ゆきんこあるけみすと   作:じいて

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こちらのお話は【彼/彼女の昔のはなし】の長めverです。続きは恐らく出ませんが一応…という事で残してあります。


【夢幻に消える①】

【一】

この世界は竜の世界だ。陸の至る所に竜は居る。地表に奴等の目の届かない場所は殆ど無い。

故に人々が隠れ住む。日の光も当たらない場所で、密やかに命を繋いでゆく。

寂然たる終わりを夢見て眠れ。竜は災害だ。逃れることは出来ないのだから。

 

 

「ふふふっふっふふふー♪」

花々の甘い香りに包まれる中、楽し気な鼻歌が響く。サワサワと風に揺れる庭木がまるでリズムに乗っているようだ。

「暢気なもんだなぁ」

カヌレを口に放り込みながら、俺は対面に座っている少女(カヌレ二刀流装備)に言った。

「良いじゃないですか、私、いつも勉強ばっかりなんですから。楽にしてたいです(もっしもっし)」

「こっちは退屈なんだよ。菓子は嫌いじゃないが、数刻これだけで粘れる程じゃない」

「えー?」

雪氷のような色合いの髪を揺らし、垂れてきた目尻を少し上げて少女は語る。

「ずのーろーどーなんですよこっちは。私だってオマエみたいに武器ぶんぶん振り回す方が良いです。代わりますか?」

「勘弁~」

「ですよねー」

ガゼボ(西洋の東屋)で気安く言葉を交わしながら、呑気に茶を啜る。余りにも平和で長閑すぎる時間に欠伸が出そうだ。それもこれも───

「───なあ、そろそろ身の回りくらいには展開出来るようになったか?あの魔法」

「【ミスディレクト・ザ・ワールド】ですね。というか、オマエが覚えて無い訳無いと思いますが」

「そうそれそれ。妙に痛くて自分で言いたくないんだよなワハハ」

「はっ倒しますよ」

そう、【ミスディレクト・ザ・ワールド】-世界を誤認させる魔法-のお陰だ。今、この国は竜共からはただの平原にしか見えていない。だからこの国は何十年もの間、外の脅威に晒されず存続出来ているんだ。

「ま、その位ならとっくの昔に出来てますが」

少女は得意げな顔でそう言った。

「おっマジ?」

「マジのマジです。行きますよ、そーおれっ!」

瞬きをした次の瞬間には、少女は消えていた。正面には机、誰も座ってない椅子、続いて奥には花壇が見える。

「やるやんけぇ……」

「ふふん」

右耳から声が聞こえる。足音すら聞こえなかったが、どうやら回り込まれていたらしい。

「また一つ人類の生存圏が増えそうだな。何よりなこった」

「ふふふふん」

見えてはいないがすっごいドヤ顔されてる気がする……

 

【二】

14の誕生日の時の事だ。父様-この国の王様だ-が急に、俺と婚約させたいという娘を連れてきた。雪氷のような色合いの髪と、ぱっちりとした赤目をしたやつだった。

「北の国の姫だ。うちの国の魔法が欲しいらしく、友好的でありたいとか何とか言って装飾品やら武器やらと一緒にやってきた」

「ゆきんこと言います。ふつつか者ですが、どうかよろしくおねがいします。ユタさま」

よろしくされても返答に困るが??

「ご丁寧にどうも。俺はユタ。この国、セブザワールの第二王子だ。……父様、もうちょっと経緯を」

「うむ。【ミスディレクト・ザ・ワールド】も無しにまた外を向こうの使者に歩かせる訳にもいかん。若いし覚えも早いだろうから、この娘に直接伝授してから帰そうと思ってな。婚約はついでだ」

父様はあっけらかんとした顔で言った。

「なるほど。なるほど…?しかし、それにしたって判断が速すぎると思いませんか。その馬車来たの確か昨日ですよね」

「そうか?皆生きるのに必死なんだ。この位は協力して良いと思うが」

急に切り捨て辛い発言で来るじゃん。

「協力ってんなら技術だけ教えてパパっと帰らせれば良いじゃないですか。これなら無下にする訳でも無いでしょう」

「貰えるものは貰っとかないと」

「こんなとこでもったいない精神を発揮するんじゃない!」

(やいのやいの……どーのこーの……あーだこーだ……)

