「【/pr 納税無し、社会保険料無し、勤労の義務無し。今なら住居費も無しの、美しい国ウィンバルト──】……だと?」
薄着の女は目を疑った。
[ウィンバルト共和国]は確かにありとあらゆる税と義務から解き放たれた地上の楽園、厳しい北の大地に君臨する限られた緑豊かな地、赤白の1~36でなく緑の0だ。
毎日無料で参加出来るカジノ(グルチャ)すら開放されている……であるが故に前半の一文に疑いは無い。
「問題は後半だ。住居費が、無料──?」
「驚くのも無理は無いです。住居費が0という事は、家賃も水道代も0(*1)という事……」
いつの間にやら卓上のパンとシチューを全て胃に納めていた少女が、立ち上がり拳を握り締める。
「衣食住のうち住がこれで解決。食は水道水とその辺に居るメロンパン(*2)で最悪凌げますし、衣も毎月300マーさえ用意出来れば!」
「なんてこった……」
大粒の涙を流す女に寄り添い、少女は手を差し伸べる。二人の胸中には最早一分の迷いも無い。善は急げとばかりに支度を済ませ、執務室へと向かった。
無論、冒険者たるもの詐欺だった場合の備えも怠らない。女は随一の得物たる斧槍を背に担ぎ、少女は鉤爪を腰に下げていった。
~~~
窓口は国王のマスターが経営するバー、その奥に存在するプレイルームに在るとの事だ。二人もたまに日雇いでディーラーを任される程度には現在の自宅から近く、少し拍子抜けしながらも時間を掛けず到着した。
「スリーカード」 「ブタァ」 「フン…」
早朝ながらもルーム内はいくばくかの賑わいを見せている。探索を始める前に運を試しておきたいのだろうか、彼女等が見知った顔の冒険者達も居るようだ。
「お二人共、おはようございます!」
その中でタキシードをきっちりと着用した赤髪の女性がこちらに気付いて手を振った。元気に手を振り返す氷精の少女を横目に、斧槍の女が受け応えをする。
「お早うさん。今朝も元気そうだな」
「それだけが取り柄なので!こっちの方は絶不調ですけどね……」
彼女は同時期に冒険者活動を始めていた同期だ。後ろにあるポーカーの台をちらりと見て苦笑する表情に、二人もくすりと笑んだ。
「こんな時間に珍しいですね。今日は休みですか?」
「はい。ふらっと立ち寄っただけだったんですが、話し込んでしまって……」
「そうそうあたしとなぁ。おはよ ちゃん達、おねーさんもお話交ぜてや~♪」
楽し気な雰囲気に反応したのか。赤髪の女性の隣に居た、更に彩度の高い赤ロングの女性もこちらを振り返った。
子供の様に無邪気な笑顔の彼女の頬もまた、片手で遊ばせているグラスのワインの如く赤い。
「後ろ姿で察してましたが、やっぱりお姉さんでしたか。おはよ、おはよです~!」
・・・
活動時間を異にする転生人達が雑談の場で出会える機会は貴重だ。しばし時間を忘れて歓談すると、斧槍の女が思い出した様に当初の目的を切り出した。
「そうだ、おれ達ゃ家を探しに来たんだ」
『家(いえ)~~?』
論ずるより証拠と、チラシを台の上に置く。
【/pr 納税無し、社会保険料無し、勤労の義務無し。今なら住居費も無しの、美しい国ウィンバルト──】
「パッと見いつものPRやけど……あぁ。ここ付け加えてるん?そう」
どれどれと覗き込むも、残念ながら赤髪ズは肩をすくめてお手上げのポーズを採るばかりだ。何なら興味も無さそうである。
『そんな………………』
ルーム内を見渡しても特に平素と変わった様子は無い。まあ詐欺だったかと彼女達が悟り、家に帰ろうとアイコンタクトで共有した時の事だった。
「ちょっと待ちな、お二人!!」
「その声は…!?」
「お目当てはココで合ってるぜ……コインちゃん、カモン!」
赤いテンガロンハットを深く被った、荒んだベストとジーンズを荒野のガンマン然として着こなすアンデッドが指(骨)を鳴らす。すると、入口の近くでずっと佇んでいたメロンパンが跳ねた。
身が膨張してピンク色に変じ、瞬きの後に人型を採る。知る人ぞ知るウィンバルト共和国の守護獣、コインの姿がそこには在った。
「ようこそコイ~ン!」
*1…違う。家賃は住居費だが、水道代等生活に必要なコストは居住費に分類されるらしい
*2…国王様とナビ子
<出演>
コインちゃん コインちゃん
冒険者*2 作者
赤髪の女性 百藻 さん
赤いおねーさん Acha子 さん
アンデッド ニワ(イザ) さん
次:ないよ