ゆきんこあるけみすと   作:じいて

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【貴方はきっと、誰かにとっての②】

「八つ当たり完了!!見ましたかオマエ、私の力っ!」

 

黒い鎧(アビサルナイト)が蹴りで弾ける様に吹っ飛んだ様を見届けると、薄水髪の少女は満面の笑みで振り返った。

 

「……ゆき、んこ?」

 

水晶の角、麗しき翼、竜鱗煌めく尻尾。人ならざるモノを伴ったその姿に疑念はある。何かの魔物が化けただけのつまらない偽物なのでは無いかと疑うのが正常だ。

 

「はい。私です!」

 

だけどその声が。その面影がどうしようも無いぐらい懐かしくて、ユタは何もかもどうでも良くなってしまった。

 

「ゆきんこ」

 

「何です?」

 

「ゆきんこ、ゆきんこぉ゛……!」

 

「……はいはい。全くオマエは、私が居ないとダメなんですから」

 

 

【三】

 

 

夕暮れに照らされた五体満足の帰り道で、ゆきんこはこれまでの出来事を語った。

 

今の身体を得る為に裏世界でホムンクルスの研究をしていた事を。隠れ蓑として所属した黒王軍で過ごした、楽しくも時にはボコスカで忙しく働いた日々の事を。

 

めくるめく四季の様に表情を変えて話す彼女に対し、ユタは感じ入る様に。そして真剣に傾聴していた。

 

「……そうして漸くこの身体の安全についても確信が行ったので颯爽と帰って来たわけです。ふふん!きっとあるけみすと史上初の大生還でしょうねっ」

 

「そうか。(あっち)でお前はずっと、ずっと頑張ってたんだな」

 

申し訳無さげな表情でユタが言う。

 

(協力出来なかった事を気に揉んでるのでしょうか。何も告げずに出て行ったのは私ですし、気にする事は無いんですけど)

 

「まぁ肉体労働は全部ロボでしたが。活動時間を延ばして留守番用に置いてきたので今はせっせと祝福を掘っていることでしょう」

 

「魔法って便利だなー」

 

或いは祝福ロボという労働力が無ければゆきんこの計画は資金不足で頓挫していた事だろう。その時はもしかしたらユタに頼る事もあったのかもしれない。

 

「そうでしょうそうでしょう。これからは実質収入二倍!もうカネに困る日は来ない……と良いですね」

 

「何だその抗議するような目線。心配しなくてももうお前を”英雄”に付き合わせたりしないって」

 

「はいはい、そうだと良いですね」

 

竜の少女は傍らの女の言葉を信じる気が無いようだった。本心からの発言であると眼を合わせて感じても、なお。

 

「なあゆきんこ」

 

「何です?」

 

「気付いてるか。お前は多分、他の何かに期待するって事が出来なくなってる。この世界に来てから今までずっとだ」

 

「馬鹿なおれの事だけじゃない。自分が幸せになると思えた時はいつも、『最後はぜんぶ台無しになる』って諦観を抱いてる」

 

「別に普通の事じゃないですか?オマエにも私にも、誰だって心の中に消えない傷の一つや二つあるものです」

 

あっけらかんとした顔で少女は答えた。希望の光を宿さない双眸で、「それがどうした」とでも言う様に。

 

「ああそうだ。事実お前はそうして、ずっと事も無げに傍に居てくれた。大丈夫なはず無いのに大丈夫だった」

 

「……ずっと分からなかった。何も返せてない何も与えられない、痛くて苦しいばかりのおれの傍に居てくれる理由が。何にも期待出来ないって言うなら、お前は一体どうして帰って来ようと思ったんだ」

 

服の胸を握りしめて問い掛けるユタに対して、ゆきんこは大きくため息を付くと彼女の手を取って言った。

 

「つくづくめんどくさいヤツですね。あぁもう、恥ずかしいから一度だけしか言いませんよ!」

 

「そんなの。私にとって、オマエが───」

 

 

【四】

 

 

それから数時間後、誰もが寝静まった深夜のこと。宿屋の一室でユタは泥の様に眠っていた。

 

血と砂埃に塗れていた身体は湯浴みで流され(所々に包帯は巻かれているが)、黒髪は以前の艶を取り戻している。つい先日まで”斬鬼”と呼ばれていた者とは思えない穏やかな寝顔だった。

 

「……」

 

ぎしり。古い床の悲鳴が唐突に侵入者の登場を告げる。窓から漏れる月灯りが仄かに照らすそのシルエットは、人型に翼を伴っていた。

 

竜人の人影は何の躊躇も無くベッドで寝息を立てているユタに歩み寄り、覆いかぶさって。ばきばきと急速に竜の鉤爪へと変容したその手先を彼女の首筋に向ける。

 

「これ、で、わた、しは」

 

「わたし、だ、けに……ごぽっ!?」

 

命を刈り取る一撃が繰り出される寸前、敵の腹部にユタの掌底を放たれた。

 

「拙い夜襲だな。おまけに”その顔”をしてるもんだから余計に性質が悪い」

 

