無限買取に投げて下さった皆様、BIG LOVE───
【一】
物言わぬ石巨人を裏世界での顔とし、黒王軍に所属してからはや一ヵ月が経った頃のこと。
ゆきんこはロボの献身的な資金調達の恩恵を受け、念願叶って自らの家……というよりは、人目を憚らず研究を存分に行う為の拠点を購入した。
『…戸籍も何も無いゴーレムに家なんて本当に売って貰えるのかと思ってましたが、杞憂で済んで何よりですね!ふふん、
喜色満面でふよふよと浮かぶ少女幽霊。足が有ればきっと小躍りでもしていただろう。何とも微笑ましい光景だ。
なお、その背景はボロ屋である。廃屋とまでは行かないが老朽化が激しい。
何なら城壁に面しているので日中にも関わらずかなり暗い。隣家も少ない。…霊であればさして気にならない環境ではあるのだが、それにしても費用をケチった事が丸わかりであった。
『さあ、ここまで予定通りに来られたからにはじゃんじゃん進めますよー!』
閑話休題。ともあれこの時点で漸く、ゆきんこは活動の為の労働力(ロボ)・資金・拠点の3つを真に手にしたのだ。
今一度の生を求める研究は進む。英雄などという都合の良い存在は居ないから、自分で自分を救う為に。
【二】
ゆきんこが生前──人間の生活に戻る為には、大きく分けて二通りの手法が存在する。
一つは蘇生。ユタが使い手を表の諸国を巡って探し、遂に見付けられなかったのがこれだ。
もう一つは憑依。死して夢幻の体となった事で得た特性だ。対象の抵抗さえ無ければ、生物でも非生物でも大抵の物には憑いて動かす事が出来る。
ただ、どちらを用いて復活を果たすにしても課題は存在する。蘇生には単純な難易度、憑依には他者の人生を奪う事に対する倫理的な問題があるのだ。
…ゆきんこは自分がユタの頼った術師達よりも優れた
或いは剣の世界に居た頃の精神であれば、救われるべき無辜の民で在る為に。諦念を抱きながらも一縷の望みを懸けて魔法の研鑽に打ち込んだろうか。
しかし彼女は既に知っている。知ってしまった。善き人々が報われるのも悪しき竜が滅ぶのも、物語の中だけだと。
であれば後は罪悪感と躊躇いさえ抑えられればいい。最初から造られた命なら、自我を持たない人形ならば。何かを奪う事も無いはずだ。
そうして思い至ったのが”
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仄暗い室内をぽてぽてと、小さな熊のぬいぐるみがバインダーを片手にうろついている。
光源と呼べるものはただ一つ、部屋の奥に鎮座する培養槽から発されている翠光のみだ。
「……」
ボタンの眼が仰いだ装置の内には、一糸まとわぬ姿をした竜人と思しき少女が培養液を揺蕩っている。
水晶の角、麗しき翼、竜鱗煌めく尻尾……これらを有しているにも関わらず”思しき”と言うのは、単に生命として不自然であるからだ。
何を隠そう、竜としての部位を持つに関わらず、その少女の肉体はあまりにも人間だった。背丈は小さく、鱗一つ無い皮膚はお世辞にも頑丈とは言い難い程に滑らかだったのだ。
まるで造り物であるかのように。
『先ずは造形問題なし、ですね』
縫い跡の口が開く事無く少女の声を発した。鈴を転がしたような愛らしい声だった。
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