凄くての」
「思わず退いてしまったんじゃ。その後は「悪かった、半分残すよ」なんて言って去って行った」
髭から手を離して腕を組み、背もたれに身を預けて天井を仰ぐ。
「あの顔には見覚えがある。何度も見てきた、仲間を亡くした者の顔じゃ」
「じゃあ、不仲で解散したって訳じゃなくて……」
「外れて居れば良いんじゃがの」
◇
それから数日後、酒場に一つの噂が流れ始めた。
「深層には”斬鬼”が居る。返り血で髪色も顔も分からない、「斬る」以外に何も話さない不気味な奴だが、
【二】
第八層、終わりなき迷宮に彼女は居た。以前とは全く異なってしまった風貌を伴って。
──端的に言えば、落ち武者だった。裾が長くて邪魔だからとでも言わんばかりに斬り裂いた跡のあるローブを纏い、背には刃毀れしたグレイブを負っている。腰には剣も数本下げられているが、それさえ刀身の長さから装飾までばらばらだ。たからばこから手に入れた武器をそのまま扱っているのだろう。
返り血で染まっている顔に至っては死人のそれとしか言い様が無い。眉一つぴくりとも動かさず、目下に深い隈を宿して瞑目している。
そんな状態で何もせず、ただ立ち尽くしていた。
「……なあ、ゆきんこ」
「一人ぼっちはやっぱり、寂しいな」
「一度目の最期だけじゃない。こっちに来てからもずっと、ずっと”俺”はお前に救われてたんだって、今更気付いたよ」
ぎぃん、と僅かに遠方から剣戟の音が響く。獲物を見付けたと、ユタは目を薄く開いた。
「大丈夫、大丈夫だ。お前が残してくれた命だ、徒には死なない」
「精一杯苦しんで生きて、返すよ。”英雄”になんて成れないおれだけど、何度輪廻を巡ってでも報いてみせる」
「そしたらまた会えるかな、難しいかな。きっと綺羅星みたいな英雄譚も何も見せられはしないから」
「……嫌だなぁ。傍に、居たいなぁ」
まだ魔物と冒険者の見分け程度は付くらしいです。
そのため他のパーティーの手柄を横取りする訳では無く、勝手に戦闘に参加→たからばこは置いてく変な人 扱いで留まっています。
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