ゆきんこあるけみすと   作:じいて

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ライダーキックってかっこいいですよね。


【貴方はきっと、誰かにとっての①】

【一】

 

 

ゆきんこは新たな肉体を得たその翌日より、逸る気持ちを抑えて町の医師や遠方の錬金術師といった専門家達の下を巡り見解を仰いだ。所詮作り物に過ぎないその生命が長くを生きる確証を得る為だ。

 

結論だけ言ってしまえばゆきんこの不安は杞憂だった。ほぼ全ての専門家は彼女の肉体を完全な”人の形をした竜”と呼称し、人間の寿命を遥かに超えて生きると断言したのだ。

 

自分は錬金術師としては未だ経験が浅く、別分野の知識で補って漸く一人前と言えると思っていた彼女はこの結果に困惑した。

 

ただまあ素人が深く考えても思考のどつぼに嵌るだけだ。偶然上手く行ったのならそれでいいではないか。嫌な予感はあるものの折角辿り着いた良い結末に変わって欲しくも無いゆきんこは、自分にそう言い聞かせた。

 

何よりもう、これ以上頑張りたくも無かったのだ。

 

 

~~~

 

 

最低限の荷を携えて少女は第二の故郷、ウィンバルト共和国に帰って来た。

 

荷が少ない理由は、黒王軍からの正式な脱国をまだ申し出ていないからだ。民家の下をロボに掘り抜かせて作った研究施設をまだ片していないし、何よりお世話になった国の皆に自分の声で感謝を伝えなければならない。

 

ぴゅう、と吹き抜ける北の冷たい風に懐かしさを覚えながら、かつて二人で拠点にしていた宿に入る。

 

「おはようございますです~」

 

「…!おお、おかえり」

 

一階の酒場は朝早くだからか閑散としている。カウンター向こうの宿の主人が少し驚いた表情をして会釈をしてくれた。

 

「ただいまです!積もる話はありますが、先にお聞きしたいことが」

 

「斬鬼の事か?」

 

「ざん…?」

 

「知らんのか。アイツは今、そう呼ばれてるよ」

 

宿の主人の話によると、ユタは今第九層に住み着いているらしい。冒険者には手を出さないものの、通り魔の様な見た目で鬱々と「斬る」とだけ呟きながら所構わず魔物を狩る近寄り難い存在なのだとか。

 

「うわぁ……」

 

ゆきんこは本当に申し訳無い気持ちになった。身内が人様に迷惑を掛けている様は、きっと全生命に共通して嫌なものだろう。

 

「まあお前が直してくれるんなら万々歳だ。頼りにしてるぜ氷姫。……いや、氷竜姫の方が良いか?」

 

「どっちでも良いです!とにかく情報感謝ありがとうございました。これからはまたうまいメシを食べに来ますね!」

 

 

【二】

 

 

第九層、慟哭の地レガリアにて。

 

「斬る、斬る、斬るッ……!」

 

魔物の返り血に塗れたぼろきれを纏った女が、両の手に持った剣と薙刀で赤鬼を。巨木を。腐竜を諸共に薙ぎ倒す。

 

(これで良い)

 

女は他の魔物を見付けるとまた淡々と”狩り”を始める。微塵も付け入る隙は無くただ純然たる力による圧倒。作業に等しい手際だった。

 

「斬る!!」

 

(これで良い)

 

これで良い。斬鬼の女(ユタ)は幽鬼の表情でずっと自分にそう言い聞かせている。少女に生きろと望まれた命を捨てる事など出来ず、それでも死の罰を切望してここにいるのだから。

 

ただ、それでも。

 

「……あ、」

 

黒い鎧、深淵の騎士。今も記憶の中でも変わらないその姿。嘗て彼女の■■を砕いたその剣を、視界に捉える度に頭が沸騰する様な錯覚に陥る。

 

【本当に、もう!】

 

「ああ、あああああ、やめろ」

 

声を震わせながらも身体は驚く程冷静に動く。薙刀を捨て、赤錆びた直剣を正眼に構えた。

 

【オマエは──】

 

「やめろやめろやめろやめろ!駄目だ、止まれ!」

 

しかし如何にこの場の自分が正確に動こうともフラッシュバックは消えない。止まらない。

 

【私が居ないと、ダメなんですから!】

 

「やめてくれ」

 

自分では何があっても幻覚(向こう)には届かない。現実の剣がその兜を裂く前に、虚像の刃が彼女に吸い込まれて──

 

「どりゃーーーーっ!!」

 

──その前に、見慣れた青が颯の如く視界の端から現れて。心象風景(トラウマ)ごとその鎧を蹴り飛ばした。

 

「八つ当たり、完・全・完・了!!見ましたかオマエ、私の力っ!」

 

「……ゆき、んこ?」

 




次:滅亡戦が終わったら。
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