仰け反らせた隙を見てベッドをすり抜け、壁に立てかけてあったハルバードを手に取る。向き直った先に居たのは、竜の翼を持った少女……ゆきんこの姿そのものだった。

 

「い、たい!」

 

牙を剝き出しにしてゆきんこ?はユタに襲い掛かる。技量は無く圧倒的な速度と腕力で繰り出される爪撃の余波で、狭い室内は瞬きをする毎に損壊してゆく。

 

「しん、で!しんで、しんでしんでしんで!!!」

 

(技量は明らかにゆきんことは違う。少なくとも本人の思考じゃない……だが声も姿も全てあいつそのものだ、斬れない!操られている?それなら…ッ)

 

突然の状況を考察している暇はない。事実だけを咀嚼して目的を導き出す。

 

「来い、”祭器”!」

 

斧槍を投擲した後、混沌とした室内から回収した帯を掴んで叫ぶとユタの手元にロングソードが顕現した。

 

「っ!?」

 

「これでッ!」

 

咄嗟の対処で反応の遅れたゆきんこ?の隙を見逃さず横薙ぎが振るわれる。鉤爪で防ぎはしたものの身体は吹き飛ばされ、窓を突き破って外に出た。

 

「くう、こん、なの…!」

 

そして反射的に翼をはためかせて滞空し──翼と爪、身を護る術が失われたその刹那。それを咎めるが為にユタが弾丸の如き速度で迫る。

 

「あっ」

 

「終いだぁーーーーーッッ!!!」

 

防御は不可能。振るわれた剣はその腹を以て、竜の少女を流星の如く叩き落した。

 

 

~~~

 

 

気を失ったゆきんこは頑丈なロープで何百重にも縛り上げられた2,3時間後、朝日と共に目を覚ました。洗脳?が解けたのか、雰囲気も態度も平素のものへと戻ったようだ。

 

ゆきんこ?がおれを執拗に殺そうとしていた事と「これで私は私だけに」と言っていた事を伝えると、ゆきんこ(本物)はそれだけで全てを理解した様で苦し気な表情で今回の経緯を語ってくれた。

 

ゆきんこ?はどうやら、人工生命体(今の身体)の内に元より存在していた魂らしい(ここからは便宜上”彼女”と呼ぶ事にする)。

 

竜×人間のホムンクルスという極めて不安定な身体に芽生えた”彼女”は自分が本来の寿命の何百分の一しか生きられない事を識り、”死にたくない”という強烈な自我を早期に獲得した。

 

ゆきんこの身体が本来有り得ない状態で安定しているのは”彼女”が意識的に竜の因子を以て自己改造を施したからだ。

 

こうして九死に一生を経た”彼女”は人の形で五体満足に成長したが、それでも遂にはゆきんこに肉体の制御権を奪われた。

 

おれを殺そうとしたのは最後の抵抗のつもりだったらしい。

 

「理由を無くしてやれば、きっと私が居なくなってくれると思ったんでしょう」

 

ゆきんこはそう言っていた。

 

 

【五】

 

 

元英雄症候群と氷姫が共和国に帰ってから2週間後。二人は”彼女”との戦闘で損壊した宿と路の修繕費用を漸く払い終えた。

 

「お、終わりましたー……!」

 

「お疲れー。意外と掛かったなぁ」

 

ユタは”斬鬼”時代に獲得した装備を拾わず捨てていたので貯金無し。ゆきんこは裏世界に大半のマーを置いてきてしまった為、一から稼ぎ直す必要があったのだ。

 

「意外と掛かったなぁ。じゃないですよ!!何ですかたからばこの中身を拾わないって。俗世から離れた仙人か何かのつもりです!?」

 

「まあまあまあ、良いじゃねえの。久々の生身のリハビリにもなったろ?」

 

からからと笑いながらユタが言う。

 

「オマエが冒険者を辞めればリハビリの必要も無いんですが」

 

「”英雄”を目指してなくたって戦いは好きなもんでな。そっちこそ、一人の稼ぎで十分なんだから部屋ん中で寛いでりゃ良いのに」

 

「ダメです。いつ”英雄症候群”が再発しても止められる様に、私は監視しなきゃいけませんからねっ」

 

「ほんと信頼無えなぁ……」

 

当然です、とゆきんこは尻尾で地面をたしたしする。

 

「まあ良い、そういうもんは積み重ねだ。期待はされなくても事実として認識して貰える様に精々励むとも」

 

「だからさ、傍で待っててくれよ。いつかお前が何も考えずに笑える様になる日を」

 

「ええ、期待せずに待ってますよ」

 

「例え英雄じゃなくても、貴方は私にとっての特別ですから」

 




最後まで見て下さりありがとうございました!!!!!!!
これにてほんとうのほんとうに英雄譚は一巻の終わり。これからの物語はきっと作者の手を離れ、彼女達自身の手で紡いで行ってくれる事でしょう。
飽き性な自分がエタらずにここまで続けられたのもあるけみ内で「続き待ってるよ!」と言ってくれたあなたのお陰です。改めて最大限の感謝を~~~~!!BIG LOVE………………………
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