 

~~~

 

押し切られました。まあ温室育ちの子供じゃ国の王様に舌戦では勝てないよね。

「あの、改めてよろしくおねがいします」

「よろしく。お互い苦労するなあ」

「「……」」

さて、何から話したもんか。

「北から来たんだっけな」

「はい」

「今回の事の意味は分かってる?」

「せいりゃくけこーんで魔法げとれって聞きました」

「……うん、大体合ってる。魔法かぁ、俺は出来ないから素直に尊敬するよ」

「バカなんですか?」

子供特有の鋭い言葉来たな。

「いやまあ、うん。有り体に言えばそうだね」

「すごい国の王子様なのにですか?だめですよ、せっかく英雄っぽい身分なんですから」

何か目が潤んできたな……

「あの、一応カッコいい武器とかなら使えるから!斧とか槍とか手斧とか」

「えっ、剣じゃないんです?英雄は剣つかうんですよ」

「ちょっと後ろ向くから黙ってて貰っていい?」

少し泣く。

「ン゙ン゙ッ……剣は嫌だよ。使い易いし携帯も楽だから偶に使うけど、デカくて強そうな方がかっこいいじゃん」

「お前それでいいです……?」

「何いきなり悲しそうな目して来るわけ?言っとくが斧使う奴は主役張れないとか脳筋とかそういうイメージに根拠は無い。あまりそういう決めつけばかりしていると裏世界でひっそりと幕を閉じることになる」

「急に早口になるじゃないですか」

確かにちょっとヒートアップしてるかもしれないな、大人気ない……。夜風を浴びようと窓を開け、へりに腕を乗せた。涼しい。

「しかし、存外に話し易いなきみ」

「そうです?」

「こう言っちゃなんだが、もっと可哀想な子だと思ってた。ふさぎ込んで話も出来ないかなと」

「ふさぎ込む、といいますか。少しきんちょうはしてたと思います。とおくの国の英雄さまに会えるって、ずっと楽しみにしてたので」

「そうか。俺はまだ見習いだが……英雄が好きなのか?」

「はい。私、英雄譚が好きなんです。えらばれし英雄が剣を手に立ち上がって、たくさんの試練を乗りこえて、たくさんの人を笑顔にする。そんなきらきらしたお話が」

ゆきんこは一歩離れた位置まで近づくと、窓の外の星々を赤い瞳に映しながらそう言った。

「そうか。しかしそりゃ残念だな。きみがそれを見ることは多分無いだろう」

「ユタさまが英雄じゃないからです?」

「違わい。きっときみ自身がその英雄になって、故郷の人達を笑顔にするからだ」

 

【三】

「…てください。起きてください、オマエ」

「……あー?」

何だ、人が折角良い事言ってるって時に……

「ていっ(背中in氷)」

「ギャーーーーーーーッッ!?!?」

殺人的な冷たさが背部を襲う!意識が一瞬の内に覚醒した。

「おはです」

「おはよう!後で覚えとけよな!」

どうやら話の途中で寝てしまっていたらしい。太陽もかなり傾いていて、そろそろ空の色も変わるかなといった頃合いだ。

「今日の交流時間はとっくに終わりです。屋敷に帰りますよ」

「あいあい。にしても良く寝た、昔の夢を見た気がする」

「昔ですか?」

「いつだったっけな。父様にまだ毛があった頃だったような」

「ふーん。……オマエはいつになったら禿げますかね?」

「怖い事言うなよ。俺はまだ20だぞ」

「もう20代ですよ」

「……」

今も昔も変わらぬ鋭さ。老いを感じさせないなぁ……(しみじみ)

「あのな、お前は知らんだろうが結構俺だって気にして───」

刹那、違和感を感じた。まるで朝の空気を吸い込む為に窓を開いた時のような。ほんの些細なものだが、しかし急激に”空気が変わった様な感覚”が俺の五感を襲ったのだ。

「ゆきんこ、今のは」

「……何なんでしょうね。でも、何だか嫌な予感がします。早く帰りましょうか」

「あっ、おい!?」

やけに小走りで屋敷に向かおうとするゆきんこの背を追う。視界の端にだんだんと紅くなってゆく空が見えて、何だか不気味で恐ろしくなった。

 

~~~

 

間違いありません。あれは何度も何度も味わった、多分私と先生ぐらいにしか分からない感覚。

何が原因なのかは分かりません。どうすればいいかも分かりません。だからせめて急がないと。

 

このお伽噺のような国が、夢幻のように消え去ってしまう前に……




逢魔時(おうまがとき)、大禍時(おおまがとき)は、夕方の薄暗くなる、昼と夜の移り変わる時刻。黄昏どき。””魔物に遭遇する、あるいは大きな災禍を蒙る””と信じられたことから、このように表記される。(wikipediaより引用

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